An Acura RLX equipped with autonomous technology travels down Interstate 75 in Detroit.

大手メーカーがしのぎを削る

グーグルはドライバーのいらない「完全な自動運転車」を開発中だが、「半自動運転車」ならもはやSF世界の話ではなく、アメリカの路上を走る日も近いだろう。

多くの自動車メーカーが2020年をめどに、ハンドルを握る必要も、ペダルに足を置く必要もない自動運転車の実用化を目指している。ドライバーはただ運転席に座っているだけで、自動で走ってくれる車だ。

専門家たちが運転の概念が大きく変わると予測するなか、大手メーカーの間では数年後に訪れる“革命的な市場”をめぐる争いがスタートしている。

「後に振り返ったときに、ターニングポイントになった年だと思うだろう」と、高度交通システムの技術開発などを促す米NPO「ITSアメリカ」のスコット・ベルチャー代表は言う。同団体は、常時インターネットに接続する車「コネクテッド・カー」のエキスポを過去7年にわたり開催。「私たちは今、交通の新時代の幕開けを見ている」とベルチャーは語る。

そのポテンシャルは、自動で速度を制御するクルーズコントロールの性能向上にとどまらない。2020年のコネクテッド・カーは、自動で高速道路を快走し、他の車を追い越し、高速の出口を見つけて降りることもできるだろう。ドライバーに歩行者や自転車の飛び出しも警告し、ドライバーの反応が遅れたとしても、車が自動的にブレーキをきかせたりハンドルを切ったりしてくれる。

2)手を離しても、自動的に走行する(Jeff Kowalsky/The New York Times)

手を離しても、自動的に走行する(Jeff Kowalsky/The New York Times)

さらにドライバーの目やまばたきの頻度をモニターし、居眠りしそうになったら何らかの衝撃で起こしてくれる。ショッピングモールの駐車場では、車が勝手に空きスペースを探して駐車してくれる。

近い将来、大半のアメリカ人がこうした自動運転車を利用できるようになるだろう。大手自動車メーカーは、その技術の可能性を信じているだけでなく、他社より優れた性能を提供するべくしのぎを削っている。

勝ち組と負け組の差が開く

コンサルティング会社マッキンゼーが先日公表した報告書によれば、コネクテッド・カー技術関連の売上高は2020年までに、現在の約6倍、2300億ドルに達する見込みだ。なかでも、急ブレーキなど半自動で行われる安全性能関連の売り上げが最大のシェアを占めるという。

一方でマッキンゼーは、自動車業界の市場の停滞について警鐘を鳴らす。コネクテッド・カーによって大幅な売り上げ増が予想されるものの、市場全体の規模の急激な拡大は見込めないというのだ。つまり、スマートカ―技術によって業界内の勝ち組と負け組の差が一層開くことになるだろうと、マッキンゼーは予測する。

同報告書は「コネクテッド・カーをめぐる競争は新しいパイを奪い合うというより、市場内でシフトする利益をもたらすパイをどこがつかむかという争いになる」と結論付けた。

米ゼネラル・モーターズ(GM)は先月、同社の半自動運転システム「スーパー・クルーズ」を搭載したキャデラックを2年後に販売すると発表。ホンダやBMW、フォルクスワーゲンなども、5年以内に半自動運転車を販売する計画だ。

アメリカでは毎年、約3万3000人が交通事故で死亡しており、自動運転技術は安全面の向上でも期待を集めている。

歩行者を察知し、自動的に事故を回避する(Steve Fecht for Chevrolet via The New York Times)

歩行者を察知し、自動的に事故を回避する(Steve Fecht for Chevrolet via The New York Times)

米自動車部品メーカー、デルファイのジェラルド・J・ウィットによれば、同社が開発中のドライバー・モニタリング・システムは2016年までに実用化される。ドライバーが居眠りしそうになると、それを感知してドライバーに警告を発するだけでなく、ネット接続を活用した助言も行うシステムだ。

「ドライバーが疲労でまぶたが重くなっているのを感知すると、車が『疲れているようだから、1マイル先のスターバックスでコーヒーでも飲んだら?』と提案してくれる」と、ウィットは説明する。

未来の駐車場

駐車が自動化される日もそう遠くないだろう。フォードやフォルクスワーゲンなどは自動駐車システムを搭載した車を提供しており、フランスのヴァレオ社がそのシステムを開発している。

ヴァレオが最近デトロイトで行ったデモンストレーションでは、ドライバーがまったく必要ない未来の駐車場の様子が見てとれた。例えば、ショッピングモールなどの駐車場の入口でドライバーが降車してスマートフォンで自動駐車システムを起動させると、車は自ら空きスペースまで走っていって駐車。帰るときもスマートフォン1つで、車が駐車スペースから出て、駐車場の出口で待つドライバーのところまで迎えにきてくれる。

一方、ホンダはデトロイトの高速道路で最新の自動運転技術を披露した。カーブを曲がったり合流したり、高速を降りるのも自動。ドライバーは一切ハンドルを握らないままだった。またドイツの自動車エンジニアリング企業ITVは、メーカーや車種に関係なく、すべての車に搭載可能な半自動運転システムを開発中だ。

とはいえ、現在の技術ではドライバーの存在がまったく必要ないというわけではない。スーパー・クルーズを開発中のGMの広報ダニエル・フローレスは、現段階では車がスピードを維持しながら同じ車線を走り続けられる技術を目標としていると語る。つまり、車線変更するときは、ドライバーがハンドルで操作しないといけない。

半自動運転車の大半は、最初は高速道路に限定されるだろう。一般道よりスピードを出せるし、すべての車が同じ方向に走ったり交差点がなかったりと、単純で予測しやすい環境にあるからだ。

こうして2020年までに多くの運転機能が自動化されるだろうが、想定外の事態に対処するために人間の判断力もまだ必要とされる。

「ドライバーは何かあったときのために待機していないといけない。後部座席で眠っていられるというわけではない」とフローレスは言う。「それでも、今よりずっとリラックスして楽に乗っていられるのは間違いない」

ドライバーの眼をモニターし、警告を発する(Delphi Automotive via The New York Times)

ドライバーの眼をモニターし、警告を発する(Delphi Automotive via The New York Times)

(執筆:AARON M. KESSLER記者、翻訳:中村エマ)