2022/1/24
創造性を高めるには、なぜ「遊び」が必要なのか
NTTデータ、三井不動産 | NewsPicks Brand Design
コロナ禍によってあらゆる価値観が覆され、人々の情報の受け取り方や働き方は大きく変化した。
この激変の時代の中で、どのように時代の変化に適応すればいいのか。新たな価値を生み出すために必要なこととは何か。
既存領域を越え、「情報」と「空間」というそれぞれのアプローチから、新たな価値創出に挑むNTTデータと三井不動産のキーパーソン、人と組織の創造性を高めるための「ファシリテーション」を研究し、日本の人事部「HRアワード2021」書籍部門最優秀賞の『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』著者としても知られる安斎勇樹氏を招き、これからの時代の価値創出について議論を交わしてもらった。
INDEX
- 変わり続けるために何が必要か
- 選択肢を広げるための「場」
- 「情報」や「人」を交流させるには
- 「遊び心」が新しい価値を生み出す
- 「明日の雑談ネタ」を提供できればいい
変わり続けるために何が必要か
──NTTデータは金融×デジタルをテーマに情報を発信するメディア「Octo Knot (オクトノット)」、三井不動産は法人向けシェアオフィス「ワークスタイリング」を通じて、ビジネスパーソンの価値創出を支援しています。
安斎 媒介の役目を果たすという意味では、どちらも「メディア」と捉えられますよね。情報や空間を介して、人と人が出会ったり、人がアイデアのヒントを見つけたりする。
時代の変化に適応したり、イノベーションを起こしたりするには「新結合」が必要です。
つまり新たな組み合わせから起こる化学反応であり、何かと何かをつなぎ合わせるには「触媒」が必要となる。その意味でも、両者の取り組みは非常に重要だと考えています。
そもそもどのような課題感からこれらのサービスは発足したのでしょうか。
宮本 コロナ禍をきっかけに金融業界でも新規事業創出に挑む動きが加速しました。
金融機関は長く続く低金利で収益が圧迫され、これまでの本業である預金や融資事業などでは稼げなくなっている。そこで新たな事業領域を模索し、社会課題を起点とした新たなサービスを生み出したいと考える企業が増えています。
ですが、具体的にどうやって新規事業を作り出せばいいかわからない。その経験値や情報がないというのが私たちのお客様が抱える大きな悩みの一つでした。
金融機関のお客様はお金周りのことには当然詳しいのですが、新規事業開発やデジタル活用についてトレーニングを受けている人は少なく、現場は悩みながら新しいものを生み出そうともがいています。それは私たちも同様に抱える課題でした。
加えて規制緩和によって異業界やスタートアップが新たに金融業に参入する環境も整ってきているものの、新規参入業者にとっては金融独特の文化や習慣に慣れないため、新たな事業創出のチャンスを逃してしまうこともあります。
そうした金融の未来を盛り上げようとする全てのプレイヤーの悩みに寄り添いたいと思って生まれたのが、「金融×デジタル」をキーワードに情報を発信するメディア「Octo Knot (オクトノット)」です。
「金融が変われば、社会も変わる!」を合言葉に、金融の未来を作り出そうと挑戦している方たちのインタビューや新規事業の企画に役立つ情報をお届けしています。
顧客やNTTデータの社員に「世の中にはこんな面白いことをやっている人がいますよ」「この技術を試してみたらどうですか」と語りかけながら、読者に伴走するつもりで発想や実践のヒントになる情報を届けたい。
近年は小売やITなどの異業種から金融分野への参入が相次ぎ、従来とは全く違う発想で新たなサービスを打ち出しています。
だからこそ伝統的な金融機関が持つメリットを生かせば、新規参入のプレイヤーにはできない価値を生み出せるはず。またこれから新たに金融分野に参入する企業やスタートアップとの共創を通じて新たな未来を描いたり、NTTデータ自身も含めた変化を促したりする「触媒」としての役割を果たしたいと考えています。
選択肢を広げるための「場」
安斎 オフィスビルや商業施設などの「空間」を提供する三井不動産は、どのような課題意識を抱えていたのですか。
安藤 「空間」を生み出し、さらに価値を創出する。これが私たちのビジネスであり、その基本は昔も今も変わりません。
ただ働き方の多様化により、仕事をする人たちの空間の使い方は大きく変化しました。
以前は、サラリーマンは朝起きたらオフィスに出社し、自分のデスクの前で一日の大半を過ごし、仕事が終わったら家に帰るのが当たり前でした。つまり「働く=会社へ行く」だったのです。
それが2~3年前から働き方改革がうたわれ、さらにはコロナ禍で一気にテレワークが広まりました。それとともに働く概念も変わり、人々は会社以外の場所で働くことを選択できるようになりました。
安斎 三井不動産が運営する法人向けシェアオフィス「ワークスタイリング」も、選択肢の一つになるわけですね。
安藤 「ワークスタイリング」は2017年4月にサービスを開始しましたが、私たちはその1~2年前からこの事業アイデアの検討を始めていました。
とはいえ当時は「外回りの途中で立ち寄れる場所があると便利だよね」「自宅の近くに仕事場があれば助かるかも」といった素朴な発想からのスタート。
果たしてこれがビジネスになるのかについては、私も正直言って自信がなかった。出先で仕事をするだけなら、カフェや図書館でもいいわけですから。
だから私たちとしては、もうかるビジネスを作るというより、「新しいカルチャーを創ろう」という思いが強かった。
会社やカフェで仕事をするのと同じように、働く場所としてシェアオフィスを選択肢に加えたい。そう考えました。
宮本 当社も利用させていただいていますが、「今日はどこへ行けば、自分にとって一番いい働き方ができるか」を考えた時、選択できる場所が多くてありがたいです。
安藤 ありがとうございます。「ワークスタイリング」は法人向けで、利用できるのは契約企業のみです。だからセキュアな環境で安心して働いていただける。
私たちが自宅やカフェにはない機能を備えた場所を用意できれば、その分だけ働く人たちの選択肢を増やし、よりその人に合った生産性の高い働き方を提供できるはずだと考えています。
「情報」や「人」を交流させるには
安斎 お二人の話を聞いていると、これから新しい価値を生み出すためには「打率」がキーワードになるのではないかと感じました。
「これをやれば百発百中でイノベーションが生まれる」なんて方法は存在しない。つまり打率10割で新しい価値を生み出すのは不可能ですし、その考え方では疲弊します。
かといって、ずっと一人で家の中に閉じこもっていても、思いがけないアイデアが生まれる打率はかなり低い。
では少しでも打率を上げる方法はないのか。思い出したのが、パリのカフェ文化です。
19世紀から20世紀初頭のパリには、ゴッホやヘミングウェイをはじめ、世界中から芸術家たちが集まっていた。まだ無名でお金も仕事もなかった彼らが時間を過ごした場所が、カフェでした。
奥に進むと常連の哲学者や芸術家が議論を繰り広げている。でもその頃のカフェは緩やかな半開きのコミュニティーで、入り口やテラス席はオープンに開かれていた。
そのため新しい人が常連同士の議論に入っていったり、オーナーに紹介されたりして緩やかにつながり、新たな発明や芸術運動が生まれていました。
つまり誰でも気軽に入れるような間口があったことで、新しい人や情報の行き来が生まれ、新結合が起きていたのです。
ですが現代のカフェでは、そんな「新結合」が生まれる瞬間は見ませんよね。
だから新しい価値の創出やテクノロジーによる産業の再編が求められている現代の社会にも、新しい人や情報が行き来するような「場」をどのように設計できるかがより問われているのだと思います。
──確かにカフェでたまたま隣に座った知らない人とつながろうとは思えません。
安斎 でも「ワークスタイリング」のように、セキュリティーは担保しつつ、ビジネスに関わる者同士が集まるオープンな場であれば、もしかしたら何らかのつながりが生まれるかもしれない。
「Octo Knot」も既存の金融業界に閉じない情報を集めているから、新しいビジネスのヒントや手がかりに出会えるかもしれないと、読者が訪れるんですよね。
打率10割は無理だとしても、2割から4割くらいの心地よい打率で「ここへ行けば何かが起こりそう」と思える場としての潜在的価値をどちらも持っている。
安藤 実は「ワークスタイリング」でも、人と人、企業と企業のマッチングをサポートする“ビジネススタイリスト”が触媒の役割を果たしています。
ニーズに合わせて会員同士をマッチングしたり、会員の興味や関心に基づくイベントを企画したりするなど、さまざまな手法で新しい価値に結びつく「出会い」と「学び」の場を創出しています。
利用者の皆さんはそれぞれに専門性や知見をお持ちなので、つながり合えば何らかの相乗効果が生まれる可能性があります。私みたいなサラリーマンは、恥ずかしがり屋な人が多いせいか、新結合が生まれにくい。
だからパリのカフェにおけるオーナーのように、「こんな人がいるのでごあいさつしてみますか?」と背中を押す機能も必要だと考えています。
ただ私たちからそれを押し付けたりはしません。あくまで利用者が求めた時に、手を伸ばせばそういうサービスも利用できるというスタンスです。
安斎 パリのカフェもそのあんばいが絶妙だったのでしょう。
誰かと議論したい時もあれば、一人でコーヒーを飲みたい時もある。他人が無理に打率を上げようとし過ぎないことは大切です。
安藤 私たちも、その場所を使う目的や活用の仕方は本人が能動的に選択するべきだと考えています。どこでも働ける時代になれば、一人一人がその日最も打率が上がる場所を選択する力が求められます。
「商談を相手の自宅に近い場所でセットすれば、行き帰りがラクなので気持ちよく提案を聞いてくれるだろう」、「仕事中に煮詰まりそうだから、気分転換できる窓のある部屋で働きたい」などと考えた時、「ワークスタイリング」ならその選択に応える空間を提供できる。
首都圏や地方の都市部に約150拠点のサテライトオフィスを構え、一人で集中できる個室から社内外の打ち合わせや商談に使える会議室までさまざまなタイプのスペースを用意しているので、皆さんの組み合わせ次第でベストな場所を選択できます。
「遊び心」が新しい価値を生み出す
──「打率」を適度に上げるために、「Octo Knot」では何か工夫をされていますか。
宮本 「遊び心」や「わくわく感」を大事にしています。
私たちが特に支援したい新規事業創出の領域はシビアな世界で、現場は常に会社から“当たる企画”を期待されます。そうなると、打率を上げることばかり意識して考えも煮詰まってしまう。
新しいアイデアは、むしろ入浴中や休憩中などのリラックスした瞬間に降りてくることが多いですよね。たとえ提案するのは金融サービスの企画だとしても、考える過程では遊びの感覚やわくわくする要素を取り入れていいはずです。
だから私たちも遊び心を意識して、例えば難しそうに思えるブロックチェーンやNFT(非代替性トークン)も、「実はウイスキーの取引に活用している事例がある」といった身近に感じる情報を紹介して、「面白そう」と感じてもらえる見せ方を心がけています。
安斎 「遊び心」って大事ですよね。湧き上がる衝動のままに何かを面白がっている人がいると、衝動が周囲の人に伝播して、皆もそれを面白く感じてしまうことがよくある。
だからビジネスの現場でも、何かの理由や目的のためではなく、作り手が純粋に「これって面白そう!」と思ったサービスやコンテンツが、より多くのユーザーに伝播していくのだろうと思います。
「明日の雑談ネタ」を提供できればいい
──これからどのようにビジネスの世界に「遊び」を取り入れ、新しい価値創出を支援していきますか。
宮本 私たち自身が遊び心を持って金融というテーマを、従来とは別の角度で見せていきたいです。
ブロックチェーンをウイスキーという角度から紹介する記事はその一例ですし、極論を言えば金融に全く関係のない情報を扱った記事があってもいい。
世の中で何かが起こると必ずお金が動くので、どんなことでも回り回って金融につながるし、結果的に読者に何らかのヒントを与えることができると思っています。
だから読者の皆さんにも、「金融だから難しそう」と身構えず、「『Octo Knot』を開けば、明日話す“雑談のネタ”が見つかるかも」というくらいの気軽な感覚で利用していただきたいですね。
安藤 私たちもワークスペースの造りや内装にさまざまな遊びや仕掛けを取り入れて、ミーティングが盛り上がるような会議室や、ブレストでどんどんアイデアが出てくるような楽しい部屋を用意しています。もちろん一方では、一人静かに集中できる部屋もある。
野球で例えるなら、さまざまな球種・バッターボックスを用意しておくので、「あなたがバットに球を当てやすい打席を選んでくださいね」という思いです。自分に合った打席に立てば、打率は上がるはずですから。
安斎 お二人の話を伺って感じたのは、新しい価値を生み出すには、肩の力を抜くことが大事だということ。
居心地がよくて、楽しんだりリラックスできたりするけれど、もしかしたら想定していない何かが起こるかもしれない。
そんな遊び心が自然と生まれるような、「安心感+期待感」を提供できる場がイノベーションの創出には必要です。
その条件を「Octo Knot」も「ワークスタイリング」も備えている。そこに両者のサービスに共通する価値があるのだと思います。
構成:塚田有香
撮影:小林由喜伸
デザイン:藤田倫央
編集:君和田郁弥、宇野 浩志
撮影:小林由喜伸
デザイン:藤田倫央
編集:君和田郁弥、宇野 浩志
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