2022/1/18

【証言】今、B2B企業が「目の前の売上」より重視していること

NewsPicks Brand Design Editor
INDEX
  • 「信用」によって、セールスは点から線に
  • 「正直」を採用にも、セールスにも
  • コミュニティへ貢献する人にしか成果は返ってこない
 電話やメールで大量のリードを獲得し、インサイドセールスが選別して営業へ引き継ぎ、クロージングする。B2B領域におけるセールスは、DXの過程で分業化、効率化への道を歩んでいる。
 そこに旧来の営業に求められていた、人と人の「信用」のような泥臭さは日に日に影響力を失っているようにも感じられる。
 一方で、決裁者ビジネスマッチングプラットフォームを運営しているオンリーストーリー社は、B2Bセールスにおいて「信用」というキーワードに目を向け、同社の提供するマッチングプラットフォームを、「Giver Based Community(ギバーベースドコミュニティ)」というコンセプトで運営し、急成長。
 オンリーストーリーは自分が売ることだけを考えている人を「テイカー」、逆に商談相手に何らかの貢献をしよう、何かを与えようとする人を「ギバー」と定義している。
 企業の業績に責任を負う決裁者だからこそ、テイカーの割合が多いという見方もできるかもしれない。
 だが、結果的にそんなプラットフォームの中で、ギバーな顧客の方が売上としての成果も出ているという。
 それはなぜなのか。その実態をユーザー企業へのインタビューから明らかにする。

「信用」によって、セールスは点から線に

 オンリーストーリー社の決裁者マッチングサービスには無料版「オンリーストーリー」と有料版「チラCEO」の2種類がある。
「オンリーストーリー」では、1日3名までの決裁者のレコメンド、マッチング相手とのチャット機能、掲示板機能が利用できるのに加え、SaaSモデルの「チラCEO」では決裁者へのダイレクトメッセージ機能、オンライン交流会、専属スタッフによる紹介も利用しながら、商談を行うことができる。
 RevComm社は、録音、文字起こし、通話のスコアリングなど多様な機能をAIで実現するIP電話「MiiTel(ミーテル)」を提供するSaaS企業。
 同社は、まだ社員数10名程度だった創業期に「チラCEO」を利用し始めるも、成果が出ずに断念。それから約1年後、2021年8月から再び「チラCEO」の利用を開始して、手応えを感じているという。
 営業統括の角田潤彌氏は1年前と今の違いを「会社のフェーズが変わった」と話す。
「私たちのようなSaaS企業は売上が急カーブで成長していきます。そうすると、社員数も顧客数も、どちらも右肩上がりで増えていきます。
 最初のうちは大量のリードを獲得すると、それが売上に直結していたのですが、だんだんとリードの熱量が鈍化していきました。獲得したリードも以前ほど即座に売上につながりにくいと感じることが多くなったのです。
 そこで、ABM(アカウントベースドマーケティング)の考え方に基づいて、よりターゲティングした企業にピンポイントでアプローチをしていこうと考えました。
 オンリーストーリーのプラットフォームには私たちがターゲットにする企業が多数いたので、再びチラCEOを利用することにしたのです」(角田氏)
 創業期は獲得したリードが成約につながる割合が高かったため、相対的にチラCEOのサービスは非効率に思えた。
 しかし、ある程度顧客数が増えて、新規のリードの質が徐々に下がっていったことで、再びチラCEOに魅力を感じるようになったという。
 ただ、この時点では、あくまでチラCEOを営業アタックリストへのアプローチ方法の1つとして検討したに過ぎない。角田氏は実際に利用してみて、オンリーストーリーの“コミュニティ”をどう感じたのか?
「単純にアタックリストにメールや電話をするアプローチは、悪くはないけど、良くもない。刹那的なんですよね。“点”で終わってしまう、というか。
 そもそもリストを利用して連絡しても、相手もびっくりするし、転換率は極めて低いわけですよね。お互い無駄な時間を消費しているだけのようにも感じられます。
 チラCEOは互いに関係性を築いていくことを前提としているので、“点”ではなく“線”のような印象です。その人の人間性や考え方がきちんとしていれば、次に続くでしょう。
 それで商談が上手くいかなければ、それは相手に買う必然性がないということ。そういう相手には売らなくていいんです」(角田氏)
 オンリーストーリーが標榜する「信用」「ギバーの精神」を、角田氏は合理性に基づいて捉える。
「RevCommで営業する時も、MiiTelを売ることが単純に顧客企業のコストになってしまうだけの可能性もあるし、本当に私たちの商品が必要なのかを、高い視座で話したいと思っているんです。
 そういう営業をしていると、仮に導入しなかったとしても、『この人は嘘をつかない』ってなるわけですよね。そうすると意外と他の顧客を紹介してくださることもあるんですよ。
 私たちはそういったリファラルで成約につながることがすごく多いんです。
 これ、『ペイ・フォワード』という映画と同じなんですよね。1つの“点”が、“線”になって、“面”になっていくわけじゃないですか。1人に対して向き合った結果、3人連れて来てくれて、その3人ともしっかり向き合っていったら──。
 これまでB2Bのセールスはブラックボックス化しているところが多かったのではないかと思います。
 それがどんどんとオープンになっていくことで、結局は本質に行き着くのではないでしょうか。その商品が必要かどうか。その相手が信用できるかどうか。セールスの本質はこれだけだと思うんですよね」(角田氏)

「正直」を採用にも、セールスにも

 採用広告の営業は、あらゆる企業がターゲットになるため、人海戦術による“量”でのアプローチが一般的だ。
 エン・ジャパンの取締役、岩﨑拓央氏は「『チラCEO』経由で売ることに価値の重きを置いていない」と語る。
 ではなぜ、エン・ジャパンは「オンリーストーリー」を利用するのか?
「求人情報サイト『エン転職』を担う組織は、数百名のセールスがいます。そのため、私1人が『チラCEO』で商談をしても、全体の売上の大勢に影響を与えるものではありません。
 どちらかといえば、私たちのコンセプトやプロダクトが市場にどのように受け入れられるのか。私自身が把握するために利用させていただいています。
 直接、自分の言葉で話をしてみて、経営者の方に納得いただくことができれば、自分の商談のストーリーを型にして、メンバーに伝えていくのです」(岩﨑氏)
 エン・ジャパンでは今、「オネストリクルーティング(Honest Recruiting)」という採用手法を提唱している。求人企業が“正直かつ詳細”な情報を求職者に提供することで、入社と入社後活躍の可能性を高める採用手法のことだ。
 しかし、企業が自分たちの本当の姿をさらけ出すというのは勇気がいることでもある。そのため、経営層にも“ありのままの姿”をさらすことの重要性を理解してもらうことが必要になる。
 企業の決裁者に「オネストリクルーティング」の価値をわかってもらうためには、どのように語りかければ良いか。その商談ストーリーが通用するのか『チラCEO』を実験場にして、作り上げているという。
顧客の声を知ることが事業を良くしていくことにつながると思っていますので、自分の役割として、週に何回かは必ず『チラCEO』で商談をするようにしています。
 これまでは、セールスが獲得したアポイントに『ちょっと同席させて』と頼んでいました。でも、そういう場はどうしても『エン・ジャパンに売り込まれる』と、お客様が身構えてしまうんですよね。
『チラCEO』は前半後半に分けて互いにプレゼンテーションするスタイルなので、フラットに意見をもらうことができるんです。
 自分たちの商品が売れなくても、事業提携しましょうという話になるのは経営層同士ならでは。もちろん良いものであれば、相手に発注することもあります」(岩﨑氏)
 岩﨑氏は「『チラCEO』は参加するだけでメリットが享受できる場ではない」と語る。
 採用のプラットフォームでどのようなメッセージを発信するかが重要であるように、チラCEOもプラットフォーム上での振る舞いによって、成否が分かれる。
 その鍵になるのが「ギバーの精神」だという。
「私たちも出発点は利己的なんです。『オネストリクルーティング』を世の中に広めたいというのが最初にあります。
 でも、それを一方的に主張しても広がらないという現実も知っている。相手のためを考えることが、最終的に自分たちの利益として返ってくるわけです。
 自社の儲けだけを考えたら『オネストリクルーティング』なんて言わずに、黙って求人広告を売ればいい。採用できなければ再度求人広告を掲載してくれる企業が増えるので。
 ただ、自分たちが実現したいのは、入社後活躍という「入社をした方がその会社で活躍し、業績を牽引し新たな採用が生まれる」という人材採用のあるべき姿です。
 この考え方を知ってもらうことが相手にとっても、また当社にとってもプラスになると考えています」(岩﨑氏)

コミュニティへ貢献する人にしか成果は返ってこない

 家事代行サービス「ベアーズ」がB2CだけでなくB2Bも展開していることは意外と知られていない。同サービスを福利厚生として導入する企業は既に700社にのぼる。
 同社ではさらなるB2B事業の成長のため、今年からアウトバウンドの営業を開始。
 ベアーズのマーケティング本部長の後藤晃氏は、テレアポ、メールマーケティング、セミナーなどによるリード獲得を行いながら、5月から「チラCEO」も活用することにした。
「オンリーストーリーを利用して、月20件ぐらいは商談をしています。導入したばかりの頃はもっと頻繁で、私ともう1名の執行役員が毎週火曜日と金曜日の午前中をまるっと空けて、そこにアポイントを詰め込んでいました。
 おかげさまで、ホームページからの問い合わせの次に『チラCEO』からの成約が多いような状況です」(後藤氏)
 既に利用を開始してから半年ほどで、同社のB2B事業の売上の少なくない割合を占めることになった「チラCEO」。一方で、後藤氏は「チラCEO」を利用することを楽しんでもいるという。
「商談相手の多くが取締役クラス以上です。そういった相手とハイレベルなディスカッションを繰り返すことができるのは、ビジネスの他流試合のようで面白いですね。
 私の方も相手先の企業にどう貢献できるかを真剣に考えていますし、もしベアーズの商品で貢献できないならば、いちユーザーとしての意見や同じ経営層としての助言をできる限りするようにしています。
 また、自社の商品を売るだけでなく、相手企業の商品を買うことも少なくありません。今度、自社ホームページをリニューアルする予定なのですが、それは『チラCEO』で紹介いただいた企業にお願いすることになっています」(後藤氏)
「チラCEO」活用の成功例と言えるベアーズ。そのための重要なことを後藤氏は次のように語る。
「『チラCEO』のようなコミュニティを活用したビジネスでは、まずそのコミュニティに貢献しなければなりません。参加する以上、コミュニティを良くするために自分自身がバリューを出さなければいけない。これはリアルの人間関係でも同じですよね。そうしている人にしか成果は返ってきません。
 またベアーズに限らず、B2Bのビジネスは提案から成約までに時間がかかることが多いですよね。長期的なお付き合いが必要になるため、お互いの関係性を構築することは非常に重要です」(後藤氏)
 後藤氏は「オンリーストーリー」の特徴として、「コミュニティが担保する信頼」をあげる。
「最初は『オンリーストーリー』のことを単純なビジネスマッチングサイトだと思っていたんです。異業種交流会と同じように考えていたのですが、異業種交流会の多くはみんな初めてなので、コミュニティ化しておらず、少し効果が薄い印象なんですよね。
 でも『チラCEO』だと、お話ししたことがなくても、コミュニティのどこかでお見かけしたことがあったり、第三者からの紹介があったり。そうすると単純に『チラCEO』の相手企業から買おうと思いますよね。
 ただやっぱり根底に必要なのは各々がコミュニティへ貢献しようという意識があることなのだと思います。
 これから『チラCEO』に参加する企業はどんどん増えていくでしょう。どこまでギバーの精神を文化として保ち続けられるかは、コミュニティの課題だと思います。
 結局、経済はみんなが価値を交換することで良くなっていくものです。1人だけ出し抜こう、得をしようという発想は、マクロの視点では意味がありません」(後藤氏)
 今、B2Cの世界ではインフルエンサーマーケティングが台頭しているように、何を買うかだけでなく、信用をベースに誰から買うかの流れが起きてきている。
 これまで、B2Bの世界は合理的な理由だけで売買が行われる印象が強かった。しかし、今後“誰から買うか”という、信用で購買行動が起きる時代がやってくるのかもしれない。
 もし、今回話を伺った3名のように、目の前の相手やコミュニティ全体に貢献しようという意識を持つ人たちが集まり、オンリーストーリー社の提唱する「Giver Based Community(ギバーベースドコミュニティ)」が実現されれば、B2Bセールスの原理そのものが変わっていくかもしれない。