2022/1/20

【CX新時代】一気通貫で顧客とつながるカスタマージャーニーはこう描く

編集ライター (NewsPicks Brand Design 特約エディター)
デジタル空間で過ごす時間が、ビジネス、プライベートともにますます増加し、消費行動もデジタルシフトしている現在。
企業にとっては、いかにデジタル空間上で顧客とのエンゲージメントを高めるマーケティングができるかが鍵を握っている。
これからの時代、マーケターはどんなカスタマージャーニーを描けば良いのか。求められるデジタルマーケティング手法とは。
本記事では、Facebook Japanと電通が共同開発した、Instagram活用マーケティングの新しいフレームワーク「Instagram Spiral Framework」について、事例とともに紹介する。
INDEX
  • コロナ禍で消費行動のデジタルシフトは加速
  • ファネルでの整理は限界。新しいフレームワークを開発
  • CASE1、ネスレ日本「ピュリナ ワン」
  • CASE2、花王「FUTURE SKIN by Fine Fiber Technology」
  • CASE3、Honda「VEZEL」

コロナ禍で消費行動のデジタルシフトは加速

人の消費行動がデジタルにシフトした今、従来のようにモノやサービスを「認知し、検討して購入する」というカスタマージャーニーは、もう合わない。
従来のマーケティングで活用していた「認知」「興味」「比較・検討」「購入」のファネル構造から、「パルス消費」へと確実にシフトしている。
パルス消費とはスマホを操作中、瞬間的にモノが欲しくなってそのまま購入まで終わらせる消費行動のこと。
この消費行動を加速させているのが、2010年に誕生し、日常的に多くの人が利用しているInstagramだ。
Instagramには、機械学習を活用して一人ひとりに最適化したコンテンツを表示するアルゴリズムがある。
そのため、利用者は「偶発的な発見」から「好き」と「欲しい」気持ちを作れるのが特徴だ。
こうした消費行動の変化を受けて、電通にマーケティングやプロモーションを依頼する企業ニーズにも、大きな変化が起きている。
「コロナ禍で消費者の消費行動は一気にオンラインシフトしました。それに伴い、リアルイベント用の予算を、そのままInstagramのオーガニック運用やInstagramライブへとシフトするクライアントが増加したんです。Instagramライブで大幅に売り上げを伸ばした企業も少なくありません」(電通・寒河江麻美氏)
コロナ前まではフィード投稿とストーリーズでのプロモーションが主流だったが、Instagramライブや動画、リール、ARカメラエフェクトなど機能が充実したことで、認知からロイヤル顧客化までInstagramのみでできるようになったという。
「数年前まで、Instagramはファネルの一機能を担う存在でしたが、多機能化した今、全てのファネルをInstagramだけで担えるようになりました。たとえば、ライブ配信では直接商品を紹介できますし、コメントは利用者のクチコミにあたります。生活者の日常で使われているSNSで、ブランディングやライブ配信、口コミ収集、ショッピングまで同時に成立するのは、他にない優位点ではないでしょうか」(電通デジタル・江草香苗氏)
Instagramの進化の背景には、日本の利用者数が急増していることと、日本の利用者はさまざまな機能を積極的に使う傾向にあることだと長谷川氏は言う。
「実は、米国以外で初めて開発チームを置いたのが日本なんです。日本の利用者のユースケースから着想を得て生まれた新機能も多くあります」(Facebook Japan・長谷川卓見氏)

ファネルでの整理は限界。新しいフレームワークを開発

Instagramの多機能化と人の消費行動の変化が同時に起きている今、Instagramを従来のSNSとして運用するマーケティングや広報は通用しない。
そこで、電通とFacebook Japanは新しい消費行動にマッチするフレームワーク「Instagram Spiral Framework」を共同開発した。
「消費行動に大きな変化が起きている中で、全てのコミュニケーションを従来のマーケティング・ファネルで整理するのは限界があります。とりわけパルス消費が起きやすいInstagramの特性にはマッチしません。そこで、Facebook Japanと電通は、Instagramを活用し、コミュニケーションの全体最適ができる新しいフレームワークを共同開発することにしました」(電通・平岡真吾氏)
新しいフレームワークは、ブランドへの好意形成を図る「Seed(種まき)」、ユーザーを巻き込みながらブランド理解を深める「Involve」、何らかのきっかけで発火し購入に結び付ける「Trigger」の3つのアプローチで整理する。
ポイントは、どのタッチポイントも入り口になり、右回りにも左回りにもなること。多様な消費行動に対応できるという。
では実際に、このフレームワークはどのように活用するのか。売り方や買い方の異なる「日用消費財(FMCG)」と「買い回り品」、「耐久消費財」の3つのカテゴリーにわけて説明する。
日用消費財の特徴は、低価格帯で顧客が他の商品に買い換える機会が多く、競合も多いことだ。
日常的な情報発信によってブランドの「好き」を醸成(Seed)し、「欲しい」気持ちに火をつける(Trigger)ことがポイントとなる。
このカテゴリーでは、無料サンプルのプレゼントやトライアル購入につなげることを目的に実施された、ネスレ日本が販売するキャットフード「ピュリナ ワン」の事例を紹介する。

CASE1、ネスレ日本「ピュリナ ワン」

普段からInstagramを活用しているペットオーナーに対して「猫の健康 = “ピュリナ ワン”」という認知を改めて浸透させるため、猫の“写真映え” をフックに「#映える猫には秘密がある」というコミュニケーションコンセプトを打ち出し、さまざまな施策を実施した。
まず、「Seed」で好意を醸成するために、フォロワーの愛猫家に向けて“推し猫”を探してもらう9枚連続のグリッド投稿や、猫オーナーのお悩みに寄り添ったコンテンツを発信。
次に「Involve」では、ストーリーズでアンケートやクイズなどインタラクティブなコンテンツを発信しユーザーとのコミュニケーションをはかった。
加えて、ユーザー巻き込み型施策としてフォトコンテストを実施。
ユーザーの投稿を紹介すると同時に、普段猫の写真をアップしているインフルエンサーからも、「ピュリナ ワン」と一緒に写った写真を投稿してもらうことで、愛猫家コミュニティを盛り上げた。
こうして、「好き」の醸成とユーザー参加型のコンテンツでブランドを盛り上げ、利用者の「欲しい」につなげたという。
次は、「買い回り品」カテゴリーの事例を紹介する。
スキンケア商材やサプリメントなどの買い回り品は、ブランドへの「共感」と「信頼」が必要なカテゴリー。
購買への一押しと、購入後もブランドの心棒者になってもらうことが重要のため「Involve」と「Trigger」に重点を置く。
特に、ブランドへの共感と信頼を醸成するために、通常のフィード/ストーリーズ投稿に加え、Q&AコンテンツやInstagramライブなどで、いかに商品の理解を促進できるかが鍵となる。
このカテゴリーで紹介するのは、「100年肌と生きる。」をコンセプトに、花王のファインファイバー技術から生まれた新しいスキンケア商品「FUTURE SKIN by Fine Fiber Technology」の事例だ。

CASE2、花王「FUTURE SKIN by Fine Fiber Technology」

「Instagramの役割は、この商品のWHAT/WHY/HOWをわかりやすく伝えることです。オーガニック運用では「Involve」に力を入れ、恒常的にQ&Aを展開。ブランドとの親和性が高く、ブランドコンセプトや商品に共感してくれたインフルエンサーを起用し、PR投稿やInstagramライブで商品について語ってもらいました。
新しいブランドが世に出ていくとき、ターゲット層に支持されているインフルエンサーに代弁いただくことで、認知とブランドへの信頼獲得のスピードを上げられます。今回、インフルエンサーのキャスティングに関しては、「100年肌と生きる。」というブランドコンセプトに合う方で、この商品を本当に好きで使っている方だけをキャスティングすることに拘りました」(電通・寒河江氏)
ライブ配信のアーカイブ含め、全ての施策をInstagram上に集約。商品に関する情報全てがわかる状態にしたこともあって、信頼の獲得と実際の購入につながったという。
モノを購入するとき、以前はネットを開いて検討するのが主流だった。
しかし、今やInstagramを開く時代。購入前の後押しとして「Trigger」コンテンツが非常に重要な役割を果たすという。
最後は、高価格帯のためネットで購入するイメージがつきにくい「耐久消費財」の事例だ。
「耐久消費財」は、不動産や家電、車など、高価格帯でスイッチしづらい商材カテゴリー。
ブランドが提供するライフスタイルの「憧れ」を醸成し、購入後もブランドの推奨者になってもらうことが重要だという。
たとえば住宅メーカーの場合、家そのものの機能を訴求するよりも、家に住む家族のあり方や、実現できるライフスタイルを全面に出した方が、引き合いがある。
そのライフスタイルへの憧れを「Seed」で醸成し、なぜそれを叶えられるかを「Involve」で伝えていく。
このカテゴリーの特徴は、InstagramやWebで購入が完結しづらいこと。
そのため、「Trigger」の成否を判断する指標には、資料請求数や展示会予約数、店舗誘引数など購入の一歩手前のアクションを設定することが多い。
紹介するのは、Honda「VEZEL」の事例だ。

CASE3、Honda「VEZEL」

この事例の特徴は、「GOOD GROOVER」と呼ばれるアンバサダーを活用したこと。
これまで、自動車の広告でクルマが主役にならないコミュニケーションはあまりなく、新しいチャレンジだったという。
まず、「Seed」では、アンバサダーのコンテンツを多く発信。
CM楽曲を提供した人気シンガー・ソングライターによる“匂わせ投稿”でざわつきを生み、さらに俳優のアンバサダーによる投稿とそのリポストなどで大きくリーチを伸ばした。
つまり、アンバサダーとの共創コンテンツにより、オーガニックで「憧れ」を醸成したのだ。
次に「Involve」ではユーザーとの共創を実施。
ストーリーズでユーザーの投稿を紹介すると、メッセージやスタンプでの反応が多く得られたことから、ブランド独自のスタンプを作るなど、効果的なコンテンツをアジャイルに投下していったそうだ。
さらに、ユーザー巻き込み型の施策として、ユーザーの投稿写真を六本木駅の駅貼り広告や雑誌に掲載
UGC(User Generated Contents)を公共の場所やマス媒体に掲出するという思い切った取り組みと言える。
このように、アンバサダーやユーザーとの共創をテーマに、コミュニケーションが繰り広げられるよう設計し、フォロワーが1万人を超えたタイミングで、お礼のストーリーズを投稿。
すると、100件を超えるリアクションとコメントが寄せられるなど、コミュニティの熱量も可視化されたそうだ。
紹介した3つの事例は、カテゴリーごとにアプローチ方法は異なるが、Instagramでユーザーやファンとの関係性を深め、共感の声が多く上がるようなコミュニケーションを取ることが共通している。
その結果、「Deepen」でブランドの愛用者を増やすことにつながるのだという。
「新しく開発したフレームワークは、さまざまな業種で活用されることを望んでいます。Instagramはユーザーとの関係構築から購買まで全ての体験を作ることができる場所。ブランドの愛用者を増やし、愛用者の声まで可視化できるプラットフォームです。今後は、コミュニティ形成などDeepenな事例を数多く作っていきたいです」(電通・平岡氏)
「弊社では現在、グローバル全体でクリエイター支援にも注力しています。クリエイターがInstagramでマネタイズするための機能も拡充しており、それらの活用が進めば、より良質なコンテンツが集まる場になるはず。すると、当然マーケティングの活用法にも新しい波が生まれると思っています」(Facebook Japan・長谷川氏)
Instagramの進化は止まらない。新しいフレームワーク「Instagram Spiral Framework」に、クリエイターを活用した施策も加われば、さらにブランドの愛用者を増やすことにつながっていくだろう。
コロナ禍で人の消費行動もビジネス環境も大きく変わった今、変化に対応してアジャイルに進化したInstagramをうまく活用しない手はない。
どの企業にとっても必要な、これからの時代を勝ち抜くための新しいマーケティング術。ぜひ試してみてはいかがだろうか。