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カルパースに他の投資家は追随しない

今日はここでヘッジファンドを擁護しておきたいと思う。なぜかと言うと、誰かがやらないといけないからだ。

9月15日、アメリカ最大の公的年金基金であるカリフォルニア州職員年金基金(カルパース)が、ヘッジファンドへの投資から手を引くと発表。以来、ヘッジファンドに対する厳しい声が高まっている。複雑すぎる資産の運用に高額な手数料をとる、強欲な富裕層に操られたヘッジファンド時代の終焉だ、と識者たちが矢継ぎ早に攻撃し始めたのだ。

だがヘッジファンドを運用している人たちが欲深いのは当然だ。ハーバード大学でMBA(経営学修士)を取得した人がヘッジファンド業界に入るのは、世界平和のためではない。とはいえ、今回のカルパースの撤退は、人々に改めてヘッジファンドの是非を問うきっかけになったといえる。

運用資産3000億ドルを擁するカルパースのテッド・エリオポウロス暫定最高投資責任者は、今回の決定についてこう説明した。「カルパースの規模に対して、ヘッジファンドは複雑すぎて運用コストも高く、続けるメリットはないと判断した」

この声明を聞いたヘッジファンド批判派は、他の年金基金や投資家たちもカルパースの後を追い、次々とヘッジファンドから手を引くのも時間の問題だと予測している。

しかし、ヘッジファンド業界とカルパースの声明にもっと注意深く目を向けてみると、事はそう単純ではないことが見えてくる。

カルパースが運用戦略を誤っただけ

まず、「複雑すぎる」という問題。ヘッジファンドは確かに不透明なところもあるが、そんなに複雑ではない。代表的な運用手法の1つであるロング・ショート戦略は、極めてシンプルだ。デリバティブなどを用いた複雑な運用戦略もあるが、未公開株に投資するプライベート・エクイティ・ファンドのほうが、よほど難解だといえる。

次に、運用コストが「高い」という問題。カルパースが昨年度(2013年7月~2014年6月)に、ヘッジファンドに払った手数料は1億3500万ドル。投資リターンはプラス7.1%だった。

プライベート・エクイティ・ファンドも通常、ヘッジファンドと同じぐらいのコストがかかる。手数料2%と、利益の20%だ。ただしヘッジファンドは、カルパースのような規模の大きい投資機関に対しては、ほぼ間違いなく手数料の割引をしている。それでもカルパースはプライベート・エクイティへの投資に注力していくという。その投資額は、資本の15%にあたる316億ドルだ(6月時点)。

実際、カルパースは近年、プライベート・エクイティへの投資比率を増加させてきた。つまり、カルパースにとっては利益が生まれている限り、高い手数料は問題にならないということだ。

こうして見てくると、複雑さの問題も高い手数料も、カルパースのヘッジファンド撤退の理由にはならないことが分かる。本当の理由は、単に運用戦略を誤ったために利益が出なかったことだろう。

ヘッジファンド投資でプラス7.1%というリターンはそんなに悪くない。だがカルパースの昨年度の運用成績全体のリターンがプラス18.4%だったことを考えれば、7.1%も取るに足らない数字になる。

カルパースのヘッジファンドの運用成績は何年にもわたり芳しくなかった。過去10年間の平均リターンはプラス4.8%。目標値より2%下回っている。

このパフォーマンスの悪さこそが、カルパース撤退の理由だろう。ヘッジファンド投資の最大の目的の1つは、株式市場の変動にかかわらず、比較的安定したリターンを確保できることにある。なのに、運用総額のわずか1.5%しかヘッジファンドにあてていなかったカルパースの戦略は間違いだ。それでは満足なリターンが得られず、ヘッジファンドの「ヘッジ」の意味がなくなっている。

カルパースはまた、アパルーサ・マネジメントやブリッジウォーター・アソシエーツなどトップクラスの運用成績を誇る最大手のヘッジファンドを避け、無名のファンドに投資する傾向があった。これに対し、テキサス州の教職員退職年金基金は、ブリッジウォーターの株を買っているほどだ。

市場が不安定になれば人気も回復

カルパースがヘッジファンドから手を引いたのは、まったくもって合理的な判断だった。運用コストに見合うだけのリターンを得ていなかったのだから。

ただしカルパースが撤退したからといって、ヘッジファンド時代が終わるわけではない。第一に、他の年金基金や投資家たちまで追随するとは決まっていない。テキサス教職員退職年金はもとより、運用総額の9%を投じているマサチューセッツ州年金基金もヘッジファンド投資をやめないはずだ。

そして第二に、ヘッジファンドは市場が変動しているときほど頼りになる投資先といえる。今後、市場がより不安定になったときに、ヘッジファンド人気も回復するとみられる。

よって、カルパースの撤退はカルパース独自の問題であって、そこにヘッジファンド時代の終焉というような深い意味はない。

アメリカ最大の年金基金には背を向けられたかもしれないが、他の資金が潤沢な投資家たちはまだまだヘッジファンドに夢中だ。

(執筆:STEVEN DAVIDOFF SOLOMON記者 Harry Campbell/The New York Times、翻訳:中村エマ)

(c) 2014 New York Times News Service