iモードの猛獣使い

事業の成否を占うメンバー選抜

開発精鋭部隊、集め方は“マッキンゼー流”圧迫面接

2014/10/6

iモード部隊は私1人でしたから、自ら公募の主旨を書き、採用面接を行いました。

この時点ではうまく作れば売れるだろうとの自信はありましたが、具体的商品イメージは全然固まっていないのですから、応募者から逆に質問を受ける場面が多々あり、面接の過程で私の商品イメージも進化していきました。

彼ら彼女らには迷惑な話ですが、最初と最後では、私の説明に差があったのではないかと思います。

社内公募を開始したのは大星さんに命令を受けてから1ヵ月半後の2月20日でした。

「マルチメディアやインターネットの時代には、ユーザーとコンテンツやアプリケーションの仲立ちをして情報流通を促進するサービスとして『ゲートウェイビジネス』のマーケットが出現してきます。モバイルの世界でも同様です。例えば、高機能携帯電話を用いたショートメールによる情報提供やイントラネットとの接続等です。このようなモバイル・コンピューティング・マーケットの創出とそれに伴うトラフィック増進を図るため、法人営業部では、今春ゲートウェイビジネス業務を新規に立ち上げます。そして、本業務を成し遂げるためにはチャレンジブルな人材を必要とするため、今回、広く社内から人材を公募することとしました。志のある社員の皆さん、老若男女、職位を問わず活発なご応募をお待ちしております!」

これがその時出した公募文書です。

そこで提示した業務内容は以下の4種類でした。

1.事業企画業務:事業コンセプト作りや事業計画の作成や管理。

2.マーケティング業務:サービスやコンテンツの企画、コンテンツ・プロバイダーや広告主の開拓。

3.プラットフォーム業務A:ドコモ網の改造仕様、課金、端末仕様の設計。

4.プラットフォーム業務B:サーバーのシステム設計

5人を精選

採用予定数は10名程度でしたが、実際に採用したのはその半分でした。

選考方法は、小論文審査と面接で行いました。

「モバイル・コンピューティングの展望」および「ゲートウェイビジネス担当でやれること&やりたいこと」をA4で1枚程度に書いて提出してもらいました。

論文選考で対象者を絞り込んだ後、面接を行う予定でしたが、締切を1週間後の2月27日にしたこともあり、仕事内容が分かりづらかったのか、応募者が24名と少なかったので全員の面接を行いました。

応募者の平均年齢は27歳で、入社してすぐの若手が10人ほど、課長さんも1人いました。エンジニアは5名と少なく圧倒的に営業や事務の社員が応募して来ました。

面接は私と横浜さん、そしてマッキンゼーから来てくれている常駐者で行いました。その手法もマッキンゼー流を採用しました。圧迫面接です。

これは横浜さんに教わったのですが、応募者に質問を投げかけ、彼ら彼女らがどう受け応えするのかを見る面接手法です。

きれいに球を打ち返して来てもよいし、身をかわしてもよい。逆に質問してきてもよい。一番重要なことは行き詰まってギブアップしないことです。

結論が出なくてもよいので、応募者と面接官の間でコミュニケーションが取れ続けることが重要です。

なにしろ海のものとも山のものとも分からない新商品の開発をこれから一緒に行うメンバーなのですから、多少の困難にめげてもらっては困ります。

面接で一番印象に残っているのは矢部俊康さんです。なかなか歯ごたえがありました。生意気と言った方がよいかもしれません。今は彼もとても丸くなりましたが。

本人曰く、

「地味な仕事が多かったが、しっかり仕事をしてきた」

「成果もあげてきたが、会社は評価しない」

「今回の新しい仕事であなたはちゃんと認めてくれるのか」

ビックリしましたが、自分の実力に自信があるのだろうと感じました。面接官の印象は全員同じだったようで、すべてAの評価で採用となりました。

もちろん、彼にはポケットベルのサービス・オーダー系システムを作った経験があり、サーバーの担当者としての即戦力の期待もありました。

彼のほか、入社2年目で丸の内支店の販売担当だった笹川貴生さんはサーフィンの波情報提供のアイデアを出してくれました。千葉支店の法人担当として支店内のLANを構築してきた栗田穣崇さんはオリコンチャートや映画情報を流すなどの提案をしてくれました。彼らの新しいことにチャレンジする積極姿勢が好評価を生みました。

彼らには4月1日に転入してもらうことにしました。

同日付けで、iモードを専門に担当する組織として法人営業部内にゲートウェイビジネス担当を設置したからです。

その時点の体制は、事業企画業務はマッキンゼー社から派遣されてくる常駐のコンサルタント2名にお願いし、マーケティング業務は公募で採用した若手3人、サーバー系プラットフォーム業務は公募の2人と大星さんがNEC社に頼んで出向してもらう川端正樹さんの3人でした。

あとは私の半身で、総勢8人半の組織です。

ヘッドハンティングで人員を補う

私と若手社員だけでは商品は作れません。次に取りかかったのがプロフェッショナルなリーダー集めです。

iモードという商品の構成要素は、コンテンツ、それを表示する端末、両者をつなぐネットワークやサーバーの4つに大きく分かれます。

各々がまとまった量の業務があり、要求されるスキルも違うので、それぞれの分野の経験があるプロに参加してもらおうと考えました。

ドコモは移動通信を生業とする会社です。当時の世界の通信市場は固定通信が主流で、インターネットも始まったばかりでした。

移動通信に至っては、ポケベルの信号や音声トラフィックを運ぶ土管の仕事がほとんどでした。

ですから、トラフィックを運ぶネットワークや端末の技術者は社内にいましたが、コンテンツやインターネットの知識と経験を持つ人材は社内を見回してもまったくいませんでした。そこで人材を社外に求めました。

実を言うと、マッキンゼー社は実務を手伝ってくれると同時に、ドコモには欠けている分野のリーダーを紹介してくれる約束でした。

しかしなかなか紹介してくれません。それはそうでしょう、やっと盛り上がり始めた音声中心の携帯電話市場で、その先を行くiモードという新商品開発の仕事は未知の分野なので、なかなか社外から転職してくれる人材は見つからなかったと思います。

一方、プロジェクトの推進に責任のある私はのんびりと構えてはいられません。週に1回は、大星さんから、

「ヘッドハンティングはうまくいったのか」

「開発体制はできたのか」

「商品はいつできるのか」

「いつ売り出せるのか」

とせかされていましたから。

創業社長はどの会社でも同じでしょうが、ワンマンで気が短い人が多いようです。そうでなければ、会社は立ち上がらず倒れてしまいますから。