2021/12/17

【セブン&アイ×マクドナルド】経営戦略としての環境対策のカギは「消費者との対話」にあり

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
「SDGs」は経営戦略として世界的な合言葉となった。
 経済産業省が2019年に発表した「SDGs経営ガイド」によれば、SDGs達成に必要な投資は、世界で年間5兆〜7兆ドルにものぼるという。
 さらに、“環境後進国”と時に評される日本でも、地球環境や社会に配慮した消費社会へと転換しつつある。
 環境対策は今や、企業にとって無視できないリスクであると同時に、大きなチャンスでもある。
 今回は、セブン&アイ日本マクドナルドという大手2社の執行役員と、『サステナブル資本主義 5%の「考える消費」が社会を変える』(祥伝社)を上梓したばかりの投資家・村上誠典氏による鼎談を実施。大手企業の視点から、日本企業の環境対策の現状と本音に迫った。
INDEX
  • “賢い消費社会”がやってくる
  • 企業の消費活動「調達」がもたらすインパクト
  • 「安くて便利で高品質」は当たり前ではない
  • 環境省と取り組む食品ロス削減

“賢い消費社会”がやってくる

村上 今日は、日本を代表するセブン&アイさんとマクドナルドさんに、経営視点での環境対策について伺いたいです。
 まず、最も成果の出ている取り組みというと、何になるのでしょうか?
釣流 よく「成果が出ていない」なんて怒られるのですが……筆頭はカーボンニュートラルとサーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みです。
 カーボンニュートラルに関しては、セブン-イレブンの店舗の省エネ化があります。私たちの店舗運営で排出するCO2は95%以上が電気由来。省エネ型の店舗を増やすことは避けて通れません。
 実は現在、8000店を超えるセブン-イレブンの店舗の屋根には、太陽光パネルが載っています。これを2030年までに1万1000店まで増やします。
村上 私自身もカーボンニュートラル社会を実現するエネルギーインフラ企業に投資しており、いち消費者としてもセブン-イレブンの屋根上発電にはおおいに共感しています。
釣流 ありがとうございます。ご存じでしたか。
 今後は、最新型の省エネ店舗の全国拡大も検討しています。2020年11月にオープンした実証店舗では、電気代は43%、CO2排出量は54%を削減できています。
2020年11月にオープンした「セブン-イレブン青梅新町店」。断熱性・気密性を高めた木造店舗で、蓄電池や複層ガラス、調光機能付きの店頭看板など、最新の省エネ・創エネ・蓄エネの設備や技術が導入されている。
 サーキュラーエコノミーの取り組みとしては、「完全循環型ペットボトルリサイクル」を進めています。
 使用済みペットボトルの回収機を店頭に設置して、年間約3億本を回収し、再生PET樹脂として再資源化。それを活用した製品を再び店頭で販売しています。
村上 この取り組みで非常に重要なのは、企業が消費者を巻き込むという視点だと思います。
 なぜなら、両社の手がけられているような小売業や外食産業は特に、一般の消費者から市場が生まれるビジネス。消費者こそが未来をつくり、社会を変えていく力を持っていますからね。
釣流 おっしゃるとおりです。そこでまさに課題となっているのが、環境への貢献がお客様の目に見えづらいこと。特に店舗の省エネ化がそうです。
 私たちの取り組む環境対策に、お客様自身が参加されているのだと伝え、もっと実感の持てる活動として、一緒に行動していただけるようにしていかなければと思っています。
村上 マクドナルドさんはいかがですか?
宮下 その意味では、うまくお客様に参加いただけた成果として、2018年にスタートした「マックでおもちゃリサイクル」があります。
 年間1億食を販売するハッピーセットについてくるプラスチックのおもちゃを店舗で回収し、店舗で使用する食事トレイにリサイクルしています。
 一部店舗でおもちゃのテスト回収を始めたところ、回収数が伸び悩んだこともありました。しかし、お客様の評価は非常に高かったのです。
 そこで、回収したおもちゃを店舗で使用するトレイにリサイクルし、現物を店内にディスプレイして見える化しました。
 子どもが遊ばなくなったおもちゃと上手にお別れしてリサイクルできる仕組みは、親御さんのおもちゃを捨てる罪悪感を軽減し、お子さんたちにとっては、リサイクルの流れを体感する環境教育になります。
 2021年からは、全国の店舗で通年実施するまでに発展し、過去3年間で740万個のおもちゃを回収しました。
回収されたハッピーセットのおもちゃが、再生樹脂を10%程度含む「みどりのトレイ」へと生まれ変わる。
 しかし、それだけでは実質的な環境負荷軽減のアクションとして十分ではありません。
 マクドナルドは2025年中に、ハッピーセットのおもちゃの90%をサステナブルな素材へと移行することも決めました
 プラスチックのリサイクルに加え、リデュースにも大きなコミットメントを掲げて取り組んでいるところです。
村上 おもちゃリサイクルは、サステナブルな取り組みの裏にあるストーリーを伝え、まさに消費者を巻き込めた好例ですね。
 子どもは消費を通して、世の中やビジネスの仕組みを理解していきます。こういった裏側のストーリーが伝わるほど、将来的なLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上にもつながっていくでしょう。
 近年、徐々に消費者の環境意識が高まりつつあるものの、まだそれが消費行動まで結びつきにくく、わかる範囲・できる範囲でサステナブルな行動を選んでいる段階です。
 今はきっと、企業にとっても消費者にとっても過渡期。企業の環境対策に消費者を巻き込めれば、消費はもっと賢くなる。つまり、環境に配慮した商品やサービスが当たり前に選ばれるようになっていくはずです。
 時間はかかりますが、そのためのストーリーを伝えていくことも、これからの企業の役割でしょう。

企業の消費活動「調達」がもたらすインパクト

村上 企業側が消費者サイドに回る「調達」についても伺いたいです。
 セブン&アイやマクドナルドのような大手企業の調達がサステナブルになれば、環境への貢献度は非常に大きいはずです。
宮下 その責任は常に意識しています。
 ボストン・コンサルティング・グループの分析によると、世界のフード産業が排出する温室効果ガスのうち、7割がサプライチェーン由来だそうです。
 当然、マクドナルドのグローバルのサプライチェーンから排出される温室効果ガスも、それ相当の量になります。環境に配慮した持続可能な調達への移行は、もはや避けて通れません
 たとえば2020年末までの段階で、紙製品のFSC認証、魚のMSC認証、コーヒー豆のレインフォレスト・アライアンス認証、フライオイルであるパーム油のRSPO認証を取得してサステナブルな調達を始めています。
 ただ、こうした企業努力もやはりBtoBだけでは不十分。お客様にもサステナブルな調達をわかりやすくお伝えしようと、パッケージに認証マークを表示しています。
フィレオフィッシュのパッケージは、MSC(海洋管理協議会)の「海のエコラベル」付き。生産・流通・加工のすべてにおいて、水産資源や海洋環境に配慮した厳格な基準をクリアして初めて表示が可能になる。
 日本マクドナルドを利用されるお客様は、年間のべ13億人もいらっしゃいます。「マクドナルドで食事をすると、サステナブルな消費に参画できる」とご認識いただけたらと思っています。
釣流 サステナブルな調達は、セブン&アイグループの環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」の4つのチャレンジのうちの1つなのですが、本当に苦労しながら進めています。
 たとえば、セブンカフェは年間10億杯以上を販売していますが、このコーヒー豆の調達をどう考えていくのか、商品部門は非常に頭を悩ませています。
村上 10億杯以上ですか! 調達量も膨大ですね。
釣流 ええ。現在、全量を認証に切り替えるには、そもそも認証豆の量が足りません。お取引様と連携しながら、少しずつサステナブルな調達先を増やしているところです。
 SDGsに合致した調達にかかるコストの価格転嫁を、お客様が認めてくださるかはもちろん、一次サプライヤー、二次、三次……、どこまでさかのぼれば確実にサステナブルと言えるのか
 私たち小売業にとっては、この見極めも今後の課題ですね。
宮下 同感です。100%間違いなくトレースできる仕組みを追求するのは難しいですよね。
 それでも、生産者や商社のみなさんとパートナーシップを組んで、コストのバランスを見ながら、長期的な視点でサステナブルな調達の割合を地道に上げていくしかありません。
 マクドナルドの場合、絶対に譲れないのは食品の安全と品質です。まずはここを最優先に、トレーサブルな調達をする。その上で、環境対策や人権問題への対応も進めています。

「安くて便利で高品質」は当たり前ではない

村上 サステナブルな調達とコストのバランスをどう取るか、難しい舵取りをされていることがよくわかりました。そんな企業の経営努力に対して、経済の主体である消費者はどう向き合うべきかと考えさせられます。
 日本は「安くて便利で高品質」が当たり前になりすぎて、この両立がいかに難しいかを理解して消費行動をとる段階には至っていません
 サプライチェーンが複雑だからこそ、エンドにいる消費者が明確な需要、つまり市場を生み出さない限り、なかなかサプライチェーン全体の方向性を大きく変えていくのは難しい。
  私たち消費者の手にする商品がサステナブル適合であること。その結果、どのように環境が守られるか。消費の裏にあるサプライチェーンを含むストーリーへの理解や共感を深め、新しい価値観で商品を選ぶようになる必要がありますね。
釣流 欧米、特にヨーロッパではコストを価格に上乗せするのが常識ですが、日本ではどのように消費者のみなさまにご協力いただけるかを検討している状態です。
 この実現も、私どもがもっとストーリーを伝える努力が必要な部分でしょう。
 私たちのグループのイトーヨーカドーには、「顔が見える食品。」というプライベートブランドがあります。生産者のお名前や人柄、こだわりを店頭でお伝えし、共感したお客様が選んでくださる流れが生まれています。
 さらにセブン-イレブンでも最近、一部の店舗で「顔が見える野菜。」の取り扱いが始まりました。
宮下 SDGsに関する活動では、アクションと同じぐらい、消費者との相互の対話の継続が重要だと思っています。
 過去に、学生さんとのワークショップを開催しました。マクドナルドのサステナビリティの取り組みをお客様にどうお伝えするか議論し、実際に店舗やSNSで流す動画を制作したんです。
2020年8月に開催された学生向けオンラインワークショップ「JSL Youth Club with マクドナルド」(共催:一般社団法人 日本サステナブル・ラベル協会)で制作された動画。
 若者と話していると、彼らがすでにエシカルな感覚を持っていることに驚きます。彼らが社会人になる頃には、日本が環境先進国になるのではないかと思うほど、明るい未来を感じました。
釣流 同感です。セブン&アイでも現在、Z世代の中高校生と未来のコンビニのあり方を考えるワークショップといった若年層との対話を始めています。
 マーケットをつくる企業として、未来を担う若者と絶えずコミュニケーションしていく。その積み重ねの上にしか、未来はないのかなと感じています。

環境省と取り組む食品ロス削減

村上 サステナブルな消費が常識になる時代に向けて、みなさんが課題と感じていることは何でしょうか?
釣流 自分たちを棚に上げるわけではありませんが、法規制の見直しは、時代の変化に合わせてもっとスピーディーに進まないものかと感じます。企業や消費者の“民”の動きと同時に、“官”の動きも不可欠です。
 今年、東京都内のデニーズでようやく「mottECO(モッテコ)*」を導入しました。
 お客様からはずっと要望をいただいてきましたが、2021年5月、環境省の食品ロス削減・食品リサイクル推進モデル事業に採択され、ようやく実現しました。
*飲食店で食べきれなかった料理を持ち帰る容器や行為であるドギーバッグの新たな名称。
村上 たしかに日本は、何事も動き出しに時間のかかる国ですよね。DXの推進にしてもそうですが、省庁の枠を超えた連携を強化し、ぜひ一緒に考えてほしいですね。
宮下 官民が連携して取り組むべき課題は2つあると考えています。
 1つ目は先ほどお話しした教育です。これは子どもたちに対してだけでなく、教える大人側の環境リテラシー向上が含まれています。
 私たちが環境教育のコンテンツを提供したり、SDGsの達成に尽力している方々から学べる機会を用意したりする取り組みを進めていきたいです。
 2つ目の課題は、パートナー企業間でのコミュニケーションです。昨今「パーパス経営」の重要性が盛んに叫ばれていますが、企業単位の動きでは分断が起こってしまいます。
 自社にとどまらないバリューチェーン全体が互いの価値観や存在意義に共感しあわなければ、SDGsのような大きな目標の達成は難しい。そのためのコミュニケーションを強化していく必要性を感じています。
釣流 日本はよく「環境後進国」といわれますが、遅れは取り戻せると思います。日本には古くから「三方よし」の精神がありますし、「省エネ大国」と呼ばれた時代もある。
宮下 そうですね。今まさに2050年に向けたロードマップをグローバルで作成中ですが、先ほど申し上げた「フード産業の温室効果ガスの7割がサプライチェーン由来」のように、どんな目標もマクドナルド単独で達成するのは不可能です。
 すべてのパートナーとゴールとアクションを共有し、合意して達成を目指します。
村上 前向きな話があります。2050年までの30年間で一番大きな変化は、「人」が入れ替わることだと思います。
 結果、消費やトレンドの中心は、今の30歳以下の人たちになる。若い価値観への変化を大きくレバレッジしていくことが、企業の成長ドライバーになると思っています。
 セブン&アイや日本マクドナルドには、ぜひ社会をサステナブルな方向へ動かしていっていただきたい。2社のスケールを生かせば、サプライチェーンを中心に消費全体がますます賢くなっていくはずです。