山崎牧子

[東京 6日 ロイター] - 11月に中期経営計画を発表した東芝が、現在の株価を大幅に上回る額での非上場化が実現可能とプライベートエクイティ(PE)ファンドから伝えられたものの、最終的に3社分割案を選択したことが分かった。さらにカナダのPEファンドのブルックフィールド・アセット・マネジメントが、東芝に少額出資を提案していたことも明らかになった。

東芝は取締役会の意思決定を支援する戦略委員会を設置し、株主などに意見を聞きながら事業計画の見直しを進めてきた。11月上旬に3社に分割する計画を発表したが、事情を知る複数の関係者によると、東芝が同案を選択した経緯が徐々に明らかになるつれ、「物言う株主」との溝が広がっているという。

株主の一部は、東芝が買収提案を正式に募らなかったことで3分割計画に異議を唱えている。見直し作業の透明性を疑問視する声も出ている。

事情を知る関係者2人によると、少なくともPE1社が戦略委員会に対し、非上場化する場合は1株6000円以上で実現可能との見通しを伝えた。また、別の関係者1人を含む2人の関係者によると、1株5000円前後で達成できると伝えたPEもあった。

リフィニティブのデータによると、1株6000円は東芝の株価200日平均を32%上回る。米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントなどが試算している適正価格6000─6500円とも同水準。

東芝が3分割計画を発表した11月12日、戦略委員会は声明を出し、検討過程で非上場化が実現可能な価格水準についてPE4社から意見を聞いたことを明らかにした。「当該価格のレンジは、それまでにメディアで報道されていた市場の期待水準に比べて説得力のあるものではないと認識した」としたが、具体的な価格水準には言及しなかった。

複数の関係者によると、4社には米KKRと米ベインキャピタルが含まれる。

東芝はロイターに対し、「株主とコミュニケーションを取り、分割案について説明しつつ、彼らの意見も聞いている。様々なステークホルダーと今後もコミュニケーションを取っていく」とコメントした。

<消えた少額出資案>

3分割計画の発表後に開催した投資家への説明会で、東芝の社外取締役で戦略委員会委員長のポール・ブロフ氏は、分割案が「最良の選択肢」であり、提示された価格水準が公になっても決定を変えることはないと話した。ロイターが説明会の発言録を閲覧した。

ある投資家から「見直し作業に株主の声を反映する機会はないのか」と質問されたブロフ氏は、3分割がより高い価値を生むと株主が同意してくれることを望むと答えた。

ブロフ氏は東芝広報を通じて発言内容を認めたが、それ以上のコメントは控えた。

複数の関係者によると、東芝の株主の一部は、ブルックフィールドによる少額出資案を選択しなかった経緯についても問題視している。ブルックフィールドは破たんした米原発大手ウェスチングハウスを東芝から買収し、再生させた実績があり、今回は少数株主として東芝の立て直しを支援する案を示していた。

ロイターはブルックフィールドにコメントを求めたが、現時点で回答を得られてない。

東芝の戦略委員会は11月に発表した声明の中で、ブルックフィールドと明示しない形で少額出資提案があったことを明らかにしている。戦略委員会は、25回以上協議したものの、既存株主の支持を得づらい提案内容だったと結論づけた。

<「永遠に納得せず」>

東芝は現在、投資家調査機関のMakinson Cowellを起用し、株主から分割案に対する意見を聞いている。社内では、「一部の株主は非公開化以外の案には永遠に納得しない」との見方がある。

第2位株主の3Dインベストメント・パートナーズは東芝の取締役会と戦略委員会に書簡を送り、計画を支持しないことを伝えた。非上場化や、外部からの出資受け入れに向けた提案を正式に募るよう求めている。

(山崎牧子 編集:久保信博)

*内容を追加し、写真を差し替えました。