2021/12/2
【SNSマーケ術】商品が人を見つけるインスタの“顧客体験メカニズム”
編集ライター (NewsPicks Brand Design 特約エディター)
モノをオンラインで購入するのが当たり前になった昨今。コロナ禍による行動制限から、その波は加速し、企業にとってオンライン上でのコミュニケーションはビジネスの成否を分ける重要な要素になった。
そんな中、ECとSNSの融合による「発見型コマース」というスタイルが、リアル店舗でのウィンドウショッピングの進化系として台頭している。
従来型のECと発見型コマースはどう違うのか。
Instagramで発見型コマースを支援するFacebook Japanの丸山祐子コマース事業部インダストリーマネージャに解説いただいた。
当然の成長。ECは20兆円規模に
日本でEC市場が立ち上がったのは、楽天市場やAmazon、Yahoo!ショッピングなどの“モール”が誕生した1990年代後半。
そこから、ネットワークの高速化やスマホの登場など、デジタル環境が整ったことで着実に成長し、日本のEC市場は2020年に19兆2779億円まで拡大した(経済産業省調べ、BtoCのみ)。
コロナ禍の自粛により、旅行サービスの販売などは縮小したものの、物販系やデジタル系は拡大し続けている。
アパレルから雑貨、家具、生鮮食品、自動車まで、もはやネットで買えないものはないといっても過言ではない現在。
このEC市場で存在感を示しているのが、FacebookやInstagramを代表とするSNSの存在だ。
消費者が商品を購入する際、企業からの情報だけでなく、ユーザーの評価を重視するのは当たり前で、それらを知る手段としてSNSが活用されている。
企業は単純にECサイトを立ち上げたり、モールに出店したりするだけでは消費者との接点は弱く、SNS上でどれほど存在感を示せるか、高い評価を得られるかが重要になっているのだ。
EC×SNSで進化するコマース術
SNSを運営する企業側も、ECを意識した進化を遂げている。その代表的な存在がInstagramだ。
Instagramは、言わずと知れた写真・動画共有プラットフォーム。2010年に誕生し、テキストメインだったSNSの中で「写真・動画に特化」というエッジが若年層を中心に評価され、ユーザー数は急増。SNSで不動の地位を築いている。
その特徴の一つにパーソナライズがある。
Instagramには、利用者のInstagramやFacebookのオンサイト、オフサイトでの情報を機械学習し、利用者一人ひとりに最適化したコンテンツを表示する仕組みがある。
この仕組みをもとに、各利用者の趣味・嗜好に合わせたコンテンツを表示しているため、利用者にとって有益な情報であることが極めて高い。
利用者は「偶然の出会い」「偶然の発見」を楽しめ、購入意欲がなかったものでも購入する可能性が高まる。
このSNSとECが組み合わさった形が「発見型コマース」だ。
「欲しいものや買うものが決まっていて、大手ECサイトやメーカーのサイトを訪れるのが通常のコマースの形態だとしたら、Instagramは機械学習によって自分の『好き』や『欲しい』を自然と提案する形態です。つまり、人が商品を見つけに行くのではなく、商品が人を見つけに行く。それが、発見型コマースです」(丸山マネージャ)
丸山マネージャの解説によれば、国内利用者はInstagramでショッピングを楽しみたいという意向が強いと言えるそうだ。
日本のInstagram利用者は、グローバル平均と比べて、商品タグがついた投稿などから商品詳細を見に行く割合が他国平均より3倍も高く、2020年は2019年と比べて65%も増加している。
出典: INSTAGRAM内部データ、 2020年9月
また、日本の利用者は商品の比較検討や検索でもInstagramを利用するケースが多く、グローバル平均に比べてハッシュタグ検索回数は5倍。
幾多あるSNSの中でもECとの相性が良いSNSと言えるのだ。
出典: Facebook 内部データ、2018年5月
偶発的な出会いから、ブランドのファンに
ではなぜ、Instagramがここまで消費者とブランドを自然な形でつなげる役割を担えているのか。
「Instagramは、利用者がポジティブなマインドで『好き』と『欲しい』の情報を求めて訪れる場。そこに自分の『好き』『欲しい』に関連する精度の高いコンテンツが表示されたら、無名なブランド、小さなブランドでも興味を持ってもらいやすい特徴があります」(丸山マネージャ)
実際、丸山マネージャもInstagramで偶然出会った投稿から、商品の購入に至った体験をしているという。
「私は10年前シンガポールに住んでいて、現地の小さなお店で一点もののネックレスを購入し、お店のInstagramをフォローしていました。帰国して10年が経ち、ネックレスのこともお店のこともすっかり忘れていたのですが、昨年、Instagramを見ていたら、偶然目に留まったのがそのお店のストーリーズだったんです。
この偶発的な出会いから、10年間の距離を縮めるかのように投稿やブランドサイトを見るようになり、興味が高まり、お店のアクセサリーを購入しました」(丸山マネージャ)
丸山マネージャは、偶然ストーリーズに出てきたブランドの画像を見て、商品ページやブランドサイトを能動的に調べた結果、Instagramの機械学習によってブランドの投稿が上位表示されるようになった。
最終的には、新アイテムの発売をカウントダウンスタンプを使ってお知らせするストーリーズに心を動かされ、購入に至ったそうだ。
「好きなブランドがあっても、そのブランドサイトを毎日訪問してチェックすることはほとんどないと思いますし、店員さんの着こなしは、店舗に行って初めて知るものです。けれど、Instagramをスクロールすると、何気ない投稿が利用者の『好き』や『欲しい』気持ちを刺激して、ブランドサイトに行くきっかけになるんです」(丸山マネージャ)
ひとつのブランドが毎日のように顧客のマインドシェアを取るのは不可能に近いが、Instagramならブランドの認知度に関係なく、自然と利用者にブランドを発見してもらえるというわけだ。
サステナブルな売り上げ作りに貢献
実際に、Instagramの発見型コマースにより、ブランド側にはどれくらいの変化が生まれているのか。3社の事例をもとに紐解いていく。
1社目は、複数ブランドを展開するアパレルメーカーのHACHITENだ。
2020年6月、コロナ禍で実店舗の営業を終了し、オンラインのみのビジネスに移行した同社。
自社のオンラインショップに誘導すべく、Instagram内のコンテンツの充実化を図った結果、現在はオンラインショップを訪れるユーザーの4割が、Instagramからの流入になっているという。
2社目は家具メーカーのsongdream。コロナ禍で実店舗に来てもらうのも難しい上に、家具は大型かつ検討期間も長い商材。
そこで、各店舗にどんな家具があるのかを詳細に伝えるコレクションの作成など、Instagramの運用を工夫した結果、Instagramから自社サイトへの誘導が昨年比3.4倍に増加した。
しかも、Instagramと自社サイトで事前に商品情報を調べて、比較検討した上で店舗に訪問する顧客が増大し、スタッフが電話やメール対応に追われず、顧客対応に集中することができ、良い効果が生まれているそうだ。
最後は、アパレルブランドのwho’s who Chico。2021年2月からInstagramのショップ機能を活用し始め、翌月には自社ECサイトへの流入数が前年比131%に。
さらに、ライブ配信で紹介した商品の予約数が、過去最も予約された商品と比べて、206%だったというから驚きだ。
このように、今までなら良い立地に実店舗を持ち、高額な広告費をかけて認知を図る必要があったのが、Instagramなら小さく始めて徐々に輪を大きくしていけるのだ。
つまり、発見型コマースなら、巨額な投資を必要とせず、サステナブルな売り上げを作れると言える。
利用者の85%がInstagramを多面的に使用
では、これからInstagramで商品を販売したい、もしくはアカウントはあるものの生かしきれてない企業は、何から始めたらいいのか。
「Instagram利用者の85%が、フィード投稿やストーリーズ、短尺動画、ショッピングタブ、ライブ配信などさまざまなコンテンツ、機能を利用しています。商品ごとに何が適しているかは異なるので、まずはプロフィールを充実させた上で、できるところからスタートし、利用者の反応を見るのが良いと思います」(丸山マネージャ)
利用者は、フィード投稿やストーリーズを見て「自分好みのブランドだ」と思うと、プロフィール画面に遷移して商品サイトに行くなど、深掘りする傾向にある。
そのとき、プロフィールに何も書かれていないと、機会損失につながってしまうので注意が必要だ。
「コロナ禍でより一層、Instagramで商品を理解してもらうためのコンテンツや、ライブ配信に挑戦する企業が増えています。ここでとても大切なのが、商品それぞれにタグをつけること。商品タグがあれば利用者はタグから商品詳細ページに遷移できますが、タグがないとそこからの行動変容は起きづらい。シームレスな購入体験をしてもらうための工夫は必要だと思っています」(丸山マネージャ)
商品タグに加えて、購入者の声も伝えることで、利用者の「好き」や「欲しい」を醸成している。
商品タグで商品詳細ページに誘導し、購入までのスムーズな導線を引くこと。
そして何より、利用者に発見してもらったとき「好き」「欲しい」を醸成できるような、商品の魅力や特徴が伝わるコンテンツを作ること。
これが発見型コマースには不可欠な要素と言えそうだ。
購入体験がオフラインからオンラインにシフトし、誰でも低コストで商品を販売できるようになった今、資本力やブランド力に関係なく、どの企業でも潜在的なファンを獲得できる。
そのためにSNS×ECは有効であり、Instagramはそれを具現化できる有力なツールと言えるのだ。
次回は、具体的な活用事例をお届けする。
執筆:田村朋美
撮影:小島マサヒロ
デザイン:月森恭助
編集:木村剛士