2021/12/1

【トップ直撃】クラウド時代を制す、レッドハットとは何者か

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 イノベーションの源泉として、オープンソースへの注目が高まっている。
 この潮流を牽引する企業が、レッドハットだ。IT知識がある方の中には、「Linuxの会社」と認知する方も少なくないかもしれないが、現在のレッドハットのビジネスはOSだけにとどまらない。
 レッドハットは最先端のテクノロジーをいち早く見出し、「オープンソースコミュニティと共に」その技術を磨き上げ、日本市場においても多くの大企業から指名を受ける存在へと成長した。
そして、レッドハット日本法人は今年1月、新しい代表を迎えた。日本マイクロソフトでCOOを務めた岡玄樹氏だ。
 マイクロソフト以前には、リーマン・ブラザーズ、マッキンゼー・アンド・カンパニー米国ニューヨーク支社、ソフトバンク・グループ・インターナショナルのチーフ・グローバル・ストラテジストやアリペイ日本代表などの要職を歴任、グローバルの最新ビジネスを知る人物である。
 岡氏は、レッドハットのどこにポテンシャルを感じ、転身を決めたのか。レッドハットは、これから何を目指すのか。本人を直撃した。

オープンソースが日本変革のカギになる

──2021年1月、レッドハットの日本法人代表に就任されました。なぜ今、レッドハットに?
 「渦中に飛び込め」これが、私のキャリアの意思決定で重視しているスタンスです。
 日本でも長年、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:以下、DX)が叫ばれ、クラウド活用はもはや当たり前になりました。
 ここからのビジネスを左右するのは、クラウドをベースに何を成し遂げるのか。時には痛みも伴うビジネスの変化に耐えうる、自社のカルチャー改革をどう進められるかになる。
 その変革のDNAを持ち、今もっとも“渦中”にある一社が、レッドハットである、と。
 これまでのキャリアを振り返ると、日本とアメリカをほぼ半分ずつ行き来してきました。日本と欧米の間のカルチャーギャップにぶつかり、もどかしさを感じた経験は一度や二度ではありません。
 たとえば、日本の企業は時間をかけてでも完璧なものを作りたいマインドが強い。
 一方、欧米では価値提供できる最小限の形であっても、まずは早々に出すことでフィードバックをもらいながら最終的により良いものを生み出していく企業が目立ちます。
 きっちりとやっているのに損することも少なくない日本のスタイルにモヤモヤを感じながら、「日本全体のカルチャー変革はどうすれば進められるのだろう」と長い間、私自身の人生のテーマとして考え続けてきました。
 マイクロソフトでは、サティア・ナデラが企業文化を一変させた、カルチャー変革のプロセスを学びました。
 そこで得た学びを、これから私自身が実践者として日本全体の変革へとつなげるためには──。そんな時に出会ったのが、レッドハットです。
 優れたアイデアをスピーディーに取り入れ、同時に改善も行っていくオープンソースのコミュニティ文化を、組織論だけでなく、経営や事業戦略にまで深く反映するレッドハットのオープン・オーガニゼーションに触れたとき、この大きなテーマに挑むための道筋が提示された、と光を感じました。
 アイデアの点を線にし、イノベーションを生み出すためには、「みんなの思いをどんどん出してほしい」と言える環境をいかに作れるかが非常に重要になる。
 オープンソースの価値観がベースにあれば、参加することの意義が高まります。その環境づくりをできる可能性がもっとも高い1社が、レッドハットだと確信しています。

レッドハットの「強いビジネス」はなぜ可能か

──オープンソースを支えるカルチャーが、イノベーションの土壌となる話は、前回の記事でもうかがいました。ビジネスの観点で見ると、レッドハットは2003年以降「毎四半期、2桁」という驚異的な成長を続けています。収益性の高いビジネスモデルが、なぜ可能なのでしょうか。
 まず、レッドハットを長年支えてきた法人向けLinuxディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux(以下、RHEL)」が、現在も2桁成長を続けています。
Analyst and company estimates. Not to be construed as company guideline. Currency in U.S. dollars.
 RHELは、オープンな場で開発されたため、新技術を導入する際のOSとして汎用性が高く、かつ、安定性・互換性・セキュリティ・サポートという企業が活用する際に絶対に必要なポイントをフルカバーしており利用が加速しています。
 たとえば「通信業界で5G対応の基地局を増やす」といった際の活用や、デジタル庁創設を起点により加速する国内全体のデジタル化の潮流においてもニーズが舞い込んでくる。
 この高い成長率を誇るビジネスが根幹を占めていることは、レッドハットの強さの一部です。
 加えて、レッドハットにはこれから売り上げが加速する可能性を持ったポートフォリオがあります。
 一つは、コンテナプラットフォーム「Red Hat OpenShift(以下、OpenShift)」です。
 コンテナ技術は、OS上に作成した空間(コンテナ)ごとに、異なるシステム環境を実現するというもの。この技術の導入により、1つのサーバーに複数のシステムがあるように利用することができます。
コンテナプラットフォームは、これまでのアプリケーション開発やシステム運用に伴う繰り返し作業を自動化することで、開発からリリースまでのサイクルを短縮化。また、標準化された実装により誰もが安定したサービスを提供できることで、システム運用全体のトータルコスト削減を実現する。
 いまやどの業界も、ITサービスの拡充が必須です。たとえば、我々の大きなクライアントの一角であるメガバンクでも、自社内でのアプリケーション開発ニーズが増大しています。
 今までのように、ベンダーへ外注し、数か月経って完成し、フィードバックをしてまた直す……というスピード感では、もはや勝負になりません。
 そこで、すぐにリリースでき、修正し、エンドユーザーの反応を見てテコ入れするためにはコンテナが欠かせません。
 クラウド利用が常識となった今、オンプレミスだけに固執するお客様は少なく、行き着く先はパブリッククラウド利用とオンプレミスの両輪を管理するハイブリッドクラウドです。
 ベンダーに依存せず、プラットフォームを横断し活用できるコンテナ技術において、グローバルで圧倒的な実績を誇るOpenShiftは強いと自負しています。
 そして、もう一つ、「Red Hat Ansible Automation Platform(以下、Ansible)」と呼ばれるIT自動化プラットフォームも、OpenShiftをしのぐ勢いで伸びている領域です。
「非効率な人の手による作業を減らし、ミスなく安定性を向上させたい」という思いはすべての企業共通のものであり、これまで多くの企業が自動化に取り組んできた。しかし、その効果は局所的であり、大きな効果に結びついてはいません。
 Ansibleであれば、ITインフラ全体の業務プロセスを通した効率化が可能です。お客様によっては、インフラ人件費の5割削減や、9割のコスト削減といった大きな効果を出しています。
 サーバーやネットワークなどあらゆる環境を自動化することは、もはや事業成長の前提。今後は、もう一歩踏み込んで人の作業を大きく減らす「自律化」の推進も視野に入れています。
 OSの安定基盤の上に、コンテナと自動化がある。
 これからの我々の課題は、この領域をどこまで伸ばせるかという点につきます。
 どう営業体制を組み、マーケティング施策を打ち、テクニカルセールスの人たちをどれだけ総動員できるか。
 この領域は、私が得意としてきたこと。2桁成長が当たり前という環境で、どんなチャレンジを仕掛けられるのか。
 この15年ほどの変化を見ていると、オープンソースがイノベーションの源泉である、という認識はかなり広がってきたと思います。
 グローバルの潮流においても、たとえばフィンテック企業ではなく、従来の金融業を営んできた東南アジアの銀行の中から「自分たちは金融機関ではなくテクノロジーカンパニーだ」と言うところも出始めた。
 彼らは社内に開発部隊を作り、オープンソースを活用してコンテナ技術の導入もどんどん進めています。
 こうした動きが日本企業にどれだけ浸透するかが、これからの勝負でしょう。
 まずはオープンソースを活用してみよう、という期待にどれだけ応えられるかが、我々の重要な仕事の一つです。

アイデアを共に具現化していく

──オープンソースの活用をレッドハットと一緒にやることの意味、レッドハットが提供できる価値はどこにありますか。
 我々のビジネスは売り切りではありません。パッケージ製品のように、作り込まれた完成品をダウンロードして活用するというものではない。
 レッドハットの製品はデジタルサービスを作るためのソフトウェアプラットフォームを提供します。そのプラットフォームの上で、新しいサービスをどのように具現化するかは、お客様と一緒に活動することが、非常に重要なポイントになります。
 斬新で新しいサービスをうまく作り込むためには、やはり相対する誰かがいないとやりにくい。
 レッドハットにはコンサルティング部隊があり、カスタマーサポートの要素も持っていて、お客様とひざ詰めで会話をしています。
 グローバルのあらゆる業態のお客様と共に変革を進めてきた実績があるので、さまざまなビジネス課題に対し「アイデアから創発を生み出し、ビジネスを変革させる」プロジェクトの進め方を提案できるのです。
「アジャイル開発を用いて、アイデアから価値のあるデジタルサービスを継続的に進化させなければならない」とわかっていても、社内にできる人がいないという企業はまだまだ少なくない。
 そのやり方を解きほぐしてくれる人が伴走することは、多くの企業にとって心強いサポートになると思います。
 2019年にレッドハットはIBMグループとなりましたが、IBM社は長年の付き合いがある伝統的なお客様を多く持っています。
 彼らの「オープンソースを使ってみたいけれど、どう活用すればいいかわからない」という声に対しても、レッドハットのカルチャーや製品の良さを語ってもらいながら協業を進められる点も、事業成長において非常に強みになる。
 高い独立性を保ちながらも、我々はこのような協業をすべてのパートナー企業様と展開していくことができます。
──レッドハットは、世界40カ国以上に展開するグローバル企業でもあります。日本市場への期待は。
 日本は売上規模において相当重きを占めており、この15~20年の間に堅調にビジネスを伸ばしてきた点でも、非常に重視されています。
 ただ、成長はしているものの、オープンソース活用のキードライバーとなるクラウド化に関し数年の後れをとったことは否めません。
 今後、伸びる余地は多分にありますが、そのスピードをいかに上げていけるか。
 これは日本のカルチャーの特徴かもしれませんが、ベンチマークする企業のユースケースをよく求められます。事例との共通項を見出し、「それならうちもできそうだ」と動き出していく。
 そのため、いかに国内でも具体的な先例を作れるかが重要になる。
 右向け右、となる日本の特徴をうまく生かせるよう、現在は大手企業の中で成功事例を作るべく、OpenShiftやAnsibleの活用支援に注力しています。
──“成功”とは、具体的にどんな状態を示すのでしょうか。
 多くの企業が掲げるのがDXですが、目指すべき状態を私は次のように考えています。
 一つが、その組織内で働いている人たちがデジタルツールを使いこなし、デジタライズされていること。
 もう一つが、お客様に対しデジタルを活用した新たなサービスを提供できるようになることです。
 そして、この2点の根本にある重要な要素が、冒頭でもお話しした「社内カルチャーの変革」です。
 つまり、 IT部門とビジネス部門が連携してアジャイル開発に取り組み、アプリケーションの改修スピードが上がり、新規サービス開発にもつながる……といった良い循環が社内で生まれる企業文化への変革を実現すること。
 もちろん、そこまでやり切ることは容易ではありませんが、1社でも多くの企業のカルチャー変革を叶えるべく、私はレッドハットにやってきました。

売ることが、レッドハットの仕事ではない

──レッドハットの製品を使っていただくだけでなく、その先の企業のカルチャー変革にも挑む、と。
 はい。大きなチャレンジを掲げましたが、レッドハットが大切にしているカルチャーを広げ、お客様の社内カルチャーにも影響を与えていく必要があります。
 そして、挑戦のためにはもっと仲間が必要です。
 なかでも、営業とエンジニアリングの両輪を理解するテクニカルセールスの方を求めています。
 スキルセットも大切ですが、なによりもレッドハットの特徴であるオープンカルチャーに共感いただける方に来てほしい。
 オープンソースコミュニティの土台が整っている環境で、自分たちも変わりながら、お客様のカルチャー変革を手掛けられる今のレッドハットには学びのチャンスが多いと思います。
 我々は、クラウドベンダーではありません。しかし、“クラウドカンパニー”として世界的に認知されている。
 私たちがやっているのは、クラウドを売ることではなく、クラウド上で新サービスを設計するために絶対必要なパーツとして、お客様の中に入っていくことです。
 クラウド前提の社会になったからこそ、クラウドを“売る”のではなく、その上で“何を作るか”が重視される今。
 レッドハットでの仕事が、非常にエキサイティングなことは間違いありません。
 私個人としても、日本で成功できるカルチャー変革とは何かを理解したいし、習得したい。ここからが大きな挑戦です。
 変革の糸口を見出せたら、多くのお客様に影響を及ぼすことができ、社会全体を変えられる可能性もある。まずは一番の体現者として、自社を変えていくことから始めたい。
 カルチャーが変わる、時代が変わる、“渦中”がレッドハットにはある。その挑戦を共に引っ張っていただける方に、ぜひ仲間になってほしいです。