2021/11/19

【田中研之輔✖️麻生要一】組織と個の可能性を最大化する「プロティアン・キャリア」の築き方

AlphaDrive/NewsPicks コンテンツエディター
ギリシャ神話の神、プロテウス。あるときは火に、あるときは水に。獣や人にまで変身したという神の名をとった、「プロティアン・キャリア」というキャリア論をご存知だろうか。
このキャリア論を説くのは、法政大学教授で一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事の、田中 研之輔氏だ。
従業員のプロティアン・キャリアを育める組織かそうでないかによる企業間格差が、5年、10年後には決定的なものになる、と田中氏はいう。
この「プロティアン・キャリア」を題材にしたオンラインセミナーが10月11日に開かれた。登壇したのは田中氏と、企業変革や人材育成、新規事業創出などを手がけるNewsPicks執行役員/AlphaDrive代表取締役社長兼CEOの麻生 要一の2人。
不確実な時代を生き抜くための「プロティアン・キャリア」とはどのようなものか、そして組織内で実践するために必要なことについてお伝えする。

VUCAの時代を生き抜く「プロティアン・キャリア」

今、社会は不確実・複雑・変動する「VUCA」の時代といわれ、先を見通すことが難しくなっている。
そんな時代に求められるのは「柔軟さ」だ。
あらゆる物事に柔軟に対応し、自己実現をしながら変幻自在にキャリアを築いていく――それが、「プロティアン・キャリア」である。
田中氏はプロティアン・キャリアの定義について、次のように話している。
「主体的にキャリアオーナーシップを持って、目の前の課題群に対して何らかのアクションをする人です」
何にでも姿を変えるギリシャ神話の神「プロテウス」に例え、時代や環境に応じて柔軟に姿を変えるのが「プロティアン・キャリア」だ。プロティアン・キャリアに近い概念として「自律型人材」を挙げた。指示待ちではなく、自ら考え能動的に動くことができる人材のことだ。
田中氏は今の時代こそ、自律型人材が必要とされていると話す。
「今どんな時代か、自律型人材時代の幕開けだと私は思っています」
「自律した従業員が増えると、企業は強くなります」
今の社会構造上、キャリアを築く上で3つの山場があるという。
①30代までの「ファーストキャリア形成期」。キャリアの展望を描くのが難しく、悩むタイミングだ。
②「ミドルシニアキャリア形成期」。自分が勤めている会社に依存し、組織の中でキャリアを築いていくことに固執してしまいがちなタイミングだ。
③「ポストオフ後」。主要なポストから外れた人が、モチベーションを保てなくなるタイミング。
全ての従業員がこうした3つの山場を乗り越え、変化する時代の中で柔軟にキャリアを形成していくために、組織はどうすれば良いか。その答えこそが「自律型人材」を育てることだと田中氏は主張している。
「人材開発というフレームから、個人のキャリアに向き合う。これを企業側でやってほしい」
これからの企業は、働くすべての人が「自律型人材」になるためのサポートをすべきだというのが、田中氏の考えだ。

自律型人材は組織でこそ活きる

これまで、多くのビジネスパーソンが「組織の中でどのように昇進していくか?」を考えてキャリアを形成してきた。しかし、プロティアン・キャリアで重視するのは「心理的成功を得られるか?」ということだ。
心理的成功を得るための鍵は「自分らしくあること(アイデンティティ)」と、「変化する環境に適応する力(アダプタビリティ)」の2つ。
自分がやりたい仕事か? 自分の能力を活かせるか? 変化する環境の中で生きるキャリアか?こうしたことを考え、自らキャリアを切り拓いていくのが自律型人材である。
ここで、「自律型人材を育てたところで、組織の力になるのか? 自己実現のために転職してしまうのではないか?」という疑問を持つ人もいるかもしれない。しかし、そんな心配はいらないと田中氏はいう。
「やらされて仕事をするのではなく、自分で意思決定をしながら、自分の人的資本を最大化させる形で、組織のために、あるいは関わりあう人のために働いていける。もちろんそれが自分のためになるということです」
組織を構成するビジネスパーソンの全員が自律型人材になったと仮定しよう。誰もが自分らしくあるために自分の強みと向き合い、強みを活かした仕事をする。そして日々変化する業界の環境や仕事の環境に適応し、成長していく。
結果として、組織全体がより強固なものになっていくというのが田中氏の考えだ。

自律型人材を育てるために必要な2つのこと

田中氏によると、自律型人材を育てていくためのポイントは2つある。
①行動変容
②組織変革
行動変容とは、組織の中でキャリアを築いていくのではなく、自らキャリアを作っていくという意識と行動の変革である。
そのために必要な考え方は前述の通り「アイデンティティ」と「アダプタビリティ」の2つだ。これらを意識しながら仕事に臨み、スキルや経験を積み重ねていくよう、行動変容を促していくことが組織に求められている。
そして2つ目のポイント、組織変革とは、従業員がプロティアン・キャリアを形成できる環境を組織として作っていくことだ。
組織を変えるにあたって大切な軸となるのは、3つの戦略を融合させていくことだという。
田中氏によると、経営戦略事業戦略キャリア戦略の3つを策定し、それを融合させていくことが重要だ。
経営戦略や事業戦略に加え、合わせてキャリア戦略も策定するのが肝だ。その上で、従業員のキャリア形成にブレーキをかけているのは何なのか(キャリアブレーキ)、どうしたら従業員の柔軟なキャリア形成を促進していけるのか(キャリアアクセル)を検討する必要がある。
キャリアを「資本」と捉え、従業員のスキルや人間関係、経験や財産をいかに積み上げていくか。そして組織の中でどのように集積し、活用していくかを考えることで、組織の力が増すのである。
経営や事業と同じように、従業員のキャリアについてしっかりと戦略を立てる。そして、この3つの戦略を結びつけていくことが、組織を強くしていくのだ。
「人事は経営のど真ん中」(田中氏)
では、キャリア戦略を立てる上で何から着手すれば良いのか見ていこう。

組織を変える「理論と対話」

自律型人材を育てる前提として、自律型人材とは何か、プロティアン・キャリアとは何かを従業員ひとりひとりが理解しなくてはいけない。
まずは自律型人材になることで、自分の強みを仕事に生かすことができ、自分が所属する組織も強くなっていくという「理論」を従業員が学ぶ必要がある。そして、プロティアン・キャリア形成の妨げになっているのは何なのか、ひとりひとりのキャリアコンサルティングをしていく「対話」も重要だ。こうした理論と対話を毎日積み重ねていくことによって、自律型人材は少しずつ増えていくのだという。ひとりひとりの従業員の行動が変われば、組織が自律型人材の集合体に変わり、組織の変革につながると田中氏は解いた。
理論の浸透と隅々までの対話を広く、深く、事業戦略や経営戦略と合わせてしっかりとやり切ることが重要だ。それにより、記事の前半で挙げたキャリア形成における3つの山場を乗り越える人材を育てられる。
①「ファーストキャリア形成期」にはプロティアン・キャリア開発の支援を、②「ミドルシニアキャリア形成期」には改めて仕事のやり方、キャリアの築き方を見つめ直すことで再活性化を。③「ポストオフ後」には人生100年時代のキャリア再設計を促すことで、あらゆる世代が自律型人材として働く組織を作ることができる。

新規事業の観点でもわかる自律型人材の必要性

今の時代に自律型人材が必要だと考えているのは、キャリア論の観点からだけではない。数々の企業で新規事業創出を支援してきた麻生も、自律型人材の必要性を感じている1人だ。
麻生は、この不確実な時代に新規事業を起こすことの重要性を語る。
「ヒット商品の寿命がどんどん短くなっている時代です」
かつては同じ業界内でいかに優れた商品やサービスを生み出すかが競争の内容だった。しかし、今では全く別の業界から突然参入してきて、大きな売上を奪っていくケースが増えている。
1970年代はヒット商品のうち50%以上が5年以上利益を上げ続けていたが、2000年代にはヒットが続くのは2年未満が半数以上を占めている。
こうした環境で勝ち残っていける企業に共通するのは、柔軟に業態を変えて時代に適応する力だ。
そんな今の時代に求められる人材は、まさに自律型人材、プロティアン・キャリアを築くことができる人材だという。
「自律型人材に育成していくしかないっていう話なんです。社員ひとりひとりの自律を重要視し、内発的動機に基づいた企業戦略を作っていく必要があるということです」
自律型人材を育てるために、麻生氏は何が必要だと考えているのだろうか。
ニュースと議論で時代を読み解け
自律型人材になるために必要なことはまず日々の「学ぶこと」と「学び方」を変えることであり、明日から取り組むことができるという。
麻生が考える「学び」は、以下の通りだ。
学ぶ内容 過去+今+未来
学び方  世界の変化や最新動向+自社への活かし方
これまでの「学び」は、過去を知ることに焦点を当てたものが多かったが、時代の変化を的確に捉えるため、「今と未来」にもアンテナをはり、知識を入れていくことが必要だ。
麻生は「今と未来」を学ぶ上で大切なポイントを挙げた。
テクノロジー、ビジネスモデル、社会動向の3カテゴリーで世界の変化や最新動向をしっかり捉え、その上で他社事例や自社への活用方法を考えることが、これからの時代に即した学びになる。
今と未来を学ぶ上で良い教材になるのが「ニュース」だ、と麻生は述べた。ニュースで世界の変化や最新動向を学び、どのように仕事に応用できるかを議論することが、時代の流れを読むことができる人材になるための第一歩である。
不確かな時代を読み、そこで何ができるかを考える人材、それこそが自律型人材であり、プロティアン・キャリアを実践していける人材である。
これは組織で取り組んでも良いし、個人で始めることもできる。

誰もが自律型人材になれる

プロティアン・キャリアとは何か、そして自律型人材になるために何から始めれば良いのかがわかったものの、一歩が踏み出せないという人もいるだろう。そんな人に向けて、麻生はこう語る。
「全員、自律型人材になれる」
多くの新規事業開発に携わってきた麻生が、新規事業の現場を見て感じたことだ。現場で働く社員が新規事業に取り組むうちに、時代の流れや自己を見つめて自律型人材になっていくのを目の当たりにしてきたという。
また、田中氏も組織型のキャリアからプロティアン・キャリアに切り替えた自らの経験をもとに、こう話した。
「それぞれのペースで、それぞれのタイミングで、それぞれのライフイベントの中で、じわじわと自律型人材が増えていったらいいと思うし、自律型人材の方がハッピーなんだよね。本当、経験的にそう思う」
自律型人材を志向することで、誰もがプロティアン・キャリアを築くことができる。
自律型人材を増やし、組織、そして社会を変えていこう。
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