2021/11/11

【新習慣】朝の情報収集は、テレビの「30分ながら見」でいい

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 起きて顔を洗い、出勤の支度をする。そして1日の始まりの情報収集は、テレワークで通勤のないビジネスパーソンにとっても、欠かせない日課だろう。

 貴重な朝の情報源として、この10月から新たに登場したのがTBSの『THE TIME,(ザ タイム)』だ。

 総合司会に安住紳一郎アナウンサー、そして金曜司会には俳優の香川照之氏を抜擢。放送前から話題を呼び、2人揃っての初回放送では、Twitterで関連ワードが続々とトレンド入りした。
 コーナーごとに変わるセットに、JNN各局からの列島中継、生演奏ピアノのBGMなど、朝の情報番組としては異例の演出の数々に、TBSの本気度が窺える。

 しかし、チーフプロデューサーを務める高橋務氏谷澤美和氏との両名は、「30分ながら見でいい」と言う。番組づくりに隠された情報発信のプロの工夫と挑戦を聞いた。
INDEX
  • 報道・音楽・バラエティの新ハイブリッド
  • 香川照之さんの「探究心と伝える力」
  • 視聴率だけではない、テレビを超えた接点
  • 多忙な朝ならではの「30分1ターン」

報道・音楽・バラエティの新ハイブリッド

──他局も含め、情報番組は数多くあります。そのなかで、『THE TIME,』ならではの特色はどんなところにあるのでしょうか?
高橋 こんなことを言うとおこがましく聞こえるかもしれませんが……私たちが目指しているのは、“完全無欠の情報番組”なんです。
──完全無欠、ですか。
高橋 実はこのフレーズは、総合司会である安住紳一郎アナウンサーの受け売りでもあります。
 数年前、トーク番組『サワコの朝』に安住がゲスト出演した際に、司会の阿川佐和子さんから「たくさん番組をやっているけど、ゆくゆくはどうしたいの?」といったことを聞かれたんです。彼は「完全無欠の情報番組をやりたい」と。その言葉が頭にずっと残っていました。
 では、完全無欠の情報番組とは何か?
 朝の忙しい時間帯でも気持ちよく見られて、知りたいことが自然と頭に入ってくる。そんな番組ではないかと。
──視聴者の知りたいこととは、具体的に何でしょうか?
高橋 朝の番組に何を求めるかとアンケートをとると、常に上位に挙がるのが「ニュース」と「天気」です。また、どんなトーンが良いかについては「明るくハッピーに」「元気をもらいたい」という回答が多い。
 これらを重ね合わせることで、完全無欠の情報番組に近づけるのではないかと考えています。
 番組コンセプトの「ニッポンの朝がみえる。」にも、文字通り『THE TIME,』を見ておけば、朝の情報が網羅できる。つまり、“地方も含めた日本の朝がすべてわかる”という意味を込めています。
──前番組の『あさチャン!』に比べると、『THE TIME,』はより砕けた雰囲気がありますね。
高橋 私はワイドショーの“ワイド”とは幅広さだと解釈していて、『THE TIME,』もこれまでにない振り幅でやっていきたいと思っています。
 たとえば、朝7時ちょうどのコーナーでは、MCの安住アナウンサーや香川照之さん、番組キャラクターのシマエナガちゃんファミリーが歌って踊ります。
 放送で安住アナも「衝撃の企画です」と言っていましたが、ニュースの超激戦区ともいえる時間帯にこんなことをやる局は他にありません。
 こうした、ある種ぶっ飛んだ発想というのは、ずっと報道や情報畑にいた私だけでは出てこなかったでしょうね。
 そこはもう1人のチーフプロデューサーである谷澤をはじめ、長くバラエティ番組を手掛けてきたスタッフの経験が生きていると思います。
──チーフプロデューサーが報道出身とバラエティ出身の2人体制なんですね。
谷澤 さまざまな要素をミックスさせるという狙いはありますね。
 情報番組なのでニュースも取り扱いますが、セットはどちらかというとバラエティ寄りの、動きのあるスタジオのセットになっています。
 演出にも工夫を凝らしています。スポーツ関連のトピックもそのままストレートニュースとして伝えるのではなく少しひねりを加えることを意識したり、総合演出の竹永典弘が音楽番組の『CDTVライブ!ライブ!』も担当していることから、生ピアノの演出を入れたり。
 報道、スポーツ、音楽、バラエティ……と、大袈裟でなくTBSのあらゆる部署の力を合わせて作っている情報番組です。

香川照之さんの「探究心と伝える力」

──金曜司会を務める俳優の香川照之さんは、キャスター初挑戦です。異例のキャスティングの経緯は?
谷澤 まずTBSで朝の帯番組をやるなら、安住アナが最強のキャスティングだろうと決まりました。ただ、他番組や働き方の兼ね合いで、彼は4日間しか出演できないという話になったのです。
 そこで残りの1日を誰にお願いするかとなったとき、「香川さんしかいない」と個人的には心に決めていました。
 私が担当していた『ぴったんこカン・カン』にも何度もご出演いただきましたが、その度に、人に何かを伝える能力に素晴らしく長けている方だと感じていました。
高橋 生放送の報道・情報番組では、瞬間的に言葉を選んで伝える力が欠かせません。臨機応変に立ち回れることも重要です。香川さんは、それらをパーフェクトに備えている印象がありました。
 月曜から木曜までを安住が担当し、香川さんにバトンを渡すことで、1週間を締めくくる金曜日にスペシャル感が生まれる。そんな期待もありましたね。
谷澤 俳優として確固たる地位を築いている方ですから、正直、生放送の司会に挑戦するには、相当な覚悟が必要だったようです。実際、ご本人もかなり悩まれた末にお引き受けくださったと伺っています。
 ただ、やると覚悟を決めたら、100%の努力を惜しまないのが香川さん。ご自身が出演しない日でも朝5時にスタジオへ入り、放送中に安住がどんな動きをしているかを研究されていました。
 その勤勉さには頭が下がりますし、常に挑戦し続ける姿勢は、本当にすごいと思います。安住とはまた違う楽しさを、視聴者の方々に届けてくれています。

視聴率だけではない、テレビを超えた接点

──最近はSNSがメディアの役割を果たしているところもあります。新たな情報発信・収集ツールの登場で、テレビの情報番組のあり方はどのように変わっていくでしょうか?
高橋 発信のスピード感は、SNSに分があります。これまでのように初報で勝つのはどんどん難しくなっている。それでも我々なりの戦い方をすれば、十分に勝ち筋はあると思っています。
 まずは、やはり見せ方や伝え方。情報を右から左へただ流すのではなく、VTRや中継やフリップなどから最も的確な手法を選び、“テレビ的な付加価値”をつけて、信頼できる情報を伝えることです。
 誰にでも見やすく、安心して楽しめる編集や演出は、テレビの得意とするところですね。
 もう1つは、足で稼ぐ独自の一次情報です。
『THE TIME,』ではJNN各局とも連携し、全国各地で常時50カ所以上のライブカメラを稼働させ、“今起こっていること”の映像化をかなり強化しています。
背後の大画面モニタには、各地の今朝の様子が並ぶ。
 TBS単体でも毎朝2班が外に出て、何かあればすぐに現場へ急行し、いち早く映像付きのニュースとして伝えられるようにしているんです。
 マスメディアが社会に与えるインパクトはまだまだ大きい。同じ情報でもテレビが流すこと自体が付加価値にもなるので、うまくハマれば、SNS時代でも大きな武器になるはずです。
──速報性という部分でも、決して諦めていない、と。
高橋 少なくとも、マスメディアのなかではどこよりも早く現場に駆け付けたいと思っています。先日も、南武線が止まっているという情報が入り、ちょうど横浜にいたカメラを回すか検討しました。
 速報で「南武線が止まっています」と伝えるだけでなく、現地映像も届けることで生まれるライブ感を大切にしたいですね。
速報が入った際や中継先でのハプニングなどに応じて、放送中も常に臨機応変な進行が求められる。
 また、逆にSNSを活用して、ニュースに対する視聴者の意見や体験談を放送中にフィードバックする取り組みも始めています。
 昔は一部をFAXが担っていましたが、今はデジタルツールで、視聴者とのつながりを強めています。
──確かに、番組のTwitterアカウントは放送開始直後に1万人以上のフォロワーがつき、活発に運用されている印象です(※11月現在、2.5万超)
高橋 番組内にデジタル班というSNSのチームを立ち上げ、興味のある若いスタッフを専属で配置しています。これも、TBSの朝の番組としては初の試みですね。
谷澤 まさに今、SNSを使ったいろいろな施策を試しているところですね。
 たとえば、LINEの番組アカウントでは毎日アンケートをとっています。20項目くらいのニュースのなかで、興味があるものとその理由を送ってもらい、番組づくりに生かしています。
 かなりしっかりと意見を書いてくださるので、番組と視聴者の方がつながっている実感が持てています。
──SNSを通じて番組のファンが増える?
高橋 そう思います。我々はどうしても視聴率に縛られがちですが、今はSNSなどを通じてつながりを強く、広くしていくことも大事です。
 10年ほど前、研修でアメリカのカンザスシティにあるローカルテレビ局を見学しに行った際、壁に数字が貼ってありました。てっきり視聴率かと思ったら、「ソーシャルメディアで(視聴者と)つながっている数」だったんです。
 アメリカではその時からすでに、視聴率だけではない指標で価値を測る考え方が生まれつつあったわけです。それから10年が経ち、ようやく日本も追いついてきたように感じますね。
谷澤 よく言われることですが、若い人はテレビを見なくなっています。私の子どもたちも、スマホでYouTubeは見ても、テレビ番組にはあまり興味を示してくれません。
 そういう子たちに「テレビはおもしろい」と思ってもらえるような番組を作るのはもちろん、SNSなどで接点を作り続ける努力も必要です。
高橋 私の高校生と大学生の子どもたちも同じです。ただ、朝の時間帯はまだ彼らとの接点を作れる可能性があると考えています。
 歯磨きしたり着替えたり、朝の支度をしながらのんびりスマホをいじることはできませんからね。朝だからこそ、つけっぱなしで“ながら見”ができるテレビに分がある。『THE TIME,』がテレビの価値を見直すきっかけになったら嬉しいですね。

多忙な朝ならではの「30分1ターン」

──忙しい朝の時間帯に、番組に目を向けてもらうための工夫はありますか?
谷澤 『THE TIME,』は140分の番組ですが、30分が一区切りです。そこにニュース、事件・事故、スポーツ、エンタメ、天気をコンパクトにまとめ、今朝の情報が網羅できる構成です。
 その30分1ターンを繰り返すなかで、新しい情報が入れば随時アップデートしていきます。ちなみに区切りごとに、シマエナガちゃんファミリーが登場します。
高橋 朝起きて出かけるまでの平均在宅時間が30分といわれています。その限られた時間のなかで、いかにテンポよく、気持ちよく情報を届けられるかを意識しています。
谷澤 私自身もこれまでは、子どものお弁当を作りながら朝の番組から情報を拾う、いち視聴者でした。
 忙しいなかでどんなニュースに手が止まり、心動かされていたか。その時の自分自身の感覚を思い出し、情報の取捨選択や伝え方に生かしています。
──ちなみに、NewsPicksユーザーのようなビジネスパーソンに特にオススメの時間帯はありますか?
高橋 一番見ていただきたいのは、6時半から7時までの30分ですね。
 これだけは押さえておきたいニュースが5〜6項目あり、エンタメやカルチャー情報、天気予報、JNN各局アナウンサーによる中継企画へと続く盛りだくさんの30分になっています。
 まさに「ニッポンの朝がみえる。」という番組のコンセプトが凝縮されていると思いますので、ぜひご覧いただきたいですね。