[ベルリン 26日 ロイター] - 世界の大手自動車メーカー各社は、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に沿った二酸化炭素(CO2)排出量削減を基本理念に据えるべきだ、という主張に異論は持っていない。

しかし、各社が掲げる削減目標は、協定で必要とされる規模になお遠く及ばないのが実態だ。もっともその責任は、メーカーだけにあるとは言い切れない面もある。

自動車メーカーは何が何でも排出実質ゼロ化を計画すべきだ、との意見もある。だが、メーカー側は、電気自動車(EV)に移行できるかどうかは、自社が直接関与できない条件に左右されると訴えている。

ボストン・コンサルティングが先に公表したリポートの中で、気候変動目標の達成には2030年までに新車におけるEVの比率を少なくとも乗用車で90%、トラックで70%に高める必要があると指摘。グリーンピースなど環境保護団体も同じ見解だ。

ところが、主要ブランドのうち、これまでに100%EV化の目標を掲げたのは吉利汽車傘下のボルボ、フォルクスワーゲン(VW)傘下のベントレーなど、ごく一部に過ぎない。ほとんどのブランドは、EV移行の過程で利益が維持できる市場環境が整わなければ、十分な説明責任を負うことはできないとの立場だ。

例えば、ドイツの高級車メーカー、ダイムラーは「市場の状況が許す場合には、全てをEV化できる状況になるだろう」と強調し、2030年の完全EV化の明言を避けている。

ケレニウス最高経営責任者(CEO)はロイターのインタビューで「30年までに100%を達成するのは現実的かと言えば、無理だろう」と述べた。

充電インフラは、自動車産業の排出実質ゼロを阻む数多くの課題の1つ。国際エネルギー機関(IEA)は自動車産業が全世界のCO2排出量の約18%を占めると推定している。

ほかにも化石燃料で走る中古車の一掃、バッテリー生産時の排出量削減、再生可能エネルギーの貯蔵システム構築など、問題が山積みだ。

<少な過ぎて遅過ぎる>

国際クリーン輸送協議会(ICCT)の調査によると、各国政府と自動車メーカーが合意済みのCO2削減策が実施されても、全世界の自動車のCO2排出量は長期的には増加する。増加ペースこそ緩やかになるが、減ることはない。人口の増加や新興国の経済活動の活発化で今後数年間、自動車、バス、トラックの需要が高まるからだ。

欧州では販売に占めるEVの比率が7-9月期に20%に達したが、米国では2%程度にとどまり、中南米や東南アジアなど貧しい地域ではこの比率がさらに低い。

また、自動車メーカーや政府は、急速なEV化で数千人が職を失う恐れがあるという労働組合からの訴えについても対応を迫られている。

BMWの広報担当者は「様々な要因が絡み合っており、当社は現実的な見通しを立てようとしている」と述べた。

<排出削減の取り組み>

自動車からの排出の大部分は製造工程ではなく、電気、ガソリン、ディーゼルなどの燃料から発生する。一方、EVの場合はバッテリーの製造過程も重要な排出源であり、VWの試算によると同社のEV「ID.3」は製造段階の排出量がディーゼル車の約2倍だ。

VWやテスラなどは、屋上ソーラーパネルなど、自動車に電力を供給する住宅用蓄電システムの供給拡大を図っている。だが、公共スペースで電力の調達と供給に誰が責任を持つかという問題は論争の的になっている。

自動車メーカーが公共の充電ステーションに投資したとしても、再生可能エネルギーの貯蔵に関する問題は残り、電力会社は短期的な需要に応じるために石炭や天然ガスに頼らざるを得なくなる恐れもある。最近もこうした要因が絡んで電力市場は混乱した。

欧州自動車工業会など業界団体は再生可能エネルギーを利用した充電インフラへの投資について、官民一体型や国が全額出資する方法で進めるよう政府に求めている。

しかし、環境保護団体の間には、こうした取り組みは公共交通機関への投資と異なり、利益を享受するのが自動車メーカーや自動車所有者に偏るとして、反対する声もある。

2030年以降に化石燃料車が走り続けるのも問題だ。自動車産業のCO2排出量が、パリ協定順守に必要な量を大幅に上回る要因となるだろう。

ボストン・コンサルティングは、35年までに販売する新車の半分を排出実質ゼロ車にするというBMWやゼネラル・モーターズ(GM)、日産自動車の目標について、目標が実現したとしても、実際に走行している車では化石燃料車が約7割を占めると見込んでいる。

(Victoria Waldersee記者)