2021/11/8

【最新】屋外広告も「狙い撃ち」できる時代がやってきた

NewsPicks Brand Design Editor
 世界最古の広告とも呼ばれる「OOH(Out of Home)」に、パラダイムチェンジが起こっている。
 OOHとは、交通広告や屋外広告、商業施設の広告など、家庭以外の場所で接触する広告媒体のこと。
 これまで、通行人数の概算やSNSの盛り上がりなど、あいまいな指標で広告効果が測られてきたOOHだが、テクノロジーの発達によって、その価値や効果が精緻に計測・検証できるメディアへと進化しつつあるのだ。
  広告業界の「最後のブルーオーシャン」とも呼ばれるOOHの最先端で、今何が起きているのか。
  2019年に、日本初のインプレッション(視認者数)に基づくデジタルOOHの販売プラットフォームを立ち上げた、LIVE BOARD(ライブボード)の現社長・櫻井順氏に話を聞いた。

広告業界、最後の「ブルーオーシャン」

──  広告業界でも急速なデジタルシフトが進むなか、世界的にOOHに注目が集まっていると聞きます。インターネット広告などと比べると、アナログな手法にも感じられますが、なぜでしょうか?
 OOHのなかでも、特にテクノロジーを活用した「デジタルOOH」に注目が集まっています。
 これまでOOHといえば、街の大きな看板や駅のポスターなど、誰が見ているかより、「多くの人が見ていそう」という感覚が優先されていました。
 それが昨今、デジタルサイネージや通信技術の発達により、「いつ、誰が、どれくらいそのOOHを見ているのか」を、正確に把握できるようになったのです。
 さらに、私たちが提供しているプラットフォーム(LIVE BOARD マーケットプレイス)では、施策の効果検証や特定の人にメッセージを届けるターゲティング広告の配信などもできます。
 OOHとは「Out of Home」という名の通り、家の外のあらゆるコンタクトポイントすべてを指します。
 屋外看板や駅のポスターだけでなく、タクシーサイネージや街で配られるティッシュ、学食のトレーも、みんなOOHです。
 そのなかで、デジタルOOHには、デジタルサイネージや電車で流れるビジョン、加えて、中国などで話題を呼んでいる空中ドローンなども該当します。
 また、私たちが取り組んでいるOOHの自動取引システム「プログラマティックDOOH」は、デジタルOOHをさらに発展させた仕組みで、特に世界中で注目が集まっています。
 広告費の成長率では、デジタル広告(ウェブ広告や動画視聴サイトの広告など)の次にデジタルOOHが高いというデータもあるほどで、アメリカやイギリス、中国などのマーケティング先進国を中心に、大幅な伸びを見せています。
 ですが、こうした世界の潮流とは逆に、日本はデジタルOOHの普及が実は遅れているのです。
── どういうことでしょうか?
 広告費全体におけるデジタルOOHのシェアが、他国と比べて低く、またデジタルOOHを運用するためのテクノロジーも、十分に整っていなかったという現状があります。
 デジタル化が進み始めたときの技術レベルや通信環境、デジタルサイネージや交通環境などを考慮した結果、それぞれの統合が難しく、また広告ネットワークという概念もまだ浸透していなかったため、運用体制が細分化していたのです。
 それは、なぜか。要因はいくつかありますが、一番は業界構造だと言われています。
 デジタルOOH、特に、プログラマティックDOOHの高度な運用には、ユーザーやメディアの情報を管理するための、巨大なデータインフラが必要になります。
 一方で、日本にはOOHを運営する会社(媒体社)が非常に多い。交通広告を取り扱う鉄道会社は全国で数十社ありますし、看板を扱う媒体社もすべて合わせると星の数です。
 なので、これらの企業が手を取り合って、OOHの配信インフラを整えるのは、現実的に難しかったのです。
 この数年、サイネージ広告なども増えてきましたが、それでも日本ではOOHは効果が正確に測れない、「マス向け広告」に分類されてきました。
 反対に、たとえばイギリスのOOHは上位3〜4社で市場シェアのほとんどを占めているため、デジタルOOHの仕組みも整えやすかったという背景があります。
 結果的に、イギリスではOOHの売り上げの半分以上がデジタルOOHだと言われるほど、急速に市場シェアを伸ばしているのです。
iStock:Marcus Lindstrom
 私自身、これまで長く海外で働いていたので、日本に帰ってきてこのギャップを強く感じていましたし、日本の広告業界でも「OOHは最後の『ブルーオーシャン』だ」とささやかれていました。
 ポテンシャルはあれども、手を付けるのが難しかったのが、このOOH領域だったわけです。

世界でも珍しいモバイルを活用したデジタルOOH

── そんな日本において、LIVE BOARDは日本初のインプレッションに基づくデジタルOOHの配信プラットフォームとして設立しました。配信基盤を整えるのは難しいと言われるなかで、なぜ実現できたのでしょうか?
 LIVE BOARDは、2019年に設立されたNTTドコモと電通のJV(ジョイント・ベンチャー)です。
 NTTドコモが持つ数千万人規模の、ユーザーの許諾を得た携帯端末の位置情報や属性・行動データ等をもとに、自社保有のビジョンと私たちのプラットフォームに提供してくださる媒体社のビジョンを横断してのプランニングを実現しています。
 これにより、広告主や広告会社はプラットフォーム上で、もっとも効果が高いOOH枠を選び、かつ「いつ、誰に、どれくらい見られたか」の結果がデータでわかるようになりました。
 得られた結果をもとに、施策のPDCAも回すこともできます。
※会員基盤人数は、NTTドコモ第1四半期決算より抜粋
── デジタルOOHで「PDCAを回す」とは?
 デジタル広告のように、一つひとつの配信の広告効果を把握し、次の施策にいかすサイクルを作れるようになったということです。
 背景には、LIVE BOARDの3つの特徴があります。それぞれ、①正確なインプレッション数の把握②フレキシブルな広告配信③効果測定です。
まず①インプレッションとは「その広告が何人の目に触れるか」ということ。
 それを、国際基準に則った一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムのメジャメントガイドラインに基づき「視認者数」と定義して計測しています。
 LIVE BOARDでは、ドコモの位置情報等に基づいたデータからビジョンの視認範囲にいると推測される人数を測定し、当社独自の調査モデルと分析で視認者数を算出しています。
 また、屋内ではAIカメラを活用した計測を行い、データとテクノロジーを活用して何人の人が見ているかを推計するモデルを構築しているのです。
iStock:VTT Studio
次に、②フレキシブルな広告配信では、デジタル広告のように、柔軟なデジタルOOHでの配信を可能にします。
 私たちのプラットフォームでは、たとえば20代の女性がどの時間にどのビジョンの前に多くいるか、などの計測を継続的に行っているため、デモグラフィックデータに基づいた配信の設定ができるというわけです。
 ちなみに、ターゲティングが可能なのは、年齢や性別などの属性だけではありません。
 たとえば家を買おうとしている人に対して訴求がしたい場合は、住宅展示場に行った人を位置情報データ等で特定し、その人たちが多くいる場所と時間に合わせた配信をする、といった運用もできます。
LIVE BOARDでは、天気に合わせたOOHの配信も可能。「雨の日に出すのはこの広告」「晴れの日はこっちのクリエイティブのほうが効果が高い」と、複数の広告を出し分けできます、と櫻井氏。
 最後に、③効果測定です。LIVE BOARDのプラットフォームでは、広告に接触した人としていない人で、認知度や興味関心がどう変わるかなどを測る「ブランドリフト調査」が行えます。
 これはアンケートモニターに登録したユーザーのみが対象となりますが、ドコモのメール配信をつかって、広告の効果をより詳しく測定できる「ココリサ※調査」というサービスです。
※ 「ココリサ」は株式会社ドコモ・インサイトマーケティングが主体のサービス。事前許諾を得たスマートフォンユーザーの携帯電話基地局の位置情報をもとにアンケートを依頼し、匿名性を確保した形でのみ、位置情報とアンケート結果を紐づけて分析できます。
 携帯のデータを活用してインプレッションモデルを構築し、プランニングから配信、そして効果検証まで。これらをワンストップで実施できる私たちのサービスは、世界的にも最先端の取り組みという手応えを感じています。
──  広告主のメリットは理解できる一方、個人情報の面で不安を感じるユーザーも多いと思います。この点はいかがでしょうか?
 もちろん、個人情報利用においては、利用者の個人情報が特定されない統計的な情報として最大限の配慮をしています。
 位置情報や行動データ等は、NTTドコモを介してユーザー許諾が取れたものだけを収集しているのに加え、個人が特定されない形に加工した統計データのみをデジタルOOHに活用しています。
 AIカメラのデータも、視認者数のみを取得して映像データはすぐに削除する仕組みです。
 ユーザーも、広告主も安心できる仕組みを整えるのが、プラットフォームとしての役目だと考えています。

デジタルOOHは、「若者」に効くメディア

── LIVE BOARDの設立から約3年。デジタルOOH事業の伸びは順調ですか?
 やはり、2020年はコロナ初期だったこともあり、出稿自体が大きく落ち込んでいました。街中から人がいなくなり、OOHを見る人が減っていたためです。
 ですが、特に2021年は人出がかなり戻って来たので、コロナ禍においても、売り上げは大きく伸長しています。
 この間に起こったある変化が、私たちにとっては追い風になっているのです。
iStock:ASKA
 というのも、街中に出ている人が少なくなったことにより、「インパクトのある屋外広告を出してSNSを盛り上げる」というかつてのOOHのセオリーだけでは通用しなくなった
 そこで、いっそう広告価値が分かり、効果測定と検証ができるデジタルOOHへの注目が集まっているのです。
── むしろ、コロナ禍によってOOHの潮目が変わった、と。
 それから、OOHの「販売プラットフォーム」という形態も、広告主から好評です。
 これまでのOOHといえば、広告会社などを通して看板を持つ媒体社に連絡して、掲載日時を選んで、素材を送って……と、いくつかの手順を踏む必要がありました。
 ですが、私たちのプラットフォームであれば、サイト上で広告予算と配信したいネットワークを入力するだけで、素早くOOHの配信ができる
 なので、全国のビジョンやサイネージに一括で出稿ができるので、大型のプロモーションにご活用いただくことも多いです。
 広告配信ではなくコンテンツ配信の事例ですが、ちょうど9月にも、2.5次元俳優グループのYouTubeチャンネル「ぼくたちのあそびば」と協業し、全国9都市 77カ所のデジタルOOHで一斉に配信する、という施策を実施しました。
 Twitterでの反響も大きくSNSとの親和性の高さも実感しましたね。
 海外からの引き合いも増えていて、イタリアの有名アパレルブランドが日本支社を介さずに、直接、私たちのプラットフォームからデジタルOOHの配信枠を買い付けしてくれた事例もあります。
 これも、プラットフォームで簡単に配信設定ができるからこそ、実現できた施策だと思います。
── 広告主は、デジタルOOHに何を期待しているのでしょう?
 一番大きいのは、「世の中ごと効果」です。生活に身近なところで見てもらえるからこそ、話題になりやすい空気が醸成されます。
 これはOOH全般に当てはまりますが、さらにデジタルOOHであれば、その効果をデータで把握することができる。
 それから、若年層へのアプローチにOOHを活用したいという広告主も多いです。
 あまり知られていないのですが、実はデジタルOOHは「若者に届きやすいメディア」だと調査で分かっています。
デジタルOOHに出稿した過去案件の平均スコア(LIVE BOARD自社調べ)
 若年層はテレビをあまり見ないと言われていますし、スマホでも広告配信をブロックするアプリがあったりと、広告が届きづらくなっている。
 そのなかで、OOHは公共性のある場所に表示され、自然と目に入ってくるのが大きなメリットだと言われています。
── たしかに、街中で面白い広告が流れていたら、つい見てしまいます。
 実はクリエイティブ表現にも、OOHならではの工夫がされています。
 テレビと同じCMを流すこともシステム上は可能なのですが、テレビCMは15秒でより多くの情報を伝えるためにガチャガチャしてみえてしまうケースもある。
 しかしOOHでは、移動中に見上げたときにもはっきり見えるなど、テレビよりもゆっくりと見せるクリエイティブのほうがフィットしています。
 広告主からは「YouTubeと同じ素材で良いよ」と言われることも多いのですが、より効果を出すために「生活者にとって見やすい形にしませんか」と提案することもあります。
 デジタルOOHの特徴はやはりデータ活用にあるので、つい数字ばかりに目がいきますし、テクノロジーで多様な表現やプランニングに挑戦できるのも面白いですが、最後に勝つのはシンプルに「わかりやすさ」
 広告の本質である「知らない人に情報を伝える」という点を念頭に、日々OOH配信の仕組みを整えていますし、テクノロジーの発展とともに進化できるのが、デジタルOOHの特徴だと考えています。

街とともに進化する広告、無限の可能性

── 今後、デジタルOOHはどう発展していくと思いますか?
 冒頭でお話ししたとおり、OOHとは家の外にあるものすべてを指します。
 ですから、デジタルOOHと一口にいっても、デジタルサイネージや屋外ビジョンだけではなく、デジタルと掛け合わされることで、さまざまなものがメディアになる可能性が高い。
 たとえば、ビルがすべてメディアになるかもしれませんし、空飛ぶクルマが新しいメディアにもなり得る。今話題のスマートシティが発展していけば、街がまるごとデジタルOOHになる未来だってありえます。
 というふうに、「5年後、10年後のOOHはどうなるか」と聞かれると、なかなか答えにくいのですが、逆にいえば無限のポテンシャルがあると考えています。
── 街の進化とともに、OOHのあり方も変わっていく、と。
 とはいえ、新たな技術を追いかける以前に、いまあるデータやテクノロジーも100%いかしきれてはいないので(苦笑)、どうすればもっと効果的なデジタルOOHを提供できるのかを議論しているのが正直なところです。
 日々トライアンドエラーを繰り返しているので、2ヶ月前につくった資料から状況が一変している、なんてことも日常茶飯事。
 それくらい、特に、プログラマティックDOOH市場が立ち上がったばかりで、チャレンジの余地が大きい領域なのです。
 私自身、デジタルOOHに可能性を感じてLIVE BOARDに参画しましたが、想像以上に毎日エキサイティングです。
 設立から3年近くが経ちましたが、NTTドコモや電通、および、そのグループ会社からの出向者だけでなく、この領域に興味を持って、若い社員が多く入ってきてくれるのも嬉しいポイントですね。
 彼らのエネルギーとともに、日本のデジタルOOHをもっとメジャーで、もっと面白いものにしていきたいですし、この領域に興味を持ってくださる方がいれば、ぜひ仲間になってほしいですね。