[オスロ 1日 ロイター] - 8日に受賞者が発表される今年のノーベル平和賞は、有力候補にスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさん、ベラルーシの反政権派、スベトラーナ・チハノフスカヤ氏、ロシアの反政権活動家、アレクセイ・ナワリヌイ氏などが挙がっている。

ただ、発表のわずか3週間後に国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の開催を控えていることは、トゥンベリさんにとって追い風だと「ノーベル賞ウォッチャー」は見ている。

世界で最も権威があるとされる政治的栄誉に包まれている同賞では、全く想定外の人物が受賞することも少なくない。だが、ウォッチャーによると、受賞者を選ぶ委員5人が、最も強い関心を抱いていそうな世界的問題に着目するのが、予想にとって最良の道だという。

英北部グラスゴーで11月に開かれるCOP26では、地球温暖化問題が取り上げられるだろう。科学者の話では、今回の会合は、今後10年間の温室効果ガス排出量削減に向けて、拘束力のある目標を設ける最後のチャンスとなる。地球の平均気温の上昇幅を摂氏1.5度以内に抑え、破滅的な事態を回避するという期待をつなぐために極めて重要だ。

トゥンベリさん(18)が選ばれれば、マララ・ユスフザイさんに次いで2番目に若い受賞者となる。

ストックホルム国際平和研究所のダン・スミス所長は「委員会は何かメッセージを発信しようとすることが多い。今回は受賞者の発表から受賞式に挟まれる時期にCOP26が開催される予定で、受賞者選定はCOP26に対して強力なメッセージを送ることになる」と述べた。

委員会が取り上げたいと考える可能性のある、もう1つの大きな課題は民主主義と言論の自由だ。その流れであれば「ジャーナリスト保護委員会」や「国境なき記者団」のような報道の自由を擁護する活動を行っている団体や、亡命中のチハノフスカヤ氏、収監中のナワリヌイ氏など、知名度の高い反体制派が選ばれるかもしれない。

ノルウェー国際平和研究所のウーダル所長は、ジャーナリズムを擁護する団体が受賞すれば「民主的な政治を行うためには、独立した報道やフェイクニュースとの戦いが重要だという幅広い議論に呼応する」と指摘した。

ナワリヌイ氏かチハノフスカヤ氏の受賞ならば、東西冷戦時代を彷彿(ほうふつ)とさせる。当時はアンドレイ・サハロフ氏やアレクサンドル・ソルジェニーツィン氏など、ソ連の著名な反体制派に平和賞や文学賞が授与された。

ブックメーカー(賭け屋)の間では世界保健機関(WHO)や、新型コロナウイルスワクチンの公平な分配を目指すCOVAXも候補に挙がっている。ただ、国連世界食糧計画(WFP)がコロナ禍への対応を理由に昨年の平和賞を受賞しており、今回は受賞の可能性が低いと見られている。

同賞は各国の国会議員が候補者を推薦することができるが、近年はノルウェーの議員が推薦する候補者が受賞する傾向にある。ノルウェー議会はノーベル賞の授賞者を選定する委員会を任命している。

ロイターがノルウェーの議員を対象に実施した調査では、トゥンベリさん、ナワリヌイ氏、チハノフスカヤ氏、WHOが候補に挙がった。

<秘密の金庫>

委員会の審議内容は永遠に秘密とされ、議事録が作成されることもない。しかし、今年の候補者329人の全リストなど関連書類はノルウェーのノーベル研究所の幾つも鍵がかかった、警報装置の付いた場所に保管されており、公開されるのは50年後。

金庫の中には書類のフォルダーが壁に沿って並んでいる。緑色のフォルダーに候補者が、青色のフォルダーに通信文書が収まっている。

これらの資料は、受賞者誕生の過程を知りたい歴史研究者にとって宝の山だ。最近では、冷戦時代に東西間の緊張緩和に尽力したブラント元西ドイツ首相の1971年の受賞に関する資料が公開された。

この資料によると、ブラント氏は欧州連合(EU)の推進者として知られるフランスの政治家ジャン・モネ氏を破っての受賞だった。モネ氏が創設を目指したEUは、その41年後の2012年に平和賞を受賞した。

(Nora Buli記者、Gwladys Fouche記者)