2021/10/7
【結婚≠ゴール】今、おとな世代がパートナーと人生を過ごす意味
NewsPicks Brand Design Editor
2019年、政府は「50歳までに一度も結婚したことがない人の割合」を表す「生涯未婚率」の使用を取りやめ、「50歳時の未婚割合」に統一すると方針を改めた。
非婚化や晩婚化、離婚率の上昇など恋愛・結婚に対する価値観やライフスタイルの多様化が背景にある。
今や、人生100年時代。40代・50代であっても、自らに適したパートナーを求める人はけっして少なくない。
では、40代・50代の「おとな世代」に最適なパートナーシップとは何か。パートナーはどう見つけていけばいいのか。
幸せを科学する「幸福学」の第一人者で、パートナーシップと幸せの関係性を説く慶應義塾大学教授の前野隆司氏と、マッチングアプリ「Pairs(ペアーズ)」を運営するエウレカCMOの中村裕一氏が意見を交わす。
シングルおとな世代の本音「交際相手欲しい」
前野 幸福学の研究者として恋人や夫婦間のパートナーシップを調査していると、人々の恋愛や結婚に対する意識が年々変化していると感じます。
人生100年時代を目前にして、「結婚や恋愛=若い人のもの」という風潮も刷新されつつある。
中高年世代でもライフステージに合ったパートナーを求める声は大きくなっていますね。
中村 私たちエウレカがシングル(独身・交際相手無し)の男女を対象に行ったアンケートでも、40代・50代で「交際相手が欲しい」と答えた人は44%ほど。
20代・30代よりはやや低い数値ですが、全体の約半数が交際に対して意欲的だとわかりました。
アンケート以前は、もしかすると「恋人が欲しくない」のかな、と考えていたので、これは若干のサプライズでしたね。
ですが、そのうち「交際相手を見つける活動をしている」と答えたのは、わずか5%以下。つまり、40代・50代の交際意欲のある人のほとんどは特に行動をしていないことになります。
前野 僕が主宰しているオンラインサロン・ウェルビーイング大学でも、特におとな世代から「結婚したいけど、どう行動すればいいかわからない」とよく聞きます。
40代・50代のメンバーも多く所属する、「婚活部」という部活もあるくらいです。
中村 それくらいの年代になると、同僚や友人の既婚割合も高いし、管理職になって多忙になり、仕事を通じた新しい出会いが減っている可能性も高いですからね。
なぜ行動に移さないのかとインタビューで聞いても、「年齢」と答える方が最も多く、次いで「活動の仕方がわからない」「面倒に感じる」、それから「バツイチだと出会いが少ない」という声もあがりました。
加えて、「わざわざ相手を探す必要はない」と考えている人も少なくありません。
一人で過ごす現状にもまあ満足してるし、自分から動くのは腰が重い、と。
前野 年を重ねれば重ねるほど、その人なりの生活のこだわりや、譲れないポイントは増えていくものです。
一人でいるほうが気楽な面もあるでしょうから、積極的に「出会いを探して、価値観をすりあわせて、交際をして……」というプロセスを、なお億劫に感じるのでしょうね。
中村 先ほどのアンケートでも、40代以上のほうが「交際によって生活の自由さや気楽さを失いたくない」と答える割合が、20代・30代と比べて高くなっています。
若い世代と比べて過去の経験も豊富な場合が多いからこそ、いっそう一歩踏み出しにくいのかもしれません。
最も満足度が高い出会いは「マッチングアプリ」
前野 ただ、冒頭でお話ししたとおり、パートナーシップのあり方自体もかなり多様化してきています。
必ずしも結婚がゴールではなくなってきているし、交際における「こうあるべき」という定説もなくなりはじめている。
生活の自由さを優先したい人にとっても、自分に合ったパートナーを見つけやすくなってきているのではないでしょうか。
中村 まさに、結婚や交際における今までの固定観念が変わってきているタイミングだと感じます。
実際、Pairsが40 代・50代に行ったユーザー調査でも、「結婚だけをゴールとしない相手を見つけたい」と答えた人が全体の24%、4分の1を占めました。
これも、自身のライフスタイルがより確立している、おとな世代ならではの特徴でしょうね。
「結婚はしないけれど、一緒に時間を過ごしたい」「別居婚で、自分たちのペースを保ちながら会いたい」など、互いのライフスタイルに合った相手を見つけて退会するPairsユーザーも多いと聞きます。
前野 幸福学では、他者に「自分はこういう人間です」と提示する「自己開示」が重要だと言われています。
パートナーシップに限らず、職場や友人関係も含め、まずは自分を理解してもらうことが幸せへの近道なのです。
その意味で、プロフィールで自分の性格や趣味嗜好を事前に伝えられるマッチングアプリは、お互いの価値観のすり合わせがスムーズに進むのでしょう。
中村 そこはかなり意識しているポイントです。
Pairsのプロフィールでは、職業や居住地といった基本情報に加え、性格や交際・結婚に関する考えまで、かなり詳細に書けるようにしています。
「結婚はしたいけれど、結婚式はしたくない」のような、対面の出会いだと切り出しにくい希望も会う前に伝えられるので、相互理解のスピードははやいのかな、と。
同じ理由で、共通の趣味や価値観で繋がれるコミュニティ機能も好評です。
前野 まったく知らない相手なぶん、昔からの知り合いや、職場の同僚なんかと比べると、しがらみなくフラットに自己開示ができそうです。
もともとの距離感が近いと、逆にいまさら自己開示するのも、と思い切りがつかない場合も多いでしょう。
そういえば、以前「見合い結婚は恋愛結婚より離婚率が低い」というデータがありました。
マッチングアプリと同じように、0から相手と関係性を築くなかで価値観をすり合わせられるという理由が大きいのかもしれません。
中村 エウレカが中央大学の山田昌弘教授と行った調査でも、「マッチングアプリを介して出会った夫婦は、最も結婚満足度が高い」という結果が出ています。
この調査自体は夫婦が対象でしたが、結婚以外のパートナーシップでも、「他の出会い方よりも、価値観のすり合わせを自分のペースで進められる」という声はよくいただきます。
「恋は盲目」なんて言葉もありますが、大学時代のサークルや知り合いの紹介など、リアルの出会いほど「勢い」で交際が進むことも少なくありません。
前野先生のおっしゃる通り、マッチングアプリは相手を自分のペースで選定できるので、かつての「お見合い」がそうだったように、満足度が高いのかもしれませんね。
人生の「幸福度」を高める4つの因子
前野 もちろん、恋愛や結婚がすべての時代ではないですから、自分にはパートナーは必要ない、という方もいるでしょう。
しかし、幸福学の見地からお話しすると、実は「孤独な状態は幸福度が低い」とわかってきています。
一人でいるより、信頼できる仲間やパートナーがいたほうが、絶対的な幸福度が高いんですね。
個人差はありますし、一緒にいるのは必ずしも交際相手でなく親友や家族でもいいのですが、一番もったいないのは「本当は寂しいけれど、自分なんかにパートナーはできない」と諦めているパターン。
厳しい言い方になりますが、ここで一歩踏み出せるかどうかが幸せへの分かれ道になると言ってもいいくらいです。
iStock:olaser
中村 その一歩に勇気がいるので、難しいところですよね。ただ、同じような状況でマッチングアプリを選択肢として選んでくださる方は多いです。
「40代後半でバツイチだし、このまま一人で寂しく老後を過ごすんだろうな」と思っていた人が、同僚にすすめられてとりあえずPairsに登録してみたら、入会して数日で自分と同じ趣味を持ったパートナーとマッチして、半年後には結婚に至った、なんてエピソードも。
「大げさかもしれませんが、本当にちょっとした行動で人生が変わりました」と感謝の言葉もいただいたりして、サービスを運営する私たちとしても嬉しかったです。
前野 いい話ですね。そのエピソードは、幸福学で提唱されている「幸せの4因子」を体現していると感じました。
それぞれ、①やってみよう因子(自己実現と成長)、②ありがとう因子(つながりと感謝)、③なんとかなる因子(前向きと楽観)、④ありのままに因子(独立と自分らしさ)と名付けていますが、この4つを意識しながら行動する人ほど幸福度が高い傾向があります。
ありのままの自分をさらけ出しつつ、周囲に感謝を伝えながら、関係性を築いていく。そうした積み重ねができる人ほど、どんどん幸せへと近づくわけです。
もう一つ、研究でわかっているのは、この4因子は1人より2人で実践するほうが効果的だということ。人とのつながりと協働が、幸福度をさらに高めてくれるのです。
何かをやってみようと思うときも、誰かと一緒に進めたり、感情をシェアしながら進めたりしたほうが、より多様なアイデアが浮かんでくる。
デザイン思考でも組織論でも、「創造性は多様性から生まれる」とよく言われます。
「自分と違う」という良い意味での摩擦や葛藤が、新しい気づきや着想を自分に与えてくれるんですね。
そして、それを最も間近で感じさせてくれるのがパートナーなのです。
中村 その意味でも、価値観ややりたいことを共有できる相手を見つけられるのが理想ですね。
自分のそれまでのバックグラウンドを共有しながら、仕事なり人生なりについて語り合い、ともに支え、高め合える存在がいると落ち着くだろうなと。
Pairsのホームページには、Pairsを通して出会ったカップル・夫婦のエピソードが多数掲載されている。
前野 その通りです。そして、長く続いているカップルや夫婦ほど、付き合いたての頃によく見られる「情熱的な感情」から、相手を人間として尊敬し、愛する「人間愛」へのシフトを経ています。
そして、こうしたパートナーとの深い関係は、相手への想像力も鍛えられる分、自分を自然と成長させてくれるものです。
幸福学では「成長する人ほど幸せ」というデータもありますから、2重の意味で幸福度を高められるわけですね。
中村 「寂しさや孤独を満たしたい」という理由でパートナーを探す人は少なくないですが、その先に得られる成長に目を向けると、自然と恋愛やパートナーシップへの向き合い方も変わりそうです。
20代・30代で得られる成長と、40代以上のおとな同士だから得られる成長。両者の違いについて、もっと考えてみたいと思いました。
前野 もちろん、パートナー以外の相手とも成長し合える機会はたくさんあると思います。でも、パートナーという関係は一番身近ゆえに、複雑で難しい。
iStock:obrown
だからこそ一番成長の機会があると言えます。反対に、「一人は楽だ」という考えは、その成長のチャンスを失っているとも言えるのです。
よく、これからは「人の気持ちがわかる『調和型リーダー』の時代だ」と言われますが、調和型と呼ばれる人ほど、人との関わりを通して、深い関係性を築くのが得意なので、人間味があって慕われやすい。
結果、出世のスピードもはやく、リーダーになる人が多い。
さらに、「出世する人ほど幸せ」というデータもあるので、「他者との向き合いが成長と幸せをもたらす」という風潮は、ますます強くなっていくと思いますね。
幸せのチャンスは意外と「すぐそば」にある
中村 これまで約10年Pairsを運営してきて、おかげさまで累計1,000万人以上の方にご利用いただけるサービスに成長しました。
会員数が多いからこそ、その中には今までの人生で交差するはずのなかった人がいますし、中には自分の思わぬ一面に魅力を感じてくれる人、自分のありのままを受け入れてくれる人と出会える可能性もある。
そんな出会いをプロデュースするべく、日々プロフィール分析やAIアルゴリズムによるレコメンドの精度を高めています。
Pairsのアプリの様子。
これからも、自分の生活や考えなど、これまで培ってきた自分の意思を全て開示した上で、尊重し合いながら、時を共に過ごせるパートナーとの出会いを提供していきたいですね。
前野 自己開示の話にも通じますが、ありのままでいることってやっぱりストレスがないし、幸せです。
もちろん、自分の個性があるのは素晴らしいこと。ですが、そこに固執しすぎないでほしいな、とも思いますね。
「私のライフスタイルはこれだ」「自分に合う人はこんな人だ」と縛られず、違いを認めて、ぜひいろんなタイプの方と会ってみてほしいです。
本当に思いがけないところに、幸せになるためのチャンスは転がっているものですから。
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今日のテーマは、40代・50代のパートナーシップでしたが、僕が留学していたアメリカなんかはおとな世代の恋愛って当たり前なんですよね。
70代でも、元気にパートナーを探している人はたくさんいます。
一方、日本は「出る杭は打たれる」の文化もあって、これまでは年齢を重ねると恋愛をしにくい側面もありました。
Pairsのような存在によって、世の中の考えも次第に変わっていくんでしょうね。
中村 私たちエウレカが属するMatch Groupにも、「OurTime」という50代以上専用のマッチングアプリがあり、欧米を中心にユーザー数を伸ばしています。
なので、日本でもこうしたおとな世代のマッチングが身近になっていくといいなと思いますね。
これまで累計40万人以上(エウレカ自社調べ。Pairs退会者アンケート結果。2020年12月時点)のカップルがPairsから生まれていく様子を見てきて、ひしひしと「恋愛は人々に喜びを与え、人生を豊かにするもの」だと感じています。
だからこそ、年齢を理由に恋愛やパートナーシップを諦めるのではなく、幸せのための選択肢を自分で選び取れる世界をつくりたい。
人生100年時代と言われる今、40代・50代で将来の可能性を狭めるには、あまりに先が長すぎるからです。
おとな世代にかぎらず、すべての方が自分に合ったパートナーと出会えるよう、エウレカとしてこれからも全力でお手伝いしていきたいですね。
デザイン:小鈴キリカ
編集:高橋智香、樫本倫子