[上海 24日 ロイター] - 中国不動産大手、中国恒大集団の債務危機は、いかにして社会不安をあおることなく経済的な規律を課すべきか、という難題を習近平・国家主席に突きつけている。

来年、中国の国家主席としては初めて3期目(1期5年)を迎える習氏は今、就任以来最大の岐路に立っており、恒大問題の取り扱いは大きな勝負所となる。

恒大の「借金による建設」モデルが実現したのは、政府によるところが大きい。アナリストなどによると、中国では家計資産の40%を不動産が占めており、土地の売却収入に頼る政府は不動産価格が暴落して壊滅的な影響が生じることを恐れ膨張する債務に手を打つことに及び腰だった。

一方、習氏は今年、「共同富裕」の名の下に一連の産業・社会改革を打ち出した。中国は絶え間ない不動産価格の上昇と債務増大を原動力に数十年にわたって猛烈な成長を続けてきたが、行き過ぎた成長はいずれ抑えつける必要があることが明らかになった。

しかし、3050億ドルの債務を抱える恒大の今後を決めるに当たってネックとなるのは、同社と政府の両方に危機を招いた責任があるという現実だ。無秩序に破綻させた場合の影響も懸念される。

オリエント・キャピタル・リサーチのマネジングディレクター、アンドルー・コリエ氏は「恒大問題の原因は、ある程度まで政府にある」と指摘する。

恒大が窮状に追い込まれ資産売却を始めたきっかけは、昨年施行された不動産開発業者の負債制限「三条紅線(三本のレッドライン)」だったという。昨年はコロナ禍の影響を和らげるための金融緩和により不動産販売が急増、開発業者の投機的な建設が行き過ぎる兆しが生じ、当局はあらためて不動産バブルに懸念を強めた。三条紅線はこうした状況を受けて導入された政策だ。

しかし、政府の財政が不動産部門に依存しているだけに、不動産価格を圧迫するような政策を行うことは容易ではない。政府支出の89%(オリエント・キャピタル推計)を占める地方政府は昨年、収入の40%以上を土地の売却で得ており、政府と開発業者の相互依存関係が強まった。

中国の金融制度について複数の著書があるフレーザー・ハウイー氏は「開発業者は政治に左右される経済に手足を縛られているようだ。その結果、健全なビジネスセンスではなく政治の気まぐれや風向きに基づいて投資を行うようになり、数々の誤った意思決定につながっている」と分析している。

ロイターは国務院(内閣)新聞弁公室にファックスでコメントを求めたが、返信は得られていない。

<問題の根源>

シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院の准教授、アルフレッド・ウー氏は、危機の根本原因は1994年の税制改革にさかのぼるとみている。

この改革で中央政府の国庫は強化されたが、地方政府は土地を元手とした資金調達に収入を頼らざるを得なくなった。これを機に不動産価格は上昇し始め、恒大のような開発業者が第3級、第4級の都市で台頭した。

「恒大は地方政府のドル箱だ。同社が破綻すれば、土地を使った資金調達モデルも地方政府も破綻するだろう。中央政府はそれを許さないはずだ」とウー氏は言う。

多額の借金によって土地とプロジェクトを買い漁る恒大のような事業モデルには、何年も前から批判が出ていたが、「ならず者企業」とは程遠い存在だった。

同社会長で大株主の許家印氏は、中央政府や中国共産党との親密な関係を見せつけられる存在になろうと骨を折り、その努力は報われた。恒大の2020年年次報告書には、許氏の実績は「国の模範的働き手」に選ばれ、貧困撲滅運動の担い手や「中国の特色ある社会主義への優秀な功労者」として表彰されたことが記されている。

<香港デモで覚醒>

社会の安定を何より重視する中国政府は、住宅価格の上昇が資産の増大だけでなく深い格差拡大を招いていることを良く分かっている。

中国国外に住むポートフォリオマネジャーの1人は、2019年に香港で起こった政府への抗議活動が中国政府を覚醒させたと語る。この活動の一端は、住宅価格の高騰があおった格差拡大にあった。

習氏は今年、都市居住者のコスト高騰を抑えるため、住宅、教育、医療という「三座大山(3つの大きな山)」について改革を打ち出した。これには、正統な「人民の指導者」であるとの印象を強める狙いもあったとアナリストらは指摘する。

先週、恒大本社前に集まった取引業者や住宅購入者、投資家の姿は、債務不履行によって他の開発業者にも危機が広がった場合、不満の渦が巻き起こりかねないことを示した。UBSの推計によると、リスクの高いポジションを抱えた開発業者は10社あり、その契約総額は1兆8600億元(2879億2000万ドル)と、恒大の約3倍に上る。

ただ、多くのアナリストは、この問題が広範な危機に発展する可能性は小さいとみている。当局は不動産セクター全体を引き締めつつ、個々の問題にその都度対処する道を選ぶことになりそうだという。

北京師範大学の行政大学院を率いるタン・レンウー氏は、恒大を慎重に扱わず破綻させてしまった場合、不満を抱えた住宅所有者や株主が社会不安を引き起こし、融資が焦げ付いて金融リスクを招き、同時に大量の人員解雇が雇用不安に拍車を掛け、民間企業がさらに縮み上がる恐れがあると指摘する。そして「そのことを、政府は分かっている」という。

(Andrew Galbraith記者)