「根源的な欲求が事業を創る」 NewSchool発、新人起業家が目指す“ものづくり”の変革

2021/10/7
最前線で活躍するトップランナーと共に「学ぶ、創る、稼ぐ」の実現を目指すプロジェクト型スクールNewsPicks NewSchool。
去る7月に開催されたNewSchoolAwardでは、学びを事業やコンテンツに変えたNewSchool卒業生たちの中から、一次審査を勝ち残った8名によるピッチコンテストを実施。厳しい最終審査の末、クリエイティブ部門・ビジネス部門それぞれで最優秀賞の受賞者が活躍を称えられた。
今回はビジネス部門で表彰された西岡和彦さん(NewSchool第一期・斎藤祐馬「大企業30代社長創出」 卒業生/SUN METALON 代表取締役CEO)に話を伺った。
西岡さんのビジネスにおいて、NewSchoolや多くの人との出会いはどのような意味を持つのだろうか。

金属部品の地産地消化

──西岡さんはNewSchoolの受講を経て起業されたと伺いました。どのような事業をされているのですか?
西岡 私たちの企業SUN METALONは、「金属部品を地産地消化し全宇宙における人類の可能性を飛躍的に拡張する」というビジョンを掲げています。
当面5年は、急成長している金属3Dプリントの全潜在市場を捕捉するべく、全く新しい着想と原理に基づく、超高能率・超安価の金属3Dプリンタを開発し、全世界に展開します。
従来比で500倍の生産性を実現し、パーツ辺り80%の単価を下げることで、これまでは導入が不可能とされていた業界にも、金属3Dプリントを展開していきます。その次のステップでは、現地の鉱石から金属3Dプリンタの原料になる金属粉末をその場で製造する装置を、全宇宙に展開します。
足元に転がっている鉱石を私たちの装置に入れてもらえれば、思い描いた金属パーツがそのまま具現化されるー。
そんな夢のような装置を、順を追って開発しています。
必要となる原料をその場で採掘し、その場で最終パーツまで製造することから「金属部品の地産地消化」と表現しています。
──それが実現すると、サプライチェーンが成立していない場所でも産業が起こせますね。
そうです。例えば、火星に町をつくるとしましょう。年に1度のロケットによる補給しかできない宇宙でも、私たちの装置とソーラーパネル、それから火星の鉱石を使えば部品を作り出せます。
また、アフリカは鉱石が豊富で太陽光もさんさんと降り注いでいますから、子どもたちのためにアフリカで産業を興すという、私の根源的欲求の実現にもつながってきます。
私たちの技術は、金属部品の地産地消化を可能にし、あらゆる場所に産業を創出し、途上国開発や宇宙開発を通して、人類の可能性を飛躍的に拡張します。全宇宙のものづくりの変革を、当社が先導していきます。

子どもの可能性を引き出す

──壮大な構想ですね。そんな西岡さんの根源的な欲求と、これまでのキャリアについて詳しく教えてください。
私は学生時代にアフリカの孤児院でボランティア活動をしていました。その時の経験から「子どものために人生を使おう」という思いを抱きました。
きっかけは、支援が打ち切られて廃虚となった学校や、支援を受けてきたが自立できないまま大人になっていく子どもたちの姿を目の当たりにしたこと。
彼らに必要なのは、支援ではなく自立する方法です。そのためにはアフリカで産業を興し、彼らが自ら食い扶持を得る手段を提供しなければならないと感じました。
当時はまだ学生で、アフリカでどのように産業を興せるのか、それを自分がどうサポートできるのか、イメージは全くわきませんでした。
その後、大手製鉄メーカーに入社しました。しかし、社会人10年目頃に自分のキャリアについて悩んだ際に転機が訪れました。
転職活動でコンサルティングファームや外資系スタートアップなどからのオファーを受ける中、自分が人生で求めているものは何かを考え抜いた結果、アフリカの子どもの顔が再び脳裏に浮かんできました。そして辿り着いたのが「子どもの可能性を拡げるサポートすること」でした。
ちょうど同時期に、今回の技術を着想し、最初の基礎的な実験検証を、まずはキャンプ場に道具を持ち込んでスタートしました。この技術があれば、アフリカでも産業が興せ、孤児院のこどもたちが自活する道を創造できる、そんなイメージが日に日に沸いてきました。
これは人生をかけるべき技術であり、これをもとに、世界を、宇宙を、子どもたちにとってより夢のある場所に変えていくことが、私の使命だと思いましたね。
子どもたちのポテンシャルを最大限に引き出すために、自分の残りの時間を使っていきます。

根源的な欲求が事業を創る

──そのような素晴らしい事業がNewSchoolの経験を通して生まれたと伺い嬉しく思います。西岡さんがNewSchoolの第1期に斎藤祐馬さんによる「大企業30代社長創出」 を受講した理由を教えてください。
今回立ち上げた事業について、イメージは持ちつつもチャレンジするか悩んでいました。起業についても以前から頭の中にはあったのですが、なかなか踏み切れない状況でした。
そんな時に、日本のスタートアップ・新規事業に最も関わりが深いと言っても過言ではない、斎藤祐馬さんによる『大企業30代社長創出』に出会いました。
事業をともに練り上げることができるということ、また斎藤さんやクラスメートが自分が秘めている突拍子もない話を聞いてくれそうだと感じ、「またとない機会だ」と思い応募しました。
──当時から事業アイデアはあったのですね。
当時は2つの選択肢がありました。1つは今の事業の原型、もう1つは社内でマーケティング部隊をつくり技術と営業の間をつなぐという、ごくありふれた案でした。
実は、齋藤さんのプロジェクト内においても、最初はその後者のありふれた案を提出したことを覚えています。
今回のSUN MTALONの事業の原案はアイデアこそあったものの、自分でもあまりに現実離れしていると感じ提出をためらうものでした。
しかし、提出した後に「ちょっと待てよ」と思いとどまりました。せっかく受講しているのに、その機会を活かしていると言えるのかと自問自答し、その結果「ぶつけてみよう」と再提出しました。
あの時にSUN METALONの原案を提出しなおすという行動を起こしたことで自分の中で気持ちの整理ができ、今の事業に踏み出せたと感じます。
──なるほど。そんな西岡さんが会社から飛び出してご自身で起業しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
まず、受講者は誰もが口にすると思いますが、斎藤さんが「自分自身の根源的な欲求に根付いた事業でなければ、走り続けることができない」とクラスでよく話されていたことです。それが、最も強烈で貴重な体験でした。
私のアイデアは、もともと自分の深い欲求に根差していたため、そこが強みになり得ること、またそれが思いのほか重要なのだと知り、自信を持つことができました。
次に、応援してくれる仲間の存在です。正直、自分の青臭い考えでは、事業としての現実性があまりに薄いと言われるのではないか、と不安もありました。ところが、いざ話してみると斎藤さんだけでなく受講生の誰もが背中を押してくれました。
もし話し終えたときに「それは無理だろう」というムードが漂っていたら、自分の中の炎も消えていたかも知れません。しかし、実際は消火されるどころか、むしろ皆さんが薪をくべてくれました。
受講生たちが、「本気で挑戦したい」という人たちの集まりだからこそ生まれた雰囲気だったと思います。彼らの応援は、本当に大きな励みとなりました。
そしてもう一つがプロジェクト全体のスピード感。自分の中の火を大きくしてもらった勢いそのままに、数週間で計画に落とし込んでいきました。実験結果が何もないのはさすがに恥ずかしかったので、「とりあえず実験しよう」と、キャンプ場にアマゾンで買った道具を持ち込んで、初めての検証実験を駆け込みで行いました。
その後も、プロジェクトで様々な指摘を受けながら一気に形をつくったことで、凄まじい速さで実現の可能性が増していきました。
プロジェクトで教えていただいた事業の作り方は、大企業の社内審査を通る資料の作り方とはアプローチも全く異なり、MBAのような学問とも違っていました。
多少の粗は気にすることなく、とにかくスピード感を持って進める。自分にとってはそのスピードが心地よく、このまま走り続けたい!と感じるものでした。受講以降も走り続けて今に至る、という感じですね。

NewSchoolは同志のプール

──これらの経験が夢の実現に向けての大きな一歩に繋がったわけですね。実際に起業してどうですか?
自分の根源的な欲求に基づいたビジョンに向かって走っていけているため、日々が圧倒的に充実しており、天職だと思います。経営者として従業員やその家族の生活にも責任を持たなければなりませんが、それもモチベーションになっています。
現在は、技術・ビジネスともに、素晴らしい実力・実績を持った人材が参画してくれ、世界最高のチームを形成しています。技術・事業・組織ともに、「全宇宙のものづくりを変革する」ためのステップを着実に歩んでいます。
今後、苦境も訪れると思いますが、根源的欲求に根差した強固な意志と、世界最高のチームをもって、必ずやビジョンを実現します。全宇宙でこどもたちの笑顔を増やすことができると確信しています。アフリカや火星で当社の装置が使われている様子を、一日も早くこの目で見たいですね。
──NewSchool発の起業家として今後の受講生にアドバイスをお願いします。
NewSchoolは求める体験のベクトルが揃った人材のプールです。そこに飛び込めることに大きな意味があると思います。
プロジェクトリーダーの斎藤さんだけでなく受講生たちも応援してくれた理由は、誰もが志を同じくしている集まりだからでしょう。
それゆえに、まずは自分のやりたいことやベクトルを定めることが必要だと感じます。そうすればミスマッチも起こりにくいはず。
受講によって私自身は大きく変わりました。心の中に夢があり、そのためのアイデアもある。それなのに自己表現できずにいました。ところがNewSchoolで初めて心の内を言葉にしたところ、誰もが真剣に受け止めてくれ、応援してくれました。
このような出会いの機会は、本当に貴重だと思います。少なくとも私は「本当はこういうことやりたくて、自分の人生はそのためにあると思う」といった本気の会話が初めてできました。
NewSchoolは自分が心から思っていることを言葉にする、形にするサポートをしてくれます。
自分らしく生きていくきっかけを与えてくれた、かけがえのない場だったと感じます。
(取材:林広恵・上田裕、構成:小谷紘友、写真:鈴木大喜)

斎藤祐馬氏からのコメント

西岡さんから今回の事業アイデアをお伺いした際、中身はまだ粗いものの、大きなビジョンを少年のような眼差しで夢を語る姿に心を打たれたのを覚えています。
そして、事業計画作りをスタートさせてからは、悩みながらも仲間と励まし合い、日増しにビジョンを具体的な事業計画に落とし込んで行く中で、徐々に起業家のオーラを放つようになられて行きました。
マインド、スキル、ネットワークを一気に体得して、起業家としてのスタートダッシュを切るという講座の狙いをまさに体現した成長を遂げられたことをとても頼もしく思います。
西岡さんには時価総額1兆円越えのスタートアップを目指し、30,40代起業家のロールモデルをぜひ創って頂きたいと思います。
心から応援しています。そして、読者の皆様もぜひご支援宜しくお願い致します。
西岡さんの会社「SUN METALON」では、現在、ともに全宇宙のものづくりを変革する人材を募集中です。
詳細はkazuhiko.nishioka@sunmetalon.comまでお問い合わせください。

また、「NewsPicks NewSchool」では、2021年10月23日(土)から「30,40代起業家創出」を開講、第1回では西岡さんもゲスト出演します。詳細はこちらをご確認ください。