【覚悟】元トップ営業マンがコミュニティ運営へ 岡本政和

2021/9/29
岡本 政和(Masakazu Okamoto)
青山商事 総合企画部グループ長・リブランディング推進室室長補佐
1985年4月21日生まれ。大学卒業後、2008年青山商事に新卒入社。「洋服の青山」店舗に配属され、以降営業店でキャリアを積む。8年間店長職を経験。新宿東口店で上席店長として勤務後、2020年人事部へ異動。総合企画部を経て2021年からリブランディング推進室に配属となり、同時に「シン・シゴト服ラボ」商品開発プロジェクトマネージャーに就任。
入社以来、営業として実績を上げ続け、順調に出世コースを歩んでいた岡本政和はあるとき、かつてない大きな挫折を味わうことに...。苦すぎる経験を乗り越え、見えたのは、真っ直ぐ続く出世コースとはまた違う、イバラの道だった。

順調に歩んだ販売員としての出世コース

新卒で青山商事に入社してから、地元大阪の営業店に販売スタッフとして配属されました。当時の店長がとてもユニークな人で、販売を楽しむ方法を教えてくれました。商品の魅力をいかに自分のトークや工夫でお客さまに伝え、商品を選んでいただけるか、頭をひねって考えたアイデアが通じた瞬間が、たまらなくうれしかったです。どんどん販売という仕事に夢中になっていき、販売員のトップになりたいという野心が芽生えました。
2年目、店長代理の試験に合格。「洋服の青山」銀座本店(2021年5月閉店)がオープンしたタイミングで配属となり、そこで3年間修行を積んだあと、杉並の営業店で初めての店長を経験しました。
店長になってからは個人実績より店舗の実績を伸ばそうと目線が変わりました。販売員が売りやすい環境づくりに注力したところ、大きく売上を伸ばせた経験から、店長として自信が持てるように。
その後、新宿東口店に配属され、上席店長に昇格しました。新宿東口店は、販売フロアが5階まである大型店舗で働く販売スタッフの数は30名超と、これまで経験したことのない大きな規模でした。

マネジメントの失敗で「スタッフ総入れ替え」

誰が何をしているかわからない状況で、スタッフとの距離感もうまく掴めず、コミュニケーションがうまくいかない。にも関わらず、自分から積極的に販売スタッフに話しかけることはしませんでした。自分が結果を出すことが、販売員のみんなに認めてもらう唯一の方法だと考えていたんです。これまでうまくいっていたマネジメント方法で、今回もきっとうまくいくと思っていましたね
しかし、それは大きな間違いでした。売上は思うように伸びず、それに伴ってだんだんと店の雰囲気は悪化。気がつけば店舗のスタッフたちと埋められない溝ができていて、立て直し不能なほどにチームは崩壊してしまっていたのです。上司に呼び出され、店の状況を伝えながら、もうこの現状をどうすることもできないと悟りました。
私のマネジメント力不足が原因なのは明らかでしたが、会社は販売スタッフの総入れ替えを実施。マネージャーとして本当に情けなかったです。そのとき働いてくれていたスタッフのみんなに対してあまりに申し訳なくて...。彼らに顔向けできるようになるには、自分が変わるしかないと、自分のマネジメント手法を見直しました。どうすれば新しく入ってくれたスタッフとともに店の雰囲気を改善できるか、必死で考えました。
まず実践したのは、販売スタッフ30人全員との月1回の面談です。面談の中ではスタッフ一人ひとりがこれから洋服の青山でどんなキャリアを築きたいのか丁寧にヒアリングしました。本人から話が出ないときは、普段の接客の様子を見て、「こんなところが得意だと思うから、伸ばしていくのはどうかな?」と提案。自分の考えを一方的に押し付けるのではなく、本人の適性とやる気を引き出すコミュニケーションを意識しました
次第に私の提案を受け、スタッフが自分から積極的に動いてくれるようになりました。それに伴って、店の雰囲気が良くなり、お客さまからのクレーム数が激減。落ち込んでいた店の売り上げはV字回復していきました。なにより、辞めるスタッフが一人も出なかったのが大きな自信になりました。自分が真正面から、ちゃんと向き合えば一緒に働くメンバーに思いは通じ、売上も雰囲気も全ては良い方向に進む。マネジメントの重要性や面白さに気づきました

「店長、会社を変えてきてください」に応えたい

私が所属する営業部門の管理職を目指すキャリアプランの一環として、人事部へ異動しました。
人事部では、人事評価制度の改定、営業店の変革に携わることに。かねてから、人事部を含めた本部は、経営に関わる重要な施策や方針を決定する場であるにもかかわらず、現場の声を吸い取りきれていないのではと感じていました。そこで、自ら別のフロアを訪れ、営業部の社員と意見交換をすることに。人事部が他のフロアを訪れて話をするのは珍しいらしく、営業部の社員からは驚かれましたね。
人事部に移って半年ほど経った頃、営業店の改善案について、部内でプレゼンをする機会がありました。そのプレゼンには熱がこもりました。営業店の販売スタッフ一人ひとりの顔が脳裏をよぎって、彼らのために最高の環境をつくりたいと思ったんです。
その後、当時立ち上がったばかりのリブランディング推進室(略称:リブ室)への異動を打診されました。このまま、店舗のエリア責任者などの営業部門の管理職を進む道と迷いましたが、最終的に人事部へ異動する際に営業店スタッフから言われた「店長、会社を変えてきてください」という言葉がきっかけで腹を括りました。営業の現場を知り尽くした自分が、この会社を変えてやる、と決意を固めた瞬間でしたね。

コミュニティメンバーとの共創が、新しい価値になるに違いない

リブ室は、青山商事が「スーツの青山」から「ビジネスウェアの青山」、さらには「ビジネスの青山」とビジネス軸でのリブランディングを行うことがミッションでした。
リブ室に配属されてすぐ、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」との共創コミュニティ「シン・シゴト服ラボ」がスタートしました。「シン・シゴト服ラボ」は「ビジネスウェア3.0を定義する」というミッションのもと、社外のコミュニティメンバーとともにビジネスパーソンが抱える「不」を解消し、新たな商品やサービスを共創するコミュニティです。すでにコミュニティが始まってから約1年経ち、2つのプロジェクトが発足していました。
そのうちの一つである商品開発プロジェクトは、リモートワーカーが抱える「不」を解消するプロジェクトです。リモートワーク時の快適性を求め、仕事のときに本当に着たいと思える服作りにコミュニティメンバーと一緒に取り組んでいました。そのプロジェクトマネージャーに抜擢されました。コミュニティに関わるなかで、「シン・シゴト服ラボ」は、消費者のリアルな意見が聞け、青山にとっても新しい知見がもらえる素晴らしい取り組みだと感じました。
また、コミュニティメンバーに青山の魅力を伝え、ファンになってもらえれば、青山商事にとって新しい顧客層を広げることにもつながると思いました。現場でお客さまと対峙していた頃から、「洋服の青山」には良い商品がたくさんあるのに、お客さまに届く仕組みがないのはもったいない、なんとかしたいと思っていました。
同じような「モノ」が溢れ、商品の力だけでは差別化しにくくなっている現代、新しい商品やサービスを共創する取り組み自体が、お客さまに興味を持ってもらうフックになるのではないだろうか。かねてから感じていた課題感が、プロジェクトの成功で解消するかもしれないと思ったのです。

社内と「シン・シゴト服ラボ」の橋渡しを

「シン・シゴト服ラボ」商品開発プロジェクトマネージャーに就任してからは、いかに現場をこのプロジェクトに巻き込むかを考えました。青山商事の最前線にいるのは現場のスタッフです。現場を巻き込んでこそ、共創という新しい施策は成功する。そこで、社内勉強会を開催し、このプロジェクトの目的や意義について、営業店のスタッフたちに説明。他にも営業店長が出席する会議を廻るなど、現場とのコンタクトを常にとりつづけました。
営業店のメンバーからも、「今までの青山商事とは違う、良い取り組み」だと反響がありました。とはいえ、まだプロジェクトとして、成功事例もない状態。それでは「今、時間や費用をかけて青山商事がこのプロジェクトをやるのだ」という呼びかけに共感してもらえません。自己満足に終わるのだけは絶対に避けなければと思っています。
現在は、商品開発プロジェクトマネージャーとして、コミュニティメンバーと一緒に生み出した商品の販売成功に向けて取り組んでいます。ここでしっかりと成功事例をつくり、現場に「青山商事が共創コミュニティに取り組むのは価値のあることなのだ」と伝えていきたいです。
隔週で行われる企画会議
「会社のために」というのはもちろんですが、私自身にとっても、このプロジェクトに参加することで大きな刺激を受けています。社外のコミュニティメンバーと意見を交わすことで、視座が高まっていて、青山商事の社員としてだけでなく、一人の人間として成長するチャンスにもなっています。
営業現場の最前線でお客さまと向き合い、ときに大きな挫折も経験しながらここまできた自分だからこそ、現場のスタッフが楽しく働けるよう環境を整えたい。これからも、現場を元気にしていくことで、お客様に持続的に選んでいただける会社づくりに貢献したいですね。
シン・シゴト服ラボでは、今後も「ビジネスウェア3.0を定義する」というミッションに向けて、さまざまなプロジェクトに取り組んで参ります。活動内容は服に留まらず、仕事環境そのものも「装い」と捉え、これからの社会に求められる新しいあり方の探求を続けていきます。
ビジネスウェアについて課題を感じている人はもちろん、日本型の古い慣習に疑問を感じる、仕事のパフォーマンスをもっと向上させたい、などビジネスに関する課題意識をお持ちの方も、ぜひご参加ください。企業や業界の枠を超えた挑戦を、私たちと一緒にはじめてみませんか?
コミュニティについて、さらに詳しく知りたい方はこちらへアクセスください。
編集:山尾 真実子(シン・シゴト服ラボ編集長・青山商事)
共同編集:種石 光(NewsPicks Creations)
執筆:安心院 彩
カメラマン:西田 優太
デザイン:武田 英志(hooop)