2021/9/29

中古品が「クール」と言われる時代がやってきた

NewsPicks Brand Design Editor
 世界的なサステナブル意識の高まりや、フリーマーケットアプリの成長などを背景に「リユース市場」が盛況だ。
 国内の市場規模も右肩上がりで拡大、2022年には3兆円に到達するとされる。
 この二次流通の仕組みとして、新たに注目されるのがオークション運営大手のオークネットが提唱する「サーキュラーコマース(循環型流通)」だ。
 従来の流通とは何が違うのか。売り手・買い手にはどんなメリットがあるのか。
 オークネットCOOの藤崎慎一郎氏と、新産業創出を支援するシニフィアン共同代表の小林賢治氏の対話から、サーキュラーコマースのポテンシャルを探る。(本編読み切り、全2回連載)

注目のビジネス「二次流通」とは何か

小林 リユース(中古)関連の企業が続々と上場し、近年、リユース品を扱うビジネス「二次流通」が国内外で注目を集めています
 新品の状態で消費者に商品を届けるのが「一次流通」。「二次流通」に該当するのは、古着屋や古本屋、フリーマーケットアプリやオークションサイトなどです。
 メーカーや小売企業も、決算資料などで二次流通、つまりはサステナブル領域への意欲を示しています。
藤崎 私たちオークネットも、30年以上にわたって二次流通ビジネスに取り組んできました。
 メイン事業はBtoBオークションプラットフォームの運営。
 1985年に世界初のオンラインによるリアルタイム中古車テレビオークションを立ち上げ、以来モノを売りたい企業と買いたい企業の間に入り、適正な価格で取引するためのマッチングを行っています。
 祖業の中古車に加え、中古バイクやブランド品、中古医療機器などのオークションも手掛けています。
小林 リユース品のオークションと聞くと、CtoCのネットオークションを想像する人が多いですが、オークネットはそれを企業間で実現しているんですね。
藤崎 単にプラットフォームを提供するだけでなく、メーカーや小売業など一次流通者向けに、二次流通への参入支援も行っています。
 私たちは、一次流通と二次流通を組み合わせた循環型流通を「サーキュラーコマース」と呼び、新たなビジネスモデルとして提唱しています。
 一次流通を担うメーカーが、リユース品の回収や再販売にも携わることで、社会的責任を果たすだけでなく、顧客との継続的な接点も得られるのです。
サービス名は、循環型の流通という意味で「Selloop」と名付けました。
 たとえば、携帯電話の下取りサービスが好例です。
 実は大手キャリアなどと協業し、使われなくなったスマートフォンの回収やリファービッシュ(中古機器を整備し、新品に準じる状態に仕上げること)をサポートしています。
小林 以前からリユース領域に注目していましたが、下取りの裏側に御社のような企業が存在しているとは知りませんでした。
 一次流通と二次流通には違う商習慣があるからこそ、アウトソースする企業が多いのでしょうね。
藤崎 おっしゃる通りで、リユース品の買い手を探したり、リファービッシュの段取りを整えたりするのは想像以上に手間がかかります。
 なので、そこをまるっと任せたい、と依頼いただく場合が多いですね。
 昨今は、リユース品にも製造したメーカーの責任が問われる時代になっているので、二次流通に関する相談は年々増えています。

サステナブルの潮流は「投資家」から始まった

小林 昨今のリユース市場の興隆を後押ししているのは、世界的なサステナブル意識の高まりです。
 発端は、2006年に提唱された「PRI(責任投資原則)」という投資家向けのイニシアチブの制定。
 これにより、機関投資家が投資を行う際は、投資先の環境・社会問題・企業統治(ESG)への取り組みを考慮すべきだ、という向きが強くなりました。
世界持続的投資連合(GSIA)によると、2020年の世界のESG投資額は35.3兆ドル(約3900兆円)。前回調査(2018年)比で15%増加した。iStock:Khanchit Khirisutchalual
 ただこれは、投資家がいきなり善人になったから起こった動きではなく、パッシブ投資家(市場の値動きに連動した運用を行う人)の影響が高まる中、長期的な観点でサステナビリティに真摯に向き合うほうが経済合理的だったのだと思います。
 これまでは主に欧州がこの動きを推進してきましたが、米国でもバイデン政権が誕生し、大きく加速。
 サステナブルのムーブメントは直近でさらに伸びています。
藤崎 日本のテレビや新聞でも、「サステナブル」という言葉を見かけない日はほとんどありません。
 35年ほどリユース品を扱ってきた私たちとしては、隔世の感があります。
 といっても、創業当時はSDGsやESGという言葉はもちろんなかったので、「我々のビジネスはサステナブルだ」と定義したのは、最近のことですが(笑)。
オークネットは、創立記念日にあたる6月29日に、「価値あるモノを、地球規模で循環させる~Circulation Engine.」という新たなサステナビリティポリシーの制定を行った。出典:オークネット公式HP
小林 リユースの根幹にある、「限りある資源やモノを大切に使う」という考えは、消費者にも間違いなく広まってきています。
 モノ自体のクオリティが高くなっていて簡単には壊れないですし、「サステナブル消費」や「エシカル消費」など、無駄遣いへの感度が高くなっている。
 直接的にリユースには関係しませんが、新型コロナウイルスの影響もあるでしょう。世界が危機に瀕している今、「世のために何かしたい」という根源的な感情が呼び覚まされているのでは、というのが私の予想です。
藤崎 ミレニアル世代やZ世代と呼ばれる若い世代ほど、その傾向は強いでしょうね。
 アメリカの若者の間では、日本のリユース品が「丁寧に扱われているから状態が良く、サステナブルだ」と流行しているそうです。
 日本でも、若い世代は環境問題などに触れる機会が親世代よりも増えており、リユースへの意識もさらに高まっていくと思います。

「儲からない」二次流通に企業が参入する理由

藤崎 先ほどお話ししたように、メーカーや小売業もサステナブル領域への意欲を示す企業が増えています。
 中古車やスマートフォンなどはこれまでも二次流通が盛んでしたが、近年はアパレルやアウトドア用品など、一次流通がメインだった業界からの引き合いが多いです。
小林 特にアパレルはリユース市場に占める規模が大きいですから、その動向はうなずけますね。
iStock:OlgaPink
藤崎 直近では、30〜50代の女性向けの会員制通販サービス『ベルメゾン』を展開する千趣会さんと、両社による「循環型流通社会の創造」を目的とした協業を発表しました。
 その取り組みの一環として、ベルメゾンの既存会員向けに使わなくなった商品の買い取りを行い、その商品をリユース品として再流通させるサーキュラーコマースを両社で実現していきます。
出典:ベルメゾン 公式サイト
小林 二次流通の専門サービスにアクセスせずとも、サイト内でリユース品の買い取りができるということですね。
 サーキュラーコマースの特徴である、顧客との接点も継続的に増やせそうです。
藤崎 おっしゃる通りで、一回きりの買い物に終わらない、中長期的な関係性の構築を期待されています。
 ユーザーとの接点が増えることで、新たなニーズも見えてくるし、それが既存の一次流通ビジネスのブラッシュアップにもつながる。
 サステナビリティに貢献しつつ、スムーズな顧客体験にも還元できるのがサーキュラーコマースの強みだと捉えています。
小林 昨今注目を浴びているD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)にも近い考え方ですね。
 顧客と接点を綿密に設け、そこで見つかったニーズをすぐにサービスづくりに反映する。
 ベルメゾンのような会員制ビジネスであればなおさら、二次流通を通して得た顧客のデータを、商品のレコメンドや新しいビジネスの構築にいかせそうです。

サーキュラーコマース、拡大の鍵はファンにあり

小林 このように聞いていくと、サーキュラーコマースはユーザーにとっても安心感があるモデルですね。
 私は、とあるアウトドアブランドのファンなのですが、そこは修理などのアフターサポートが非常に手厚いんです。
 だから、仮にそのブランドのサーキュラーコマースであれば、「リユース品でも状態が良いんだろうな」とか「丁寧に送ってくれるんだろうな」と安心して買い物ができる。
 自分が使った商品を中古品として売るとしても、そのブランドならきっと商品を丁重に扱ってくれるだろうし、せっかくならば同じブランドのファンの手に渡ってほしいなと思うものです。
藤崎 まさに、そこがサーキュラーコマースの妙味なんですよ。
「中古だから1円でも安く買いたい」と思う人もいる一方で、ブランドの持つ世界感のなかでリユース品を買いたいというニーズも一定数あります。
 小林さんのおっしゃる「サービスの手厚さ」もそうですし、もっと言えば商品の包み紙や「発送完了」のメール一つとっても、そこにはブランドのカラーが表れます。
ブランドの世界観を体現する」という意味でも、企業がサーキュラーコマースに参入する意味はあるのではないでしょうか。
小林 ビジネスとしても非常にチャンスがあると思います。
 転売が問題になることもありますが、新品の売買でなくとも、「最初に作ったメーカーなり製作者なり、オリジナルの価値を生み出した人に還元したい」という消費者の気持ちも後押しになる気がしますね。
藤崎 私たちはそれを「静脈流通」と呼んでいます。
 新品を顧客に届ける「動脈流通」と同じように、メーカーや小売業者がリユース品をケアし、ブランドロイヤリティの継続につなげられる世界を実現したいと考えているのです。
 静脈と動脈の循環(サーキュレーション)が正常に動くサポートをすることで、よりよいブランドやサービスづくりに貢献できればうれしいですね。
小林 Eコマースの潮流として、Amazonや楽天のような通販サービスの第1世代、次にShopifyやBASEのようなショップ構築の第2世代がありました。
 そして、サステナブル時代に注目されるのは、サーキュラーコマースを「as a Service」として提供する、オークネットのような存在かもしれませんね。
 第3のムーブメントとして、サーキュラーコマースがどう発展していくのか。引き続き、注目したいと思います。