2021/9/11

【内田篤人×林大地】スペイン戦で感じた「差」の大きさ

SportsPicks/NewsPicksSports
日本代表は前進しているのか、否か。東京五輪代表はグループステージで躍進を見せ、決勝トーナメントで失速した。カタールワールドカップに向けた最終予選、ホーム初戦ではオマーンに敗北を喫する。
課題に挙げられるのが「得点力」になる。南野、鎌田、久保、堂安など1.5列目の新戦力が台頭するなかで、生粋のFWの育成は急務だ。
代表をけん引し続ける大迫勇也のライバル争いにその名をあげるのは誰か。
ひとりの候補となるのが、東京五輪代表で名を挙げたストライカーで、今夏シントトロイデンに移籍を果たした林大地である。
「ビースト」とも称される男は、どんなプレイヤーを目指すのか。世界基準を知り、現役引退後は、サッカー番組のMC、サッカー解説、スポーツキャスターそしてアスリートのメンタルの在り方に言及した書籍『ウチダメンタル』(幻冬舎)を刊行し話題となっている内田篤人が迫った。

代表活動を通して感じる「海外に行かなきゃ」

 はじめまして。
内田 はじめましてだよね。
 はい、面と向かっては。
内田 面と向かって?
 ちょっと前に、一緒にオンラインゲームをさせてもらったことがあります。
内田 うそ!?
 はい、(前に所属していた)サガン鳥栖の先輩に誘われて、内田さんたちと一緒にプレイしました。僕はゲームを始めて三日目だったんで、ボッコボコにやられました。
内田 本当に!? 確かに鳥栖のメンバーとゲームしたわ……。
 僕、いました。容赦なかったです(笑)。
内田 はははは。でもゲームね、結構大事だよ。海外に移籍すると、本当に時間が余るから、ストレス解消に。Youtubeとゲームに助けられたね、俺のドイツ生活は(笑)。
 一応、今回ニンテンドーswitchはベルギーに持っていきます(笑)。
内田 そもそも海外志向はいつからあったの?
 なんとなく行けたらいいな、という思いは頭の片隅にありました。ただ、現実としてそういう話はなかったので「鳥栖で頑張ろう」「所属するチームの一員としてやっていこう」と考えていました。
内田 そうなんだ。俺も、若いころ「海外でプレーする」なんて考えたことなかったし、行く気もなかったんだよね。でも、代表戦を経験していくうちに「レベル的に行かなきゃダメなんだな」って思うようになった。追いつかなきゃいけないって感覚かな。そのあたりはどう?
 まさにその感覚です。今回の移籍も代理人から話をもらったタイミングが代表に参加しているタイミングでした。僕自身、東京五輪に向けて気持ちがたかぶっていたし、周りには海外で活躍する選手がいっぱいいました。
そこで聞く話は僕がふだんやっている日常にはないものばかりで、「行こう」と決めました。
──東京五輪の話が出ましたが「解説者・内田篤人」は、林選手をどう見ましたか。
内田 いや良かったよね。お世辞じゃなくて。今回、事前にいろいろな選手に「誰がいい選手だと思う?」ってリサーチをしていたんですけど、「林がいいですよ」っていう選手が多くて。
もちろん、オーバーエイジの三人(吉田麻也・酒井宏樹・遠藤航)や久保(建英)・堂安(律)選手っていう注目度の高い選手たちはいたけど、林選手の声はかなり聞こえていたから。
 うれしいです。
内田 で、実際に見て納得したよね。
俺はサイドバックの選手だったから、基本的に多くの選手を後ろから見てきたんだけど、フォワードの選手があれだけ相手のディフェンスラインを追いかけて、プレスバックして、体を張ってくれたら、前に行こうっていうモチベーションになる。勇気づけられる。前の選手のそういう姿勢ってチーム全体にとってすごく大事なんです。
──林選手はそのあたりをどう考えてプレーされていましたか。
 僕はテクニック的にうまい選手じゃないので、仕事量を増やしてチームに貢献することが必要だなと思っています。ですから内田さんの言った通り、前からチェックしにいくことや、しっかりディフェンスをすることはかなり意識していました。
内田 周りから「海外向きの選手だと思う」とも聞いていたから、確かにそうだな、って思った。点は取れなかったけど、東京五輪代表では欠かせないピースでしたよね。
実際にあの「献身性」って海外ではすごく評価されるんですよ。特にそれを表に出せること。結局、海外でプレーするは「目に留まったもの勝ち」みたいなところはある。
日本では「内に秘めた闘志」みたいなものを美談にするけど、あれは海外ではまったく評価してもらえない。俺が完全にそのタイプで、そこは苦労した。だから、確かに海外向きだよね。
 内田さんに言われること自体がうれしいです。
内田 はははは。さっきから高校生みたいなリアクションでかわいいな(笑)。でも、厳しいことを言えばそこに加えて「得点」のところだよね。
 はい。そこは自覚しています。フォワードは常に点を取らないといけないポジションだと思っているので。
大会を通して、いろいろといいところを言っていただく機会も増えたんですが、自分のなかで「これはできる」と思っていることはまだないんです。一方で、明確に課題は感じていて、それが内田さんの言った結果です。
五輪でもフォワードで一番プレータイムが長かったのに無得点でした。ここについては自分のなかでももやもやしていますし、納得がいっていません。
内田 東京五輪で久保選手や堂安選手が注目されたのは、その前の強化試合もふくめて彼らが点を取っているからだよね。
怒られるかもしれないけど、まだこのふたりだって世界的に見ればそんなスーパーじゃない。いい選手ではあるけど、その上のレベルの選手はいっぱいいます。
だけど、結果を出すとこうやって評価される。ここがね、難しいけども大事なことでもある。いいと思う、そうやって結果にこだわるのは。

「大人と子どもの戦い」だった五輪

――1カ月が経ちましたが、改めてなぜ五輪日本代表はベスト4止まりだったのでしょうか。失速したようにも見えました。
内田 スペイン戦に関して言えば、歴史すら感じましたよね。試合始まって15分で、日本が勝つなら延長に持ち込むかPK戦しかないって思いましたから。だから、俺としては「大人と子どもの戦いのなかで本当によく頑張った」という評価です。
特別持ち上げるつもりはないですけど、その中で、子どもが勝つためには小さなチャンスを逃さない姿勢を持つことなんですね。林選手が前線で頑張る姿勢を持つことで、その希望が持てた。
もしひとつハマってボールを取れれば、とか、ファールをもらってセットプレーでチャンスをつかめれば……って期待が持てる、そういうアクションだったなと思う。]
メキシコ戦は、グループステージで簡単に勝ってしまったことからプランが崩れてしまったのかな、とは思うよね。メキシコは完全に対策をしてきたと思います。ただ、選手的には中二日で六試合はきつい、だからよく頑張ったって本当に思っています。
 スペイン戦は本当に差を感じました。
あの試合、かなり作戦を練って試合に入ったんです。具体的には相手のセンターバック(エリック・ガルシア)にボールを持たせて、僕がもうひとりのセンターバックをマンマークして左に、左にはめて相手の攻撃を限定していく形です。だけど、もうそんなことはまったく関係なかったですね。
狭いところで前を向かれて、バンバン縦パスを入れられる。ハーフタイムになってみんなでいろいろ意見を交換するんですけど、結局まとまらない。勝つしか決勝には行けないから、ってなんとか我慢をしようと踏ん張っていたんですけど……(延長で)一点取られたときは、正直「ああ、ここまでだったか」みたいな感じでした。
僕らの我慢はここまでだったんだな、と。
メキシコ戦については、前半の早い段階でガス欠になっている選手も多かったので、そこも踏ん張り切れなかったな、と思います。
内田 スペインくらいのレベルが相手になると準備してきたことがうまくいかない、というのは当然想定できるんだよね。その次のプランももちろん考えて実行しようとするけど、やっているうちにグラウンドで修正できなくなったりする。
俺もコンフェデレーションズカップでブラジル代表と戦ったときはその感覚があった。何点取られるんだろう?って思ったもん。
──そうした中でこれから林選手も、日本代表も戦っていくことになります。メンタリティの重要性はつねに指摘されますが、このあたりについてもお聞きしたいです。
内田 そもそもさ、最初にメンバーに入ってなかったでしょ。なんでだよ?って思った?(五輪代表メンバーの枠は直前で18名+バックアップメンバーから23名に拡大された。林選手は拡大されたときに選出)
 僕、初めて五輪代表に選ばれたのが今年の3月だったんです。それまでは呼ばれたことがなかった。そこからメンバー発表までずっと呼んでもらったんですけど、その期間で出せるものは出せた、という感覚があったんです。アピールはできた、と思っていたんですね。
だから、バックアップメンバーだよ、って言われたときは「仕方ないな」って気持ちでした。もちろん、悔しさもありましたけど、正直に言うとそれより「仕方がない」という感覚でしたね。
内田 そうなんだ。俺はね、メンタルを上下で捉えていて、それが選手のタイプによって上の人もいれば下の人も、真ん中の人もいる、と思っている。俺は下だった。で、大事なことは、上にあることでも下にあることでもなくて、その振れ幅が小さいこと。
上だったら上で上下し過ぎない。下でも、真ん中でも同じ。勝ってうわーって喜んで、負けてドーンと凹んで、みたいな振れ幅が大きい人はあまり大成しないんじゃないか、って感じていた。そういう本が『ウチダメンタル』なんだけど(笑)。
 先ほどいただきました。読みたかったのでうれしいです。
内田 林選手は見た感じ、やんちゃで野性味があるよね。メンタルはどう考えてる?
 僕は、試合が近づいたら気持ちが高ぶりますけど、ふだんから「上」というわけじゃないと思います。むしろ、日常では極力サッカーのことは考えたくないタイプで(笑)。やらないときはやらない、やるときはやる、という感じですかね。
内田 ミスしたら凹むタイプ?
 いや、凹まないですね。仕方ないって。
内田 タフなんだ。海外で一番大事なのはタフであることだよ。タフじゃなきゃやっていけないんで。
 そうですよね。
──林大地選手のプレースタイルには岡崎慎司さんのようなイメージがありますよね。
内田 わかる。ちゃんとボールを追いかけてくれるし。ただ、今の話を聞いてちょっと違うかな、と思った。岡崎さんは凹むときは凹むから。でも、俺と似ていて「下」で振れ幅が小さいんだよね。だからプレースタイルとかではない部分がメンタリティにはある。
林選手は、がむしゃらにやるよりはきれいにスマートにゴールを決めたり、プレーしたりしたいタイプ?
 どちらかといえば、岡崎さんタイプです。がむしゃらにプレーしたいです。ただ、この人が特別好きなタイプっていうのはまったくないです。
──海外のサッカー選手に憧れはいますか?
 いないですね。目標にする選手とかもないんです。
内田 へぇー。でも確かに俺もあんまりなかったかな……。
──ひとつ内田さんと違うのは「ゴールのような数字の目標を口にしない」内田さんと、林選手は移籍会見で「結果、ゴール数」を明言されていました。ポジションの違いもありますが、このあたりはどうですか。
 そうですね、ポジションがフォワードなのでそういう質問をされることが多いですし、目標がぱっと言いやすいんで、それで言っている感じです。実は数字自体はそんなに意識していません。
内田 メディア用に言っているんだ。なるほど。こうやって考えていることがブレていかなければ、海外ではやっていけると思います。個人的にはもう少し上のチームでもできるんじゃないかな、とは思うんだけど、一回移籍することで海外のマーケットにまず入って、自分の生き残り方を模索していく。どこに行こうが、結局は生き残ればいいんですから。
──ウチダメンタルがありますね。
内田 そうですね(笑)。でもこれは本当で。これから林選手にもいいとき、わるいときが来ると思います。絶対にある。活躍しているときはメディアやサポーターから称賛されるし全然いいんだけど、悪いときにどうできるかですよね。
長谷部(誠)さんですらベンチ外で練習もやらせてもらえないときがあった。俺もそうだし。川島永嗣さんなんて、ひどいときは第12ゴールキーパーくらいだった(笑)。30代で練習生をしたりね。
海外では自分と向き合う時間がたっぷありあるから、孤独と戦えるタフさ、外国人選手たちと毎日運動会をするタフさ、そういうものを身に着けるために振れ幅を小さくできるかは大事だと思っています。頑張ってほしいですよね。
 今日、(海外に行く前に※インタビューは8月の出国前に行われた)内田さんにこの話を聞けて良かったです。これからそれは身に着けていかなきゃだめだな、と思います。さっきも話した通り、今持っているもので勝負できるものはないと思っているので、その危機感をもって頑張ります。
内田 がんばってよー!