2021/9/9

【分岐点】スポーツクライミングは東京五輪を追い風にできるか

スポーツライター
史上初の無観客開催となった東京五輪では、「アーバンスポーツ」と言われる競技が大きな注目を集めた。
スケートボード、BMX、バスケットボールの3x3、そしてスポーツクライミングだ。
もともと公園や路地裏の“遊び”として始まり、欧米では若者を中心に人気を得て、大きなマーケットができている競技もある。
IOC(国際オリンピック委員会)は若者のスポーツ離れやテレビ離れを課題に掲げ、新たなファンを獲得すべく、アーバンスポーツが採用された。
日本はスケートボードで堀米雄斗、西矢椛、四十住さくらが金、開心那が銀、中山楓奈が銅メダルを獲得。スポーツクライミングでは野中生萌が銀、野口啓代が銅メダルを手にした。
スポーツクライミングでメダル獲得を喜ぶ野中生萌(左)、ヤンヤ・ガンブレット(中央)、野口啓代(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
また、出場者同士が敵・味方を超えて称え合う姿や、心から競技を楽しむ姿勢はスポーツマンシップやオリンピズムを象徴するもので、見る者たちを魅了した。

10年間でジム数が約5倍に

同時に話題になったのが、恵まれた競技環境だった。
スケボーのトップ選手の年収は数十億円とも言われ、22歳の堀米は年間「億単位」を稼ぐと報じられる。
BMXの中村輪夢は2020年、世界大会を制して賞金1000万円を獲得。年収は非公表だが、所属契約するウイングアーク1stが約4億円をかけて専用練習場を建設したことも話題になった。
スケボーやBMXのトップ選手が恵まれた環境で競技を続けられるのは、すでに大きなマーケットができ上がっていることが大きい。オリンピックに依存しなくても、業界はエコシステムを回していくことができる。
対して東京五輪を起爆剤にしたいのが、発展途上の競技だ。スポーツクライミングはその一つと言えるだろう。
「スポーツビジネスという意味では、結果がすべてなところがあります。選手の頑張りによって結果がいい方向に向いたので、今後も非常に前向きに進みやすいと感じています」
今年6月の役員更改で選出された、日本山岳・スポーツクライミング協会の丸誠一郎会長はそう話した。
大和証券やクレディスイス証券を経て、ニューベリービジネスコンサルティングを創業した丸誠一郎氏は今年6月から日本山岳・スポーツクライミング協会の会長に(本人提供)
スポーツクライミングのジムは2008年時点で全国に96しかなかったが、2019年時点で476に急増。頭と体を使う競技の面白さは、オリンピック競技に採用されたことが追い風となって一気に広まった。
若者に人気のアーバンスポーツという括られ方をするスポーツクライミングだが、慶應大学山岳部出身の丸会長は必ずしもそう捉えていないという。
「家から道具を持って、すぐにやれるスポーツが“アーバン”だと思います。外の岩場で行うロッククライミングがフリークライミングになり、ボルダリングになりました。それが室内で行うスポーツクライミングになったので、どちらかと言うと郊外から中に入ってきたスポーツです。
そこにスポーツジムが目をつけて、ビジネスとして成り立つようになりました。ボルダリングや一部のリードに関しては“アーバン”と言えるかもしれませんが、全天候型のスポーツとして成長を目指していきたいと考えています」

「公益社団法人の宿命」

2017年4月、「日本山岳協会」は「日本山岳・スポーツクライミング協会」と改称した。2016年8月、スポーツクライミングが東京五輪で採用されることに決まった8カ月後のことだった。
「国際連盟から『競技名と連盟の名前がイコールであったほうがいい』というサジェスチョンがありました」と小野寺斉専務理事が説明したように、オリンピックをきっかけとして業界全体が発展するためには、スポーツクライミングを押し出したほうがいいという判断だった。