2021/8/27

急成長企業の共通点は何か。クラウドファーストな時代の勝ち筋

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 今、ITサービスの提供を考えたとき、アマゾン ウェブ サービス(AWS)などのクラウドコンピューティングサービスの活用が常識となっている。しかし、資金や人材が潤沢ではない創業期のスタートアップでは、この分野に明るいエンジニアが参画しているケースばかりではないだろう。

 クラウドを武器に、最速で事業を成長させるために、スタートアップが押さえておくべきポイントは何か。

 その強力なサポート役として、サーバーワークスが提供するのが、設立10年までの法人限定の「AWS請求代行スタートアッププラン」だ。

 数々のスタートアップでCTOを務めてきた、LayerX代表取締役CTO・松本勇気氏と、AWSの革新性にいち早く着目しサービスを展開してきたサーバーワークス取締役・羽柴孝氏に、クラウド活用の潮流とビジネス成功のためのヒントを聞いた。

クラウドはビジネスをどう変えたのか

──今や当たり前となったクラウド活用。AWSのようなクラウドコンピューティングサービスは、ビジネスにどんな変化をもたらしましたか。
松本 もっとも重要なポイントは、“エラスティック(elastic)”である点です。
 エラスティックとは「伸縮自在で弾力性がある」こと。
 AWSの要であるバーチャルマシンが「Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)」と命名されているように、AWSでは、サイズ変更が自在で、ほしい容量をほしい分だけ使えます。
 必要に応じて実行/停止ができ、使った時間に応じて対価を支払うサービスは、それまでありませんでした。
 これによって、なにが変わったのか。
 たとえば、僕が以前携わっていた「グノシー」はニュースアプリなので、朝夕の通勤時、ランチタイム、就寝前の時間帯に集中して使われます。
 つまり、明確にトラフィック(通信)が伸びる時間帯とそうではないタイミングがありますが、オンプレミスの場合は、トラフィックの最大値に合わせたリソースを常に持ち続ける必要があり、多くのコストが生じます。
 それが、従量制のAWSの登場によって、自分たちの規模やサービスに合わせた出費のみで事業を営むことができるようになった。
 これが、クラウドが起こした一番の革命だと思っています。
羽柴 おっしゃる通りですね。
 私は、食品メーカーからIT業界に来たのですが、その理由の一つが「ITはレバレッジが効く」と思ったからでした。
 しかし、15年前の時点では、IT領域でもまだまだ大きな初期投資が必要だった。サーバーの維持費もかかるし、「設備投資が必要な食品業界と構造があまり変わらないんだな」と思ったものです。
 私が入社した頃の当社の主力事業は、大学の合格発表サービスでした。
 私立大学の受験者数ベースで相応のシェアを持つ事業でしたが、アクセスが集中するのは、1年のうち複数の大学の発表が重なる2月の特定の日だけ。
 サーバーは絶対に落とせないため、その数十分をピークとして設計しますが、サーバーの購入費やデータセンターの維持費が膨大にかかります。
 この問題を解決しようとエンジニアが見つけてきたのが、まだスタートしたばかりのAWSでした。それが2007年頃のことです。
 1時間単位で使えることが衝撃的で、大学の合否システムはすべてAWSに移行しました。
松本  僕は、Gunosy入社以前にも3社でCTOやソフトウェアエンジニアをしていたのですが、スタートアップ視点では、2011年の段階でもうクラウド一択でした。
 スタートアップにとっては、キャッシュフローが命。
「初期コストは抑えつつ、スケールさせたい」状況で、使わないときはリソースを最小にできるサービスの活用以外の選択肢は、現実的ではない。
 自分の給料も出ないような学生スタートアップですから、とにかくコスト優先で、オンプレミスを使う考えは頭の中にありませんでしたね。

アジリティがビジネスの勝敗を分ける

──クラウドは経営のあり方自体にも大きく影響を与えていそうです。
松本 そうですね。この10年で、製品サイクルが非常に短くなっています。
 かつては、大きく初期投資をしながら完成度の高いサービスをじっくり開発し、リリースまで時間をかけることが通常だった。
 しかし、2010年代以降に大きくなった企業はすべて、まずはリリースし、細かく改善を繰り返すなかで正解を見つけていくプロセスで事業を拡大させている。
 それが、アジャイル型開発であり、経営のあり方として“事業環境の変化に対応する素早さや柔軟さ”を示す、「Agility(アジリティ)」というキーワードにつながっているんだと思います。
羽柴 オンプレミスの環境を整えるために初期投資をして、バランスシートを大きくして、というプロセスでは時代の変化に間に合わない。
松本 そうです。お客様のニーズも刻々と変化するなか、何が売れるのか、何がうれしいのかをタイムリーに探らなくちゃいけない。
 そのときに、サーバーを何百台も抱え、大きな資産をコントロールしながらでは、経営の重しです。
 実際、今の社会を見渡せば、身軽に細かく改善を重ねた企業が伸びているのは明白です。過去10年で上場した企業の9割以上はクラウドを使っているでしょう。
 それに、データの冗長性*を考えた際にも、クラウドでその恩恵にあずかったほうが、圧倒的にコストも低く、安全性も高い。AWSはインフラ自体の改善に充てられるコストが、イチ企業とは比較になりませんから。
*システムの一部に障害が発生してもシステム全体の機能を維持し続けられるように、予備装置をバックアップとして配置しておくこと
羽柴 まさにクラウドのメリットは、考慮すべきリスクが減る点でしょう。
 ハードウェアの存在を気にする必要がなくなるので、ハードウェアごと情報を持っていかれるようなリスク等を想定しなくていい。
 開発業務により集中できる点は、とくに人的・資金的リソースが限られたスタートアップにとっては外せないと思います。

使える「頭脳」はすべて使え

──サーバーワークスが今年4月に開始した「AWS請求代行スタートアッププラン」は、まさにスタートアップに特化したサービスですが、利用企業にとってのメリットはなんですか。
羽柴 当社では、2009年からAWS専業ベンダーとして大企業を中心に導入実績を重ねてきました。
 そのエンタープライズ向けの「AWS請求代行サービスアドバンスド」「AWS請求代行サービスディスカウント」を、スタートアップ企業が使いやすいよう再設計したのが「AWS請求代行スタートアッププラン」です。
 AWSはあくまでも、ビジネスを推進するためのツールです。
 スタートアップ特有の悩みとは何か。彼らの事業成長を加速するために、どんなサポートが必要か。
「クラウドの専門知識を持った人材がいない」「設計したはいいけれど、適切な状態なのかわからない」
 創業初期では人材リソースが限られているため、エンジニアは事業レイヤーの上流であるソフトウェア開発にパワーを注ぎ、インフラ設計まで手が回らないこともあるのが現実です。
 AWSと直接契約する場合と比較し、料金が5%減額になることに加え、「AWS請求代行スタートアッププラン」の付加価値は大きく2つ。
 ひとつは、AWSの「設計レビュー」。スタートアップではエンジニアが少数で設計を担当していることが多く、そもそもの設計ミスも少なくない。
 多数の導入実績と最新の知見を持つ我々が、相談窓口を定期的に持ち、正しい運用ができるよう設計レビューを行っています。
 もうひとつが、我々もスタートアップとして創業し2019年に上場することができた、ここまでの事業成長のノウハウを伝える「経営メンタリング」です。
 ガバナンスとアジリティの難しいバランスをいかに取り事業を進めるか。様々な社内ルールを作っては改善を続けてきた経験から、伝えられることもあると考えています。
松本 僕がスタートアップの経営陣から相談を受けるときは、「知見のある人を一人顧問につけてみては」といつも話しています。
 ものを作るだけなら、普通のエンジニアでもできるかもしれない。ですが、大切なのは“作り切る”こと。改善を繰り返しながら拡大していくことが重要です。
 スタートアップにもっとも足りないのは“CTO”なんですよね。起業家と話をしていると、二言目には「いいCTOはいないか」と言われるほどです。
 CTOのもっとも大きな責務は「ソフトウェアと組織を一緒に設計する」ことであり、そのためにクラウドをうまく扱うことは欠かせません。
 ソフトウェアをどう分割して作るのか、ユーザーが増えても長く発展させるために、AWSをどう使うべきなのか。
 アーキテクチャ(システム構造)そのものの定義まで考えられる視点が重要なので、その役割を多数の知見からサポートしてくれるサービスは、スタートアップにとって非常にありがたいと思います。
 あと、当事者にならないと地味に見えるかもしれませんが、請求書払いができるのはクレジットカードの限度額が大きくない急成長スタートアップにとって、うれしいポイントですね。
羽柴 その声はよくいただきますね。
 インフラに加え、ソフトウェア・組織設計までをカバーする、松本さんのようなCTOの役割を当社がすべてサポートすることはもちろん難しい。
 ただ、考えるべき点を整理して、どこをフォローできるかを伝え、スタートアップのみなさんがすべきことを減らしてあげることはできるのかな、と。
「パフォーマンスが落ちてきたが、どう改善すればいいのか」「コストが高くなって、今の使い方が合っているのかわからない」など、これまでは創業3年目以降、30〜50人規模のスタートアップの相談を受けることが多かったのですが……。
 よくよく中身を見てみると「初期設定の段階でなぜこうしてしまったんだろう」「もっと早く相談してくれたら」と頭を抱えることも多いんです。
松本 あるあるですね。
 そもそもクラウドで何をやれば正解なのかわからないし、誰に相談すべきかもわからない。今は動いているからとりあえずいいかと放置して、気づいたら大きな問題になってコントロールできなくなった、そんなケースが多いのかなと思います。
羽柴 まさにそうですね。ある程度、定石はあるので、「この作りでは、データベースがボトルネックになります」「ガバナンスを考えたときにセキュリティの面で不安があります」といった、堅実なポイントを押さえることが重要だと思っています。

ベストなスタートを切るために

松本 スタートアップの競争力の源泉は、アジリティです。
 アジリティを高めるためには、最初の小さな技術的負債がだんだん積み重なって大きなボトルネックになることを避けなくてはいけない。
 初期のデータ設計やネットワークの権限設定を間違えてしまった。その結果しばらくあとになってから、ちょっとした改修に数か月かかって事業スピードが下がり、アジリティを落としてしまう。
 これはどんな企業でも起こりうることですが、のちのち、致命傷になりかねません。
 スタートダッシュをどれだけキレイに決められるか。
 もちろん将来的には、インフラから組織設計までを社内でコントロールできるチームを作るべきです。
 ただ、立ち上がりの時期においては、事業の何が正解かはわからないし、すぐに変化していく。
 まずやるべきは、事業として刺さるものを見つけること。それ以外をアウトソースすることは経営判断としても正しいと思います。
 我々、LayerXもまだまだスタートアップです。
 ビジョンである「すべての経済活動を、デジタル化する。」を実現するため、僕たち自身がクラウドをはじめとするデジタルツールを活用し、より使いやすいサービスをお客様に提供していく必要がある。
 SaaS企業としてお客様のアジリティを高め、人間が本来すべきクリエイティブな仕事に集中できる社会を作りたい。
羽柴 我々はあくまでも黒子です。スタートアップのアジリティやセキュリティを高め、エンタープライズ企業へは働きやすい環境を提供する。
「クラウドで、世界を、もっと、はたらきやすく」というビジョンの実現に向け、8月には新会社を設立。AWSに加え、「Google Cloud Platform」の導入サポートにもチャレンジしていきます。
 スタートアップの初期段階から頼られ、誰よりもお客様のビジネスに貢献できる存在として、より進化していきたいと思っています。