2021/8/20

【ミッツ・マングローブ】政治が“ない”日本。残された2つの選択肢

 JTがこれまでにない視点や考え方を活かし、さまざまなパートナーと社会課題に向き合うために発足させた「Rethink PROJECT」

 NewsPicksが「Rethink」という考え方やその必要性に共感したことから、Rethink PROJECTとNewsPicksがパートナーとしてタッグを組み、2020年7月にネット配信番組「Rethink Japan」がスタートしました。

 世界が大きな変化を迎えている今、歴史や叡智を起点に、私たちが直面する問題を新しい視点で捉えなおす番組です。

 大好評だった昨年につづき、今年も全8回(予定)の放送を通して、各業界の専門家と世の中の根底を “Rethink” していく様子をお届けします。

ミッツ・マングローブ × 波頭亮 「社会」を再考する

 Rethink Japan2、第4回は「社会」をテーマに、タレントのミッツ・マングローブさんをゲストに迎えてお届け。
 モデレーターは、佐々木紀彦(NewsPicks NewSchool 校長)と、経営コンサルタント・波頭亮さんです。
 小・中学校と大学時代をイギリスのロンドンで過ごしてきたミッツさん。当時感じたイギリス社会のあり方や国民性、影響を受けた考え方をふり返りながら、日本の社会と政治に切り込みます。ラストには、波頭さんが感嘆のため息をもらすほど、シャープで核心をつくメッセージを示してくださいました。

差別があるから、多様。イギリスの国民性

佐々木 ミッツさんは小・中学校と大学時代をロンドンで過ごされたそうですが、イギリス社会で育った影響はまだ残っていらっしゃいますか。
ミッツ・マングローブ。タレント。1975年、横浜市生まれ。10代中盤をロンドンで過ごす。慶應義塾大学法学部を卒業後、再び渡英し英国ウェストミンスター大学で商業音楽全般を学ぶ。帰国後、2000年ドラァグ・クィーンとして東京でデビュー。現在、多数のテレビ番組に出演、音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する。
ミッツ いろいろありますね。イギリスと日本は同じ島国という共通点もありますが、決定的に違うのはイギリスは「戦争に勝った国」ってこと。もちろんかつての大英帝国ほどの国力が今もあるわけではないけれど、歴史的に戦勝国であるがゆえに、国全体に強いプライドが根付いている気がします。
 例えばイギリスの人たちって、英語が世界共通語だと思ってるんです。外来語っていう概念がない。
 ファミコンって英語で「Nintendo」って言うんですが、学校で「Nintendoは日本の名前だ」と説明しても、「英語で書いてあるから英語だ」って言うんですよ。豆腐(Tofu)とか津波(Tunami)とか、国際語になっている日本語も、英語って言い張ってましたね(笑)。
波頭 言語でいうと、イギリスって階級によって使う言葉も話し方も全然違いますよね。イギリスってすごく階層社会。
 昔貴族だったって人たちと話したときに、わざと僕が分からない貴族用語のような英語を使われて「何なんだ?」と思ったことがあります。クラスが違うことに対しての意識がすごく強い。
ミッツ 確かに階級によってすべてが分かれている国ではありますね。言葉も、職業も、住む場所も、使うスーパーマーケットも違う。
 そういう意味では「差別意識」が強い国だと思います。でもその分、それぞれの階級の「役割」みたいなものもはっきり存在しています。
波頭 そうそう、よく言えば「ノブレスオブリージュ」なのかな。
ミッツ 私からすると、日本やアメリカのやり方って、すごく気色悪いんですよ(笑)。
 日本はほとんどアメリカの真似をしてるからでしょうけど。ひとつの「正義」を掲げて、みんなでそこに向かう感じ。ちょっとでも違うスタンスを取ったり、同じスピードで物事を進めなかったりしたら、途端に裏切り者扱いされてしまうような。
 対してイギリスは、良くも悪くもですが、AもBもちゃんと存在できている。セクシャリティも、人種も。
 特に人種については、ヨーロッパ系、中東系、インドアジア系、アフリカ系、って本当に混ざっているんでね。そして、各々が悪口を言い合ってるんですよ(笑)。大学時代、だいたい私みたいな黄色人種って中間管理職のようなポジションになってて。白人といると、黒人たちの悪口をずっと聞かされるし、黒人の友だちといると、白人たちの悪口をずっと言ってる。
 そういう状況を知っていると、「人種の壁を取っ払った平等な社会」なんて、土台無理な話だよなって思うんですよね。
ミッツ 例えば、アメリカで起きた公民権運動でも、1964年に公民権法が施行されて、一応「差別はなくなりました」って宣言しちゃったわけじゃないですか。でも実際は、ずっと生きてきた白人社会、黒人社会の区別はそのまま存在しているわけだし、絶対的に差別はなくなっていなかった。
 でも「平等ですよ」って“御上”が言ってるんだから、黒人の大人たちは「もう何も文句は言っちゃいけない」って言いながら子育てしてきたと思うんです。その親を見てた子供たちは、「平等って言うけど、お父さんもお母さんも全然幸せになってないじゃん!」って疑問に思いながら大人になる。
 だから、いきなり「問題は解決しました」って言ったところで、だいたい20年後にはまた同じ問題が起こるんです。人種問題も、宗教問題もそう。私は、このくり返しを5回は重ねないと根本的な解決はないんじゃないかと思ってて。
ミッツ 今、ジェンダーやセクシャリティなどについて、いろいろな運動が起こっていますよね。もちろん格差や差別の解消に向けて前進していくことは大事だけど、改善を急ぎすぎてもダメだと思う。
 「3歩進んで2歩下がる」のくらい精神でいかないと、きっと内部分裂が起こったり、どこかで破綻しちゃいますから。

民主主義的なイギリス社会と、政治が“ない”日本

波頭 感覚的な話だけど、僕は、アメリカや日本ってあんまり民主主義っぽくないなと思っていて。その一方でイギリスは、国全体がすごく民主主義的な感じがする。
 その理由は、イギリスの民主主義は、2000年以上の歴史の中で、貴族階級と平民階級の軋轢があったり、いくつも革命が起きたりしながら、ゆっくり練り上がっていったものだからだと思うんだよね。
 だから、国民に民主主義の意識がしっかり根付いている。主権は国民にあって、国民が政治家に統治を委託しているんだって意識が強くあるんだと思う。実際にEUの離脱なんかも、国民自身が選んだでしょう。
波頭亮(はとう・りょう)経営コンサルタント。1957年生。東京大学経済学部経済学科卒業。82年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。88年コンサルティング会社XEEDを設立。著書に『成熟日本への進路』『プロフェッショナル原論』(いずれもちくま新書)、『組織設計概論』(産能大学出版部)などがある。
波頭 日本も、もともとイギリスと同じように階級がはっきりしていて、職業ごとに文化がある社会だったんだよ、江戸時代までは。
 でも、外国船で大砲を撃たれて、慣れないままに大日本帝国主義の思想をつくって、軍国主義へと進んでいった。それが上手くいかなくて叩きのめされて、GHQによって「民主主義」がつくられた。
 でも、そもそもアメリカの民主主義は、いろんな民族が集まった国を、強引に強い建前で縛らなきゃいけないって背景から出来上がったものだから。
ミッツ そうそう、なので、日本の国民が日本の政治基盤や政治のシステムにしっくり来ていないのは、ある意味当然のことだと思います。日本の民主主義は、日本がつくったものではないんだから。
ミッツ 戦後80年、日本人は「政治とは距離を置く」ってスタンスで、だましだましその「民主主義」を続けてきてしまった。戦後30年くらい、高度経済成長期までは、それでも上手くいっていたのかもしれません。
 でも、今回のコロナ蔓延のように世界中が未曾有の事態に陥ったとき、如実にそういう「政治の薄っぺらさ」が露呈しちゃいましたよね。
波頭 経済面からみても、1990年代後半以降、世界で日本だけが全く成長していないんだよね。これを日本人は政府のせいだって思ってるかもしれないけど、国民が間接的にその政策を選択してきたんだって意識を持たないと、何も変わらないんだよ。
波頭 このまま国民が政治から距離を置いて、ただ投票だけして「あとは政治家のみなさんが勝手にやってください、自分は自分の生活で精一杯なんで」ってスタンスでいると、絶対に大きな破綻が起きる。
 社会が阿鼻叫喚するような大問題が、もう目の前にいくつも迫ってるんだから。

政治と距離を置くか、政治をつくりあげるか

ミッツ どっちを選ぶかですよね、日本人は。
 「政治と距離を置く」ってスタンスを選択するのであれば、これから先のいろんな格差を国のせいにしないで受け入れる。もしくは「時間をかけて、政治をちゃんと国民に根付いたものにつくりあげていく」。政治を成熟させるには、向こう50年くらいかかると思いますが。
 でも、日本人はそれをまた急ごうとするでしょ。頑張って詰め込めば結果が出ると思ってるから。絶対そんなことはないんです。テストでも徹夜でやったって、上手くいった試しなんかないじゃないですか(笑)。
 まずはそういう「徹夜至上主義」の幻想から解き放たれないとダメでしょうね。
波頭 今ミッツさんがおっしゃったことって、そのまま保守主義の素晴らしい説明になってますよね。
ミッツ そうですか。
波頭 日本で保守っていうと、変化を排除するようなニュアンスで捉えられることが多いんだけど、本来は違っていて。
 現実の人や生活、思想って、徹夜の突貫工事でガラッと変わるようなものじゃなくて、少しずつ現実を積み上げて、時間をかけて良い塩梅に調節されていくもの。そういう考え方が、「保守」的なものなんですよ。
 ミッツさんはやっぱりイギリスにいらっしゃった影響でしょうね。イギリスの貴族はどちらかというと保守党系の人が多いし、いまだにそういう王族貴族の存在感が大きい気がします。僕なんかまさに日本人だから「試験前は徹夜に限る!」って考えで育ったけど(笑)。
ミッツ そうかもしれないですね。私がイギリスにいた頃って、ちょうどサッチャー政権で。それはそれはもうイギリス経済がどん底の時代だったんです。そんなときでも、イギリスでは、やっぱりエリザベス女王の存在は大きかった。
ミッツ エリザベス女王がよく「Duty first, self second.」(自分のことより務めを最優先に)と言っていたんです。
 その教えが浸透していたからか、国全体に「どんな状況であっても、大英帝国の誇りを守って、やるべきことを着実にやっていくんだ」という精神があったように思います。この考え方には、私も大きく影響を受けていますね。
波頭 サッチャーの政治人生やサッチャー政権以降のイギリス政治をみても分かるけど、イギリスって変化がクイックじゃないんだよね。アメリカみたいに右から左へパンッと変わることはなくて、時代をキャッチアップしながら、小さくステップを踏むように変化し続けている。
 それに対して、戦後ずっと変われないままでいるのは日本だけなんだよね。

今から変わればいい。「能動的な参画意識」を持て

ミッツ あとサッチャー政権の頃って、ストライキだらけだったんです。郵便局員、鉄道員、電気工事士、あらゆる職業の人たちが毎週のように、ひっきりなしにストしてて。ストライキって細分化された目的ごとに行われるものなんだっていうのも、当時学んだことでしたね。
 日本でもメーデーなんかがありますけど、労働環境や社会に対しての欲が散漫な印象があるんですよね。「みんなでやりましょう」って感じがあるし、全体的に「なんとなくやっている」雰囲気があるというか。
 ストライキに参加しているけど、自分事にはなっていない人が多いんだろうなと感じますね。
波頭 そうそう、ストライキにしても政治にしても、日本人は「能動的な参画意識」が欠けてるよね。
波頭 だけど、新型コロナ流行後の日本の対応を見ていて「日本の政治って本当にこれでいいの?」って気付いた人はたくさんいると思うんだよ。
 そこで、ただ「政治家が悪い」って文句を言うだけじゃなくて、「国民である自分たちで政治をつくるんだ」という意識を持ってほしい。
ミッツ 日本がこうなってしまった原因のひとつは、アメリカの影響でしょうね。私も含めて、みんな生まれてからずっと「アメリカのような国になることが、日本にとって一番いいことだ」くらいの感覚がすり込まれてる。
 だから「日本が自分の国であること」や「自分がこの国の国民であること」に対しての自覚が薄いのかもしれないなと思います。
波頭 そうかもしれない。とはいえ、高度経済成長期まではアメリカ様々だったと思うんだよ。軍国主義が潰れて、みんなに人権があるんだよって教わって。
 だけどもし、バブルの前後でアメリカから「主権者は(日本)国民だよ」って、「ここからは助けもしないし、コントロールもしないから、自立しなさいよ」って突きつけられてたら、こんなに自己決定権のない状態が続くことはなかったのかもしれないよね。すごく虫のいい話かもしれないけど。
 民主主義国家として、「大人になれなかった」状態が今の日本なんだと思う。
波頭 1990年代にバブルがはじけて以来、30年間も日本は全く発展できなかったわけだけど、僕はこの期間はもう「学習の期間」と見なせばいいんじゃないかなって思ってる。ミッツさんも「政治が成熟するのに50年はかかる」と言ってたけど、2、30年で国のあり方を変えるのは無理だから。
 100年くらいの単位で考えて、これから「第2の戦後フェーズ」が始まるんだと思えばいい。今から変わればいいんだよね。

日本社会の価値観を変えるために

ミッツ 私も40歳を超えて「この先若い世代は大変だろうな」なんて無責任なことを言うようになっちゃったんだけど(笑)、考えてみれば私もあと20年30年は生きるわけだから、まだまだ自分も考えないといけないですね。
 「この国ダサいな」と思いながら死にたくないですから。
波頭 「ダサい」っていいキーワード。
 僕は、儲かるかとか合理的かとか、そんな価値観を共有するフェーズは抜けて、みんなが「こっちのほうがかっこいい」「粋だよね」ってことを軸に判断する生き方になればいいなと思ってるんだよ。
 それこそアメリカの影響が大きいのかもしれないけど、今は経済的な成功にあまりにも価値が集中しすぎている感じがする。
 もちろんお金の成功を目指す人がいてもいいとは思うんだけど、それは社会の中にいくつも価値観が存在する中のひとつであるべき。なのに今は、みんなとにかく「ガツガツ働かなくちゃ」「儲けなきゃ」って思ってるから、心の余裕が全くなくて、「自分の生活で精一杯なんで……」ってなってるんだと思う。
 このお金至上主義の価値観から脱却するために、僕は、政府がお金の再分配をやるべきだと思ってる。
 もしも毎月10万円のベーシックインカムがあったら、働かなくてもご飯は食べられるし、雨露を凌ぐくらいはできるでしょう。そうしたら、「お金を稼ぐことだけに意識とエネルギーを使うのってカッコ悪いよな」と思う人がたくさん出てきて、一気にお金中心の価値観は崩壊すると思うんだよね。
ミッツ うーん……、どうですか。一律にお金が配られたら何か変わりますかね。
佐々木 ベーシックインカムは毎月ですからね。本当に自分のやりたいことをやるっていう、かつての高等遊民のような人たちが出てくるんじゃないですか。世間の価値観が変わる可能性はあると思います。
ミッツ 今ふと思ったんですけど、女性だけに10万円配るっていうのはどうですかね。漠然とですが、女性の懐が暖かいと、社会のバランスが良くなるような……。男性が働くモチベーションも上がりそうですし。
佐々木 どうしてですか?
ミッツ 例えば夫婦だったら、世帯所得が10万円上がるわけじゃないですか。その10万円に甘えちゃう男性もいるだろうけど、奥さんの10万円には頼らないで自分がちゃんと働くって男性のほうが多いと思うんです。10万円分自分で使えるとなったら奥さんは少し楽できるし、お子さんがいる家庭なら、子供に回るお金も増えるかもしれない。
 それに、金銭的な余裕ができたら、女性はもっとゆとりを持って男性を選べるようになるでしょう。そうしたら男性は女性に選ばれるためにもっと働くんじゃないですか。
波頭 男性がモテるための競争が激しくなりそうだね。みんなちゃんと働くかなあ(笑)。
ミッツ 個人的には、完全なジェンダーギャップの解消って絶対に無理だと思ってて。やっぱり社会的にも生物学的にも、雄の役割、雌の役割っていうのがあると思うんですよ。
 だったら、それを踏まえた「精神的なだまし合い」みたいなものを、もっと賢く使えば上手くいくこともあるんじゃないかなって。
ミッツ あとは単純に男性って、女性の機嫌がいいと気持ちよく働くと思うし(笑)。今思いついたアイデアなので、上手く言えませんが……。私は、女性にお金をあげるのがいいのかなって気がしたんです。
佐々木 アファーマティブアクションのようなものですね。
波頭 おもしろいかもしれないね。社会を変えるためには、それくらい大きな規模のきっかけがあってもいいのかも。
佐々木 最後に、日本社会の未来を指し示すキーワードを書いていただけますか。
ミッツ 私はやっぱりこれに尽きるなあ。「卒アメリカ」。
ミッツ 「脱」でも、「反」でもなく、「卒業」です。アメリカからいただいたものや学んだものは大事にしつつ、日本は日本としてちゃんと「社会人」になる。アメリカを卒業しないと、日本は次のフェーズに進めないと思うんです。
佐々木 アメリカも卒業してほしいと思ってるでしょうしね。
ミッツ それも癪ですよね(笑)。
佐々木 ははは(笑)。自分たちから卒業したいですね。
波頭 今日のメッセージは、もうその一言ですね。その通り。僕もキーワード考えてたけど、これ以上は不要だな(笑)。
Rethink PROJECT (https://rethink-pjt.jp)

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私たちは「Rethink」をキーワードに、これまでにない視点や考え方を活かして、パートナーのみなさまと「新しい明日」をともに創りあげるために社会課題と向き合うプロジェクトです。

「Rethink」は2021年4月より全8話シリーズ(予定)毎月1回配信。世の中を新しい視点で捉え直す、各業界のビジネスリーダーを招いたNewsPicksオリジナル番組「Rethink Japan」。

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