2021/7/18

脳信号を文章に変換。話せない男性が「言葉」を取り戻すまで

INDEX
  • 交通事故で「発話能力」を失う
  • 脳に埋め込んだ電極で「信号」を拾う
  • 75パーセントの精度で単語を解析
  • 「人生がひっくり返るような出来事」
  • 1分間に最大18語を解析
  • 「開拓者」として生きる

交通事故で「発話能力」を失う

その男性が、交通事故に遭ったのは2003年のこと。当時20歳だった男性は、事故で重度の脳卒中を起こし、半身不随になった。以来、彼は言葉を発することができなくなった。
しかし今では、科学の進歩により、研究者たちは男性の脳の発話中枢に直接アクセスできるようになった。
パンチョというニックネームで知られるこの男性が、頭の中で単語や文章を伝えようとするだけで、脳に埋め込まれた電極からコンピュータに信号が送られ、その内容がスクリーンに表示されるようになったのだ。
研究チームによると、彼らが初めて認識できたパンチョの言葉は「家族は外にいます(My family is outside)」だった。
この成果は、7月14日付の『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌に掲載された。彼らの取り組みは、いずれ発話能力を失った大勢の患者を救うことになるだろう。
オレゴン健康科学大学のメラニー・フリード=オーケン教授(神経科学・小児医学)は、「いまや科学は、かつては想像もできなかったような領域に到達しています」と話す。
現在パンチョは38歳。3年前、彼が今回の研究に協力することに同意した時点では、彼の脳が発話機構を保持しているのかどうかさえ、定かではなかった。
研究を主導したカリフォルニア大学サンフランシスコ校のエドワード・チャン博士(神経外科)は、「彼の発話中枢は、ただ休眠しているように見えました。とはいえ、それが覚醒して、彼が再び話せるようになるかは、まったく未知数でした」と振り返る。
Mike Kai Chen/The New York Times