2021/7/16

日本の物流構造に変革を。「EC自動出荷」実現は序章にすぎない

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 ECサイト運営の受注から出荷までを「自動化」する──。
 これが、すでに「LOGILESS(ロジレス)」が実現したECロジスティクスの変革だ。
 商品を販売するEC事業者、商品を管理・出荷する倉庫事業者、荷物を運ぶ配送事業者……ECサイトで購入した商品が私たちの手元に届くまでには複数のプレイヤーが存在する。
 LOGILESSが叶えたのは、ECサイトで商品が売れた10分後には倉庫へ自動出荷指示が流れるオペレーションシステムの構築。
 近年では商品が即日発送されるケースも少なくないため意外に思う読者もいるかもしれないが、実はこの受注から出荷までのプロセスには多くの場合、人の手が介在している。
 というのも、EC事業者の受注管理システム「OMS」(Order Management System)と、倉庫事業者の倉庫管理システム「WMS」(Warehouse Management System)では、それぞれ異なる特化したシステムを使うのが業界の常識だったからだ。
 顧客の注文情報などを双方のシステム間で連携するためには、CSVなどのファイル作成と受け渡し業務を行う必要がある。
 あるEC事業者の場合、この作業に午前中の時間を丸々かけて5名で取り組むなど、大きな業務負担になっていた。
 LOGILESSは、この受注管理システムと倉庫管理システムを一体型に。
 EC事業者がなにも作業しなくても、商品が売れるとすぐ倉庫に自動で出荷指示が送られる環境を作り上げた。
 実際、LOGILESSの利用企業では90%以上の注文で、自動出荷を実現しているという。
 これにより倉庫事業者も、EC事業者からの注文情報データを待つ必要がなくなり、夕方の配送業者の集荷に向け朝早くから作業ができるように。アイドルタイムが減り、生産性が3倍になったという声もあるそうだ。
 と、ここまでの話でも、非常に理にかなった効率的な物流システムだと納得するが、実はロジレスが手掛ける「OMS・WMS一体型」のサービスには、いまだ競合がいないという。
 それは何故か。ロジレス代表・足立直之氏に、まず、その理由から聞いた。

自社の課題から見つけた大きなペイン

足立 「LOGILESS(ロジレス)」に競合が存在しないのは、OMSとWMS、2つのシステムの統合があまりにも大変だからでしょう。
 具体的には、2つのまったく異なるプロダクトをPMF(プロダクトマーケットフィット)させることと、保有情報が異なる2システムを統合することが難しいからです。
 開発当時、我々が物流業界の“常識”をもっと知っていれば、OMSとWMSを一体化させたプロダクトをゼロから作ろうとは考えなかったかもしれません。
兵庫県出身。立命館大学卒業。新卒で楽天に入社し、楽天ブックスにて3年間、出版社への営業や電子書籍事業の立ち上げなどを担当。2012年にロジレスの前身となる会社を立ち上げ、自分たちでECサイトを運営。自社の業務を効率化するためのシステム開発をしていく中で、同様の課題を抱えている人たちの存在を知る。2017年にロジレスを創業。より多くのEC事業者の課題を解決したいと考え、SaaSプロダクトとして提供開始。EC物流の変革を通じて、日本経済を発展させていくことを目指している。
 LOGILESS開発のきっかけは、我々が当事者としてEC運営で苦労したからです。
 2012年に立ち上げた前身の会社では、コンサルや受託開発に加え、EC事業をしていました。
 扱っていたのは、書店から返品された新古本。神保町の古本屋さんとタッグを組み、順調に売り上げを伸ばしていましたが、やることといえば、来る日も来る日も注文を受けた本をピッキングし梱包・出荷する作業。
 前職の楽天でEC事業を理解したつもりになっていたけれど、「売れたら出荷される」効率化された仕組みの中で働いていただけだったのだと痛感します。
 事業が大きくなり倉庫と契約し、非効率な業務から脱しようとしましたが、またそこでも壁にぶつかります。
 OMSとWMS、2つのシステムを使い始めたものの、その間のデータの受け渡しが煩わしい。
 当初は、既存システムを掛け合わせてなんとかカスタマイズできないかと試行錯誤したのですが、異なる思想のもとで作られた別の会社のシステムのため、シームレスな連携は困難でした。
「両者が統合されたシステムがあればいいのに」
 “理想のシステム”がないなら、作ればいい。そんな発想から、自分たちがラクをするために開発を始めたのです。
 ただ、当初はあくまでも自社ツールでした。大きな転機となったのは、ある倉庫事業者さんとの出会い。
 OMSとWMSを一体化させ、業務効率化を目指していると話したら、そのビジョンに強く共感いただき、「うちの基幹システムにも採用したい、一緒に作ろう」と言っていただいたのです。
 同時期に10社ほどから「うちでも導入できないか」との声をいただき、我々が感じていた課題は、EC業界が抱える大きなペインでもあると気づかされました。

「目の前のお客さんのために」愚直な開発

 ただ、そこからロジレス創業まで丸3年。システムの開発は難航しました。
 そもそも、OMSとWMSにはともに一定の市場が存在し、上場企業など多くのプレイヤーが時間をかけて作り上げたプロダクトがある分野。
 一体型にするためにはEC事業者と倉庫事業者、双方の異なる要望を満たすシステムを作りこんだうえで、双方をシームレスにつなぎこむことが必要ですが、創業メンバー3人の企業がゼロから手掛けるなんて、冷静に振り返ると現実的ではありません(苦笑)。
 それでも我々が諦めなかったのは、私たちのシステムを「使いたい」と言ってくれた方がいたから。
 非効率な業務が当たり前の状況を変えたいと強く願う人が、目の前に存在する。
 その期待に応えたい一心で、まずは現場の負を深く理解すべく、EC事業者様や倉庫事業者様のもとに通い続けました。
 朝から倉庫で一緒に出荷作業をして、昼には現場の方とお弁当を食べて、夜は飲みに行って理想のECロジスティクスの世界を熱く語り合う。そんなことを週3回、半年近くしていたと思います。
 ひとことでECといっても、扱う商品はさまざまです。たとえば、バーコードがついているもの・いないもの、商品名が書いてあるもの・いないもの。それぞれ、ピッキングの難易度は違い、管理方法も異なります。
 私たちが知っていた物流はごく表面的なものだったと、その奥深さに驚かされながらも、現場に通いつめたことで解像度が高まりました。
 倉庫事業は、効率化した分だけ成長につながる事業です。1時間で10個だったものが20個出荷できるようになれば、単純に売り上げが2倍になる。
 システム化する意義を認識し、生産性を突き詰めるおもしろさや手ごたえも感じていました。
 EC事業者においても、一社ずつニーズを深堀りすると想像以上に細かな機能への要望があります。
 たとえば、備考欄にコメントを入れてくれたお客様には必ず返答コメントを送りたい、ラッピングの色の希望にお応えしたい、簡易包装を求めるお客様にはエコ包装で対応したい──。「2点購入したら2点目は半額」といったキャンペーンを行うところもあります。
 こうした企業ごとの要望を、どこまでシステムに盛り込み、自動化できるのか。
「効率化のために、そのこだわりは捨てましょう」と言うのは簡単ですが、それが各企業のサービスの優位性であり、働くみなさんがプライドを持ってしていることであれば、切り捨てることが生産性の向上につながるとは言えません。
 人が手をかけてきたこと、事業者さんの想いの部分をシステムに置き換えるべく、EC事業者専用のRPAを入れ、タグ付け機能によりメッセージの自動入力やエコ包装の指定をするなど、一つひとつ基本機能として実装を進めてきました。
 一方で、明らかな誤発注と想定されるケースなど、そのまま自動出荷してはいけない場合のチェック機能も搭載。
 ミスなく自動化を推進するためのシステムを、愚直にブラッシュアップしてきました。
 開発当時は、ただお客様に求められるまま、いいものを作ろう、喜んでいただけるものを作ろうと必死でした。
 業界の慣習や前例を知らず、バイアスがなかったことも良く作用したかもしれません。
 個別具体的なニーズに、「システム対応は難しいので諦めてください」とは言えなかったし、絶対に言いたくなかったんです。
 現場の想いをすべてプロダクトに盛り込みたい。何度も改善を重ね、泥臭く食らいついているうちに、気づけばLOGILESSが現場の基幹システムとして使われるようになっていました。
 LOGILESSが止まれば、倉庫は一切作業ができなくなり、EC事業者のデータも一切見えなくなってしまいます。
 企業、ひいては日本のインフラを支えるビジネスとして、生半可な気持ちではできない。既存の事業はすべて捨て、このシステムに集中しようと、2017年にロジレスを創業しました。

5年後には顕在化する「物流危機」

 EC市場は10年以上右肩上がりを続けていますが、コロナ禍でさらにその伸びが加速。2020年度には、はじめて全世帯のうち50%がECを利用するようになりました。
 これだけコモディティ化(一般商品化)された産業にもかかわらず、現在も年間8%近い伸び率があり、7年後の2028年には2倍になるとの試算もあります。
 この流れが続けば、すでに問題視されているEC物流の業務効率化は、5年後、10年後には深刻な社会課題となります。
 一方で、倉庫の現場で働く従業員の3割以上は50代以上。非正規雇用の方が多く、ナレッジが蓄積されにくい現状があります。
 加えて、現在、約270万店といわれるEC事業者(出典:eccLab)には物流の知見を持った方があまりいません。
 このまま手をこまねいていれば、今以上のECの配送体験を得ることは難しく、担い手不足により、サービスレベルはどんどん下がっていくでしょう。
 その中で、LOGILESSは業務全体の司令塔の役割を担えると考えています。
 EC事業者と倉庫事業者、カート・モール・配送事業者などを含めた連携先とともに、販売から物が手元に届くまでの最適な形を作っていく。
 たとえば、これまでのOMSとWMSは1対1の関係が前提でしたが、LOGILESSでは1対Nの制御ができます。その結果、倉庫を西日本と東日本に分け、配送先に近い倉庫から出荷する仕組みの構築が可能に。
 このエリアより以西は関西から、以東は関東からと自動で出荷指示を出せれば、東京−大阪間の幹線輸送の時間が大幅に削減でき、配送業者の負担も減らせます。

10倍の生産性を実現するためには

 LOGILESSの導入企業は、EC事業者が約400社、倉庫事業者で約50社(2021年5月時点)。各社で平均して、2~3倍の生産性向上を実証できています。
 しかし、労働生産人口の減少により、今の日本のGDPを担保するには、2.5倍の生産性向上が必須と言われています(マッキンゼー・グローバル・インスティテュートのレポートより)
 ここを目指すためには、個社の事例で2倍、3倍になっただけではまったく追いつかないという強い危機感があります。
 10倍以上の圧倒的な生産性向上を実現するためには──。Amazonが行っているような倉庫ゾーニングや出荷オペレーションなど、世界最高峰のEC物流システムを、すべての中小企業が難なく実現できる世界を作り上げる必要があります。
 これから我々が目指すのは、現状の改善ではなく“変革”。
 こうしている間にも、届けられる荷物は右肩上がりに増え続けています。
 未来がどうあるべきかを予想し、ECビジネスに関わる人が驚くようなオペレーションを当たり前のものにする。先回りしてやるべきことは山ほどあります。
 2021年4月に、「ECロジスティクスを変革し、日本の未来をスケールする」とミッションを刷新したのも、その決意から。
 現在、その実現のため大きな「変革」に挑む仲間、とくに各部門を牽引していくリーダーを求めています。
 やりがいは保証します。だって、これだけ大きな産業、かつ社会のインフラであるにもかかわらず、数年で絶対に変えなきゃいけない分野って、そんなに多くないですから。
 もちろん難しいのですが、OMSとWMSの一体型システムは、ECロジスティクスの現場生産性を劇的に高める第一歩となる、一つの発明だと自負しています。スタートはここから。
 国内にとどまらず、日本企業のグローバル展開を支えるなど、EC事業には多くの可能性がある。ECを支える基幹システムによって、その機会を後押ししていきたい。
 我々が新しい領域を切り拓いてこられたのは、現場のお客様にとことん寄り添い、現場のペインを一つひとつ解消してきたから。蓄積した知見を活かし、さらにどんなサービス拡充につなげ、変革を起こせるのか。
 もたもたしている時間はありません。やれること、やるべきことは膨大ですが、私たちが日本の未来を変える。そんな強い思いを抱いています。