2021/7/5

【新・キャリア】「デザインコンサルタント」とは何か

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
BX(ビジネス・オブ・エクスペリエンス)の時代が到来した。
CX(カスタマーエクスペリエンス)の進化形として、顧客体験を軸にビジネスにインパクトを与えるデザインを実現し、ビジネス全体を再構築するBXの取り組みに注目が集まっている。
ブランドやパーパス(存在意義)が顧客の心を動かす時代になったいま、顧客体験を起点に抜本的な企業変革が求められていることがその理由の一つだ。
そしてこのBX成功のカギを握るのが、「デザインコンサルタント」だ。
なぜいま、BXが必要なのか。またコンサルの新潮流である、デザインコンサルタントとは何か。
先駆けてBX推進を支援してきたアクセンチュア インタラクティブ Growth & Business Design Team 統括の高山さえ子氏と、同チームでデザインコンサルタントとして活躍する佐藤卓氏に話を聞いた。
INDEX
  • なぜいま「BX」なのか
  • BX思考を醸成する
  • インタラクティブにジョインした理由
  • デザインを武器に社会を変える

なぜいま「BX」なのか

──これまで、さまざまな立場の人たちが「CX」というキーワードを使い「顧客体験」の重要性を繰り返し説いてきました。CXとBXは何が違うのでしょうか。
高山 これまで多くの企業が実践してきたCXは、プロダクトやアプリのタッチポイントを最適化するにとどまるなど、局所的な顧客接点の改善に重点を置いた取り組みが多かったように思います。
 つまりCXは、狭義の顧客体験のデザインを表現するキーワードとして、主に使われていました。
 それに対しBXは、広義のCXを包括し、包括的なプロダクトデザイン、経営戦略や業務プロセス、企業や組織のあり方をも内包するより大きな概念になります。
 デザインで経営にインパクトをもたらすべく、従来使われてきたCXの定義を超え、顧客体験を軸に企業活動をも再構築する。
 ブランドやパーパスを体現するような顧客体験を生み出し、またそれを生み出し続けることができるようなカルチャーをつくることがBXの目的です。
──そもそも、なぜBXをビジネスの課題として捉えているのでしょうか。
高山 その背景には、パンデミックにより加速した3つの問題があります。
 1つ目は、消費者のニーズの変化。2つ目が、市場に溢れる似通ったCXの飽和。3つ目が、パーパスに対する関心の高まりです。
BXが必要になった3つの背景
①顧客ニーズの変化
②似通ったCXの飽和(=CXの同一性)
③パーパス(存在意義)志向への飛躍

──具体的に聞かせてください。
高山 いまや大半の人々はスマホなどを通じて、日々優れた顧客体験に接しています。
 そこに情報サイトならこのレベルでも許容できるが、ECサイトなら許容できない、という基準の使い分けはありません。
競合しないプロダクトやサービスの体験を比較し、すべて横並びに評価されます。
 ユーザーは、そこで劣っていると評価した企業やブランドからは離れてしまうため、体験価値の向上が急務になっている点が1つ。
 2つ目が、直感的な操作性や美しさといったUX/UIの特性は、競争優位の源泉ではなり得なくなっている状況があります。
 UX/UIは真似やコピーをされやすいため、もはや市場には似通ったものが多くありますよね。
 3つ目は、環境や社会に対してポジティブな行動をしている企業のプロダクトかどうかが、購買動向に大きな影響を与えるようになっている点です。
 どれもマーケティングやクリエイティブ部門の努力だけでは解決できない問題です。
──BX実現のために重視されていることは何ですか。
佐藤 BX実現のために重視しているのが「広義のデザイン」です。
 ここでいう「デザイン」とは、プロダクトの見た目を美しくしたり、UIを使いやすくしたりという狭義のデザインの意味にとどまりません。
 私たちが目指すのは、デザインを切り口としたビジネスの変革
 ブランドやパーパスの再定義、業務プロセスや組織のあり方を含め、そのすべてを「体験価値」を生み出す基盤に変革することを「デザイン」と呼んでいます。
 BXは広義のデザインを軸に、顧客体験を起点に企業のあり方を刷新する試みといえます。

BX思考を醸成する

──BXに限らず、企業変革は容易ではありません。デザインと経営戦略を一体化し、プロダクトに反映させるために何が必要になりますか。
高山 おっしゃる通り、それらしい名前の部署を新設するだけでは意味がありません。
 トップマネジメントの理解なくして、企業のあり方そのものを変革するBXは実現できない。
 だからこそ私たちが最初に接触するのは、現場担当者や責任者の方々だけではなく、CEOやCxOクラスの経営陣です。
 まずはBXの概念や背景、意義、目的を理解していただき、BXを経営アジェンダの俎上に載せていただく。その上で、CEO、CxOクラスの方々には、本気で取り組んでいただく覚悟が必要です。
 規模は小さくても構いません。フルコミットで関わるメンバーを集めた部署横断型のプロジェクトを立ち上げ、戦略策定から実際にプロダクトデザインに落とし込む。
 それをリリースするところまで一気にやりきるような覚悟が必要になります。
 精神論に聞こえるかもしれませんが、どんなに良い施策をポイントで実施できたとしても、継続できないのでは意味がありません。
 何かを変えるには、経営陣の本気、やり遂げるという強い意志が必要です。
──こうした企業変革に対し、デザインコンサルタントはどのようにアプローチするのでしょうか。
佐藤 “デザインコンサルタント”というと、デザインとは何たるかについて、クライアントに講義をする場面を想像するかも知れません。
 しかし実際のプロジェクトにおいてそういった場面はほぼありません。
 私たちとクライアントは、教える側、教えられる側という上下の関係ではなく、フラットな横の関係。いうなればバディ(相棒)のような存在に近いといえます。
 クライアントと一体となってBXの完遂に向けて協働するのが、私たちアクセンチュア インタラクティブのデザインコンサルタントのアプローチです。
──具体的な取り組みの事例はありますか。
高山 最近の事例ですと、auを運営する大手通信会社KDDI様とともに、デジタル変革を支援したBXの取り組みがあります。
 顧客のニーズが変化する時代において、まさに企業のあり方そのものを見直す必要性がありました。
 そこで、組織横断で集まったメンバー・専門家によるチームで、多くの議論やワークショップを積み重ね、提供すべき顧客体験の仮説を立てました。
 その上でまずデザインの対象となったのは、新しい体験のリアル店舗、顧客サポート用AIチャット、「My au」アプリなど多様なプロダクトです。
 顧客の定性調査の結果をもとに、アジャイルにプロトタイプをつくってはユーザーにテストを行う。その結果をもとに議論を繰り返し、提供すべき体験価値を定めていく。
 そしてこのプロジェクトを起点に、新たな企業の風土やカルチャーの醸成の足掛かりとする。
 またクライアントの若手社員の方々とともに変革を推進することで、デジタル人材の育成も支援させていただきました。
佐藤 私たちデザインコンサルタントの仕事は、デザイン業務や制作業務の受託ではありません。
 実践を通じてBXの必要性を理解いただき、クライアントの組織に文化として根付かせること。
 ともに働く私たちの言動をきっかけに、クライアント側のメンバー自身が「このままの組織ではダメだ」「人や予算の配分を変えるべきだ」「提供者視点ではなく顧客視点で考えなきゃダメだ」と声を上げられる環境をつくること。
 それこそが、サイロ化を打破し、企業文化を変える、唯一の道だと考えています。
 高山 「これから取り組む仕事の成果が、ユーザーが求める価値に沿っているのか」「経営戦略を体現するものだと断言できるか」という視点を、それぞれの持ち場で働く一人ひとりが持てる状況をどうしたらつくれるか。
 そうしたBX思考を持った人材をクライアントの中に増やしていくことこそ、私たちが向き合うべき課題であり、ゴールでもあります。

インタラクティブにジョインした理由

──新しい体験価値を生み出し、それを組織文化として根付かせるのが、デザインコンサルタントの役割だとすると、どのような素養が必要になるのでしょうか。
高山 繰り返しになりますが、デザインコンサルタントは、色や形、ユーザーインターフェイスを美しく仕上げる、狭義のデザインにのみ目を向けるわけではありません。
 ユーザーの思考や行動から大切な情報を抽出し、異なる職種の人々を巻き込みながら価値を生み出し、プロダクトに反映させる。そんな広義のデザインを支援するのが、私たちの役割です。
 私自身デザインのバックグラウンドは、Webデザイナーとしてのキャリアから始まっています。ですが、ビジネスにおけるデザインに秘められた価値を理解している方、強い関心がある方であれば、必ずしもデザイナーの経験は必要ありません。
佐藤 私は、スタートアップで自社サービスのプロダクトマネージャーを経験後、アクセンチュアに転職しデザインコンサルタントになりました。
 プロダクトマネージャーとデザインコンサルタントの職務は重なる部分が大きいのが率直な感想です。
 どちらも経営やビジネスの課題を踏まえて、とことんユーザーに向き合いながら、モノづくりに携わる立場という意味では同じだからだと思います。
──佐藤さんは、なぜデザインコンサルタントのキャリアを選んだのでしょうか。
佐藤 個人的には、デザインコンサルタントになりたかったというよりは、ただ肩書きが変わっただけという感覚が強いですね。
 前職のベンチャー企業では資金調達や事業のスピード感などを含め、一定のチャレンジができた感覚はありました。
 そこで次のキャリアを考え始めたのですが、起業するか、新たにスタートアップにジョインしようかの2つの選択肢しか頭にありませんでした。コンサル業界で働く未来は、全く想像していなかったです。
──それからなぜアクセンチュア インタラクティブに?
佐藤 場所がどこであれ、私が大切にしていたのは、世の中に大きなインパクトや価値を生み出せるかどうかです。
 ベンチャー企業で働いていた当時、大企業とも関わる機会が多く、そのポテンシャルを感じる場面が多くありました。莫大なアセットを持つ大企業と協業することができれば、より大きなインパクトを生み出せるはず。
 しかし大企業と協業したいと思っても、やはりどうしてもカルチャーが異なりすぎるため非常に難易度が高いのが現実です。
 であれば、その大企業がベンチャーに勝るほどの優れたプロダクトを生み出す体制をつくることができれば、世の中にインパクトのある新たな体験を生み出すこともできる。
 それに、スタートアップと協業して新しい価値を生み出すこともできる。それは社会にとっても非常に価値あることではないかと。
 そんなことを考えていたときに、アクセンチュア インタラクティブの存在を知ったんです。
 アクセンチュアは、世界を動かすポテンシャルある大企業と非常に密接な関係を築いている。また多種多様な人材やテクノロジーの知見など十分な資源があります。
 それにインタラクティブであれば、プロダクトマネージャーの経験を活かして、大企業の本質的な変革や価値の創造に携われる。
 自分の守備範囲も限定することなく、新しい価値の創出に挑戦できることにも魅力を感じました。
 また世界最大のデザインスタジオ「Fjord」や世界的なクリエイティブエージェンシーの「Droga5」など、他にはない圧倒的なクリエイティブ領域の強みもあります。
 こうしたキャリアの選択肢があることは、アクセンチュア インタラクティブに来るまで知りませんでした。
 当時の私のように、スタートアップにジョインするか、起業するかという2つの選択肢で考えている人にこそ、もっと知られていいキャリアだと思います。

デザインを武器に社会を変える

──どんなときにデザインコンサルタントの醍醐味や、やりがいを感じますか。
佐藤 もちろんプロジェクトが完遂し、一定の成果を残せたときには大きな達成がありますが、日常の業務のなかでもやりがいを感じる瞬間があります。
 たとえば、立ち上げ期から苦労を共にしているクライアントのメンバーが、提供者視点に寄った社内の意見に対し、ユーザーファーストの意義を説いている景色が生まれる場面があるんです。
 それを見ると、新しい文化が醸成されていく一歩を踏み出している感覚があって、とてもうれしくなります。
高山 構想から育ててきたプロダクトが実際に世に出る喜びはもちろん、クライアント企業の文化や人が変わっていく瞬間、組織が変化していく過程を目の当たりにできるのも、この仕事の面白いところです。
佐藤 私たちが伴走した人たちが、自らの意思でビジネスを改善し続けていくことが一番うれしいことです。
 ですから、BXをクライアントの組織文化としていかに定着させるかを常に念頭に置いて動くようにしています。
──最後に、デザインコンサルタントを次のキャリアの選択肢として視野に入れている読者にメッセージをお願いします。
佐藤 アクセンチュアは大企業のトップマネジメント層と日々議論しているので、BXの重要性を経営者に直接説く機会が少なくありません。
 それだけに、長期的な時間で企業の変革に携われますし、経験豊富な専門家チームも複数存在している強みもあります。
 つまり、絵を描くだけでなく、仕組みとして実装し、オペレーションを回すだけの力があります。
 こうした戦略から運用までを含めすべてのタッチポイントを、広義の意味でデザインできる環境は通常のデザインファームにはない機能です。他のコンサルティングファームでもなかなかできない経験だと思います。
高山 大袈裟に聞こえるかも知れませんが、本気で世の中を変えていこうと思っている人が私たちのチームには集まっています。
 デザインを武器に、世の中に優れたプロダクトを生み出し社会を変えたい、そんな志を本気で持っているメンバーが多い。
 かつての私のように、社会にインパクトを残すようなデザインがしたい、プロダクトをつくりたいという志はあっても、上流工程、あるいは下流工程のみの参加しかできなかったり、実現までには至らなかったりと、もどかしさを感じている方もいるはず。
 デザインコンサルタントは、そういう方にこそピッタリなキャリアだと思います。
 インタラクティブは、一般的な外資系コンサルタントのイメージとはちょっと違う雰囲気があるかも知れません。
 非常にクリエイティブだし情熱や本質的な追求をとても大事にしているチーム。少しでも興味を持っていただけた方には、一度お話しできると嬉しく思います。