2021/6/23

【平均90日】アビームの男性育休取得率が4.5倍に伸びたワケ

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Power of Diversity(多様な個人の尊重)
 こんな経営理念を掲げるのは、日本発のグローバルコンサルティングファームであるアビームコンサルティングだ。
 同社のダイバーシティ&インクルージョンは、まさに有言実行。2021年3月中を目標に掲げていた「管理職における女性比率12%」を2019年に前倒しで達成し、2021年4月現在、その比率は14.4%に到達。男性の育休取得率も34.3%と、厚生労働省が発表する7.48%よりも圧倒的に高い。
 その実現にはどのような施策があり、思想があるのか。同社CWO(Chief Workstyle Innovation Officer)の岩井かおり氏に聞いた。
多くの企業が多様性を重視し、あらゆる施策や制度を取り入れている。
しかし、たとえばビジネスシーンにおいて、目の前の“平等な機会”に躊躇する女性がいるのはなぜだろうか?
職場や生活のなかに潜む課題に向き合い、多様性の先──インクルージョン実現に向けたアクションを考える特集「Beyond Diversity」をお届けします。
INDEX
  • 改革を推進する“100人超の有志”
  • 女性管理職比率12%、男性育休取得率34.3%までの道のり
  • 相容れない意見があるのも多様性
  • いつでも「望む働き方」を切り拓いてもらえるように

改革を推進する“100人超の有志”

──アビームコンサルティングは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組みで、何を実現したいと考えていますか?
岩井 目指しているのは、ダイバーシティそのものを私たちの強みに変えていくことです。
 クライアントのニーズは時代とともに常に変化し、多様化し続けています。そして、その変化のスピードはこれまで以上に加速している。
 そのニーズにスピーディーに応え続けるには、一人ひとりがさまざまな視点や経験を取り込むこと、そしてチームが多様な人材で構成されていることが欠かせません。
 個人とチーム双方の多様性を尊重し、その結果としてクライアントへの提供価値が最大化するよう、全社一丸となってD&I施策に取り組んでいます。
 もう一つ重要なのは、D&Iは私たちの働き方改革「Business Athlete(ビジネス界のアスリート)」の一部である点です。
──Business Athlete、ですか。
 私たちの働き方改革は、社員一人ひとりが生き生きと働き、そのうえで、個人でもチームでもパフォーマンスを最大限発揮できる環境が重要だと考えています。
 単に働きやすい環境を作るだけでなく、しっかり成果にこだわりたい。そんな姿を表現できる言葉として選ばれたのが「アスリート」でした。ストイックに自分自身を高める「ビジネス界のアスリート」でありたいと考え、経営戦略としてこの活動に取り組んでいます。
 Business Athleteの取り組みは、「Diversity & Inclusion」「Smart Work」「Well-Being」という3つのイニシアチブで構成されています。
 社会の変化にしなやかに対応しながらクライアントへの提供価値を高め、社会の持続的成長に貢献するために、100名を超えるコンサルタントが自発的にイニシアチブに参画し、取り組みを推進しています。
 それぞれのイニシアチブにロードマップがあり、今回のテーマであるD&Iについて言えば、長く働き続けられる基盤作りから着手しています。たとえば、働く場所や時間の制約を極力なくす、育児をしながら働ける環境を整えるための制度作りなどです。
 同時に、アンコンシャス・バイアス*を取り払う活動も進めてきました。これは誰しも持っていて、完全に取り払うことは難しいもの。
 だからこそ、まずは土台作りとして全社員向けのeラーニングや管理職向けのダイバーシティマネジメント研修などを通じて、自分の中のバイアスに気づいてもらうことから始めています
*「女性は気配りができる」「男性は家事が苦手」といった、無意識に現れる偏見や思い込み。本人に悪気がなくても、周囲の行動や発言、意志決定に、ネガティブに作用してしまう
──こうした施策は「Smart Work」や「Well-Being」のイニシアチブとも連動性がありそうです。
 そうですね。全イニシアチブ横断でのリーダー会を開き、連携した施策にも取り組んでいます。
 過去には「D&I」と「Well-Being」を掛け合わせ、女性特有の健康とキャリアについて研修を行った例があります。脳科学を下地にした「Well-Being」に「Smart Work」を掛け合わせて、パフォーマンスを最大化するための時間の使い方についてセミナーを開いたことも。
 3つのイニシアチブは、どれか1つが欠けても「Business Athlete」として成り立ちません。そのため、共通メッセージを発するなど、1つの大きなイニシアチブとしての活動も意識しています。

女性管理職比率12%、男性育休取得率34.3%までの道のり

──2019年10月に女性管理職の比率12%を達成されたと伺いました。これも「Business Athlete」の成果の1つだと思いますが、どのような取り組みをされてきたのでしょうか。
 まず注力したのは、女性が長く働き続けられる土壌作りです。
 全社員の女性比率が3割ほどであることに対し、女性管理職の比率が低い。そこで育児や介護にまつわる支援制度を充実させるところから着手しました。
 次の段階が“セルフ・ブランディング”のサポートです。
 特に子育て中の女性は管理職へ昇進したい思いがあっても、自ら手を挙げづらいものです。本当にその役割が務まるのかという不安もありますし、周りから「お子さんがいるのに大丈夫?」と気を使われたりしますから。
──まさに先ほどお話のあったアンコンシャス・バイアスですね。
 はい。そこで、まずは本人の不安を取り除けるように、妊娠初期からカウンセラーにキャリア相談ができる「ワーキングマザーキャリア支援プログラム」を導入しました。
 希望するキャリアの方向性や、取り巻く環境を含めて相談しながら、「これならできる」というイメージを作ってもらおう、と思ったのです。
 イメージできれば覚悟が生まれ、自らの意志を適切に伝えられるようになります。「保育園に子どもを預けられる見通しが立ったので、この時期からこういった働き方ができます」と状況を伝えられるようになれば、周りも過度な遠慮は禁物なのだと気づけるでしょう。
 本人の覚悟も、取り巻く環境も、状況はさまざま。そうであれば、個々人に合ったフォローが、その人の力を最も引き出せるはずです。地道な取り組みですが、一人ひとりが自分らしく活躍するためには重要であり、近道はないと感じます。
──男性の育休取得率が34.3%と非常に高いのも、社内にダイバーシティが浸透してきたからでしょうか。
 はい。5年前の7.6%から比較すると、徐々に風土が醸成されてきていると感じます。
 育児において父母の立場は対等であるという考えに基づき、育児休業をはじめ、子育て支援休暇や時短勤務制度など、性別を問わず同じ制度を活用できるように設計してきました。
 もう一つ、我々コンサルティングの仕事がプロジェクト型であることも、育児休業の取りやすさに寄与していると思います。
 あらかじめ出産のタイミングを宣言すれば、プロジェクトを離れるための引き継ぎや復職を計画しやすい状況が作れます。
 ちなみに2020年度のデータでは、男性社員の育休取得日数は平均90日でした。
──約3カ月ですか! そこまで長期間の離脱になると、その後のキャリアに不安を覚える男性も少なくないのでは?
 アビームには、成果を最大化するためにチームで助け合うのが当然だというカルチャーが根づいています。それは育児休業で誰かが一時的にプロジェクトを離れる場面においても同じです。
 このチームワークの文化は、他社から転職されてきた方にはよく驚かれます。一人ひとりがお互いを尊重し、高め合いながら、プロジェクトを進めていくカルチャーは、アビームならではの強みであるとも考えています。

相容れない意見があるのも多様性

──D&I施策を設計するあたり、課題の可視化が重要かと思います。現場の声はどのように吸い上げているのでしょうか。
 現場で起きていることを知らなければ、正しい打ち手は生まれません。そこで、「Business Athlete」を始めた初年度の2017年から毎年、全社サーベイを行っています。
 アンケート結果については、フリーコメントも含めて私もすべて目を通します。そのうえで報告書と活動計画をまとめ、私たちが課題をどのように考え、それを解決するためにどういったアクションプランを進めるかを全社に配信しているのです。
 自分たちの思いだけで走らないように、現場の意見を吸い上げ、PDCAを回しながら次の施策につなげています。
──中には相容れない意見もあるのではないでしょうか?
 はい。もちろん、さまざまな意見が寄せられます。その場合も、我々の目指す姿に立ち返り、方向性を示しながらわかりやすく伝えていくよう意識しています。
 私たちが進みたい方向は、経営戦略として明確に打ち出しています。方針自体がブレることはありません。
 こうした取り組みは、ともすると数値目標の達成を目的としがちですが、数字はあくまで“手段”でしかありません。ダイバーシティを私たちの強みにする、という“目的”を見失わないことが大切だと考えています。
──ここにも多様性の尊重があるわけですね。ダイバーシティを社内に根づかせるポイントはどこにあるのでしょうか。
 ボトムアップであると同時に、経営層が強い意志を持って取り組んでいることが大きいのではないでしょうか。
 経営トップからは常々「ダイバーシティはNice to have(あれば良いもの)ではなく、Must have(あるべきもの)である」と発信していますし、全社会議でも繰り返し伝えられています。
 社員の間でも、元々ダイバーシティは「当然必要なものである」という理解はあったと思うのです。
 一方でD&Iが浸透するにつれて、自身が今まで気づいていなかった課題に直面した、という声もありました。そういった新たな視点や気づきを与える意味でも、経営層からの継続的なメッセージ発信は意義あるものだと感じています。

いつでも「望む働き方」を切り拓いてもらえるように

──岩井さんご自身がD&Iの重要性を意識したきっかけはあるのでしょうか?
 前職で第一子を出産し、育児休暇から復帰したときです。子どもが泣いてしまい、スムーズに保育園に預けられないこともありました。
 だからこそ、こういった思いを抱えながら働くからには、「お母さん頑張ってきたよ」と胸を張って言えるように、しっかり成果を出したいと思ったのです。
 一方で、周りはとても気を使ってくれる。「子どもが寂しがるから早く帰ったほうがいいよ」という心遣いをありがたく思う反面、「自分は覚悟を持って仕事をしているけれど、子どもにはつらい思いをさせてしまっているのだろうか」と葛藤を感じることもありました。
 無理はできないけれど、自らが目指すキャリアは実現していきたい。自身が望む働き方を周囲とすり合わせ、理解してもらう必要があるとそのとき実感したのです。
──まさにD&Iのプログラムでフォローされていた内容ですね。
 そうですね。単に「守ってあげよう」ではなく、「その人がどうしたいのか」を引き出せるプログラムにしたのは、私自身の体験が元になっています。
──2人目のお子さんが産まれたときは、どういった働き方をされたのでしょうか。
 第二子が産まれたのはアビーム入社後、プロジェクトマネジャーを務めていたときです。
 グローバルな舞台で活躍したい、という強い思いで入社したわけですが、子どもが小さいうちは出張には行けません。その思いを伝えて、日本にいながら海外と接点を持てる業務を任せてもらいました。
 子どもが成長すれば再び出張にも行けます。状況の変化に合わせて、やりたいことを実現する方法を変えていけばいい。もちろん大変な局面もありますが、チャレンジを続けられる点に価値があったと思います。
──組織も個人も、変化に対しての柔軟性が大切ですね。
 若手の女性社員の話を聞くと、未来のライフイベントを想像し、それを実現する前から思い悩んでいるケースが見受けられます。それが自らのキャリアの可能性を狭めている場合も多い。
 でも、すべてが計画通りに進むわけでもないですよね。
 市場も、自分を取り巻く環境も都度変わります。変化に合わせて、新しい道を切り拓けばいいし、自分から手を挙げてチャンスをつかみにいけばいい。過去の経験からそう思えたからこそ、そのサポートとなるD&Iの取り組みをこうして続けてきました。
 社員一人ひとりが、能力を最大限に発揮できることを目指して、これからもさまざまな取り組みを推進していきます。