木原麗花、和田崇彦

[東京 17日 ロイター] - 日銀前理事の前田栄治・ちばぎん総合研究所社長はロイターとのインタビューで、3月の政策点検により日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC)や資産買い入れの枠組みは「ほぼ完成形」となり、今後3年から5年は維持されるとの見通しを示した。景気が改善し物価上昇率が1%に近づけば2%目標が達成されなくてもマイナス金利を撤廃し、短期金利の操作目標をゼロ%近辺に引き上げる可能性があると述べた。ただ、その場合でも、極端な金融緩和から「サステナブル(持続可能な)緩和」への移行に過ぎず、金融政策の正常化とは異なると強調した。

日銀は政策点検で上場投資信託(ETF)の買い入れを柔軟化するなど、金融緩和の持続性・有効性を強化するための措置を導入した。前田氏は一連の措置について「黒田総裁後の政策もある程度意識したものだろう」と指摘。日銀が2013年の異次元緩和導入以降の政策運営やコロナ対応の「経験から学び、良いことを取り入れた集大成」と評価した。今後、YCCの枠内で金利を変動させることはあっても、枠組み自体は「最低でも3年、場合によっては5年くらい続くかもしれない」との見方を示した。

前田氏は、現行の長短金利水準が長期間にわたって維持されると、金融仲介機能の停滞や資産価格などの行き過ぎにつながる恐れがあると指摘。「いずれ景気が良くなり、物価も1%に近づいてくる状態になった際、マイナス金利と10年金利目標ゼロ%が最適なバランスの金融緩和なのか議論すべきだ」と述べ、短期政策金利の引き上げや、資産買い入れの停止といった政策修正の議論が開始される可能性が「(今から)2年後以降にはあり得る」との見通しを示した。

もっとも、実際に短期金利を引き上げるとしても「せいぜい0―0.5%までではないか」とみており、2―3%を目指して継続的に利上げする金融政策の正常化ではなく「異次元緩和からサステナブル緩和に移行するに過ぎない」と述べた。

長期金利目標については、誘導の対象を現在の10年から5年に短期化する可能性はあるが、拡張的な財政政策を金利の安定化によって支える必要性から、長期金利の誘導目標をなくすなど「いきなり(長期金利から)手を離すことはできないのではないか」との見方を示した。

前田氏は、日本では大きなインフレショックがない限り5―10年単位でも2%の物価目標実現は「相当難しい」と話す。2%の看板を下ろす必要はないが、サステナブル緩和への移行の際は「2%の物価目標をどう考えるのか、検証する必要がある」と述べ、「きわめて長い目標として2%を目指しつつ、経済金融の安定を図るよう、総合判断しながら現実的・柔軟に対応するべき」とした。

ポストコロナの政策運営を展望した際、問題になるのは金融・財政政策の対応余地だが、前田氏は「ともにかなり使い切ってしまった」と指摘。今後はどちらかが主役を担うというより「協調してポリシーミックスしていくことが重要」と述べた。

日銀による追加緩和は「急激な円高やなど金融経済の劇的な変化がない限りないだろう」と指摘した。ただ、仮にマイナス金利を深掘りする際はマイナス0.5%程度まで大きく下げ、併せて「(プラス0.5%といった)思い切った付利も実施する可能性がある」と述べた。

グリーン化やデジタル化に資する資金供給やグリーンボンドの買い入れなども、将来的な選択肢として「あり得る」としつつも、あくまで日本経済の成長力強化のための手段として検討されるべきと指摘した。そうした措置を日銀は「温存したいと思うだろうし、(導入は)しばらくはないだろう」とも述べた。

前田氏は2016年5月から20年5月まで日銀の理事を務めていた。18年3月以降は、金融政策の企画・立案を担当する企画局を担当した。

インタビューは16日に実施しました。