Ju-min Park

[東京 9日 ロイター] - 東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会がマラソン競技の開催地を東京から北海道札幌市に突然変更したのは、東京の真夏の酷暑に懸念が出ていたためだ。

この決定は2年後の今になって、さらに複雑な問題を生み出している。

札幌には現在、新型コロナウイルス感染の再拡大で緊急事態宣言が発令されている。

札幌市の当局者によれば、おおよそ何人の選手が札幌を訪れるのか、医療施設の体制はどうなるのか、まだ重要な情報が把握できていないという。同時に、地元住民からの反対の声は日増しに大きくなっている。

開会まで2カ月を切った今、札幌を中心都市として抱える北海道では、人口あたりの感染者数が国内で2番目に高く、東京よりも約43%多くなっている。北海道の約3分の2の新規感染者が、人口200万人弱の札幌に集中している。

ただでさえ医療体制が逼迫する中で、現地当局者と住民は、大勢の選手とサポートスタッフが集まることに神経をとがらせている。

札幌市で東京オリンピック・パラリンピック担当課長を務める奥木貴史氏によると、札幌市の当局者らは、感染が確認された参加者の治療にはどの病院が指定されるのかなどの必須情報を複数回、組織委員会に求めているという。

「(組織委員会からは)決まってないとか、今後検討するという答えが多い」と奥木氏は語る。「例えば選手が入院しなければならなくなったらどうするか、症状が軽い場合は検査をどうやってどこのホテルに入れるかといったことを詰める必要があるが、まだ詳細は決まっていない。その辺がはっきりしないと、札幌市の医療体制にどれぐらい影響があるのか分からない」

大会組織委員会はロイターの取材に対し、札幌で行われるマラソンと競歩には計340人の選手が参加する予定だが、スタッフや関係者の総員は現在調整中と回答。札幌市や北海道庁の担当者とは4-6週間ごとに実務者会議を開いており、明確かつ丁寧なコミュニケーションを通じて、地元の理解と支持を得たいとメールで述べた。

札幌市では5月に、テスト大会としてハーフマラソン大会が開催された。海外からの選手6人を含む参加者は全員、当日までの1週間は体温の記録と健康に関するアンケートに答えることが求められた。

すでに感染者数が増えていたため、主催者らは人々に観戦を自粛するよう呼びかけた。スタッフはマスクをつけ、一部はフェースシールドと手袋も着用した。

世界陸連のセバスチャン・コー会長は、このレース運営と新型コロナウイルス対策の両面を高く評価した。

大会組織委は、海外客の受け入れをしないことをすでに決めているが、国内からの観客を入れるのかはまだ発表されていない。

奥木氏は、これでは札幌も計画が立てられないと語る。札幌市では7月21日から8月8日にかけて、五輪のサッカー、競歩、マラソン競技が開催される予定だ。

<地元住民の反対>

かつて1972年に冬季五輪を主催した札幌だが、その時と比べ、市民は地元での夏季五輪をそこまで歓迎していないようだ。

今週、道内の市民団体十数組が、マラソンその他の競技を道内で行うことを中止するよう道知事に求める要望書を提出した。

「病床も足りていない。北海道の医療体制はすでに崩壊しつつある」と語るのは、そのうち1つの要望書の共同代表で、北海道がんセンター名誉院長を務める西尾正道医師。

北海道庁の五輪対応担当者は、市民の安全が最優先だと同意したうえで、札幌を訪問する参加人数等の推計値なしに開催期間中の感染リスクを評価することは難しいと話し、大会主催者により詳細な情報の提供を求めた。

西尾氏は、新型コロナで病床が埋まっているため、それ以外の重い疾患を抱える人々が迅速な手当てを受けられていないと指摘する。

「なぜここで五輪競技をやらなければならないのか。五輪後に新型コロナで亡くなる人が出たら、責任の取りようがない。政府は私たちの命を何だと思っているのか」

(翻訳:エァクレーレン)