2021/6/9

【市場突破】大企業がこぞって導入を決める「ノーコードAIチャットボット」を知っているか

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 近年、テクノロジーの進化とともに、カスタマーサポートや社内ヘルプデスクに「AIチャットボット(チャット×ロボット)」の活用が進んでいる。
 これまで人が担当してきた対応をチャットボットが成り代わることで24時間・365日のサポートが可能になるうえ、人員コストや工数の削減、対話を通じたデータ分析、顧客とのコミュニケーション機会を増やせるなど、ユーザー・企業の双方にとって数多くのメリットがある。
 しかし、チャットボットの対応クオリティには、サービスによって大きな差が生じているのも現実だ。読者の中にも、杓子定規な回答にイライラしたり、有人対応への切り替えを求めたりした経験を持つ人も少なくないだろう。
 顧客の要望に的確に応えるだけでなく、その背後にある想いや真のニーズまでをくみ取り手厚いサービスを届ける “コンシェルジュ”のような存在へ。
 サービスの理想像を社名に掲げる株式会社コンシェルジュのCEO太田匠吾氏は、「ロボットがここまでできるのか、とユーザーが驚くような感動体験を実現するのが当社の使命」と意気込む。
  国内の対話型AIシステムの市場規模は、2021年に112億円、22年には132億円に達すると予測される急成長市場(2018年、矢野経済研究所調べ)。
 コンシェルジュもその大波に乗り、売上高は約1年半で5倍へと急拡大。
 同社が手掛けるノーコードAIチャットボット「KUZEN」の導入企業数は、エンタープライズ企業を中心に150社を突破。ANAや三井不動産、東京ガス、小田急電鉄、コーセーといった名だたる大企業が名を連ねる。
 スタートアップから大手企業まで、拡大する市場のシェア獲得を狙う競合サービスが割拠する中で、なぜコンシェルジュの「KUZEN」が選ばれているのか。
 チャットボット市場の中でも独自ポジションを確立しつつある同社の強みと戦略を、太田氏に聞いた。

顧客を熟知するベテラン店員のような対応が可能に

──御社がチャットボット事業に乗り出した2016年は、FacebookやLINEがボット開発のAPIを公開し、まさに「チャットボット元年」と呼ばれたタイミング。この5年間で市場はどのように変化してきましたか。
太田 サービス提供当初はチャットボットに対してはもちろん、AIへの理解も現在ほど浸透していませんでした。そのため、商談の場でも「そもそもAIとは何か」に説明の大半を割くことも多かったですね。
 AIチャットボットに興味を示す企業でも、実際にどんなことができるのかを具体的にイメージすることは難しく、まずはトライしながら学んでいこうという姿勢の企業が多かった。それでも実際に運用をはじめてみると、ぼんやりしていたチャットボットの可能性や課題が見えてくるものです。
東京大学大学院農学生命工学研究科修了。大学院時代に東京大学アントレプレナー道場1期生にて優秀賞受賞。JPモルガン証券投資銀行本部にてM&Aアドバイザリー業務に従事したのち、産業革新機構にて多数のビッグデータ解析・人工知能スタートアップ企業へのVC投資を経験。日本発の人工知能領域でのグローバルスタートアップの可能性を感じ、2016年株式会社コンシェルジュ代表取締役CEOに就任。
 現在は顧客となる企業と当社のようなベンダーが、チャットボットを使ってどんなことを実現したいのか、そのためにどんなハードルを越える必要があるのかを、本格的に模索し始めるフェーズに入ったと感じています。
──今、市場にはたくさんのチャットボットサービスがありますが、「KUZEN」ではどんなことができるのですか。
 チャットボットは本来、ユーザーとロボットがチャット上で発言を繰り返す“対話の自動化”のしくみです。
 主にカスタマーサポートや社内ヘルプデスクといった用途で使われることが多く、ユーザーが問い合わせ内容をチャットに入力するとロボットが回答します。
 その種類を大きく分けると2つ。事前に作成したシナリオに沿って会話を進める「フロー型」と、ユーザーからの質問に合わせてAIが回答する「1問1答型」です。
 当社のようにAIを搭載するチャットボットの場合、ユーザーの発言やさまざまなデータを学習し、応答の精度をどんどん高めていくことが可能になります。
 KUZENの強みのひとつは、ユーザーからの問いかけに対応するだけではなく、ロボットの側から話しかけたり提案したりできることです。
 たとえば、ユーザーがあるアパレルECサイトを訪れたときに、「2日前に黒いジャケットの商品情報を見ていたお客様がまた来たぞ」とチャットボットが判断し、「再訪いただきありがとうございます」と話しかけたり、以前閲覧した洋服と似たテイストの服を勧めたりすることができます。
 企業が持つさまざまなデータや外部システムとの連携も可能なので、たとえばそのユーザーがECサイトの会員であれば、閲覧履歴だけでなく購買履歴のデータも参照し、よりその人の好みに合った商品をリコメンドすることも可能です。
──リピーターの好みを覚えている優秀なアパレル店員のような動きができるのですね。
 はい。会員情報にそって誕生日にバースデークーポンをプレゼントしたり、お住まいの地域限定の情報を送ったりもできます。
 ターゲットが法人であれば、その企業の事業内容や従業員数などのデータを参照し、類似企業の事例を提示することも可能です。
 初期のチャットボットは、匿名のままでのやり取りを想定したものが多かったのですが、我々はユーザーに合った情報を個別に提供するしくみが絶対に必要だという信念のもと、データを活用した精度の高い対話に徹底的にこだわって開発を重ねてきました

ユーザーの理想からスタートした「KUZEN」が目指す世界

──匿名で展開するQ&Aでは、広がりがないということでしょうか。
 シンプルな一問一答型は、多くの人から同じような質問が寄せられるケースでは有効ですし、導入コストも安価なので一定のニーズはあります。もちろん、否定するものではありません。
 しかし、KUZENは、当初からそれらとはまったく異なる思想から生まれているんです。
 私たちが志向するのは、ユーザーのことを深く理解し、ホスピタリティの高い対応ができるコンシェルジュのような存在。
 たとえば、旅行会社のウェブサイトでツアーの検索から予約までをチャットボットで完結しようとする場合、単純な一問一答ではユーザーの目的を叶えることは困難です。
「1か月後に北海道に行きたい」という方に、「人数は?」「どんな宿泊施設を希望されますか?」といった質問を重ねていくことはできても、すべての希望に合う提案をするには、これらの応答をロボットが記憶し蓄積したうえで、最適なツアーを抽出する必要があるからです。
 また、希望通りのツアーを導き出せたとしても、その日程で空きがなければまったく意味がありません。
 予約可能なツアーを提案するためには、ホテルや航空券などの予約データと接続し、リアルタイムで情報を反映していく必要があるので、背後ではかなり高度な処理が求められます。
──チャットボットでそんなことまでできるとは驚きです。しかしこうした高度な機能を持たせるとなると、顧客企業が持つ商品情報はもちろん、顧客情報にも接続する必要があります。繊細な情報を扱うプラットフォームのベンダーとしてスタートアップを選ぶのは、顧客企業にとってもハードルが高そうに感じます。
 採用を決めていただいた際に先方の担当者から、「社内の説得が本当に大変でした」と言われることは実際よくありますね(苦笑)。
 なにしろ当社のお客様は大企業が多く、誰もが名前を知っている大手のSIerを含めた複数社と比較検討されますから。
 セキュリティや機能面がどんなに優れていても、スタートアップは不安だという意見が一定数出ることは理解できます。

自由自在にシナリオを構築できる「ノーコード」の強み

──そうした向かい風を受けながらも、KUZENが数多くのエンタープライズ企業から選ばれてきた「決め手」はどこにありますか。
 顧客側で自由にカスタマイズができ、何度でも応答のシナリオを調整できるノーコードのしくみが評価されているのだと思います。
 従来の納品型の製品開発の場合、事前に綿密に要件定義をして、それに沿ってシステムを完成させるのが一般的です。この場合、実際に運用してみた結果、顧客側が仕様変更や微調整をしたいと希望したときにやっかいな問題が生じます。
 SIerがエンドクライアントに対し、プロダクトになんらかの変更を加えられる管理画面を解放することは基本的にはありえないので、SIerに変更を依頼して同じプロセスを踏まなければならないのです。
 要するに、修正を加えるたびに多くの時間とコストがかかるため、よほど大きな問題でない限り変更できないことになります。そうなれば当然、要件定義を完璧にしておく必要があるため、導入までには時間がかかります。
 一方、KUZENは根本的な発想としくみがまったく異なります。
 顧客の用途や目的に応じてこちらで設計したものを納品するまでは同じですが、顧客側で変更が必要だと感じたら、我々に依頼しなくても企業の担当者の方がどんどんシナリオ変更することができるようなしくみを備えています。
 実際にチャットボットを運用してみてはじめて気づくことは多いでしょう。
 その都度社内で議論してもらい、チャットボットにどんな反応をさせるのか、それで顧客はどう反応するか、いろいろ試行錯誤しながら運用してもらうことを前提にしているんです。
──確かに、チャットボットが相手をするのは人ですから、想定外の反応も多いでしょう。
 まだまだ新しい分野なので、みなさん手探りで正解を探している状態です。だったらそれを前提に、チャットボットも手探りで最適化していくしかありません。
 メールでの問い合わせであれば、「2営業日以内に返信いたします」で通用するかもしれませんが、チャットというインターフェースには高いリアルタイム性が求められます。
 ユーザーは2秒で正しい答えが返ってくることを期待している以上、スピーディーに応答を最適化できる環境が必要です。
 現代のウェブマーケティングでは、広告のABテストをしたり、顧客の反応をリアルタイムで見たりしながら臨機応変に運用されているのに、チャットだけが柔軟な対応ができないのでは商機を逃してしまいます。
 新しい要望が出てきたときに、エンジニアでなくても、担当者レベルでシナリオを設計できるノーコードのしくみは、開発時からずっと掲げてきた目標でした。

問い合わせ対応にとどまらないチャットボットの可能性とは

──技術者がいない現場でもこうした柔軟な対応ができたら、カスタマーサポートやインサイドセールスはかなり自動化が進みそうです。
 今、チャットボットは問い合わせ対応やインサイドセールスでの活用のイメージが強いのですが、その可能性はもっと広いと思っています。
 実はKUZENを第一号で導入してくれたのは、ラジオ局のニッポン放送なんです。
 オールナイトニッポンのウェブラジオで、パーソナリティーをキャラクター化したLINEのチャットボットで、リスナーとコミュニケーションできるしくみでした。
 たとえば放送内で出題されたクイズにリスナーがLINEで回答すると、正解した人だけに電話番号が返答され、パーソナリティーと直接話せるんです。
──リアルタイム性の高い、今どきのコミュニケーションですね。
 友達とLINEするようにコミュニケーションが取れたことで、投稿数が一気に増えたそうです。プッシュ配信をすると100件、200件の返事がすぐに集まるように。
 ほかにも、配信が始まるタイミングで「今から始まるよ」とメッセージを配信したり、リスナーがラジオネームを登録してメッセージを投稿できたり、過去音源の検索や聴取もLINE上でできるしくみでした。
 また、直近の事例では、人材エージェントと候補者の面談日程の調整に使われています。
 まず候補者の都合を聞いて、社内担当者のスケジュールデータと突き合わせて調整していくわけですが、エージェント側からすれば単純に最短の日程から設定するのではなく、候補者によって優先順位をつけたいという本音があります。
 そこでAIが候補者の転職意向度やスキル、市場ニーズを判定し優先度をつけたうえで、優先度の高い候補者から早い面談を設定し、そうではない人には余裕を持った日程で予定を組んでいきます。
 もちろんこれは、インサイドセールスにも応用可能で、ホットな見込み客を優先し商談を組むこともできますね。

これからの戦いには、もっと「仲間」が必要だ

──そんなことまでできるのですね。ここまでのプロダクトを作り上げるまでの道のりは、相当険しかったのではないでしょうか。
 振り返れば、ただひたすら“ものづくり”に徹し、経営リソースのほとんどをプロダクト開発に注いできました。
 だからこそ、胸を張れるサービスを生み出すことができたと自負しています。
 ただ、開発以外の面には手が回らず、多くの商機を逃してきた反省もあります。
 どんなに良いプロダクトでも、知っていただかなければ選択肢に加えてもらうことすらできない。今後はより認知度を高め、拡大するフェーズに移行したいと考えています。
 そのための課題は採用です。今いる40人のメンバーのうち、30人をエンジニアが占めており、残り10人でカスタマーサクセスとセールスを担っています。マーケティングに関しては、ほとんど手を付けられていない状況です。
 プロダクトをさらに進化させていくための開発はもちろんですが、これまで手薄だったビジネス部門を充実させていくことが急務。ここを担っていただくスタッフやカスタマーサクセスを統括できるマネージャークラスの方を、積極募集しています。
 我々は、自身をSaaS企業と定義していますが、SaaSはチーム競技です。お客様に対し、価値を継続して伝え、プロダクトに満足し続けていただかないと、その会社の存在価値はありません。
 これって組織の運営とも、けっこう近いと思うんです。つまり、採用して、オンボーディングして、実際に働いていただくなかで、「ここにいて良かった」「ここであれば自分が成長できる」と満足してもらえないと、本人も輝けないし、最終的には離れてしまう。
 自分たちが幸せじゃないと、お客様に幸せの提供なんてできないんじゃないかな、と。私は経営者として、その幸せを作るための努力を続ける必要があると思っています。
──企業の生産性向上は日本の急務です。高品質なチャットボットが普及すれば、企業の人的コストがかなり削減できそうです。
 もちろん、労働力不足や生産性の問題を解決したいという企業のニーズに応えることは重視しています。
 ただその一方で、人の代わりに仕事をさばくだけのロボットで終わりたくないという強い思いもあります。
 たとえば、社内ヘルプデスクに「座席表はどこ?」と問いかけてくる人に座席表を提示することは簡単ですが、座席表を探している人は社内の誰かに会いたいとか、その人と相談して解決したい問題を抱えているなど、別の本質的なニーズを持っているはずです。
 だったら、座席表を見せるだけでなく、どうしたらその人に会えるのか、どうしたらその問題の答えが見つかるかといったことまで力になれるチャットボットでありたい。
 創業時、どんなビジネスに挑戦していくかについて共同創業者の白倉弘太と時間をかけて議論を重ねました。一度ピボットも経験し、実はKUZENは二度目の挑戦になります。
 AIチャットボットを次のテーマに選んだのは、「人生を懸けたチャレンジができる」と思ったから。難しい領域ですが、うまく発展させることができれば社会の発展に大きく貢献できる。
 我々のミッションは、「対話を自動化して世界を変える」です。
 日本発のグローバルSaaSとして、海外への挑戦も将来的には視野に入れています。せっかくチャレンジするなら、大きな目標に挑み続けたい。
 KUZENを通して、質問の背後にある大小さまざまな課題を解決し、人々の願いを叶えるプロダクトを提供することこそが、“コンシェルジュ”と名乗る私たちの価値だと考えています。
※株式会社コンシェルジュは、ユーザベースグループのUB Ventures の投資先です。