[フランクフルト 28日 ロイター] - スイスの大手銀行、クレディ・スイスでの不祥事が相次ぎ、当局の怒りを買っている。スイスの銀行監督制度は自由放任主義で、銀行上層部の処罰はほとんど想定されてこなかったが、今回の事態をきっかけに見直しの議論が始まろうとしている。

クレディ・スイスはファミリーオフィス、アルケゴス・キャピタル・マネジメントに関連して巨額の損失を出したほか、破綻した英グリーンシル・キャピタルを巡り、顧客の投資資金数十億ドルに壊滅的な打撃をもたらした。

これを機にスイス国内では、銀行監督改革についての議論が金融危機以降で最大の盛り上がりを見せている。焦点は、英国の厳しい法規制を見習って自由放任体制を終わらせるかどうかだ。

スイス議会のゲアハルト・アンドレー議員(緑の党)は「銀行幹部らは行動の責任を取らない。なぜなら、その必要がないからだ。経営を誤っても、これといった制裁(を科す法規制)が存在しない」と話す。

アンドレー氏は、クレディ・スイスの一連の不祥事が「スイスの評判を傷つけた」とし、英国の大胆な制度をお手本に「問題が起こった際には幹部に責任を負わせる」改革を提案したと明かした。提案は、数日中にスイス議会で審議される予定だ。

スイスの法規制では、銀行幹部が直接不正行為に関与していない限り、幹部に制裁を科すことができない。一般的に経営管理を誤っただけでは処罰できないため、スイス金融市場調査局(FINMA)はこれまで幹部の責任を問うことが難しかった。

一連の不祥事を受け、FINMA幹部らは怒りを抱いている。FINMA広報はロイターに対し「個人の責任に関する問題」の「最適化」についての議論を歓迎すると述べ、他国の金融センターは「スイスよりもずっと厳しい」と指摘した。

クレディ・スイスは150億ドル余りの損失を計上し、複数の不祥事で制裁金を科されたにもかかわらず、FINMAは同行の制御に苦心してきた。また、不満を抱いた株主が、今年の任期終了前にウルス・ローナー会長を更迭することもできなかった。

同行は近年、アルケゴスやグリーンシルの問題のほか、前CEOの退任につながった内偵スキャンダルや、モザンビークを債務危機に陥れた同国への融資といった不祥事にも直面した。

弁護士のモニカ・ロース氏は、スイスの裁判所で銀行株主が取締役の過失を追求しようとすると、法外な費用がかかると説明。監督当局が取締役から報酬を回収できるような制度も必要だと述べた。

ただ、制度改革は抵抗に遭うと予想される。スイス銀行協会は、銀行の監督体制には「バランスが良く」頑健であり、改正する場合にはスイスの銀行システムの「特異性」を考慮に入れるべきだと主張している。

スイス開発組織連盟のドミニク・グロス氏は、スイス議会の議員は改革に「二の足を踏む」と予想する。「強力な金融センターは腕時計やチョコレート同様、スイスの一部だという共通理解がある。国民の大半は、そこから来るお金の恩恵を受けている」と語った。

(John O'Donnell記者、Brenna Hughes Neghaiwi記者)