昨今、コミュニティとも呼ばれる新しいステークホルダーの創出・活用の重要性は多くの場で語られてきたが、成功例はまだ少ない

いまだ正解が確立されていないコミュニティの創出・活用において、成功の確率を上げるには、先駆者に話を伺うのが一番早い。そこで2021年4月14日、日本一のメンバー数を誇る「西野亮廣エンタメ研究所」を運営する西野亮廣氏を招き、コミュニティのあり方について伺うイベントを開催。

主催は、睡眠領域に特化した共創コミュニティ「SLEEP LAB.com」。最先端の睡眠医学とIT技術を用いて人々の睡眠に革命を起こすべく、様々なサービスを展開しているブレインスリープと、ユーザー共創型の新商品開発支援サービスを展開するNewsPicks Creationsとが一緒に立ち上げたコミュニティだ。

イベント申込総数は1678名にのぼり、改めてコミュニティづくりへの関心の高さがうかがえた。本記事では、イベントの様子を前後編の2回に分けてお届けする。後編では、イベントプログラムの第2部「共創×コミュニティ」をテーマに行ったディスカッションの様子を中心にお届け。西野氏と一緒に、コミュニティの真価について考えた

1社では実現不可なスピードとクオリティを求めて

第2部の冒頭、睡眠に関する共創コミュニティSLEEP LAB.comコミュニティマネージャーの藤平直樹氏が改めて、SLEEP LAB.comに込めた想いを語った。
藤平 SLEEP LAB.comは「ヒトと社会とビジネスに、一流の睡眠を」を掲げており、睡眠事業に興味のある企業や人が、意見交換・アイディエーションを通じて新しい価値を世の中に発信していく場所です。1人では難しいことも、コミュニティメンバーと一緒ならできることもあると思っています。
第2部では、第1部から引き続き西野亮廣氏をゲストに迎え、さらに実際にブレインスリープとの「共創」に挑戦しており、SLEEP LAB.comと共に睡眠課題を解決すべく新たな顧客サービスを模索中である3名の企業担当者を招いた。
それぞれ、NTT東日本の睡眠事業プロジェクトリーダー尾形哲平氏、cado代表取締役社長CEOの古賀宣行氏、西武ホールディングス 経営企画本部 西武ラボ部長の田中健司氏。各社と共創プロジェクトを手がけるブレインスリープ代表取締役の道端孝助氏も登壇。ファシリテーションは1部に引き続き、NewsPicksの久川桃子氏が担当した。
初めにブレインスリープ代表取締役の道端孝助氏に共創の魅力を聞いた。
ブレインスリープ代表取締役 道端孝助氏
道端 自社だけで取り組むよりも、短時間でインパクトのある商品やサービスを開発できるところです。
我々は立ち上げ2年目のベンチャーでして、まだまだ自分達だけで何かをつくるのには時間がかかってしまいます。そこで今日ご登壇いただいている3社のような、すでに技術やノウハウのある会社さまと組むことでよりスピーディーに世の中にサービスを提供できるようになると考えました。
睡眠は「睡眠×○○」と掛け算のしやすい分野でもあります。今後も、まだまだ未開拓な領域の多いこの分野で、共創を通じて新しい商品やサービスの開発を行なっていきたいです。

仮眠に注目、睡眠のコンサルサービス模索 ×NTT東日本

続いて、各社がどんな共創プロジェクトに取り組んでいるのか、それぞれお話を伺った。まずはNTT東日本の尾形哲平氏。
NTT東日本 尾形哲平氏
尾形 我々は端的に言うと、睡眠事業のコンサルティングサービスの開発に挑戦しています。現状、企業が睡眠のプロダクトをつくりたいと考えたとき、プロダクトの効果を測定するのは難しく、その仕組みをブレインスリープさまと協力しながらつくっているところです。
そもそも、我々が睡眠事業に取り組むきっかけになったのは、新規事業立ち上げのアイデアを話し合っていたとき、業務パフォーマンスをあげる有効な手段に「仮眠」があるのでは、という意見が出てきたことでした。
共創に取り組むなかで、睡眠領域の可能性を非常に感じています。我々は元々通信事業者で、国内でのサービス提供がメインです。しかし、睡眠という武器を持った瞬間に市場が世界に広がるのでスケールが見込めます。そこまで見据えて、サービスをつくりたいと考えています。
西野 仮眠に注目したのは面白いですね。
尾形 ありがとうございます。一般的に仮眠時間は15〜20分が良いと言われていますが、最適な時間には個人差があると思っています。ITを駆使してバイタルサインを取得し、覚醒するタイミングで起こしてあげられれば、仮眠後の集中力はさらに高まるのではと考えています。
NTT東日本考案の仮眠前提のデスク「zzZONE」試作モデル
西野 めっちゃいいですね。オフィスで仮眠って本来できないものですが、眠いなか仕事するってどう考えたってコスパが悪い。そこに、仮眠前提のデスクがあれば、気兼ねなく寝られます。
道端 すでにデモ機があるのですが、仕事をしている雰囲気を出しながら寝られるのが良い所だと感じました。仮眠室があったとしてもそこに入るのに罪悪感を感じる人も結構多いと思います。その点、このデスクなら気兼ねなく仮眠をとれ、パフォーマンスを上げやすいのかなと思います。

最高の睡眠を実現できる家電を創りたい ×cado

続いて、cado代表取締役社長CEO古賀宣行氏が自社の共創プロジェクトについて説明した。
cado代表取締役社長CEO 古賀宣行氏
古賀 cadoは空気をデザインするというコンセプトで、空気清浄機や加湿器の開発・販売を行なっていますが、今回新たに、眠りをテーマにした睡眠家電ビジネスを挑戦したいと考えています。
きっかけはブレインスリープさんとの出会いで、とくに道端さんから睡眠の大事さを伺ったことが大きかったです。我々が長年研究してきた技術が睡眠にも通ずるなと感じ、それならやろうと。
現在は、ブレインスリープさんと一緒に商品の企画を行なっているところです。まだ構想段階ではありますが、今考えているのは「光」「香り」「音」 の3つをうまく組み合わせて最高の睡眠を実現できる商品をつくることです。深い眠りをスムーズに実現し、さらに心地よい目覚めまでアシストする商品を予定しています。
構想中の商品イメージ
西野 深い眠りに入る「音」の正解はあるのでしょうか?
古賀 そこはまさにこれから、ブレインスリープさんがお持ちのデータやノウハウを活用しながらつくっていきたいと思っています。
道端 目覚まし時計と言うと、不快な音で起こされるイメージがありますが、朝になるにつれ適切なタイミングで光が照射され、香りが出てきて、最後に気持ち良い音が流れると気持ちよく目覚められそうですよね。音で起こす前に、いろんな感覚を刺激してスムーズな覚醒へと導く。今後挑戦したいことです。

宿泊プラン「グッドスリープ」提供中 ×西武ホールディングス

西武ホールディングス経営企画本部西武ラボ部長の田中健司氏も、挑戦する共創プロジェクトについて説明した。
西武ホールディングス 経営企画本部 西武ラボ部長 田中健司氏
田中 西武ホールディングスでは既にブレインスリープさんとの共創企画第1弾ということで、地下鉄南北線永田町駅直結の宿泊施設「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」にて、睡眠に関するプロダクトをふんだんに盛り込んだブレインスリープメソッドに基づいた睡眠をご体感いただく「グッドスリープ」という宿泊プランの提供を既に開始しています。
具体的には、ブレインスリープさんがプロデュースされているブレインスリープピロー(枕)やcadoさんの加湿器などを設置したお部屋にお泊りいただける宿泊プランです。
西武ホールディングスではコロナ流行前から睡眠に注目していて、グループ会社のプロ野球球団「埼玉西武ライオンズ」の選手の成績と睡眠の相関関係についても調べるチャレンジをしていました。ブレインスリープ代表取締役兼、最高研究顧問であり、スタンフォード大学教授の西野精治先生にもお話を聞きに行き、ブレインスリープさんが立ち上がる際、ご一緒させていただくことになりました。
現在は、グループ会社「プリンスホテル」の最上級ブランドのホテルにて睡眠に特化した宿泊プランをご用意していますが、今後は利用しやすい価格帯のホテルブランドでも同じようにプランを展開し、より多くのお客さまに同プランを利用いただけるようにしたいと思っています。
西野 すごいですね、1回泊まりに行きたいです!
田中 ぜひ!西武グループはホテル・レジャー事業のほか、西武鉄道をはじめとする都市沿線交通事業や不動産事業、建設事業など多種多様な事業を展開するコングロマリットですので、たとえば、ホテルで得た知見を転用し睡眠の質を高める住宅の展開や、鉄道をご利用されるお客さまへ心地よい短時間の睡眠を提供するサービスなど、睡眠をキーワードにグループ全体で横展開して新たな可能性を探りたいとも考えています。
各社の共創プロジェクトに興味深く聴き入る西野亮廣氏
道端 実は、ホテルは自宅よりも眠れないというユーザーが結構多くいらっしゃいます。それならば、むしろホテルの方が普段の睡眠ルーティンを整え、より深く眠る習慣をつけられる場所になれないか、と考えたのが本プロジェクトの背景です。
久川 今は移動が少ないですが、海外から旅行に来た方々の時差ボケを治す場所としても良さそうですね。
田中 そうですね。とにかく睡眠リズムを直したいとか、連日残業続きでしっかりお休みしたいという方が、ご自宅に帰るよりも「寝ることに集中するんだ」という目的で、プランをご利用いただけたらと思います。コロナの流行で宿泊客の足が遠のいているので、目的型の滞在プランを用意しながら業績の底上げを図りたいという狙いもあります。

熱量の高いコミュニティの継続には「ストーリー」が必要

時代に先駆け、すでにオンラインサロンやクラウドファンディングを活用して共創を行なってきた西野氏に、どのようにして共創に行き着いたのか、実際に何を考えて共創しているのかなどを聞いた。
西野 例えば僕が田中さんと2人で絵本をつくれば、お互いに一冊ずつは買うので、最低でも2冊は売れるわけですよね。ということは3人でつくれば3冊売れますし、10人でつくれば10冊売れます。足していって10万人でつくれば、10万冊売れる。要するに、つくり手はそのまま消費者になるので、お客さんを増やすというよりは、つくり手を増やした方が最終的に絵本は多くの人に届くと考えたのです。
だから、僕は「70億人に届ける」より「70億人でつくる」にはどうすれば良いかを考え、そのための仕組みをデザインしていきました。
久川 今、いろんなところでオープンイノベーションや共創に挑戦する企業が増えています。そんななかで、西野さんみたいに継続的に、熱量を持ったコミュニティを運営するのは非常に難しいこともわかってきています。どこにポイントがあるのでしょうか?
西野 いろんなやり方があると思いますが、僕がよく言っているのは、ちゃんとストーリーをつくって伝えることが大事だということです。
オンラインサロンを例に取ると、例えば仕事がうまくいっているとき、サロンメンバーは増えません。でも、うまくいこうが失敗していようが何かに挑戦しているときは増えていきます。要するに、連載漫画と同じで、来週どうなるのか、というカードを切り続けることが、コミュニティ運営においては成功よりも価値の高いことなのです。
そのストーリーを描くことが非常に大事で、何か結果が出ればその勝ち負けまで伝えた方が良いと思います。例えば、昨年の12月25日に上映した『映画 えんとつ町のプペル』では、公開日を一番人気のあるアニメ作品と同じタイミングに設定しました。するとコミュニティ内部では「勝つか、勝たないか」という見方になり、やっぱり盛り上がりました。
今後は、企業やチームがどんな物語なら盛り上がるのかを考えられる「作家性」のようなものが求められるようになると思います。
実は今日、たまたま別の仕事で放送作家の鈴木おさむさんと同じような話をしました。例えばお笑い芸人はテレビに出始めると基本的にファンは減っていきます。認知は獲得しているわけですから、集客につながってもよさそうですが、実はファンの数自体はどんどん減っていくんです。
それはなぜか、分解していくと「ストーリーが終わってしまっている」ということに行き着きます。つまり、大きな賞レースで優勝するまでは「優勝しろ」「頑張れ」とファンは盛り上がるのですが、その後「次の旗をどこに立てるの?」と考えたとき、「レギュラー番組を1本増やす」になると、優勝を目指していたときほどの応援のしようがなくなってしまう。やっぱり常に次の旗、その次の旗をどこに立てるかが大事だと思います
久川 なるほど。道端さんに伺いたいのですが、現在SLEEP LAB.comが目指す旗は、次の商品やサービスをつくるということかと思います。そのためのコミュニティの役割は、インサイトを引き出す、が大きいのでしょうか?
道端 そうですね。目の前のつくっているサービスを更によくするために、コミュニティメンバーに使ってもらって、そのダメ出しをしてもらう、みたいなことはやりたいと思っています。
西野 なるほど、めっちゃ大事ですね!
田中 我々は今、SLEEP LAB.comの会員様向けに先ほどご紹介した宿泊プラン「グッドスリープ」をご用意させていただいています。そこで、いろんなご意見をいただき、中身を超速で変えていければいいなと思っています。

熱狂的なコミュニティを生み出す鍵は、数字の共有と役割分担

西野 さらに、コミュニティを熱狂的なものにするのであれば、「今月売り上げが下がっている」といった、数字の共有はした方が良いと思います。僕らも出すようにしているのですが「先月に比べて落ちたね」と共有すると「頑張れ」と応援してもらえたりします。
また、共創とはいえ、プロがやるところとお客様がやるところはちゃんと分け、搾取にならないよう気をつけることも、大事だと思います。
例えば、僕がエッフェル塔で個展を開催する際は「現地で設営ができる」という権利をお客さまに渡しました。夜中の貸切状態のエッフェル塔に入って、パリの夜景を一望しながら文化祭みたいにみんなで設営する経験は一生できない、ある意味「美味しい体験」です。その裏ではプロがエッフェル塔の担当者との契約のやり取りなど必要な仕事をこなします。今後プロの仕事はアテンドやフォローになってくるのかもしれません
議論が進むなか、各社から西野氏に質問が寄せられた。

共創相手と、どう協力すればいいのか?

古賀 我々はハードウェアを作るメーカーで、共創相手のブレインスリープさんとは全く違うことをしています。どのようにして協力すればいいのか、何かアドバイスいただけますか?
西野 確かに「船頭多くして...」となってはいけませんもんね。やっぱり誰か一人は、「俺がやる!」っていう人が必要だと思います。
道端 今日お話しして「これいいね」「これだめよ」という物差しが見えてきたので、今後はもっと動きやすくなる気がします。

「仮眠は悪」を打破したい

田中 先ほど仮眠の話が出ましたが、企業の中には「仮眠は悪だ」みたいな風潮はまだ根強くあるのかなと思います。何をすればそんな風潮を打破できるでしょうか?
西野 先ほどお話しにあった、仮眠しているのか働いているのか、第三者にはわからない壁をつくっちゃうというのが、言い訳にもなるし、一番良かった気がします。
久川 西野さんみたいな方が「仮眠したからパフォーマンス上がっているよ」って言ってくれることも、凝り固まった風潮を解きほぐすことにつながりそうです。

西野さん、睡眠中にどう稼ぐ?

視聴者からの「西野さんなら睡眠にどんな掛け算をしますか?」という質問に答えてもらった。
西野 実は僕、睡眠中に売り上げをつくるにはどうすればいいのか、考えたことがあります。一つ思ったのは、寝ているところをYouTubeで生配信して広告収入を生み出すこと。ただ、おっさんが寝ているところなんて誰も見たくないだろうなと思い却下にしました(笑)
次に考えたのは『映画 えんとつ町のプペル』のレイトショーに毎日行って、一番後ろの席で寝ること。「西野と一緒に見よう」という企画でお客さんが来てくれるので、僕は寝ているだけで集客できるなと。結局、コロナの流行でやりませんでしたが。

みんなでつくると、死なない

最後に、第2部全体を振り返って西野氏、道端氏にそれぞれ感想を伺った。
西野 面白かったです。睡眠に限らず、これから企業は共創していかなければ辛いんじゃないかと思いました。商品やサービスの機能だけで勝負すると、世界No.1のグローバル企業しか勝者がいなくなってしまい、そこで戦うのは難しいです。
一方で、コミュニティをつくってしまって、自分たちのサービスや商品をみんなで一緒につくると、機能で負けていたとしても死なない。コミュニティと会社というのは、もう切り離せないところまで来ているなと感じましたね。
道端 お話を伺いながら改めて、何かきれいなものができる前の、つくる過程を本気でコミュニティメンバーと一緒になって取り組むことが本当の共創なんだろうなというのを感じました。今後の方針が見えたので、今日イベントを見てくださった方々も巻き込みながら、思い描く姿を形にしていければと思います。
互いにイベントの感想を話す西野氏と道端氏
第2部終了後、最後に再びSLEEP LAB.comコミュニティマネージャーの藤平直樹氏の話でイベントは締めくくられた。
藤平 SLEEP LAB.comは、ヒトと企業が共創して睡眠における新しい価値を生み出していきたいと思っております。興味がある方はぜひご参加いただければと思います。
グッドスリープ、グッドライフ〜!
久川 以上をもちまして『SLEEP LAB.com Conference 2021、西野亮廣×西野精治、共創コミュニティで起こす睡眠革命』を終わりにいたします。それでは皆さま、おやすみなさい。
主催:SLEEP LAB. com
協賛:株式会社ブレインスリープ
(前編はこちら