Allison Martell and Euan Rocha

[7日 ロイター] - 国内の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)制圧に向けて、米国は自国のワクチン製造企業に対し、必要な国産資材への優先アクセス権を認めた。

結果として連邦政府は、大量の新型コロナウイルスワクチンの完成品だけでなく、サプライチェーン全体にわたるワクチン原材料や製造設備も抱え込むことになった。主要なサプライヤー数社を含む10数件の契約をロイターが検証し判明した。

米国の措置により、こうした原材料や設備を切実に必要としている一部の国は別の選択肢を必死で探す羽目となり、ワクチン供給が一部の国に偏った状況が一層悪化したと、サプライヤーや他国のワクチン製造企業、さらにはワクチン市場の専門家が取材に明らかにした。

バイデン米大統領は5日、新型コロナワクチンの特許放棄を支持する考えを示し、全世界的なワクチン製造のスピードアップを支援するよう政権に働きかけてきた人々に感銘を与えた。この措置が世界貿易機関(WTO)によって承認されれば、引っ張りだこになっているワクチンを他国企業も製造できるようになる。

だが特許の放棄では、ワクチン原材料と製造設備の不足が世界的に深刻化しているという、同程度に切迫しているにもかかわらずあまり注目を集めていない問題は解消されない。米国はワクチン製造に不可欠なフィルター、チューブ、シングルユースの専用バッグなど大量の資材をがっちりと抱え込んでいる。

インドなど新型コロナが猛威を振るっている国では、爆発的な感染拡大により病院や遺体安置所が飽和状態に陥っているが、仮に特許が放棄されたとしても、資材がなければワクチン製造は不可能だ。

この問題は、米国が1950年代の朝鮮戦争の際に制定した「国防生産法」(DPA)という法律に起因している。同法は、国防に関連する調達を優先させる権限を連邦機関に与えている。米軍関連の調達はもとより、自然災害などさまざまな事態に対応するために利用されてきた。

トランプ前政権は、米国で製造されるワクチンの他、今回のパンデミックへの対応に必要な製品に関して、連邦政府による調達を最優先とするためDPAを発動した。その代りにワクチン製造企業に対しては、連邦政府による命令に応じるために必要な資材全般について優先的なアクセスが認められた。

国際機関や各国政府、製薬会社などで構成される官民組織「Gaviワクチンアライアンス」は、ワクチンに対するグローバルなアクセスの拡大に向けたバイデン政権の動きを称賛している。特に評価しているのは、Gaviが世界保健機関(WHO)と共に主導している国際的なワクチン調達コンソーシアム「COVAX」を支援するため米国が40億ドル(約4350億円)の拠出を表明した点だ。

しかし、DPAに関する質問に対して、Gaviは次のように回答した。「ワクチンに対する公平なアクセスというCOVAXの目標を阻む最大の障害は、グローバルな供給が制約されていることだ。これについては、(ワクチン)原材料に関する輸出規制による部分がかなり大きく、結局のところ、パンデミックの長期化につながるだけだ」

匿名を条件に取材に応じたバイデン政権高官は、輸出規制はまったく行われておらず、米国のサプライヤーは国内のワクチン製造企業に優先的に供給した上で製品の海外出荷を続けている、と語った。この高官は、グローバルなワクチン原材料不足の原因はDPAではなく、圧倒的に需要が大きいためだと話している。

<インドの懇願>

ワクチンの原材料は、英国や中国を含め世界各国で生産されている。だが、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィックやダナハーの生命科学部門サイティバ、ポールといった代表的なサプライヤーは米国を拠点にしている。ロイターでは、ワクチン原材料や製造設備の生産に占める米国のシェアを厳密に特定することができなかった。

DPAは米国が大規模なワクチン製造体制を構築することに貢献し、米国民は安心してワクチンにアクセスできるようになり、米国の製薬会社の収益増大をもたらしている。

米国の総人口のうち約45%が、新型コロナワクチンの接種を少なくとも1回受けている。だが英オックスフォード大学が収集したデータによれば、南アフリカからグアテマラ、タイに至るまで、総人口に占めるワクチン接種済み比率が約1%、あるいはそれ以下の国は数十カ国に及ぶ。

DPAは、ワクチン製造量で世界首位のセラム・インスティチュート(インド)など、世界各国のワクチン製造企業から批判を浴びている。

セラムのアダール・プーナワラ最高経営責任者(CEO)は4月、ツイッターへの投稿で米国に対し、「我々が新型コロナに打ち勝つために本当に団結するのであれば」、米国は原材料の独占を解除するべきだと「米国外のワクチン産業を代表して」訴えた。

セラムでは、今月から米ノババックスが開発したワクチンを年間10億回分製造する予定だった。だが、同社の計画に詳しい情報提供者は、米国からの原材料供給がければ、製造量は半分以下になりそうだと語った。

セラムは原材料不足の問題についてロイターの取材に応じなかったが、困窮しているワクチン製造企業は同社だけではない。

南アフリカのワクチン製造企業バイオバック研究所も、細胞の培養に必要なバイオリアクター用バッグを米国企業から調達している。バイオバックのモレナ・マクホアナCEOはロイターの取材に対し、米国のサプライヤーから、DPAが適用されたため、バッグの納期が通常の2倍以上の14カ月になる可能性があると警告を受けたと話す。

国によっては、もっと恵まれた状況にあるワクチン製造企業もある。ブラジルのブタンタン研究所の幹部はロイターに対し、米国・英国の双方から資材を調達できていると語った。

たとえばアストラゼネカが開発したワクチンはまだ米国内での使用承認が得られていないが、米国内でこれを製造するための資材の注文は優先扱いされる。そのせいで、セラムが自国をはじめ多くの国々で使用される同ワクチンを製造しようとしても、資材が送られてくるのが遅れてしまう可能性がある。

現時点で、米国ではファイザー、モデルナ、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の3社の新型コロナワクチンが緊急使用の承認を得ている。

米国で受けている資材調達の優先扱いがグローバル規模で与える影響について、アストラゼネカからはコメントが得られず、たモデルナとJ&Jもコメントを控えた。ファイザーは米DPAには直接触れず、「世界中の人々に奉仕することをめざし、甚大な努力を重ねている」と述べた。

(翻訳:エァクレーレン)