【松山大耕】withコロナ時代に、いま「お寺」がやるべきこと

2021/4/27
「学ぶ、創る、稼ぐ」をコンセプトとする「NewsPicks NewSchool」。校長の佐々木紀彦氏がプロジェクトリーダーを務める「コンテンツプロデュース」では、コンテンツを自分たちの手で作る実践的な課題が課された。
今回、コンテンツプロデュース第2期受講生が、大きな変革期を招いたコロナ禍を生き延びるため、何千年も守り続けられる仏教にヒントを得るべく松山大耕氏を取材した。
松山氏は、禅僧としてコロナショックを受け止めながら寺を見直していた。変わることで次の百年を守る、松山氏の挑戦をインタビューする。
松山 大耕/妙心寺退蔵院副住職
1978年京都市生まれ。2003年東京大学大学院 農学生命科学研究科修了。埼玉県新座市・平林寺にて3年半の修行生活を送った後、2007年より現職。日本文化の発信・交流が高く評価され、2009年5月、観光庁 Visit Japan大使、2011年より京都市「京都観光 おもてなし大使」に任命される。2016年『日経ビジネス』誌の「次代を創る100人」に選出され、同年より「日米リーダーシッププログラム」フェローに就任。京都造形芸術大学客員教授、 2018年より米・スタンフォード大客員講師を務める。2011年には、日本の禅宗を代表してヴァチカンで前ローマ教皇に謁見、2014年には日本の若手宗教家を代表してダライ・ラマ14世と会談し、世界のさまざまな宗教家・リーダーと交流。また、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席するなど、世界各国で宗教の垣根を超えて活動中。

コロナショックによる生死への影響

コロナが発生してから1年が経過した。コロナショックはお寺にどんな変化をもたらしたのだろうか。
「2020年の3~4月は仕事が本当になくなりました。これまでは賑わい創出や集いの場と言われたお寺ですが、法事は延期、修学旅行生も来ない状況にどうしたものかと悩みました。新たな役割が見えてきたタイミングは夏くらいからですね」
全日本仏教会は2020年8月に緊急調査を実施。人々が今お寺に求めることは寄り添いとDX化であるという結果が出た。
「仏事や儀式などは今もリアルを求める人が多いですが、それを取り巻く環境、それに至るまでのプロセスをDX化してほしいという希望は多いですね。例えば、お金に触りたくないのでキャッシュレスでお布施を払いたいとか、今までは電話やFAXを使っていた法事の予約をオンライン化してほしいとか。
ただそんなものはさっさと導入すればよいので大した問題ではありません。それより不安な人に寄り添ってほしいという切実な訴えを、どう実現するかが課題です」

女性と若者を救え

コロナが始まった2020年2月~6月までの自殺率は、驚くほど低水準にまで下がっていた。これは第二次世界大戦中や高度経済成長期と同じである。新型コロナウイルスというパンデミックが社会の連帯を生み、一時的に自殺が減少したと言える。
逆にリーマンショックや石油危機など、経済的な困窮時期は増加傾向にあり、奇しくも夏以降、特に女性と若年層に自殺が増えている。
引用:自殺対策への重点的な取組について(緊急要請)/ 厚生労働省社会・援護局総務課自殺対策推進室
なぜ女性と若年層に自殺が増えたのだろうか。
「京都の経営者との朝食勉強会で、共通して言われるのが鬱病の増加です。在宅とか出社とか、ポジションや部署は様々ですが、明らかな共通点は20~30代に多いこと。
自分がやっている仕事のやりがい、自分に期待されていること、自分の仕事が何に結びつくのかがわからない。一人暮らしで家族がいない若者が何のために働いているのかと迷ってしまうのでしょう」
「私が客員教授となっている米・スタンフォード大に“女子会”を研究されている社会学の先生がいます。彼女から興味深いお話を聞きました。
女子会では、旦那の愚痴や子育ての相談、単なる世間話など幅広いトピックが話題とされますが、社会性が高い女性は集まってわーっとしゃべることで悲しみや苦しみの感情を抑えているということです。コロナで集まれないことは女性にとってあまりにも厳しい状況だったのではないでしょうか」
松山はこの「感情を共有できる場」にこそお寺の使命を感じている。

「寄り添い」とはQAである

昨年の夏からオンラインでお坊さんの話が聞きたいという要望が増えたという。最も多いのはアメリカ、他にはインド・スペイン・ロシアなど、世界中からリクエストを受けた。彼らが期待するのはQAだ。
それぞれが持っている思いや誰にも聞けない悩みに対する答えがほしい。キャッチボールをしてもらえるということが癒しであり、まさに寄り添いになっているという。
「Clubhouseもまさに同じだと思います。様々なSNSがあるが、ビジュアル情報は刺激が強すぎる。場合によっては暴力的なケースもあります。ただ耳のメディアは落ち着きを感じさせる。
私自身ラジオが好きでローカルFMをよく聞いています。名古屋のCBCラジオ“終活応援団 長谷雄蓮華の人生楽らくラジオ”は、浄土宗大法寺の住職が終活を応援する非常に温かい番組。ニッチな人に非常に人気を集めています。
エフエム岩手の“おもかげ横丁 スナックいがわ”もいいですね。姉妹経営のスナックいがわで繰り広げられる地元の人との赤裸々トーク。しょうもない話でもそれがすごく良い。癒しというか寄り添いというか。耳で聞いているだけなのに、ものすごく癒しを感じます」

脱檀家依存

今求められる「寄り添い」に対し、松山は既存のお寺がやっていることに大きなギャップを感じている。
「一般的に、お寺は収入のほぼ100%を檀家さんのお布施に頼っています。しかし、それ自体が非常に不健全です。ミスマッチングがはなはだしい。伝統や檀家の数で担保されてきたお寺の経営は、これからは通用しない」
葬式仏教だけで存続できたことがお寺を甘やかしてきたと言う。
「50代前半に壁を感じますね。それ以上の人はお寺がこれからも葬式仏教で生き残れる、逃げ切れると思っています。そんなことは絶対に無理です。
もちろん弔いは重要な宗教行為ですが、それが果たして“一丁目一番地”かというと違う。現代に求められる形に、私たちが築き上げてきたことを合わせられるかが問われています」
50代前半より若い世代で、今までのお寺の伝統や檀家が多いとかで担保されてきたことを変えなくてはならない。僧侶の見識と人格が問われている。

「お一人様」の終末期を守る

松山はどんな未来を思い描くのか。
「この1年間で檀家から受けた相談を思い返すと、お茶を習いたいからよい先生を紹介してほしいとか、癌になったがセカンドオピニオンを聞く先生はいないかとか。あるいは、自分の人事に納得いかないから何とかしてくれないかという、冗談のような本気の相談もありました。
お寺の独自性とは利害関係のない人脈の広さだと思います。様々なお望み事に対し、その人脈を使って叶える。お寺はマージンもリターンもない。損得勘定なく人と人を繋げられるのはお寺ならではでしょうね」
寺が築き上げた人脈を使って多くの人に安心した終末期を送ってもらいたいと考えるうちに、今後激増する「お一人様」に寺の使命を感じるようになった。終末期、ひとりでも安心して旅立つことができるお手伝いをしたい。
特に高齢化社会において癌はなんとかなっても認知症は大きな問題となる。「お一人様」が認知症になっても終末期をしっかりサポートして送り出せる体制が必要だ。その役割はお寺が担う。
「私が目利きをして、この人なら任せられるという訪問医療の先生、司法書士、弁護士、会計士、リフォーム業者などのグループを作りたいですね。
ワンストップでお寺に相談したら終活回りが滞りなく進む。その代わり、亡くなった方の資産の1割以上をお預けいただける“お一人様基金”を設置したいですね。
豊かな人だけでなく貧しい生活をされた人も、基金を使って最低限しっかりと送り届けてあげられる仕組みが必要です。長年の信頼と利害関係のない人脈があるお寺だからこそ実現できること。私たちの新しい使命だと感じています」
「コロナ」という新しい要素が私たちの生活を大きく変えて1年が経過した。長らく形を守り続けてきたお寺も、withコロナの生き方を模索している。
禅の本質を守りながら、古い固定概念を破って、新たな寺の在り方を作り出す。長年の信頼・信用関係を活かしたお寺の挑戦が次の数百年の存続に繋がると信じ、松山大耕は寺を変えていく。

坐禅体験談

インタビューのため退蔵院にお伺いした。あまりに美しいお寺に入ると「まずは坐禅をしましょう」と用意いただいた座布団に腰掛ける。airweaveと共同開発した座布団の高反発が坐禅初心者にとても優しい。
15分の時短坐禅ではあるが、一点を見定め、深い呼吸に集中する。微かに香る線香の匂い、影が揺めき、風を感じ、鳥の囀りに気づく。15分が終わると不思議と頭がすっきりした。坐禅の効果は「頭や心のお掃除」と言われたがその意味がよくわかる。
お金を払って何かを得るより、ただ静かに集中することで得る「無」をとても贅沢に感じた。
withコロナの忙しい日常に坐禅というお掃除タイムを取り入れるのもいいかもしれない。
(取材・構成:小西亜季奈、瀧本伸哉、本杉一磨、編集:菊谷 邦紘、撮影:荻野NAO之)
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