[パリ/ワシントン 7日 ロイター] - イエレン米財務長官は5日、過去30年にわたる法人税率引き下げ競争に終止符を打つために、20カ国・地域(G20)に対し法人税に世界的な「最低税率」を設定することで合意するよう働きかけていると述べた。

構想の内容や企業・政府への影響をまとめた。

<なぜ国際最低税率が必要なのか>

一部の多国籍企業は、売上高が発生した地域にかかわらず、利益を低課税国・地域に移転しており、主要国はこうした流れに歯止めをかけ、税収の流出を阻止しようとしている。

特に医薬品の特許、ソフトウエア、知的財産権のロイヤルティーなど、無形資産から発生する所得は、低課税国・地域に移転され、相対的に税率が高い本国の課税を逃れる形になっている。

米国のバイデン政権は、最低税率について世界的に幅広い合意が形成されれば、そうした税源浸食が減るとともに、米国企業が財務的に不利な立場に立たされることなく、イノベーション、インフラなどの分野で競争できると期待している。

トランプ前政権は、租税回避地(タックスヘイブン)への税収の流出を回避するため、まず2017年に米国企業のオフショア子会社にミニマム税を課した。この「米国外軽課税無形資産所得(GILTI)合算課税」の税率は10.5%で、国内法人税率の半分にすぎない。

<国際税制はどのような場で議論されるのか>

経済協力開発機構(OECD)は、140カ国が参加する税制交渉で長年、調整役を務めている。主要課題は(1)国境を超えるデジタルサービスへの課税に関するルールの確立と(2)税源浸食の制限。国際最低税率の設定は、後者の問題に関連するものだ。

OECDと20カ国・地域(G20)は、この2つの問題について、年央までの総意形成を目指しているが、国際最低税率の設定は、技術的にそれほど複雑な問題ではなく、政治的な対立も少ない。

OECDは、この2つの課題について対策が施行されれば、企業の納める法人税が世界全体で500億ー800億ドル増えると推計しているが、増加分の大半は、国際最低税率の設定で実現できるとみられている。

<国際最低税率はどのように運用するのか>

各国が国際最低税率で合意した場合も、各国政府は引き続き自国の法人税率を自由に決めることが可能だ。ただ、企業が特定の国で納めた法人税の税率が低い場合、本国政府は国際最低税率に達するまで追徴課税を課すことができる。このため、利益を租税回避地に移転するメリットがなくなることになる。

バイデン政権は、最低税率に同意しない国に納められた税金について、控除を認めない方針を示している。

OECDは先月、ミニマム税の基本設計について、大まかな合意がすでに成立したことを明らかにしているが、税率については合意に至っていない。国際税制の専門家は、税率の設定が最大の難関だと指摘している。

その他、まだ議論が必要な課題には(1)投資ファンドや不動産投資信託(REIT)といった業界を対象に入れるのか(2)最低税率をいつから導入するのか(3)税源浸食の制限を目的とする2017年の米税制改革とどのように整合性を取るか――といった問題が残されている。

<最低税率は何%になるのか>

バイデン政権は国内の法人税率を28%に引き上げたい考えで、国際最低税率を現行のGILTI合算課税税率の2倍に相当する21%とすることを提唱している。また課税所得がどこで発生したかにかかわらず、すべての米国企業に最低税率を適用したい考えだ。

米国が提唱する最低税率は、OECDで以前議論された最低税率である12.5%を大幅に上回っている。12.5%はアイルランドの法人税率に等しい。

アイルランドは近年、海外の多国籍企業からの巨額投資で経済が好調に推移している。アイルランド政府は、税制ルールの調和で10年以上前から欧州連合(EU)と対立しており、12.5%を超える国際最低税率をすんなり受け入れる可能性は低い。