【小島英揮】コミュニティマーケティングとマスマーケティングの違いは何か

2021/4/3
「NewsPicks NewSchool」では、2021年4月から「コミュニティマーケティング」について徹底的に学び、実践するプロジェクト「コミュニティマーケティング実践編」を開講します。
プロジェクトリーダーを務めるのは、コミュニティマーケティングをいち早く推し進めたAWS(アマゾンウェブサービスジャパン)のマーケティング本部長を務めるなど、コミュニティマーケティングの第一人者である小島英揮氏です。
今回は開講に先駆け、小島氏が過去に出演したMOOC「ゼロから始めるコミュニティマーケティング」の内容をハイライトし掲載します。

コミュニティマーケティングが生まれた背景

コミュニティとマーケティングを組み合わせたコミュニティマーケティングが生まれた背景には、3つの社会的な外部要因があるとされています。
一つは市場の大きな変化です。端的には日本の人口が減少し、ビジネスの構造が変わりつつあること。ゲームのルールが大きく変化しているため、従来のままでは、全体の売上が等しく下がるため、新しい手法が必要になります。
次に、マスマーケティングの限界です。今まではビジネスで顧客との接点を持とうとしたとき、マスメディアが非常に大きな力を保持していました。しかし、現代では影響力が相対的に小さくなってきています。
最後に、マスマーケティングに代わる形で、個人の発信力が非常に力を持ち始めたことです。マスマーケットに限界が訪れ、新しい手法を試そうとする流れが強まり、企業も無視できなくなっています。
コミュニティマーケティングの好例として、クラウドビジネスがあります。私がかつて所属していたAmazonのAWSやセールスフォースといった新しいビジネスが世に出る際、当然ながらはじめはマイノリティのビジネスでした。
しかし、コミュニティのような多くの支持者に支えられ、マーケットが大きくなっていきました。
消費者向けビジネスにも、スノーピークやヤッホーブルーイングといったコミュニティをうまく使っている企業があります。
スノーピークは、1990年代末にオートキャンプのニーズが激減したとき、新たに顧客との接点を作るため、「スノーピークウェイ」というイベントを開催しました。顧客に商品のファンになってもらい、フィードバックを受け、顧客が新たな顧客を呼ぶ形でビジネスを展開しています。
ヤッホーブルーイングも、クラフトビール好きを集める「超宴」というイベントを開催しています。最初は4,50人のコアなファンによるイベントから始まったと聞いていますが、2018年頃には5000人が同じ場所に集まり、クラフトビールの良さを参加者で共有するイベントになっています。
昨今のコロナ禍でも、熱量そのままにオンラインでのコミュニティイベントに発展させるなど、コミュニティを持つ企業は外的要因に左右されず堅実に成長していると言えそうです。
小島 英揮
パラレルマーケター / Still Day One 合同会社 代表社員
IT/B2Bの世界で、30年ほどマーケティング活動に従事。PFU、アドビシステムズ等を経て2009年から2016年まで、AWS(アマゾン ウェブ サービス)で日本のマーケティングを統括。その間、日本最大のクラウドユーザーコミュニティ JAWS-UGの設計、立ち上げに携わる。2016年にコミュニティマーケティングへのニーズの高まりを受け、コミュニティマーケティングのためのコミュニティ = CMC_Meetup を立ち上げる一方、2017年よりAI、キャッシュレス、コラボレーションなどの分野の複数のSaaS サブスクビジネスで、マーケティング、エバンジェリスト支援業務をパラレルに推進中。著書に『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』(日本実業出版社)

sell “through” the community

コミュニティマーケティングで必須となるのは、とにかくコアなファンです。彼らの熱量が焚き火のように燃え上がり、周囲の人々に燃え移って、さらに大きな炎になっていく。こういった流れを、私は、sell through the communityと表現しています。
実はメーカーが直接売り込むよりも、商品のファンが周囲に「これすごくいいから使ってみなよ」と勧めた方が、はるかに事業は大きくなりやすいものです。加えて、コミュニティマーケティングでは、商品に関心を持つ人々が集まり、人数が増えていく形が好ましいとされています。
一方、コミュニティづくりが失敗するパターンは、sell “through” the communityではなく、sell “to” the communityになっている場合。既存のユーザーに、どんどん売り込んでしまっている状態になります。
sell “to” the communityでは、新規ユーザーにまでリーチしないことは往々にしてあります。その上、ユーザー自体が既存の少数のままのため、どれほど商品やサービスを購入してもらったところで、世間にインパクトを与えることは非常に難しいと言わざるを得ません。
sell “through” the communityとsell “to” the communityの違いは、コミュニティに満足をしてもらうか、コミュニティに売るかの違いです。
sell “through” the communityでは、商品やサービスをコミュニティに満足してもらうことで、周囲に勧めてもらえ、事業も拡大していきます。この満足度がお勧め度とも言え、満足度が高ければ高いほど人に勧めたくなるものです。
商品に満足している既存顧客が新規顧客を開拓するため、新規獲得と解約防止を同時に行い、最終的に顧客に長く使用してもらうことにもつながります。結果として、顧客生涯価値であるLTV(ライフタイムバリュー)も高まるという流れです。

マスマーケティングとの違い

ではsell “through” the communityのようなコミュニティマーケティングは、従来のマスマーケティングとどのような違いがあるのでしょうか。
まず前提として、マーケティングとはターゲットに行動変容を促す活動であり、そのためには“誰(who)”に“何(what)”を“どう(how)”伝えるかが重要になります。
ただ、“who”と“what”と“how”の重要要素は変わらないものの、“how”から入ってしまうマーケティング手法が意外によくあるのです。
多くのマーケティングはステップを踏むごとに、“商品を認知している層”、“使用を考えている層”、“実際に使用している層”と、それぞれの層が小さくなっていきます。
そのため、間口を大きくするため、つい“how”におカネをつぎ込みたくなってしまうケースがあります。
ところが、本来は“誰”に“何”を伝えるかによって、手法は変えていくべきこと。当然、マーケティングの入り口で、手法の“how”から入ってしまえば、失敗する可能性も高まります。
一方、コミュニティマーケティングでは、必ず“who”からスタートすることがポイントになります。
sell through the communityに代表されるように、商品やサービスのファンを起点に、彼らがどこを評価してくれているかを伝えることで、新しい顧客を増やしていきます。
マスマーケティングはこれまで大きな効果を生み出してきましたが、限界が見えて来たのも事実です。
マスマーケティングはリーチするテクノロジーと言え、例えば「健康を気にしている50歳」というセグメントであれば、DMやメールという形で広く情報を届けることはできます。
しかし、そのような手法の効果は最近どんどん薄れてきています。
つまりそれは、マスマーケティングの結果、ユーザーにリーチをして認知を取ることができても、商品やサービスを想起させるくらいにまで相手に響くことは難しいということです。
実際にターゲットのユーザーが企業の名前やロゴを見聞きしたことがあったとしても、それだけで自社の事業に影響が及ぼせるかと言えば、なかなか難しいものがあります。
そんな中でさらにリーチを増やそうとすれば、コストはさらにかさんでしまいます。

自分事化される“旗”を立てよう

一方で、コミュニティマーケティングが目指すのは、逆のアプローチです。
知り合いから勧められるため、商品やサービスを想起しやすい強みもありますし、その結果コストをかけずにリーチを増やすことも可能です。
コミュニティマーケティングに最も適したコミュニティとは、関心が似ているメンバーが集まり、拡大していくパターンになります。なぜかと言えば、ただ人数だけを集めたコミュニティでは、それぞれの視点がバラバラで、拡大するよりも崩壊することが多くなってしまうから。
しかし、メンバーに共通した関心、“旗”のような存在があれば、メンバーも増やしやすく、結束も強くなるものです。
コミュニティづくりの大きなポイントとなる、“旗”の存在ですが、勝手に立てても自然と人が集まり盛り上がるわけではありません。
いかに自分事化される“旗”を立てるかが重要です。企業の場合では、いかにユーザーが自分事化できる話題であるかどうかと言えるでしょう。
コミュニティは拡大することでアウトプットが増え、様々なフィードバックを呼び込み、関心を持つ人々が増え、商品やサービスそのもののブラッシュアップにつながります。
ただ、このサイクルは拡大すれば必ず得られるわけではなく、コミュニティが正しく拡大したときに得られるモデルになります。
その、“旗”を立てコミュニティを正しく大きくする上では、3つの視点が必要です。
1つ目は「ポリシー」で、コミュニティが守らなければいけない原則のようなもの。次は「メンバー」で、コミュニティがどのような人員で構成されているか。そして、最後は、コミュニティを成長させるための「ベクトル」です。
この「ポリシー」「メンバー」「ベクトル」の視点をうまく駆使することで、コミュニティを拡大させていくことができます。
※後編に続く
(構成:小谷紘友、デザイン:九喜洋介)
「NewsPicks NewSchool」では、2021年4月から「コミュニティマーケティング実践編」を開講します。詳細はこちらをご確認ください。