2021/3/31

【妄想募集】スマホのリモート操作ツールを、あなたはどう使えるか

NewsPicks Brand Design / Chief Editor
 700機種以上のスマホ端末をレンタルし、クラウド上で扱える。スマホアプリやサイトを開発するエンジニアが聞くと、「実機検証のための出勤から解放される!」と泣いて喜ぶツールらしい。
 この「Remote TestKit」の活用が、リモートワークの普及を受けて意外なところまで広がっている。同ツールの成り立ちとコンセプト、コロナ禍で拡大する新たなニーズについて、開発を担当するNTTレゾナントテクノロジーの角田和也氏と、マーケティングを担うNTTレゾナントの秋谷祐司氏に聞いた。
INDEX
  • サービス開発者が、欲しかったツール
  • ようやくエンジニアのフルリモート時代が訪れた
  • 尖りすぎたツールに、わかりやすさを
  • 日本のユーザーは、世界一厳しい
  • 【妄想募集】スマホがクラウド化されたら何をしたい?
 NewsPicks読者の皆様にも、脳みそをやわらかくして自由に活用法を考えていただきたい。ご意見・妄想・ご要望は、この記事のコメント欄まで。

サービス開発者が、欲しかったツール

── Remote TestKitはNTTレゾナントテクノロジーが技術開発、NTTレゾナントが販売を担うプロダクトということですが、そもそも両社はどのような事業を行っているのでしょうか。
秋谷 NTTレゾナントは、もともと検索サービスから始まったポータルサイト「goo」を中心に成長してきた会社です。加えて現在は、docomoのdメニュー検索やOCNの運営なども担っており、主にtoCのサービスを中心に開発・提供しています。
 要は我々自身もサービスプロバイダなんですが、その開発を通して得た知見をtoB事業としても展開しています。例えば、gooで培った日本語検索技術を活かしてECサイトなどで日本語のゆらぎを突合し、適切な検索結果を表示させるようなサービス。そんなふうに、技術力を武器にした新規ビジネスを立ち上げよう、と。
角田 そうやって新規事業のタネを探していた2012年に見つけたのが、現在当社取締役の久納孝治が開発していた「Remote TestKit」の原型となるサービスです。開発エンジニアにとって、膨大な端末の実機検証は大きな負担で、それを解決するものでした。つまり、「Remote TestKit」は、我々が開発者として使いたいサービスだったんです。
 そこで、NTTレゾナントでこのサービスを提供したいと申し出て、一緒にビジネスのスキームを作るなかで2013年にNTTレゾナントテクノロジーの設立に至りました。

ようやくエンジニアのフルリモート時代が訪れた

── すでに開発から8年目。コンセプトやコアとなる技術はどう変わってきたのでしょう。
角田 コンセプト自体は、「スマホの実機検証を、クラウド上で実現する」ということで、当初から変わっていません。ただ、マーケットは大きく広がっていて、そこにコロナによるリモートワークの波がやってきました。ようやく時代が追いついてきたという感触はありますね。
 正直に言うと、私は今のような世界がもっと早く、ローンチして3年くらいで訪れると想像していたんです。いちいち実機を購入・管理して検証するのは効率が悪いから、さっさとクラウドに移行するだろう、と。
 ただ、なかなか来なくてですねぇ(笑)。そういう意味では、しばらく苦しいピッチングを繰り返すような時期が続きました。
 なかなか普及が進まなかった理由はいくつかあります。まず、遠隔では、カメラ撮影やバイブレーションの確認など、どうしてもできない作業が出てくることがひとつ。また、実機を手元で操作したいという感覚的な部分も大きかったと思います。
秋谷 そういうなかで、日常生活にスマホアプリが浸透し、ビジネスでも重要性が格段に増して、社会的インフラとなった。アプリが正常に動かないときのリスクは、経営的にも重要課題です。
 象徴的なのが、金融機関がアプリでのサービスを拡充し始めたこと。特に、ここ5年ほどの動きは急激で、証券取引、モバイルバンキング、生保の見積もりや契約など、いまや金融サービスにスマホアプリは必須です。
 Remote TestKitのユーザーとしても、システム開発企業に次いで金融機関が非常に大きなウエートを占めています。それに続くかたちで、公共機関、製造業界、エンタメなどにユースケースが広がっていくと予想しています。

尖りすぎたツールに、わかりやすさを

── ニーズとそれに応える技術はあるのに、社会的環境やリモートへの意識が追いついていなかったということですね、そのブレイクスルーとなったのは、やはりコロナですか。
角田 コロナで一気に実機検証のリモート化が必要になったのは確かです。しかし、それ以前からブレイクスルーとなったポイントが2つありました。ひとつは、2015年にNTTレゾナントテクノロジーの社長として、エンジニア出身ではない三澤 淳志が就任したことです。
 いま振り返ると、それまでは開発者向けにどれだけ高機能でエッジの効いたサービスにできるかを重視していました。あれもやりたい、これもやりたいというエンジニアの要望を、全部盛り込んでしまえ、って。
 ところが、三澤が社長になって、非エンジニアに向けた「わかりやすさ」も考えるようになった。マーケティングという観点が加わって、売り方を変えるようになりました。
秋谷 マーケットを広げるために、インターフェイスをわかりやすくしたり、メニューやキャプチャーの撮り方を簡単にしたりと、小さな部分に変更を加えていったんです。
 高機能化だけでなく、わかりやすさや使いやすさを設計思想に取り入れたことで、セールスも行いやすくなりましたし、エンジニア以外の需要も見えてきました。
 技術オリエンテッドなベンチャー企業だった我々にマーケティングの視点を加えて、さらに成長する良いタイミングだったかもしれません。
角田 それまでは、NTTレゾナントは営業、我々レゾテク(NTTレゾナントテクノロジー)は開発と明確に役割を分けていましたが、ユーザーを見ながら開発することで一体感が高まりました。
 開発者向けに作った機能でも、もっと広いマーケットに目を向けると、新しい使い方が結構いろいろ出てくるんです。例えば、PC上のスマホ画面をそのままパワーポイントにドラッグ&ドロップすれば、スマホ画面の動作を再現する営業ツールになります。
秋谷 もうひとつ、コロナ以前のブレイクスルーポイントとしては、海外や地方でのオフショア/ニアショア開発が増えたことが挙げられます。
 海外ではインドやフィリピン、国内は北海道や沖縄などの地域に開発環境を移すと、多数の端末を用意するのも大変ですし、最終的な実機検証を共有できない。それをリモートでやりたいというニーズが、この2、3年で増えましたね。
 公共機関での導入も進んできました。国内の自治体にオンプレミスのサービスを提供したり、若いベンチャーの開発者支援を目的として、韓国の自治体がまとめて導入したりしたケースもあります。ほかにも国外では米国のセキュリティアプリ会社向けの専用サービスの開発や、長年のヘビーユーザーには米国保険会社もいます。
── ユーザーの声を聞きながら、いろいろとカスタマイズも行っているんですね。
秋谷 はい。その結果じわじわとお客様が増え、国内では、大手を中心に現在1600社に導入いただいています。サービス・プロダクト開発以外の用途で多いのが、カスタマーセンター。
 Remote TestKitを使えば、アプリの不具合などを問い合わせてきたお客様が使っている端末で、同じ現象を再現できる。これも、エンジニアだけを見ていては気づくことができなかった活用法です。
RTK導入前、ユーザーからの問い合わせを受けるカスタマーサポートで解決できない不具合は、ユーザーの使用端末を使って事象を再現する別の部署を経由して回答することが多かった。ほぼすべての端末をクラウドで扱えるRTKによって、問い合わせを受けるオペレーターがその場でユーザー端末を確認することが可能になった。

日本のユーザーは、世界一厳しい

── 進化の早いスマホに対応するには、Remote TestKitにもバージョンアップが必要ですよね。
角田 iOSとAndroidは、毎年新バージョンをリリースするので、その対応が例年の技術開発の大きな山としてあります。OSのセキュリティが年々厳しくなるなかで、それに合わせてリモートで操作する技術も変わり続けます。
 当然、世の中のスマホアプリ開発エンジニアも、我々と同じように新機種やOSのバージョンアップに合わせてサービスを改良しているんです。そういうエンジニアの開発を下支えするために、我々が先陣を切ってサービス品質を向上させないといけない。
秋谷 Remote TestKitのようなサービスを提供している事業者が、世界には3〜4社あります。
 その中で、OSのバージョンアップに世界最速で対応し、UI/UXやセキュリティを含めた品質・性能をきめ細かく高めていく。開発を担う角田さんたちには無茶な要求をすることもありますが、その技術力を信頼しているからこそできる注文です。
── 海外のサービスとはどんなところが違いますか。
角田 海外のサービスは、もっとざっくりしているんですよ。例えば我々が工夫を凝らして技術開発している注力ポイントのひとつに、「履歴の消し方」があります。
 ユーザーが使い終わった端末を工場出荷前の状態にリセットするのは簡単ですが、そうすると、スマホとPCの接続や、通信の設定を毎回やり直さないといけない。サービスの運用にコストがかかってしまうんです。
 一方、海外のサービスはかなり雑で、前に使ったユーザーの使用情報が残っていたりする。セキュリティ的にも問題がありますし、日本だと感情的にも許されませんよね。
 そこでRemote TestKitは、接続情報などの初期設定だけは保持しつつ、ユーザーが登録したアカウント情報や閲覧履歴のみを消去する独自の仕組みを作っています。ここが、我々の技術のコアと言えるかもしれません。
 こういった信頼性や操作性にかかわるところを少しずつ改善し、使い勝手をよくしてきた。それが、海外のサービスとの差別化になっていると自負しています。
── 日本のユーザーの要望をクリアすれば、世界で独自性を発揮できるのかもしれませんね。
秋谷 そうかもしれません。また、最近よく聞こえてくるのが、「5G経由で自社のサーバーやサービスにアクセスし、検証したい」ということ。すでにこれらに対応する技術は完成しており、リリースのタイミングを図っているところです。
── こういうツールが普及すると、デジタルプロダクト開発のあり方やビジネスのプロセスにも影響を与えていきそうです。
角田 それは確かにあると思います。これまでは、実機検証のようなプロセスの省力化は、優先順位が低かったんです。しかし、リモートワークが普及し、自動化を含めたプロセス改善の重要性が認識されるようになって、そのコストは必要なものだと捉える経営者も増えました。
 特に、自動化はエンジニアの検証の負担を大きく削減します。例えば、ECサイトで会員登録して、商品をカートに入れて決済を完了する。これを20機の端末で繰り返し検証するのは、非常に面倒なことです。Remote TestKitなら、それをデジタルで自動化して、ボタンひとつで100機の検証を行うことも可能になります。
 また、リモートで検証できるということは、エンジニア以外の事業責任者や経営者目線のチェックが簡単にできるようになります。経営者目線の判断がしやすくなるので、何の目的で何を自動化するのか、というようなことも明確になるし、自社プロダクトの品質を保つことにもなります。
 単に実機で動作確認するツールとしてだけではなく、ビジネス全体の価値を上げる活用法がもっといろいろあるはずです。

【妄想募集】スマホがクラウド化されたら何をしたい?

── スマホをクラウドに上げ、リモートで操作したり、自動化ツールを組み込んだり、共有したりできる。シンプルだからこそ、ほかにも活用の幅が広そうです。
秋谷 実際、いろいろな企業が、開発以外にRemote TestKitを使いたいと、いろいろ考えてリクエストしてくれるようになっています。
 例えば特定のサイトにアクセスしたときに、表示される広告はどう変わるのか。人の手で検証するのは大変ですが、スマホの操作を自動化できれば、そのシミュレーションをマーケティングに活かすこともできるかもしれない。
角田 私が今考えているのは、パソコンからスマホを遠隔操作するだけでなく、スマホ同士で画面を共有して遠隔操作できるようにならないかな、と。
 実家の親からスマホの操作がわからないと連絡があっても、口頭で相手の状況を聞いたり操作を説明したりするのはとても難しい。お互い何を言っているかがわからなくてイライラしてしまったりする。
 スマホでRemote TestKitのアプリを立ち上げて、親のスマホ画面を見ながら遠隔操作できればすごく便利ですよね。そういうミラー画面が使えるようになったら、いろいろ面白い使い方が出てくるはずです。
── NewsPicksの機能を説明するときにも使えますね。目の前にいればアプリを動かしながら説明できますが、リモートではそうもいかなくて。
最新機種だと左右に変なスペースができたり、古い機種だと表示できなかったり。NewsPicksの記事プレビュー画面にも改善の余地があるみたいです。
秋谷 まさにそういう声を届けていただきたいんです。この先、社会がコロナ以前の働き方に戻ることはありません。そう考えると、このリモート環境でRemote TestKitのようなツールをどう応用できるかを、これまで以上に追求していかなくてはいけない。
 私たちの仕事は「こんな使い方がしたい」「もっとこうしてほしい」という声に応えていくことです。
 中で開発に取り組む我々には思いつかない活用の形があると思うので、この記事を読んだNewsPicks読者の皆さんにも、こんな使い方をしてみたいというコメントをぜひ書き込んでいただきたいと思います。
 極端な話、妄想みたいなことでもいいんです。おもしろいアイデアがあれば、角田さんが責任を持って開発してくれますから(笑)。