[香港 5日 ロイター] - 英国が香港を1997年に中国に返還して以来、香港の活動家らは完全民主化の実現を目指してきた。これは、いつの日にか中国が約束をかなえ、普通選挙を認めるとの信念に基づいていた。

しかし今月5日、そうした活動は大打撃を受けた。中国の全国人民代表大会(全人代)が、中国で最も自由な都市である香港の政治構造を抜本的に変える計画の詳細を明らかにしたのだ。計画は「だれにでも1人1票」との理念に基づく普通選挙の約束を、ほぼなし崩しにすると批判されている。

中国政府の措置は、何か月も前に香港国家安全維持法(国安法)が施行され、反政府活動が徹底的に取り締まられたのに続く動きだ。1年ほど前には、時に暴力的行為も交えた反中民主化デモが何か月もにわたって市内を席巻していた。

民主党の羅健煕主席はロイターに「中国政府が決定しようとしていることを効果的に変えさせるためにわれわれができることはあまりない」と話した。

提案された選挙制度見直しでは、現行70議席の立法会(議会)定数を90議席に増やし、その一部を親中派が多数を占める「選挙委員会」の枠にする。民主派が押さえる可能性が高い議席分はなくすか、減らす。

全人代の王晨・常務委員会副委員長によると、行政長官を選ぶ選挙委員会の定員1200人も拡大する。親中派の「愛国者」が支配する制度をさらに「改善」する狙いという。王氏は記者団に対し、こうした措置は香港基本法(憲法に相当)の一部改正を含み、香港に対する中国の全体的な管轄権を固め、香港に根ざす深い問題を抜本的に解決するものだと述べた。

中国政府が香港にとっての最終的な目標として普通選挙を約束していた根拠が、まさに基本法なのだ。しかし、5日の提案は89年の天安門事件以降、いかなる民主的活動の再燃のリスクの芽も取り除こうとしてきた中国政府の意思のあらわれと言える。

今や、多くの有力民主派活動家が投獄されるか、海外への出国を余儀なくされている。民主党の羅氏の前任だった胡志偉前主席もそうだ。胡氏は「国家政権転覆共謀罪」で起訴され、保釈を退けられたばかりの数十人の1人だ。民主派は今や、活動を維持するために草の根のネットワークをなんとか活用しようとしている。

羅氏は「香港の政治システムへの信認は薄れつつある。異なる意見を認めずに社会平和を目指そうというなら良い兆候ではない」と語った。

<前進ではなく後退>

別のベテラン民主派活動家は、2012年に就任した習近平国家主席が香港の完全民主化への軌道をねじ曲げ、中国の指導者だった故鄧小平氏による、しばしば引き合いに出される香港自治の約束をほごにしようとしていると批判する。

別の関係者は「大きな悲劇だ」と指摘。中国政府が前進するのでなく後退しており、「われわれを(香港が抑圧されていた)暗い時代に引き戻そうとしている」と話す。

選挙制度が見直されれば反中派は万年少数派になる可能性が高い。一部の親中政治家さえも、中国1党独裁体制への動きが新たな「愛国者」派を作り出すことになるとみる。

中国は世界の超大国として台頭しようとしており、今や、西側諸国からの批判や制裁措置にもかかわらず、権限や資源を行使して独裁的統治を拡張しようとしている。

香港で返還前に施行されていた英コモンロー(慣習法)体系を維持した基本法こそが、中国による独裁的な香港支配強化に対抗する最後のとりでだったとの見解もある。

3月第1週に開かれた民主派の公判では、50人超が被告席にすし詰めになった。何人かは終身刑に直面している。昨年6月に中国全人代の常務委員会が直接制定した国安法に基づき、国家政権転覆を共謀した罪に問われている。

ベテラン活動家の梁国雄氏と元法学教授の戴耀廷氏は、審理が同時開催された2つの法廷の間を何度も行き来しなければならなかった。長時間のマラソン審議で体調を崩し、病院に運ばれた被告もいた。国安法は保釈請求の弁護を被告側に負わせており、これも基本法の伝統を覆すものだと批判されている。香港が97年に返還された際に確約された「一国二制度」は、生活や自由、そして独立した法体系を保障するものだった。

香港民主主義の父と称される李柱銘氏(82)は2014年の米ニューヨーク・タイムズ紙への論説寄稿で、普通選挙こそが鄧氏の一国二制度を順守し、鄧氏の未来設計図を、ほごにされた約束の文言になり下がらせないための唯一の方法だとしていた。現在の中国政府の動きは、一国二制度からの最後の決別になるのかもしれない。

西側の外交高官はロイターに「この動きはやり過ぎだ」と語った。「支配力を取り戻そうとするあまり中国政府が行き過ぎて、(中国にとっての香港という)黄金の卵を生むガチョウの息の根を止めてしてしまいかねない」という。

(James Pomfret記者)