2021/3/19

課題解決島、種子島でこれから起こる10のこと

NewsPicks Brand Design Editor
今、全国各地から種子島に研究者が集っているのをご存知だろうか。

大学、企業、自治体が力をあわせて、来たるべき低炭素社会のビジョンを描き、島内で実証する。世界的なGHG削減のトレンドの中で、種子島は持続可能な社会システム構築に向けて大いなる挑戦をはじめている。

この「スマートエコアイランド種子島構想」と呼ばれるプロジェクトの中心にいるのが、東京大学未来ビジョン研究センター、西之表市ら地元自治体。そして、昨年から出光興産も本プロジェクトへの参画を表明した。

この未来の島で、何が起きようとしているのか。関係者への取材から紐解いていく。

鉄砲伝来から続く、イノベーションの島

 鹿児島県の佐多岬から南東40kmに位置する種子島。離島であるがゆえ、課題先進国と言われる日本の中でも、地域課題が早くに先鋭化しているエリアだ。たとえば、人口減少、高齢化──。
写真提供:西之表市
「地域課題をあげればきりがないですが、深刻なのはやはり『人口減少』『高齢化』です。1960年代には種子島内で約6万5000人だった人口が、現在は3万人を下回っています。文字通り半減している状況です。
 また、高齢化率も36%(2018年10月時点)と、全国平均の28%を大きく上回っています。これは離島の特徴ですが、高校を卒業した若者の約9割が島を離れてしまっている。そのため就労人口もここ数年でますます減少しています」(西之表市 岩下氏)
 一方で、種子島は不思議とイノベーションのきっかけになることの多い島でもある。古くは鉄砲伝来、そして近年では種子島宇宙センターなど。
 そもそも島国である日本の縮小版として、面積、人口、産業。それらが実証実験に適しているためか、近年ではさまざまな社会実装のための実証が行われている。
 成人識別ICカード「taspo(タスポ)」や準天頂衛星による位置情報測位など、種子島で実証実験が行われた後に全国へ展開されていった。
 日本の縮図とも言える「課題先進島」でありながら、これから訪れる社会の写し鏡でもある「課題解決先進島」。それが種子島のもう1つの顔だ。

「スマートエコアイランド種子島構想」とは

 今、種子島では低炭素社会の実現に向けた「スマートエコアイランド種子島構想」が立ち上がっている。大学・企業・自治体の共創により地域資源を活用した持続可能な社会を実現するという同構想。
 その核であり、きっかけとなったのはサトウキビだ。
「スマートエコアイランド種子島構想」の中心人物、東京大学未来ビジョン研究センター 准教授の菊池康紀氏は次のように語る。
「2000年代の前半にアサヒグループホールディングス、九州沖縄農業研究センターおよび、新光糖業という島の製糖会社が共同で、農産物としてのサトウキビの面積あたり収穫量を向上させるだけでなく、サトウキビから作る原料糖(食料)とバイオマス(エネルギー源)を同時増産させるための技術開発を開始。その後、本格的に島に技術を導入する段階で、私も参画しました。
 技術だけでは島の課題を解決できません。その技術を使える人材をどう育成するのか。作ったサトウキビをどう消費していくのか。そのための資金はどうするのか、など。実際にサトウキビについて議論しようとすると、さまざまな地域課題につながっていきます。
 新しい技術を浸透させるには、協力体制がなければいけない。そこで地域の皆さんに声をかけさせていただいたんです。まずは新しい技術や仕組みを実験する場所をつくりましょう、と。
 さまざまな研究者や企業に門戸を広げることで、少しずつ『スマートエコアイランド種子島構想』ができあがっていきました」(東京大学 菊池氏)
「スマートエコアイランド種子島構想」は、種子島の西之表市、中種子町、南種子町の自治体と、大学、そして島内外の企業、20団体以上が集まるオープンイノベーションの場になった。
 長い年月をかけて品種改良されたサトウキビの新種は、2021年秋に導入予定。増産できるようになったことで、食料としての利用はもちろん、同時にバイオマス原料として再生可能エネルギーに応用することも可能だ。
 実は太陽光発電も盛んな種子島。サトウキビ由来のエネルギーが加わり、利用のためのシステムが整えば、種子島は再生可能エネルギーだけで暮らせる島にもなり得る。

出光興産が提案した10のソリューション

 出光興産 Next事業室 中村暢之氏は日本全国の自治体を行脚し、各地域の課題を聞いて回っていた。
 低炭素社会に向けて、石油関連事業に限らないエネルギー共創企業として生まれ変わろうとする中で、出光興産が志向する次世代事業が、地域課題解決にも貢献できると感じていたという。
 そして2020年3月、中村氏は種子島を訪れる。
 西之表市との長時間にわたる打ち合わせの中で、さまざまな地域課題を聞いた後、出光興産社内で何ができるかを協議。電力、販売、技術、さまざまな部署を巻き込んで、総勢30名近くが約3カ月間、種子島のための独自のソリューションを検討した。
 また、島外企業である出光興産が一方的にサービスを提供するのではなく、自治体、島の企業など地元との共創を模索。
 その結果、10のソリューションに行き着く。
 出光興産はすでに飛騨高山、館山、南房総でEVのカーシェア事業を展開しているほか、再生可能エネルギーについても山口周南市で木質バイオマスの利活用を推進している。今回の10のソリューションは、現時点での出光興産のリソースとノウハウを結集したものだ。
 そして出光興産のリソースという意味では、SS(サービスステーション)の存在が大きいという。
「出光興産グループ6,400カ所のSSを運営してくださっている全国の特約販売店の多くは、地域に根ざした地元の企業です。地域と新たな価値を共創していくにあたってはなくてはならない存在です。
また、SSは車移動の重要なインフラであり、電車などの公共の交通網が発達していない地域では、その重要性が一層際立ちます。そのため、幹線道路に面していたり、各エリアにバランスよく設置されています。
SSのような堅牢かつ広い建造物は、地域の中でもそこまで多くはありませんし、地域創生の重要拠点として、高いポテンシャルを有しています。
 たとえば、再生可能エネルギーの供給の拠点になるかもしれないし、EVのメンテナンスをすることもできる。また、将来的にはドローンの発着地点となれば、スマート農業への活用や物資輸送拠点とするアイデアだって考えられます。
 今回、種子島で地域創生のお手伝いをさせていただこうと決断した要因の1つに、地域の特約販売店でもある種子島石油の存在があります。同社は島に効率よく配置された5カ所のSS網を持っているのです」(出光興産 中村氏)
写真提供:種子島石油株式会社
 種子島石油は、社名の通り、これまで主に石油の販売を生業としていた企業。長く出光興産の特約販売店としてパートナーシップを築いてきた。
 低炭素化への社会的ニーズが増す中で、出光興産が変わろうとしているのと同じように、種子島石油もまた、変わる必要性を感じていたという。
「石油を取り巻く環境が変わる中で、種子島石油もまたビジョンを再考しているところでした。約3年前から、当社は『離島のハンディを感じさせない種子島での暮らしの創造』というビジョンを掲げています。
 これまで石油販売を通じて種子島に地域貢献をしてきましたが、これからは環境の変化にも対応した事業を通じての貢献や責任が求められるようになります。
 今回の出光興産からの提案は、当社のビジョンともマッチするものです。是非、これまでの種子島での企業活動の経験や未来志向の取り組みを生かしてお役に立ちたいとお話しました。
 種子島での私たちの取り組みが全国の特販店の仲間やSSのロールモデルになれればと考えています」(種子島石油 山下真介氏)

種子島から広がる新しい循環型の社会モデル

写真提供:西之表市
 循環型の社会モデルの先端を走ろうとしている種子島と出光興産の全国のSSネットワーク。このかけ算はつまり、種子島で今起きようとしていることが、全国各地で起こりうることを意味している。
『スマートエコアイランド種子島構想』を進める東京大学 菊池氏も、出光興産と種子島石油がプロジェクトに参画する意義を次のように語る。
「日本全国、どこでもエネルギーを利用して生活しているのは変わりません。地域は違っても、共通する課題も多いのだろうと思います。
 日本には、種子島と同じような課題を抱えている地域が他にも存在している。そうなれば当然横展開をしていくべきです。
 それが『スマートエコアイランド種子島構想』に島外の企業、特に全国で事業を展開している企業に参画してもらうメリットの1つでもあります。
 大学の役割は知恵や知識を循環させていくこと。一方でそれをビジネスとして成立させて、日本全国に循環させていくことは企業の役割であり、私たちが出光興産さんに期待するところでもあります」(東京大学 菊池氏)
 西之表市 岩下氏は出光興産による10の提案及びスマートエコアイランド種子島構想についての意気込みを次のように語る。
「今、島には出光興産さんを含めて多くの企業や研究者が集まっていますが、皆さん種子島での研究をもとに本気で日本の将来のことを考えているのを感じます。
 島で持続的な社会モデルを確立し、続けていくことで、この島を日本の未来につなげていきたい。そう願っています」(西之表市 岩下氏)