2021/3/22

【簡単解説】教養としての「環境の今」。知っておきたい5つのキーワード

NewsPicks, Inc Chief Brand Editor
SDGsやESG投資へ注目が集まる今、「社会貢献」、中でも環境対策は企業の経営を考える上で必要不可欠なテーマとなっている。ビジネスパーソンが当然知っておくべき「一般教養」といえるだろう。
そこで本記事では、元キャスターで現在は環境・エネルギー政策を専門とする東京大学の松本真由美客員准教授と、環境性能の高い機器とインテグレーション力を併せ持つ総合電機メーカー、三菱電機でビル事業部スマートビル新事業企画部長を務める松下雅仁氏との対談を実施。今知っておくべき「環境の今」を聞いた。
INDEX
  • 押さえておきたい5つのキーワード
  • 脱炭素に不可欠な「建物の省エネ」
  • 省エネだけじゃない「ZEB+」とは
  • ZEBプランナーとしてオーナーの思いに応える

押さえておきたい5つのキーワード

──環境への配慮がさまざまな理由で求められています。ビジネスパーソンとしても「一般教養」として知っておかなければならない分野ですが、自身の仕事と“現時点では”直結していないため、「自分ごと化」できない人も多いと思います。基礎知識として今、押さえておきたいキーワードを教えてください。
松本 確かにご自身の仕事に関係ない場合、率先して学ばない分野かもしれませんね……。今回は、環境への対応が注目を集める背景として5つのキーワードをご紹介したいと思います。
 まず1つ目は、持続可能な開発⽬標「SDGs」。2030年を達成期限とした17の目標が定められており、そのうち7番目は明確にクリーンエネルギーの実現を掲げたもの(「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」)ですが、それ以外にも「環境対策」と密接に関係する目標が複数あります。
  2つ目は、循環型経済「サーキュラーエコノミー」。これは持続可能な社会を実現するために、製品や部品、資源を最⼤限に活⽤して、永続的に再⽣・再利⽤を⾏っていくという産業モデル。
 3つ目は「⾃然共⽣社会」です。⾷料や⽔、気候の安定など多様な⽣物が関わり合う⽣態系から得ることができる恵みを、将来にわたって私たちが受け取ることができるように⾃然資源を守って、賢く利⽤していくことです。
──SDGsとも通じるところがありますね。
松本 そうですね。そして、4つ目は、気候関連財務情報開⽰タスクフォース「TCFD」です。これは気候変動に係る取り組みの情報開⽰を行うというもの。ガバナンスや戦略などを開示することが求められており、世界のリーディングカンパニーを中心に、その動きが始まっています
 そして最後が「脱炭素」「カーボンニュートラル」(*)の実現です。2016年のパリ協定を契機に、環境保全への機運がさらに高まっており、前述したTCFDをはじめ「脱炭素経営」に取り組む姿勢を経営目標として示す企業が増えてきています。
*カーボンニュートラルとは:CO2の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロの状態を指す。排出量を減らすか、吸収量を増やすことで達成する。菅義偉首相が就任直後の所信表明演説で、2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると宣言したことで一躍注目を集めている。

脱炭素に不可欠な「建物の省エネ」

──「脱炭素」は、菅首相の「カーボンニュートラル宣言」があり、脱炭素推進派であるバイデン氏が大統領に就任したことによって、流れが加速していますよね。脱炭素に向けて改めて何が大切なのですか。
松本 再生可能エネルギーの導⼊を加速することが、脱炭素化において重要だと捉えられています。これはこれで大切なのですが、私がもう一方で重要視しているのが、「省エネ対策」です。
──CO2削減には、省エネが不可欠ですが、日本の省エネに向けた現在の取り組みをどうみていますか。
松本 産業分野での省エネ化は進んでいますが、ビルや住宅の建築物での対策は遅れています。言い換えれば、まだまだ省エネの余地があるのが建築物です。
 欧州では「EPBD(建築物のエネルギー性能に関する欧州指令)」により、建築物の省エネ対策が政府主導で強力に推進されています。
 建築物の省エネ性能について認証を取ることや、建築物の売買や賃貸の際には省エネ性能について説明を行うことなどが法律で義務付けられています。日本の不動産取引における「重要事項説明」の項目に省エネ性能についての説明が含まれている、というイメージです。
 イギリスでは、ビルの省エネ性能が7段階(A~G)に設定されていますが、性能の低いFとGの住宅はすでに賃貸禁止とされており、2023年にはオフィスビルもF・Gのランクのものは賃貸禁止となる予定です。省エネ性能の悪い建物は不動産市場から撤退せざるを得ない状況で、ビルオーナーは省エネを強く意識しています。
 ⽇本には⽇本のやり⽅があると思いますが、こうした制度が日本でも導入されるかもしれません。日本でも、現在ビルの省エネに向けた様々な施策が進められていますが、中でも近年注目を集めるZEB(*)は有効な手段になると期待しています。認証制度も確立されていますし、新築あるいは改修時には、資産価値の面でも意識してみるべき重要指標と言えます。
*ZEBとは:「net Zero Energy Building」の略称で、ビルの快適な室内環境を保ちながら、高断熱化・日射遮へい・自然エネルギー利用・高効率設備などによる省エネと、太陽光発電などによる創エネにより、年間で消費する一次エネルギー消費量がゼロ、あるいは概ねゼロとなる建築物のこと。

省エネだけじゃない「ZEB+」とは

──松本先生はZEBの建築物を視察したことがあると聞きましたが、いかがでしたか。
松本 エネルギー効率が追及されているだけでなく、とても快適に過ごせるよう作られた建物だと感じました。
「環境に配慮したビルである」という点は、ビルオーナーにとってはメリットとなりますが、入居者には響かないことが多い。しかし、「とても快適に過ごせる」という点は、生産性向上につながるため入居者にとってわかりやすい大きな魅力となるので、テナント誘致につなげやすい。この点をビルオーナーに訴求していくことで、「ZEB化」もどんどん進んでいくでしょうね。
──三菱電機では早くからZEBの研究やソリューションの提供を行っていますが、最近では新たなZEBの実証棟を建てたと聞いています。
松下 2020年10月、神奈川県鎌倉市にZEB関連技術の実証棟「SUSTIE(サスティエ)」が竣工しました。ここに当社のZEB関連の最新技術とソリューションが集結しています。
 空調や換気、照明、給湯、昇降機など、三菱電機の高効率機器・設備の導入に加え、自然エネルギーなどを活用することで、基準一次エネルギー比106%の省エネを達成。
 さらに各設備を管理し、適切な環境を維持・運用するBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)も導入しました。
 建築物の省エネ認証制度である「BELS」で最高評価の5スターと『ZEB』認証を、さらにはオフィスの健康性・快適性を評価する「CASBEEウェルネスオフィス」でも最高のSランクを取得。徹底的な省エネ環境の実現と快適で働きやすい環境の維持を両立した建物であることが証明されました。また、今後はWELL認証の取得も目指しています。
SUSTIEでは「省エネ」と「快適性」の両立に向けて、いろいろな工夫を施しています。たとえば、空調の設計。建物内の全エリアをすべて同じ能力で設計するのではなく、従業員が執務する居室はしっかり、廊下や階段などの共用部は弱く、という具合に用途に合わせてメリハリをつけた設計にしました。
 「それだと共用部が不快になるのでは?」と心配されるかと思いますが、共用部は自然換気などの工夫をさらに織り込むことで、快適な環境を作り出しています。
2020年10月に竣工したZEB関連技術の実証棟「SUSTIE」
松本 素晴らしいですね。ビルの中を一定の温度に保つだけでなく、その先を行っている。場所に応じて環境をカスタマイズできるということですね。
松下 おっしゃるとおりです。「その先」という点で言えば、SUSTIEにはもう一つ特長があります。それは、先ほどお話にあったZEBが持つ生産性、快適性向上などの価値をさらに高い水準に引き上げた「ZEB+(ゼブプラス)」(*)の実現に向けた実証を行う建物である、ということ。
*ZEB+とは:ZEBに加え、生産性や快適性、利便性、事業継続性などの価値をビルのライフサイクルにわたって維持するサービスも含めてビルを高度化するという三菱電機のコンセプト。
 SUSTIEで行うさまざまな実証実験を通じて、ZEB関連の技術開発をさらに加速させることで、ZEBの普及拡大はもちろん、働きやすく快適なオフィス環境、その先にある脱炭素社会の実現などに貢献していきたいと考えています。
ZEB関連実証棟「SUSTIE」内観
自然換気・自然採光を取り入れた吹き抜け空間
窓から取り入れた外気を「放射冷暖房パネル」により調整し、共用部の空調負荷を抑制

ZEBプランナーとしてオーナーの思いに応える

──現時点でZEBはどの程度普及しているのでしょうか。
松下 2019年度にZEBの第三者認証を取ったビルが全国で約150棟ですから、まだこれからです。
 ZEBというと、都心にある最先端のビルというイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、全国各地に建てられています。またその大半を数千平米以下の自社ビルが占めています。これは、「地域や社会のために」という意識の高いオーナーさんが増えていることが理由だと推測しています。
松本 それはすごいですね! 私も、講演などで各地の経営者の方とお話しする機会が多いのですが、年齢を問わず、社会課題に関心を持つ方が非常に増えていると感じています。ですから、環境への配慮という社会課題の解決に向けてZEBを取り入れようと考えるのかもしれません。
──ZEBを実現するには、さまざまな技術やソリューションが必要だと思いますが、改めて三菱電機様が手がけるZEBソリューションを教えてください。
松下 高効率な空調、換気、照明、給湯、昇降機に加え、BEMSや、その他ビル内設備を幅広く保有していることはもちろん、お客様が目指すZEBランクの実現に向けて、適切な機器を組み合わせた総合提案ができること。これが「ZEBプランナー」(*)でもある当社の最大の特長です。
(*)ZEBプランナー:ZEBの普及に向けて、一般社団法人の環境共創イニシアチブが公募する登録制度
 冒頭、松本先生から日本は建築物の省エネ対策がまだ改善の余地があるとお話しされていましたが、そのためには中小規模のビルオーナーとサポート役の協力が必要不可欠だと思っています。
 都心にあるような何十万平米ものビルを建てる場合、大手のゼネコンや設計事務所さんが十分な技術力やノウハウを持っていらっしゃるでしょう。
一方で、数千平米規模の中小のビルオーナーさんがZEBに興味を持ったとしても、どこに相談したら良いか、というところで迷われることも多いようです。
ZEBは、断熱などの「建築的対策」と、「高効率設備の選定・導入」による省エネ化を計画の初期段階から検討する必要があります。中小規模の工務店、設計事務所さんにとっては、なかなかハードルが高いと感じられるかもしれません。
そこで、設計事務所の皆さんが悩まれることの多い「ZEB化のための設備選定」や「ZEB化に有効な省エネ制御の選択」などについて、豊富なZEBの実績に基づいたノウハウでご支援しています。「ZEB化は難しい」と思わず、ぜひお気軽にご相談をいただけたらと思います。
松本 大手電機メーカーだと、大きなビルしか対応してもらえないかと思っていたのですが、そうではないのですね。
松下 規模を問わず、また新築でも既存の改修でも、どちらでも対応します。グループ会社がエレベーターや空調のメンテナンスに伺った際「今度の改修のときにZEBにしたいんだけど、相談に乗ってくれない?」とお声がけいただいたことがきっかけで始まるというケースも少なくないですよ。
松本 機器の提供のみならず、オーナーの相談に最初から乗ってくださるというのは、非常に心強いでしょうね。
松下 ありがとうございます、その期待にお応えしたいですね。脱炭素社会に貢献したいオーナーさんの力になること。それが三菱電機の使命だと考えています。