2021/4/2

【メルペイ】スピードを加速する先に描く「なめらかな社会」とは

NewsPicks Brand Design Senior Editor
2021年、メルペイは第2フェーズへ──。スマホによる決済サービスが次々と登場し、キャンペーンによってユーザー数を競う群雄割拠の時を経て、一般にも身近になったモバイルペイメントサービス。現在は各社、決済だけにとどまらないお金の流れをスムーズにする機能を拡張している。

送金や与信機能を拡充し、直近では暗号資産関連サービスへの参入を発表。独自路線を見せ始めたメルペイは、どんな“未来のおサイフ”を創り出し、「なめらかな社会」を実現するのか。サービス開始から2年の歩みを振り返りながら、最新のビジョンを聞く。

脱・現金主義。確実につかんだ手応え

──メルペイのサービス開始は、2019年2月。わずか2年で、キャッシュレスをめぐる環境は目まぐるしく変わりました。
山本 もう、何十年もやっている気がしますね(笑)。
 それほどに、大きく社会情勢が変化した2年間でした。想像していた以上の早さで、キャッシュレス決済が人々に受け入れられてきたと感じています。
 キャッシュレス推進は国の方針としても掲げられており、もちろん拡がる想定でいました。ただ、予想していた3〜5倍は速いスピード感です。
 各社が競うことで業界全体が前進し、そこにコロナによる買い物体験の変革が起きた。「非接触性」が価値になる世界が一気に拡がり、“現金主義”からの移行が加速しました。
 現在、メルペイの利用者数は850万人。使える加盟店は182万ヵ所まで拡がっています。
 2年で、ここまで拡がったのは、業界の歴史から見ても圧倒的なスピード。
 もちろん、まだ「現金のみ」を使う方も多くいらっしゃるので、拡大の余地は多分にあります。
 でも、ともすれば、この2年で「現金主義からまったく変わらない」「キャッシュレスへの抵抗感が拭えない」と市場が硬直する可能性もあった。
 最初の高い壁を越えられた手応えがありますし、我々が目指すビジョンは間違っていないと確信を持っています。

「仲間を増やす」戦略のワケ

──メルペイにとってのターニングポイントは?
 大きなキーワードは、パートナーシップです。
 2019年12月に全国244の信用金庫と口座連携を開始し、2020年2月には、NTTドコモとの業務提携、Origamiのメルカリグループ参画が決まりました。
 そもそも、多くの人にとって決済は意識することのない日常習慣です。主役は買い物であり、決済は後からついてくるもの。この「習慣」を変えるのは、すごく難しい。
 だからこそ、「非連続的な変曲点」をいかに作るかがカギになる。経営的にもここを強く意識してきました。
 たとえば、サービス開始時。「キャッシュレスといえばコード決済」という空気の中、メルペイはiD対応から始め、驚かれました。
※iDは株式会社NTTドコモの商標
 この決断により、後発サービスながらスタートからほぼすべてのコンビニやドラッグストアで使える状態を作り出せた。
 NTTドコモとは、2020年に業務提携も実施。7月から「メルカリID」と「dアカウント®」の相互利用を始め、9月には「メルペイ」と「d払い」の両方の決済に対応可能な共通QRコードの利用を開始しています。
 いいライバル関係でありながら、一緒にやることで効率的に顧客基盤を拡げ、業界全体の成長をドライブしたいという思いが合致した。実際に、非常に高速で進んでいる実感があります。
 また、Origamiをグループに迎えたことも、パートナーシップによる転換点です。
 彼らは、日本のスマホ決済をけん引してきたイノベーター。コアで事業を作ってきたビジネスサイド、開発力のあるプロダクトサイドのエンジニアなど、強力なメンバーが仲間になりました。
 今後も大きなジャンプが必要になる中、戦線に立つ層の厚さが増したことは、挑戦の下地として強い武器になると思います。

決済の先にこそ、価値がある

──メルカリグループ全体でも、膨大なユーザーを抱えています。独占を狙い、単独でサービス拡大を目指す戦略も十分あり得たと思いますが、パートナーシップに注力するのはなぜですか。
 我々は、設立当初から「オープンネス」を掲げてきました。
 社会を変えるためには、1社ではスピード感に限界がありますし、総取りの“Winner Takes All”を目指したところで、業界の未来がないと思うからです。
 QRコードの統一化に加え、今、進めているのは「不正手口の共有」です。
 残念ながら業界では、大きな問題が年イチ程度で生じていますが、「決済サービスはちゃんと選ばないと危ない」という信頼性の低さでは、新しい習慣として定着しません。
 LINE Pay、PayPayとも連携し、不正利用の手口や対策の共有を行い、安全性向上のために手を取り合っています。
 当初は“競合”である我々からの声がけに、「メルペイが何か狙っている」と思われたかもしれません(笑)。
 それでも粘り強く、業界のために一緒にやりましょうとアプローチを続け、必要性を理解いただいてパートナーシップを組めた。
 これは我々だけではなく、業界全体のターニングポイントになったと思っています。
 今、さまざまな企業が決済サービスを展開していますが、決済体験、それ自体はどれを使ってもさほど変わりはありません。
 しかし、バックボーンとして各社が持つサービスの種類や価値は違います。
「自分たちの既存ビジネスに『決済を加える』とこんな強みが出せる」という差別化が、今後の業界内の競争原理につながるし、お客さまにとって新しい価値になる。
 その発展の土台には、キャッシュレス決済はどこでも安心して使える、利便性が高いという信頼がなければいけない。
 であれば、決済自体に必要なノウハウは共有し、業界全体で開発スピードを進めた方が効率的です。
 重要なのは、それぞれが新たな価値を出すフェーズにいかに早く移れるか。
 ここを先導するのはテクノロジーカンパニーである我々の使命であり、各社きっと同じ思いを持っている。
 オープンネスの考え方は、この業界において非常に親和性が高いと思っています。

お金を作れる、唯一無二の強み

──決済の先にある、メルペイ独自の「価値」をどう考えていますか。
 メルペイがほかのサービスと決定的に違うのは、メルカリで何かを売り、そこで得たお金を次の買い物に使う流れが基盤にあることです。
 お金がなかったところに、お金を作れる。
 たとえ銀行に残高がなくても、不要になったものを売ることで、メルカリ自体が「ふえるお財布」になります。
 また、メルカリには、趣味や嗜好性の強いアイテムの売買が多い特徴があります。
 ファッション関連のものを売った人は、そのお金をアパレルや美容に利用する傾向が強く、メルペイの利用データにもそれが見え始めています。
「得たお金で、こう楽しみたい」「この分野に使いたい」という思いがお金に乗っているんです。
 不用品を売り、本当にほしかったものや、やりたかったことに気づいて、夢を叶えられる。この循環によって、誰もが新しい挑戦をしやすい世界観を拡げていきたい。
 これは、メルカリグループ全体で意識してきたことです。
「メルカリ」で不用品を売って得た売上金を使って「メルペイ」で新たな商品を購入し、使わなくなったタイミングには「メルカリ」で再度売るという、サステナブルな循環も構築できる。
 メルカリがあるという明確な強みを生かし、いかにシナジーを生み出せるかという観点で、常にサービス拡大の議論をしています。

「創る」の字に込めた思い

──まさに、「なめらかな社会」ですね。現在の主力領域として、「決済・与信・ふえるお財布」の3つの軸を掲げています。与信について、メルペイならではの考え方はありますか。
 メルカリの購入履歴などアプリ内での行動データをベースに、AIによるマシンラーニングを使って、与信モデルを設計しています。
 テクノロジーの面でも大きな挑戦ですが、この分野に我々が挑戦する社会的意義があると改めて感じたのは、職業や年収に基づくような既存の与信サービスとはまったく別軸の信用が生まれている点です。
 金融機関での与信は低くても、メルカリだと高い信用が得られ、サービスを享受できる状態が作り出せている。もちろんきちんと清算でき、安心して使い続けていただける適切な与信枠である必要もあり、その点も両立できています。
 我々は「創造」という単語をよく使いますが、この「創る」は単に「つくる」ではなく、“新しく産み出す”ことを意味します。
 与信サービスでの気付きは、新しい信用を創造できたと実感した瞬間でもあり、正しい方向に向かっている手応えになりました。

「新しい社会を創る」ステージへ

──「ふえるお財布」のひとつ、メルペイ残高で資産運用ができる、貸付投資サービス「Funds」との取り組みへも大きな反響がありました。
 2020年11月に、第1弾として行った「メルカリ サステナビリティファンド®」の募集は、開始わずか41秒で完売し、2回目も同様の反響。
 資産運用に対する感度の高さを目の当たりにしました。
 今後はFundsとの取り組みだけでなく、私たちが金融サービスとしてどんな付加価値を提供できるかが試されていくのだと思います。
 ふえるお財布の文脈としては、暗号資産領域への参入も構想しています(4月下旬、株式会社メルコインを設立予定)。具体的には、メルペイの売上金で暗号資産を取引できるサービスです。
 グローバルではPayPalやSquareが同様のサービスを展開し、近年は日本でも資産運用サービスが盛り上がっています。
 日本ではまだ資産運用へ踏み出しにくい現状がありますが、メルカリで不要品を売って“新しく生まれたお金”を資産運用に振り向けてもらうのは相性がいい。
また、優れた技術を社会に実装し、みなさんに還元することは、テックカンパニーを標榜する我々の使命でもあります。
 中長期的にはブロックチェーン技術を活用し、メルカリというマーケットプレイス自体のアップデートも視野に入れ、グループ全体でこの分野に本気で取り組んでいます。
 当初から掲げる我々のミッションは、「信用を創造して、なめらかな社会を創る」こと。
 ここにも「創」の字が2つも出てきますが、「新しい社会を創る」チャレンジはこれからです。2年を経て、今ようやく、決済の先に向かう“挑戦権”を得た。
 ここから先、テクノロジーを軸にどんな新しい価値を創れるのか。決済・与信・ふえるお財布の3つを軸に新たなチャレンジを加速させていきます。
 エンジニアなどプロダクトサイドの方々はもちろん、使いやすさを科学するUI・UXデザイナーや新しい信用に挑戦するAI・マシンラーニングエンジニア、事業を共に創り加速させるコーポレート……。今後を左右する、すべては「人」にある。
 メルペイはこれからが一番おもしろい。決済のあり方、信用のあり方、そして社会のあり方をアップデートしていけるかどうかは、どれだけ我々が「人」を惹きつけられるかにかかっていると思っています。