問いは一つ、答えはバラバラ。「正解不要」の自由な場とは

2021/3/5
NewSchool第2期で講座満足度「9.8(10点満点中)」を記録した「アウトプット読書ゼミ」が帰ってきた──。
名著を読み、考え、議論することを通して「正解なき時代」の思考力を磨くアウトプット型プロジェクト。
2021年4月より始まる第4期では、ナビゲーターである編集者・プロデューサーの岩佐文夫氏と共に、『社会心理学講義』(小坂井敏晶)を読み、「答えのない問い」に向き合いながら対話を重ねる。
本講座を主宰するNewsPicksパブリッシング編集長・井上慎平が、初回の「アウトプット読書ゼミ」に参加した3名に、講座を受けての感想を聞いた。

答えのない問いに向き合う

──講座から3ヶ月、あらためてお疲れさまでした。まずは参加する前、この講座に期待していたことから聞いてもよいでしょうか?
館岡 そうですね、私は正解主義でずっと生きてきたなと思っていて。気づけば答えを求めている自分がいて、そこからなんとか抜け出したかった。そんなときにこの講座を見つけて、すぐに応募しましたね。
池田 会社にいると、上司に言われたことを鵜呑みにしたり、みんなが指差した方に自分も行くみたいな状況が多いのかもしれません。
そういう意味で、「答えのない問い」に向き合う経験はしてみたかったです。それこそリベラルアーツかな、と。
館岡 でも申し込むときは、かなり不安もありました。面識のない人が集まる議論に、うまく参加できるかわからないじゃないですか。
館岡景子(写真:左上)。旅行会社に就職後、通信・IT業界を経て、現在は環境やサステナビリティ推進する企業・地域をサポートする企業にて秘書・企業プロジェクト・異業種勉強会運営等の業務を行っている。「正解主義」の人生で今最も不足していて、一番必要だと感じていた「問いを立てる力」。「読書ゼミ」で身につくとあり、即応募。
新保 そうですよね、「博識な人ばっかりだったらどうしよう」という不安はありましたね。
そもそも、(初回の課題図書だった)『LIFE3.0』って、自分では絶対買わない本なんですよ。だからこそ応募しようという気持ちはあったのですが、あまりにも知識がなさすぎてグループワークとかについていけないかもしれないな、とか。
新保貴之(写真:右上)。監査法人・金融業を経て、現在物流業にて役員として勤務している公認会計士。読書ゼミは、課題図書が普段一人では読まないテーマの本であること、かつ、読書でもう1段深い考察をどのように行うのか、具体と抽象の行き来のトレーニングになると思ったため参加を決意。
──なるほど。実際に参加してみて、どうでしたか?
池田 僕は、このゼミの1番の価値は、みんなが「自由に意見を言える場」だったことだと思うんです。
実は現代社会って、思ったことを自由に言える場が少ない。会社にいても友人と話していても、空気を読んでしまってなかなか素直に感じたことを言えないんですよ。
でも、この場はいい意味で利害関係のない人の集まりで、後先考えずに発言することができました。
池田英正(写真:中央下)。ITベンチャーを経てMBA留学をし、大手IT企業に入社。海外テック企業との業務提携や新規事業開発を担当する。「アウトプット読書ゼミ」にはAIをテーマに、経験豊富な講師陣や受講者とのディスカッションを期待し参加した。その他、NewSchoolでは「新規事業開発」と「最先端のテクノロジー地政学」を受講している。
──たしかに、みなさんが自由に発言されていたのは印象的でした。
池田 これは(ナビゲーターの)岩佐さんの「場のつくり方」が大きく関わっていると思います。
新保 たしかに、最初からいい空気でしたからね。心理的安全性が保たれていました
あとは、単純に誰も答えがわからないというのも大きかったかもしれません。
池田 「この人は正解、この人は間違ってる」とならないので、すごく話しやすかったですね。
館岡 こういう講座を受けるときって、やっぱりどれだけ知識を持ち帰るかばかりを考えてしまいがちなんです。
でも、このゼミでは「自分がこの場に貢献したい」と強く思えた。誰かの発言を正解にするというよりは、全員でひとつのものを作る感覚があったかもしれません。
新保 どんなにまとまりのない発言でも、誰かの考えを触発していたり、何らかのヒントを場に与えていましたからね。

問いは一つ、答えはバラバラ

──このゼミは、読書、アウトプット、問い、対話、ファシリテーションなどさまざまな要素があったと思うのですが、何が一番響きましたか?
新保 私は、みんなで議論するための問いを、自分たちでグループに分かれて決める時間が一番おもしろかったですね。
(編集注:初回のアウトプット読書ゼミでは、毎週、一部の参加者が全体で議論するための「問い」を自ら立てていた)
──問いを立てる時間。あれは何がおもしろかったのでしょう?
新保 まず、「いい問い」の正解があまりにないもんだから、「ああでもない、こうでもない」と苦しみながら話し合うという、新鮮な体験でした(笑)。
それでも実際に形になって、なんとか生み出した問いをもとに、講座の時間にみんなで議論する。
館岡 全員が問い立てを経験するので、問いを生む苦しみをみんなが理解している(笑)。そういう意味では、自分が問いを立てないときも、問い立てグループを見ていておもしろかったし、応援する気持ちがありましたね。
──池田さんは、この講座のどんなところがおもしろかったのでしょうか?
池田 同じ問いに対して、みなさんがことごとく違う答えを出すところですかね。
岩佐さんが、「これがまさに多様性です」と言っていて、言葉ではわかっていても、ここまで多様性を「実感」したことはなかったかもしれません。職業や年齢もバラバラの人たちでしたから。
館岡 同じ学校とか同じ企業にいると、やっぱり似た人が揃ってしまうのでしょうね。
池田 正解のない問いに対しては、その人が人生で経験したこと、学んだことからしか答えが出せない。それぞれの環境で、いろいろな経験やご苦労もされた人たちが、同じ問いに自分なりの答えをぶつけられていたのが印象的でした。
それによって、自分の考えもどんどんとアップデートされていきましたね。
館岡 たしかに。違う環境に自ら身を置くことの大切さも痛感しましたね。

自分の「思考の癖」に気づく

池田 そういう意味で、自分の「思考の癖」というか、いつも同じ方向からしかものを見ていないなと気づかされる場面が多かったんです。
新保 私も思考の癖を感じることがありましたね。
自分は、5W1Hで考えると、すぐHowにいってしまう。でも、ゼミの中には常にWhatかWhyの話をしている人もいた。
WhatとかWhyで考えている人って、「そもそも」で質問してくるんですよね。自分にはこの視点がないから、すぐに答えを求めてしまっていたのかもしれないな、と。そうすることで、もっとよかったかもしれない選択肢の可能性を潰してしまっていたんだと気づきました。

日常に「気づき」が増えた

──このゼミを受けた後、日常生活で何か変化はありましたか?
館岡 問いをもとに自分に近いところに話を引き寄せて議論していたので、あとから違う本を読んでいても、ラジオを聞いていても「これ、ゼミで話したな」「この話とゼミのアレが繋がるな」とか、気づきが増えたのかなとは思いますね。
新保 それでいうと、みなさん覚えているかわからないんですけど、私が講座の中で「ピカソの何がいいのかわからない」って言ったんです。
──強烈に覚えてます(笑)。
新保 それくらいアートに興味がなかった。でも、ゼミでの議論があったから、館岡さんに薦めてもらった『13歳からのアート思考』を読んだりしました。
そこにも書かれてたことなんですけど、芸術でもなんでも、表面的な情報からいかに裏の物語を読み取ったり、自分なりに解釈するかが大事なんだとゼミの後半でも気づき始めた。そこから、日常的なものの捉え方を意識的に変えるようにしていますね。
池田 先ほどから言っていた「多様性」というところで、僕もいろんな人の意見を素直に受け入れられるようになったんですよ。
それこそ新保さんがおっしゃったように、何気ない対話の中でも、相手の発言の背景はなんだろうっていうのを日々意識するようになって、それはこのゼミのおかげかなと思っています。

知識を与えられるのではなく、自分でたどり着く

──今回のゼミは、本を読むだけでなく、問いを立てる課題もあったりと、求められることがとても多かったと思います。正直、しんどかったですか?
館岡 しんどかったです(笑)。
でも、準備すればするほど場に貢献できる感じはして、もっと頑張れたなという気持ちもありました。
池田 おそらくあれぐらいやらないと、心に残らないですよね。必要な苦しみだった。
新保 なんであんな心に残ったのかっていうのずっと考えてたんすけど、やっぱりみなさん真剣にやっていたからだと思います。
──真剣、ですか。
新保 暦本さんが出してくれる問いも難しいので、『LIFE3.0』の同じところを2回も3回も読まないといけないわけですよ。
(編集注:アウトプット読書ゼミでは、ゲスト講師である暦本純一氏が毎週出す3つの問いに、参加者がそれぞれ『LIFE3.0』を読んで答えていた)
対話のときも、答えがない問いに対して、グループで考えたひとつの結論を発表しなきゃいけないし。
池田 他の講座って、知識を与えられることが多いと思うんです。出てくる情報をひたすら参加者が食べ続ける、みたいな。
それはそれで価値があるし、楽だと思います。しかし、与えられるのではなくて、自分たちで知識に辿り着く経験が、このゼミでできたのだと思います。だから心に残っているのかもしれません。

参加者主導のプロジェクト

館岡 参加者が話す時間をかなり多く与えてもらったゼミでしたよね。その分最初から最後まで、受け身にならずに積極的に関わることができました。
──ここまで参加者が話す時間が多い講座もなかなかないと思います。
新保 たしかに、そうですよね。
池田 僕も今までいろいろな講座に参加してきましたけど、どの講座でもブレイクアウトルームに割り振られると、誰も話し始めずに沈黙が続きますからね(笑)。
新保 おそらくファシリテーターの苦しさがわからないと、場に協力的になれないですよね。
このゼミでは、今週は問い立て、来週はファシリテーターという感じで毎週役割が明確で、全員がそれぞれの難しさを経験するので、全員が協力的になるんですよ。
池田 それはありますね。

次回の課題図書は『社会心理学講義』

──みなさん、ありがとうございます。
池田 (次回の課題図書である)『社会心理学講義』ももう読んでますよ。
──この本、出口治明さんが「ここ数年で一番のビジネス書」とおっしゃるだけあって、なかなか骨太な本です。
新保 どんな本なんですか?
池田 これで議論したら、無限に発散しそうです(笑)。
館岡 無限に発散、おもしろそうですね。
「NewsPicks NewSchool」では、4月から「アウトプット読書ゼミ」を開講。

異色の研究者、小坂井敏晶氏が生み出した『社会心理学講義』を読み、プロジェクトリーダーの岩佐文夫氏とともに対話することで、自らの思考を深める体験を一緒にしてみませんか。

詳細は以下をご確認ください。
(取材・編集:井上慎平、執筆:山﨑隼)