2021/3/12

「賞味期限」のあるスキルばかり身につけていないか

NewsPicks Brand Design Editor
 在宅時間が増えた今こそ、じっくり「学び」に取り組みたい。
 そんなビジネスパーソンのニーズに応えるのが、株式会社ドコモgaccoが提供する原則無料のオンライン学習動画サービス「gacco®(ガッコ)」だ。
 無料といえど、講義を担当するのは有名大学の教授や、著作で知られるような第一線の専門家たち。
 統計学や心理学、資産運用、文化史研究など、累計500を超える幅広いラインナップと、その本格的な講義内容により、会員数を急伸させている。
 そんなgacco®の掲げるコンセプトは「生涯使える教養」。その中身は、一体どのようなものなのか。事業担当者に話を聞いた。

コロナ禍で急伸。20万会員増の理由

 長引く自粛生活を背景に、ビジネスパーソンの「学習意欲」が高まっている。書籍や勉強会、資格講座、学習アプリ。
 巷にはさまざまな学びツールがあるが、中でも近年注目を集めるのが、オンラインでの講義動画=通称「MOOC(=Massive open online course)」だ。 
株式会社ドコモgaccoが運営する「gacco®(ガッコ)」は、欧米発祥のMOOCを日本で初めて提供したパイオニア的存在。
 2014年のローンチ以来、着実に会員数を伸ばし、現在では約85万会員を有するプラットフォームへと成長している。
 中でも目をみはるのが、直近1年のコロナ禍での急伸だ。増加した会員数はおおよそ20万人。ドコモgacco代表の佐々木基弘氏は、会員数の増加について次のように説明する。
「gacco®のメインユーザーは、①20~40代のビジネスパーソン、②学び直しを考えているシニア層、③育休・産休中などの子育てや家事に励む主婦・主夫の大きく3種類。
 コロナ禍では、特に①のビジネスパーソンの登録が増えました。
 ただ、私たちの講義のコンセプトは『生涯使える“知”の提供』。すぐにビジネスに役立つもののほうが少ないので、この層の方々が増えたのは予想外でした」(佐々木氏)
 佐々木氏の言う通り、gacco®の講義は腰を落ち着けて、じっくりと習得を目指す「教養」をメインに据えている。
 明日から使える「スキル」も重要だが、正解なき時代をサバイブし、イノベーションを起こすには、自らの仕事に直結しない「幅広い知識」がより重要だと考えているからだ。
「gacco®は『正解を探す力』ではなく『問いを立てる力』を養うプラットフォームです。
 これは、チャールズ・オライリー氏が提唱する『両利きの経営』で言うところの、『知の探索』に当たる部分と近しいと思います。
 たとえば、NewsPicksさんは、経済やビジネスに特化した、専門的な知見を得るサービス。
 一方、gacco®はアカデミック領域をメインに幅広い『学び』を提供しています。とすると、両者は補完しあう存在かもしれません」(佐々木氏)

「統計学」から「銀河の形成」まで

 では、gacco®では一体どんな「学び動画」が配信されているのか。
 アクセスしてみると、ビジネス領域をはじめ、人文科学、サイエンス、健康・医療など、講義内容は実にさまざまだ。
 講座の提供元も、東京大学や京都大学、東北大学、北海道大学、立命館大学といった大学機関をはじめ、Grow with Google 、東京証券取引所など民間企業、さらには官公庁・地方公共団体と、バラエティに富んでいる。
「特に人気なのはデータサイエンスや統計学。それから、ビジネスパーソンの方には、マネーリテラシーや資産形成の講座も人気ですね。 
 ほかにも、たとえば文化史研究だったり、銀河の成り立ちに関する講義だったり。通常の生活を送っていると、触れる機会の少ないテーマもそろっています」(佐々木氏)
 それぞれの講座の開講期間は、およそ1カ月~3カ月程度。長いクラスでも半年くらいなので、社会人大学や資格学校に通うよりも、始めるハードルが低いと言えるだろう。
 さらに、gacco®のシステムは講義動画の配信のみにとどまらない。受講生同士のオンラインディスカッション機能や、課題・レポート提出の仕組みなど、「学び」に関わる多様な機能がそろっている。
 動画を介したインプットのみならず、得た知識のアウトプットまで一貫したサポートが好評を博しているのだ。
「現在はコロナで開催が難しいですが、通常であればオフラインでの反転授業(対話や議論をメインとした講義スタイル)を実施することもあります。
 gacco®は年齢層が幅広いのが特徴ですから、『老若男女の考え方から気づきを得る機会は貴重だ』というフィードバックを、講師とユーザーの双方からいただいています」(佐々木氏)
 ちなみに、1講座の受講をすべて終えるとオンラインで『修了証』が交付される。大学の単位や公的資格を証明するものではないが、講座を修了した「証」となるため、受講者のモチベーションにつながっているようだ。

なぜ「無料」で提供ができるのか

 gacco®のほかにも、世には「学び動画」を提供するサービスが複数存在する。 
 しかし、そのほとんどが有料だ。もちろん、YouTubeなどで無料配信されている場合はあるが、gacco®のように課題の講評やコミュニティ機能までを備えている例は少ない。
 なぜ、gacco®は「無料」でサービスが提供できるのか。率直な疑問に、ドコモgacco執行役員の南圭氏はこう回答する。
「現状、gacco®はユーザーからのサブスクリプションではなく、社会貢献や生涯学習の一環として、学内講義ではリーチできない受講者へアプローチしたい、と大学から講座を提供いただいています。
 企業側は、学びを通して受講者と深い接点を持つことができる『新たな広報メディア』として、gacco®をご活用いただいているようですね」(南氏)
 また、gacco®は独自のシステムを生かし、有料で法人向けビジネスも展開している。それが、「gacco ASP」と「gacco Training」だ。
「 『gacco ASP』は、gacco®のラーニングシステムを法人に提供し、研修や社員育成に活用いただくモデル。一から配信環境を整えずとも、自社オリジナルの動画を社員に届けられるため、その利便性を評価いただいています。
 それに付随して『gacco Training』ではシステムのみならず、弊社が準備したビジネスマナーからデータサイエンスまで、幅広い研修コンテンツもセットで提供しています。
 社内研修には『gacco ASP』、ビジネススキルの向上に『gacco Training』。自己啓発に無料のgacco®を組み合わせてご利用いただいている企業も増えてきました」 (南氏)
 テレワーク需要や研修のオンライン化の流れも相まって、特に昨今は導入相談が増えている、と南氏。特に2020年は、法人や官公庁からの問い合わせ件数が昨年比で10倍増という盛況ぶりだ。
 なお、法人向け事業好調の背景には、もう一つの理由があるという。
「我々の親会社はNTTドコモなので、全国に販売網があります。
 ですので、北から南まで、どこの法人様でも、導入支援はもちろん、その後のアフターサポートまでお手伝いできる。これは、NTTドコモのグループ会社ならではの強みだと思います」(南氏)

多忙な講師の授業も「一瞬」で完成?

 個人・法人双方からのニーズ急伸を背景に、gacco®はさらなる講座数の拡充を見込んでいる。
 しかし、高度な授業ができる講師・専門家の時間を確保することは簡単ではない。多忙な大学教授であればなおさらだ。
 そこで、ドコモgaccoが他社と共同で開発を進めているのが、AIを使った講義動画の生成スキームだ。なんと、この仕組みを使うとたった数分間の撮影で、長時間の講義が作れるようになるという。
 コンテンツ事業部の横山竜也氏は、流れを次のように説明する。
「京都大学発のAIベンチャー企業・データグリッド社と協業して、AIを用いた動画制作に取り組んでいます。
 仕組みとしては、素材として数分程度の講師動画をAIに学習させ、音声データ(言葉)と組み合わせることで、音声と同期してその言葉をまるで本人が話しているように再現できます。 
 講師の数分程度の動画と音声データがあれば、まるっきり講師が話しているように見える動画を1時間でも5時間でも任意の長さで制作できるのです」(横山氏)
AIを活用した講座『AIの基礎と開発プロジェクトの進め方』は、3月12日15:00開講予定。本講座では、NTTテクノクロス社の音声合成サービスFutureVoice® Crayonを使うことで、音声データも自動生成しているという。
 テクノロジーを駆使した「新しい講座」の開発はこれだけにとどまらない。現在、ドコモgaccoはVRデバイスを活用した講義の準備も進めている。 
 VRゴーグルをつけてログインすれば、アバターを介した講師と生徒のコミュニケーションが可能に。オフライン講座さながらの、インタラクティブなやり取りが実現できるのだ。
iStock:smolaw11
「私たちは、『人生100年時代の学びプラットフォーム』を目指しています。なので、こうした新たな機能は、どんどん実装していかなくてはと考えています」(横山氏)

教養を「民主化」するインフラへ

 通信企業のDNAを持ち、テクノロジーを活用した教養の「インフラ」を整えるgacco。冒頭で紹介した通り、年々会員数は増加しているが、佐々木氏は「挑戦はまだ道半ばだ」と意気込みを語る。
「おかげさまで、gacco®はたくさんのユーザーにご利用いただくサービスへと成長できました。しかし、教養の『インフラ』となるには、さらに多くのお客様に機会を届けなくてはと考えています。
 ドコモのスマホやdポイントのように、ドコモgaccoとしてもサービスやコンテンツを大幅に拡大し、1,000万以上のユーザーにご利用いただけるよう邁進したいですね。
 めざすは、教養の民主化。年齢問わず、誰もがどんなタイミングでも『生涯使える教養』に触れられる、そんなサービスにしていきます」(佐々木氏)