2021/3/3

【超入門】プロに聞く、起業のマスト7項目

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「独立しよう」

そう思い立っても、やりたい事業や自分を取り巻く周囲の状況によって、採るべき選択肢や注意点は変わってくる。

今回は、税理士YouTuberとしても活躍する「ヒロ☆総合会計事務所」の代表税理士・田淵宏明氏と、かつて自らもベンチャーの起業を経験した弥生株式会社の望月悠史氏にインタビュー。

起業に関する数々のタスクのなかから、“ひとり社長”が絶対に押さえるべきポイントを、7つの視点にギュッと凝縮した。
ひとり社長のチェックリスト
  • 1. 個人事業主か法人起業か?
  • 2. 楽観的になりがちな事業計画の罠
  • 3. 地味タスクの山。法人設立までの流れ
  • 4. 初めての資金調達。どれだけ借りるのが正解?
  • 5. 売上は大事。でも、もっと大事なのは?
  • 6. 初めての決算書から何を感じ取るべきか?
  • 7. 次なる一歩は、“業務効率化の追求”

1. 個人事業主か法人起業か?

 一口に“独立”と言っても、選ぶべき道は2つある。個人事業主法人起業だ。
 まずはどちらを選ぶのが得策なのか?
田淵 今は資本金が1円でも起業できる時代。しかし、10年後には実に9割が廃業している現実があります。
 法人か個人かの判断は非常に難しいのですが、特に「信用力」「節税効果」が結論を大きく左右します。
田淵 まず「信用力」とは、個人と法人どちらがビジネスパートナーとして信用を得られやすいか、という観点です。
 例えば、飲食店や小売業などのBtoC業種。特殊な商材を扱ったり大規模な取引を行ったりしない限り、たいていの仕入先は個人事業主を許容してくれます。
 法人化は経営が安定してからでも遅くありません。なのでBtoC業種では、最初に個人事業主を選ぶ人が多いわけです。
 一方で、取引金額が大きくなりがちな卸業や建築業では、何よりも支払や取引条件を遵守してもらえるかが重視されます。
 そのため、登記簿や決算書などの公的に裏付けられた情報が開示される法人に取引先を限定する企業が一般的。もしBtoB業種を選ぶのであれば、法人化を前提に準備を進めましょう。
望月 私は過去に2年ほど会社を経営していた経験を生かして、現在は弥生で事業支援をしています。
望月 振り返ると、私もBtoB業種だったせいか、迷うことなく法人化の道を選びました。
 太陽光発電関連の商社として、発電事業者向けのコンサルティングや太陽光パネルの輸入、事業用地の取得などにも携わる計画だったので、法人化が必須でしたね。
田淵 個人事業主か法人設立か。2つ目の「節税効果」からも考えてみましょう。
 基本的に、法人は個人事業主よりも経費として認められる範囲が広く、節税効果が大きいというメリットがあります。
 一方で、法人登記には登録免許税や定款認証手数料などの実費がかかりますし、赤字状態でも年7万円の法人住民税の納付は欠かせません。
 さらに忘れてはならないのが、ひとり社長でも社会保険への加入義務があること
 ほかにも、売上額や役員報酬額によって支払うべき税金や保険料は異なりますが、意外と大きな毎月の支出があります。
望月 手続きに伴う経理事務や納税申告の作業も、ひとり社長には大きな負担ですよね。本来注力すべきは事業。そこに集中できるのかも考えねばなりません。
田淵 そうですね。これらのバックオフィス業務を外注するのも一手ですが、時間と手間を節約する代わりに、費用はかさみます。
大阪が拠点の田淵氏とは、Zoomを介してインタビューを実施した
田淵 こうしたことを一通り考えなければならないので、一概に「売上が◯◯万円を見込めるなら法人化すべき」とも言い切れません。
 法人の節税効果は大きなメリットですが、税金や保険料ばかり気にするのは本末転倒。まずは、いかに事業を成長させるかを最優先に考えてくださいね。

2. 楽観的になりがちな事業計画の罠

「法人設立までのプロセスのなかで、経営者が最も重視すべきは事業計画書の作成です」と田淵氏。
田淵 事業計画書は、創業者自身にしか作れない上に、金融機関や投資家が出資の可否を決める際の有力な判断材料になります。
 これだけは誰も代われない部分なので、真剣に向き合っていただきたいですね。
 だからといって、壮大な計画をぶち上げればいいという話ではありませんよ。第三者に受け止めてもらえる説得力ある内容かが肝心です。
望月 事業計画書は融資の有力な判断材料なので、私もずいぶん力を込めて書いた覚えがあります。
望月 事業計画書はどうしても「この事業が成功する」という前提で書くもの。
 当時は「社員1人で1億円の売上が見込めるはずだ」なんて本気で考えていましたが、今振り返ると楽観的な部分もあったかもしれません。
田淵 夢いっぱいな時期ですからね。
 “最高の売上が上がる前提”で、希望的観測に基づく事業計画を描かれる方は少なくありません。特に、初めて起業する場合や未経験の業種での起業はなおさらです。
 融資や投資のプロは、経営者の安易な考えを簡単に見抜くので、融資を受ける面ではかなり不利になります。
望月 もし当時の自分にアドバイスするなら、ドラフトの段階で事業計画書を見てもらい、いろんな意見をもらうよう伝えたいですね。

3. 地味タスクの山。法人設立までの流れ

 株式会社に合同会社、合資会社、合名会社など、法人の形態はさまざま。今回は最も一般的な「株式会社の設立」についてご紹介しよう。
 設立準備から開業までの流れをざっくりまとめると、次のようになる。
田淵 やるべきタスクは大きく2種類に分かれます。一つは、みなさんがまず思い浮かべるであろう、オフィス入居や備品手配といった事業準備です。
 そして、もう一つが法令に則った開業準備。法人登記のほかにも、地味ですが欠かせない手続きのラッシュです。
 申請・申告・届出は、創業者本人でもすぐにできますが、書類作成はもちろん、そもそも何をどのタイミングですべきか情報収集する時間も必要。そこも見込んだスケジュールを立ててください。
望月 起業するタイミングって、ただでさえ忙しいので、このプロセスをたった1人で完璧にやり遂げるのは至難の業
 実は私も、独力を試みて途中で諦めました。税理士さんをはじめ、会計士や司法書士の方々にお任せしてしまうという決断はアリだと思います。

4. 初めての資金調達。どれだけ借りるのが正解?

 あれこれお金がかかる起業。経営が軌道に乗るまでの運転資金を、自己資金だけでは賄えないこともある。
 そんなとき力になってくれるのが、「日本政策金融公庫(以下、公庫)」だ。
田淵 資金調達には、投資家の出資や銀行融資などがありますね。しかし残念ながら、民間の金融機関は創業したての会社をまず相手にしてくれません。
 そこで公庫が行う融資、なかでも「新創業融資制度」を活用するのが定番です。
 事業計画書によほど大きな不備がない限り、自己資金の10倍まで融資してくれます。起業を志したらコツコツ自己資金を貯め始めておくと良いでしょう。
望月 起業経験者としても、声を大にして「借りられるうちに借りておいて損はない」と言いたいです。
望月 私も公庫の創業融資を活用し、その翌年に追加融資を受けました。
 会社を経営しだすと、サラリーマン時代には想像もしない出費があるのに気づきます。不測の事態に備えて、「手元資金」に余裕を持つに越したことはありません。
 経営経験が浅いうちはどうしても、破綻リスクを下げようと「融資は小分けに。借金は少なく」と考えがちです。
 しかし会社経営においては、好条件で借りられるうちに限度額まで借りるという判断は、決して間違いではないと思います。
田淵 私も限度額まで借りるほうが、かえってリスクは下がると考えます。
 創業融資は過去の実績が問われない、ほぼ唯一の融資枠です。しかも、使えるチャンスは1回限り。
「やっぱり足りなかったので、また貸してください」と言っても、再融資のハードルは非常に高くなっています。
 もちろん、どれだけ借り入れるかは経営判断によりますが、資金繰りがカツカツだと、気になって本業にも支障が出かねません。3カ月~半年分の運転資金を見込んで資金調達しておくほうが得策でしょう。
 滞りなく返済していけば信用力も高まり、結果的に追加融資のチャンスが広がるかもしれませんよ。

5. 売上は大事。でも、もっと大事なのは?

 初年度から計画通り顧客を獲得し、売上が順調に伸びているなら安心……とは言い切れないのが、会社経営の難しさだ。
田淵 経営初心者は特に、売上だけでなく「粗利率(あらりりつ)」も意識するよう心がけてみてください。
  起業間もないみなさんは、どうしても年商や売上高といった大きな数字に目を奪われやすい傾向にあります。
 もちろん売上高の大きさは大事ですが、それよりも重要なのは、最終的に手元に残る「利益」です。
 考えてみてください。まず売上高から売上原価を引いた粗利があり、その中から家賃や光熱費、役員報酬を捻出します。
 お金の使い方によっては、売上高はあるのにまったく利益が残らない……なんてこともあり得ます。
望月 「売上構成比」にも注意を払うべきです。
 取引先の数が少なくても、高単価なら初年度から大きな売上が作れます。
 しかし同じ売上1億円でも、1社で1億円と10社から1,000万円ずつ得るのとでは、経営の安定度が格段に違います。1社の売上依存度が高いと、崩れるのも速い
 私も似た経験をしていますが、政策転換をきっかけに、大口顧客を失うこともあります。
 順風満帆だった1年目が嘘のように、起業2年目にして会社を畳まざるを得なくなる場合もあるのです。
田淵 取引先は分散させ、売上構成比を1社あたり20%以内に抑えるのをオススメします。こうしておくと、1社ダメになっても新規開拓で立て直せる確率がグッと高まるので。

6. 初めての決算書から何を感じ取るべきか?

 毎年の事業年度終了時に利益を確定させ、法人税額を確定する締めくくりが決算だ。
 財務状態や営業成績を如実に表すことから、 “会社の通信簿”や“社長の成績表”ともいわれる決算書
 1期目の決算書から、ひとり社長は何を感じ取るべきなのだろうか?
田淵 まずは1期目お疲れ様でした。創業準備から決算までの間に「こうすればよかった」と感じる点が、恐らくいくつもあったのではないでしょうか。
 決算書はその年の納税額を確定するために税務署に提出する書類。ですが、2期目以降に向けた指針にもなります。
 売上の大小、赤字か黒字かで一喜一憂するのは無意味。決算書の数字とは、あくまでもたった1年の結果にすぎないからです。
 一番大事なのは「結果を踏まえて、会社をどう導き、何を実現したいか」を、創業以前よりも解像度を上げてイメージすること。事業計画通りに進んでいるかを物差しにしてください。
望月 資金調達のハードルが上がるという話もありましたが、2期目からは周囲の目が変わります。
 顕著なのは金融機関。融資の相談を持ちかけると、必ず決算書の提出を求められます。事業計画の信憑性を実績で精査するからです。
 会社の成長を望むなら、経営者自ら決算書と事業計画を突き合わせて、経営の精度を高める努力が不可欠だと思います。

7. 次なる一歩は、“業務効率化の追求”

 独立を考えてから初の決算まで、ひとり社長が心得ておくべきポイントを整理してきた。
 最後に2年目以降に向けたアドバイスを求めたところ、田淵氏も望月氏も「限られたリソースの有効活用がカギ」と口を揃える。
田淵 このコロナ禍で、スモールビジネスは苦しい状況が続いています。
 しかし時流を捉えた戦略で、過去最高益を出した企業もあります。新しい領域へリソースを投じた企業が明確に差をつけている印象です。
 同時に、真面目に会計処理しておくことの大切さも痛感しています。これまでの会計データが、給付金を受けられるかの成否を分けるからです。
望月 とはいえ日々の帳簿管理は、時間も取られるし、意外と負担になるものです。本来は会社の意思決定を助ける業務が、ビジネスチャンスを妨げてしまう
 そこで私たち弥生は、バックオフィス業務の手間を限りなくゼロに近づけ、スモールビジネスの事業者が本業に集中できるように、“手入力のない世界”の実現を目指しています。
田淵 私も業界に入って20年になりますが、弥生のサービスでだいぶ業務効率化が進んだように感じます。
 こうしたスモールビジネスの支援サービス、なかでも入力の自動化は、経営者もフル活用していただきたいですね。
 それが私たち税理士にとっても、顧客へ付加価値の高い仕事を提供する助けになるので。
望月 私たち弥生の使命は、日本の99.7%超を占めるスモールビジネスの発展を支え、日本の発展に貢献することです。
 これからも弥生シリーズによる徹底的な業務効率化と、事業のあらゆるステップに寄り添うサービスで、夢を抱く事業者のチャレンジを支えていきます。