2021/2/25

人は動く、時代も動く。あなたのビジネスは正しく動けているか

NewsPicks Brand Design / Chief Editor
新型コロナウイルスは、人々の「動き」を劇的に変えた。
自粛要請やテレワークにより小売や飲食店の撤退が相次ぐ一方で、ECやデリバリーは急成長。GoToトラベル・GoToイートなど人の移動を促す施策も行われた。
この「人流」の変化をどうすれば捉えられるのか。さまざまなビジネスプレーヤーが頭を悩ませるなか、にわかに注目されているのが、KDDIの法人向け位置情報サービス「KDDI Location Data」だ。
KDDI Location Dataのデータを用いて、平日6:00-23:00の東京駅周辺の滞在人口を可視化したマップ。色が濃いほど人口が多い(画像提供:ゴーガ/KDDI)
 本記事では、高解像度の位置情報がどのようにビジネスに実装されていくのか、具体的な事例を交えて紹介する。
紹介事例
  • 「移動」や「行動」の変化を捉えられるか
  • 大型台風が襲来、人は“正しく”避難できたか(野村総合研究所)
  • 人の動きがわかれば、「まちづくり」も進化する(ナイトレイ)
  • かけあわせで、「自社データ」が経営の武器になる(ゴーガ)
  • 「地図×人流データ」でマーケティングが変わる(ゼンリンマーケティングソリューションズ)
  • リアルな移動データから、新規ビジネスアイデアも続々(NEC)

「移動」や「行動」の変化を捉えられるか

 人口動態や人々の移動データは、観光事業や都市計画はもとより、新規出店のための市場調査、屋外広告などのマーケティング用途に幅広く使われてきた。しかし、全世帯を対象にする国勢調査は、5年に一度。社会情勢の変化が加速するにつれ、実態との乖離が拡大。調査結果の信頼性や有効性が低下する。
 KDDIの位置情報サービスでは、auのスマートフォンユーザーから事前に同意を得たうえで、GPSによる解像度の高い位置情報データを取得。最小10mのメッシュで、最短数分間隔。リアルタイムに近いデータによって、移動手段や進行方向、道路の通行量までをも判別する。
 さらに、端末の契約者情報にもとづき、性別や年齢などの「属性」がわかることも通信キャリアならではの特徴だ。
 こうして集められたデータは、個人が特定されないよう秘匿化され、公的な人口統計情報とかけ合わせて拡大推計処理を施される。これが、これまでにない統計価値を持つ「移動・滞在の人流ビッグデータ」として、さまざまな自治体や企業に活用されているのだ。
※生活圏(自宅・職場など)内のデータ削除、性別・年齢以外の個人識別子の秘匿化、時間・空間のメッシュ化など(参考:「位置情報ビッグデータ」の活用 | KDDI株式会社
 KDDIで位置情報を使った事業開発に取り組んできたパートナービジネス開発部の石橋弘志氏は、その需要についてこう語る。
「当社が位置情報サービスを手がけ始めたのは、2013年。当時は官公庁、特に観光事業や地域活性に取り組んでいる地方自治体が主なお客様でした。

 どんな属性の人が、どの交通手段で訪れて、どこに泊まっているのか。また、観光客がその後どの県に流れるのかを分析し、地域への流入や滞在時間をより増やすためのマーケティング調査に使われていました」(KDDI 石橋弘志氏)
 KDDIでは元来、ユーザーの位置情報を基地局設置など通信サービス向上のために保持・活用していた。これを地域活性や防災などに転用するため、外部提供する方法を探り始めたのが2013年。
 当時の人口動態は国勢調査や住民基本台帳をもとに推計されるほか、移動・滞在などの「行動」を捉えるには観光客へのアンケートや人手をかけた交通量調査に頼るしかなかった。
「国が扱う大規模調査は、数年に一度しか行われません。人の手による交通量調査もコストが高く、年に数日間のピンポイントの情報しか得られない。

 一方、夜間人口(居住人口)はともかく、移動の激しい昼間の人流は、新しい商業施設ができただけでも大きく変わるんです。1年前、2年前のデータを分析しても、実態とはかけ離れているかもしれない。それを検証するデータが必要でした。

 当社がお客様から許諾をいただいたうえでデータを活用できれば、官公庁に限らず、さまざまなビジネスでも分析や市場予測に活かせるのではないかと開発を進め、2019年に分析ツールである『KDDI Location Analyzer』、お客様が自社のデータとかけ合わせて分析を行うためのデータ提供サービス『KDDI Location Data』をスタートさせました」(石橋氏)
 こうした高解像度・リアルタイムの人流データからは何が見え、具体的にどのように活かされているのか。多彩な導入事例を見ていこう。

大型台風が襲来、人は“正しく”避難できたか(野村総合研究所)

 KDDIと野村総合研究所が共同で行ったのが、2019年10月に関東を中心に甚大な被害をもたらした台風19号襲来時における東京都民の避難行動の分析だ。
 両社は「台風上陸前後」と「平常時」のデータを比較し、①事前準備、②外出控え、③避難行動が正しく取られていたかを検証した。
「防災計画の策定にあたっては、ハザードマップや居住人口分布など、エリアを面で捉えたデータが活用されています。一方で、住民の“行動”については事後のアンケート調査が主で、得られる情報量にも限界がありました。 

 移動人口や滞在人口のビッグデータによって、避難行動をより広域で精緻に捉え、アンケートではわからなかった情報を補うことができます」(野村総合研究所 DXコンサルティング部 コンサルタント 高橋祐人氏)
 平常時と台風襲来時の移動人口を比較した結果、まだ雨は降っていない台風襲来前日にも早めに帰宅する人が増え、外出者は2割程度減少。当日の移動人口は、最大9割も減った。
 ただ、危機感に直結する河川の氾濫危険情報発令後に避難する人の増加が見られた一方で、自治体ごとの避難勧告・避難指示による避難増の効果は有意に表れていないことも明らかになり、いかに早い避難につながる情報発信を行うか、今後の課題も浮かび上がった。
「KDDI Location Dataではエリア・時間ごとの人口動態のほかにも、避難者の性別や年代などの属性、移動手段など付加情報が取得できる。元データは膨大で、探索的に分析を行うのが難しくもあります。

 うまく活用するには、あらかじめ解きたい課題を明確にし、データの事前加工や分析の条件を精査しておくことが特に重要だと感じました」(高橋氏)

人の動きがわかれば、「まちづくり」も進化する(ナイトレイ)

 ロケーションインテリジェンス事業として観光・まちづくり・MaaS領域におけるデータ分析支援サービスを提供するナイトレイ社は、地方自治体や民間企業へのKDDI Location Data導入コンサルティングを請け負っている。
 特に地方自治体からは、管轄する地域の住民や来街者についてより深く分析したいという要望が多かったという。
「弊社では決済データやカープローブ、ビーコン、SNS解析データ、スマートフォンアプリGPSデータなど多様な位置情報データをニーズに合わせて分析しますが、データの偏りが課題になることがあります。

 KDDI Location Dataは、KDDIの国内契約者情報と⼗分なデータボリュームをもとに信頼性が高い移動人口・滞在人口分析ができる点が強み。対象エリアや時間の細かな分解や、移動者と滞在者、性・年代別の分析など、これまでやりたくてもできなかった切り口で分析できることも見えてきました」(ナイトレイ 代表取締役 ⽯川豊⽒)
上:KDDIの位置情報データは、KDDI Location Analyzerを使って移動ルートや手段、属性別に分析できる/下:出発地と目的地を指定したODデータの可視化イメージ。
 石川氏が活用例として挙げたのは、地域活性化を目指したまちづくり・MaaSプロジェクト。
 KDDI Location Dataで生活者や来街者、旅行者の移動滞在ニーズを高度に調査分析し、公共交通事業者や次世代モビリティサービス事業者がコスト最適化と利用者増加のために効率的な配車タイミングや運行地域を選定、まちづくりに活かすという手法だ。
 特定エリアの人流を経年変化とともに分析すれば、交通量が増えた道路や滞在時間が増加した施設やスポットを把握でき、新たな観光資源の発掘にもつながる。こうした市場調査やマーケティングは、自治体だけでなく、より広範なビジネスに実装されつつある。

かけあわせで、「自社データ」が経営の武器になる(ゴーガ)

 Google Mapsのプレミアパートナーでもあるゴーガ社では、Google Maps Platformを活用したシステム開発や導入コンサルティングを行ってきた。
「例えば、多店舗展開をする企業やメーカーの広報・マーケティング部門には、カスタマー・エクスペリエンス向上に直結する使いやすい店舗検索システムや、顧客・店舗分析による出店計画支援を。

 物流部門には配送の最適化、気象データと連携した災害対策など、企業が持つビジネスデータや位置情報とGoogle Maps Platformをかけ合わせることで、課題解決のお手伝いをしています」(ゴーガ 代表取締役 今関雄人氏)
 どのような企業も、部門ごとに独自データを持っている。それだけでは価値を発揮できないデータでも、位置情報など異なるデータとかけ合わせることで、自社のビジネスや顧客にとって有用な情報が可視化されることがある。
 店舗検索、動態管理、営業支援や設備管理まで、さまざまなプロダクトやサービスを組み合わせたソリューションを提案するゴーガ。
 今関氏は、KDDI Location Dataの魅力を「スマホのGPSデータをもとにした位置精度の細かさと、ログ取得頻度の高さ」だと語る。
「コロナ禍では人の動きが日々変化しており、データの精度と鮮度の重要性がより高まっています。加えて、KDDI Location Dataは過去にさかのぼってデータを取得できるので、コロナ前後の来訪者属性や滞在時間を比較し、より具体的なエリアマーケティングの示唆が得られます。

 店舗や施設など指定したスポットの滞在者数のピークはどの時間帯なのか、近隣の競合施設へはどれくらい周遊しているのか。こういったデータは、多店舗展開の商業施設を持つリテールや鉄道会社など、多岐にわたる企業にとって非常に有益な情報です。

 それぞれの企業が保有している独自のデータとKDDI Location Dataをかけ合わせることで、事業戦略や出店計画の精度向上に役立てられると考えています」(今関氏)

「地図×人流データ」でマーケティングが変わる(ゼンリンマーケティングソリューションズ)

 もう一社、地図を使ったソリューションにKDDI Location Dataを組み込み、ビジネス実装を行うのが、2020年4月にゼンリングループ3社が統合して生まれたゼンリンマーケティングソリューションズ社(以下ZMS社)だ。
 ゼンリンの地図データを用いた分析からプロモーションまでを一気通貫で行うZMS社では、エリアマーケティングの部署がKDDI Location Dataを活用している。
「ゼンリンの地図は1日あたり約1000人、年間延べ28万人の調査員が徒歩で各地を回り、目視で情報を取得した住宅地図がベースとなっています。市区町村や町丁目単位でのエリアマーケティングから、建物1棟ごとのピンポイントマーケティングまで、さまざまな分析が可能です。

 しかし、どれだけエリアを詳細にしても、一般的な統計データだけでは人の滞在などの『動的』なポテンシャルを把握することは難しく、課題でもありました。KDDI Location Dataで、まさにその課題を解決できるのではないかと思っています」(ZMS コンサルティング営業部・池 立弥氏)
 ZMS社では、地図にさまざまな統計情報や店舗情報を付け加える。顧客が位置情報とともに自社の実績などを可視化することで、マーケット分析の精度が飛躍的に高まるという。
 例えば、どのエリアから顧客を獲得しているのか、既存店同士で顧客を取り合っていないか、店舗の実際の商圏はどのくらいか。そういったことを深く分析すれば、販促・店舗統廃合・営業テリトリーの適正化などが可能になる。
 ゼンリンのエリアマーケティングとKDDI Location Dataによって、自前のデータを持たない企業でも、自社の商圏を把握できるように。「人の動き」が可視化されたことが、企業のDXの可能性を広げている。
「KDDI Location Dataを用いることによって、オフィスや商業施設周辺の人の動きが、時間ごとや休日/平日の変化まで可視化できました。

 また、自動販売機や駐車場のように商圏の概念が弱く、流動人口や交通量、時間帯が大きく影響する業態では、エリアマーケティングに限界がありました。

 そこにKDDI Location Dataを活用すれば、人の経験と勘に頼らないロジックを確立することができると考えています」(池氏)

リアルな移動データから、新規ビジネスアイデアも続々(NEC)

 時間・空間の解像度が高まったことで、データサイエンスの可能性も広がっている。
 NECが2017年度からAI人材育成の一環として実施している社内分析コンテストがある。第5回となる「NEC Analytics Challenge Cup 2020」は、初めて連携企業・大学との共同コンペという形式を取り、分析対象としてKDDI Location Dataが使われた。
「コロナ下で注目すべきデータとして人口動態を選びましたが、分析者のスキルアップのためにも魅力的なデータでした。

『予測精度コンテスト』では、トレンドや季節性、祝日や連休をどうケアするかなどの考慮が求められます。特に繁華街部門では、エリアや属性(年齢・性別)によってデータの傾向がまったく異なるため、分析の難度が高い。

 最優秀賞受賞者は、データの傾向をうまく捉えて、適切なデータ分割やモデル選択ができていた点、また、祝日や連休などの特徴的な変動や過学習への対処がなされていた点が優れていました」(NEC AI・アナリティクス事業部 伊藤千央氏)
「アイデアコンテスト」では、データ分析によって解くべきビジネス課題を見極め、ゴールを設定する企画力、また、その課題解決のアプローチを見つけ出す分析設計力が競われた。
 コロナの状況を踏まえ、飲食店・キッチンカーに対するアイデア、地域密着型ビジネス、ダイナミックプライシング、オフィス活用など、さまざまなアイデアが登場した。
「最優秀賞には、コロナの流行により苦境にある飲食店の支援を目的とし、人口動態データの分析結果を活用して飲食店・フードトラックオーナー・消費者をつなぐフードトラックビジネスのアイデアが選ばれました。

 また、特別審査員のKDDI パーソナル事業本部・若井幸夫氏より高い評価をいただいた『山手線沿線区の人口動態データから読む 地元密着型ビジネスターゲティング』というアイデアは、人口動態データから『地元密着志向』の特性を持つ区を特定し、それぞれにビジネスや地域活性化のアプローチ例を提案するものでした。

 人口動態データは、変化の激しい時代において“リアルな人の動き”を捉えられるため、新しいビジネスを生む可能性を秘めていると感じます」(NEC 第一ネットワークソリューション事業部 飛田尚洋氏)
 リアルタイムで更新されるビッグデータによって人口動態の把握や予測の精度が高まると、地域ごとに異なる人の行動パターンがよりはっきりと見えてくる。
 今回取り上げた事例のほかにも、KDDI Location Dataを使って投資家やコンサルタントが店舗や工場の稼働状況を調べたり、そうしたデータを用いて人員の配置や最適化に取り組んだりする試みも進んでいる。
 変化の激しい現代において、精緻に人の動きを捉えることができる人口動態データ。新たに可視化されたビッグデータを活用し、ビジネスを創出する挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。