白水徳彦

[北京 26日 ロイター] - 業績が低迷する日産自動車は、中国市場の戦略を大幅に見直す。電気自動車(EV)の投入を加速するほか、部品や技術の現地化を進め、中国仕様の車種を増やすとともにコスト低減につなげる。世界各地で数を追ってきたカルロス・ゴーン前会長時代の戦略を転換し、重要市場に経営資源を集中する。

複数の日産関係者が明らかにした。

日産は今年、中国で新たに3車種の投入を計画。クロスオーバー「アリア」のEV、多目的スポーツ車(SUV)「Xトレイル」の新型車、同社独自のハイブリッド技術「eパワー」を採用した小型車「シルフィ」を発売する。

関係者によると、来年から4年間は毎年1車種以上を投入する。ほとんどがハイブリッド車あるいはEVで、自動運転技術も搭載する。このうち1車種はXトレイルのハイブリッド車になる見通しだ。

世界最大の自動車市場である中国の戦略は、日産の経営再建を左右する。規模の拡大を進めたゴーン前会長時代、同社は世界中で成長を追い求めたが、今後は日本、米国、そして中国に収益性の高い車種を投入していく。

関係者によると、内田誠最高経営責任者(CEO)とアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)は、昨年秋ごろから取締役会に新たな中国戦略を説明し始めた。「以前はグローバル、グローバル、グローバルと言い続け、中国はその戦略の一部にすぎなかった」と、計画を知る関係者の1人は言う。

日産の広報担当者はロイターの問い合わせに対し、将来の商品計画についてはコメント控えると回答。その上で、中国は重要な市場であり、eパワーなど需要に合った技術を投入していくとした。EV版アリアの発売については認めた。

中国では吉利汽車や広州汽車、BYDなど、価格競争力のある現地メーカーとの競争が激化。中国勢が作る自動車は質も向上している。

日産は電動化車両のラインアップを増やすほか、現地の競合に対抗するため、消費者の好みに合わせた中国仕様の設計を進める。現地のサプライヤーから部品や素材の調達を増やし、技術も取り込む。「市場がグローバル化から『地域化』していく今、完全な現地化を進めることで部品と技術の価格競争力を高める必要がある」と、同関係者は話す。

3人の関係者によると、部品の現地化はバンパーやシート、ライトといった外装だけでなく、センサーやインバーターといった、電動化や自動化に必要な技術でも進める。例えば、eパワー用のバッテリーは昨年6月、深センに拠点を置くサンウォーダと共同開発することを決めた。

コスト削減も、現地調達を進める主要な目的の1つだ。2020年3月期に11年ぶりの最終赤字に転落した日産は、今後3年間で車種を約20%、固定費を3000億円規模で削減する。21年3月期は6150億円の最終赤字を計画している。

新たな戦略では、東風汽車集団との合弁が現地で展開するブランド「ヴェヌーシア」もテコ入れする。2012年に立ち上げた同ブランドは低価格のガソリン車を主に手掛けてきたものの、ここに来て販売が低迷。現行モデルの「e30」(9540ドル)よりも価格を抑えたEVを増やすことを検討していると、関係者2人は言う。

日産は世界で初めて完全なEVを市販化した先駆者でありながら、中国では競合のトヨタ自動車やホンダに比べて製品の電動化で遅れているとアナリストの間ではみられている。トヨタとホンダは2019年から20年にかけて複数のハイブリッド車を発売し、販売を大きく伸ばした。

「今の日産は、中国で注目すべき環境対応車が見当たらない」と、自動車コンサルティング会社のオートモーティブフォーサイトを経営する張豫氏は言う。「それがイメージの低下につながり、販売にも影響している」

日産は2018年度に策定した中国戦略「トリプル・ワン」で、2022年までに中国販売を156万台から260万台に引き上げる計画を打ち出した。しかし、新型コロナウイルスの影響で昨年は146万台に落ち込んだ。

「中国では電気自動車の品揃えが十分ではない。ヴェヌーシアの新たな方針は、それを変えていくことの決意でもある」と、関係者は言う。

(白水徳彦 日本語記事作成:久保信博 編集:内田慎一、石田仁志)