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伊藤忠商事が子会社ファミリーマートに対して実施した株式公開買い付け(TOB)に関連し、応募しなかった株主から強制的に株を買い取る際の価格が「安過ぎる」として、香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメントなどが、公正価格の決定を求めて東京地方裁判所に申し立てを行っていたことが19日、分かった。

オアシス創業者で最高投資責任者(CIO)のセス・フィッシャー氏はブルームバーグの取材に対し、申し立てを行ったことを認めた。また、ブルームバーグが入手した文書などによると、これとは別に米アクティビストファンドのRMBキャピタルが14日、東京地裁に申し立てを行い、即日受理された。オアシス、RMBはともにファミマの元株主。

伊藤忠は昨年7月から8月にかけて、50.1%を保有していた子会社ファミマに対して1株当たり2300円でTOBを実施し、成立。その後、株式併合手続きを経て、ファミマは上場廃止となった。

RMBの細水政和ポートフォリオマネジャーはブルームバーグの取材に対し、伊藤忠の買い付け価格は「安過ぎる。論外だ」と指摘。経済産業省が2019年に親会社による上場子会社の買収時に少数株主への配慮を求める指針を公表したこともあり「こうした事案を許せば、日本の市場への信頼が揺らぎかねない。司法には公正な判断をしてほしい」と述べた。

フィッシャー氏も電子メールで「われわれが公正だと思う価格よりはるかに安かった」と述べ、今回のTOBは「親会社の利益を他の全ての株主の利益に優先させており、重大な欠陥のある手続きだった」と批判。同じく経産省の指針に照らして、今回の事案がこれからの日本での企業の合併・買収(M&A)にとって重要な先例になるとの認識を示し、少数株主にとっての公正価格を求めていくと訴えた。

ファミマは自社がTOBの提案を受けて設置した特別委員会による主な価格算定結果(1株当たり2472ー3040円)の下限を下回っていたことなどから、TOBには賛同しつつ、株主への応募推奨はしないという異例の声明を発表していた。細水氏は「一般株主の利益を保護するためにTOBに反対すべきだった」と批判した。

RMBはTOB期間中に伊藤忠に対して2600円への買い付け価格の引き上げを求めていた。これに対して、伊藤忠はファミマの急激な業績回復を見込むことは困難で、同社が妥当と考える評価額を超えたプレミアムを付加することは不可能などと説明。価格引き上げの求めには応じなかった。

一方、オアシスはTOB期間中、ファミマに対して価格を補うための特別配当を実施するよう要求していた。

経産省の新たなM&A指針は、親会社による子会社の買収は、利益相反の問題があるため取引の是非や取引条件の妥当性、手続きの公正性について検討する特別委員会の設置が望ましいと指摘。特別委は中立ではなくむしろ少数株主や買収される企業の側に立って判断することを促している。

今後一定の歯止めも

一橋大学大学院の伊藤友則特任教授は、特別委について「少数株主の利益に悪影響が出ないことを目的に設置されており、その価格算定は尊重されるべきだ」と指摘。算定結果の一手法を下回る価格を提示した伊藤忠によるTOBにファミマが賛同したことについて「現時点で売却を迫られる少数株主にとって伊藤忠との将来のシナジーは関係なく、それを理由に取締役会がTOBに賛成したとしたら問題だ」と指摘。

その上で、新たなM&A指針を根拠とした今回のような申し立てについて「企業にとって、取引に異論が出ることは避けたいものだ。今回の主張が通るかどうかに関係なく、今後の類似案件での価格算定において、親会社側にとって一定の歯止めになっていくのではないか」との認識を示した。

名古屋商科大学大学院教授でマネックス証券執行役員の大槻奈那氏は「少数株主であろうと正当な株式の保有者であることに変わりはなく、その財産権を弱めるような取引はあってはならない。今回の申し立てで、見方の分かれる価格算定についてより踏み込んだ議論がされ、考えが深まるきっかけとなることを期待したい」と述べた。

伊藤忠、ファミマからのコメントは得られていない。

(オアシスのコメントを追加し、記事を更新します)

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