(ブルームバーグ): 世界的な脱炭素の流れを受けて、オーストラリアなどで石炭事業を手掛ける出光興産は新規の開発事業には投資しない方針を固めた。

出光の木藤俊一社長は13日のブルームバーグのインタビューで、石炭事業で「次なる開発や拡充だとかそういった投資をする気はない」と語った。一方、新興国向けの安価な発電用燃料など石炭の必要性は今後も残るとし、既存の石炭鉱山については保有を継続していく考えを示した。

環境・社会・企業統治(ESG)を重視する投資家からの声を背景に、鉱山開発や発電事業に対する融資の停止や、事業の縮小・撤退といった動きが相次いでいる。国内でも伊藤忠商事が発電用の石炭権益からの完全撤退方針を示したり、旭化成が自社の石炭火力発電をゼロにする目標を掲げたりするなど脱石炭の動きが広がりつつある。

木藤氏は、2019年に石炭事業の出口戦略に着手して以降、「ざっくばらんに言うと例えば最初は鉱山ごと売却ということも考えた」と振り返る。だが、二酸化炭素(CO2)排出の問題から将来への見通しが立ちにくく「今、鉱山の売却というのはすごく難しい」とし、「逆にオーストラリアで30年来やっている事業をうまくリメーク、発展させていくことを考えている」と述べた。

具体的には、現地での雇用維持や知見活用の観点から炭鉱跡地を活用した太陽光発電やバイオ燃料用の作物の育成、リチウム鉱山開発への参入などを模索していると話した。

出光はオーストラリアで3つの石炭鉱山の権益を保有しており、同社持ち分の年間生産量は1000万トンを超える。出光の広報担当者によると、同社がオーストラリアで保有する石炭鉱山は30年代後半に枯渇する可能性があるという。

CO2などの温室効果ガスを巡っては、菅義偉首相が昨年10月に日本の排出量を50年までに実質ゼロにする目標を掲げた。木藤氏によると、石油元売りで国内2位の出光も5月の今期(2021年3月期)決算発表時に、自社のCO2排出量を50年に実質ゼロにする目標を正式に打ち出す予定だ。目標達成に向けた「具体的な実行計画を作ろうと検討に取り掛かっている」と明かした。

「スコープ3」と呼ばれる販売した製品の使用時などに発生する間接的な排出分については、自動車の電動化の進捗(しんちょく)状況などに左右されるため出光の実質ゼロ対象には含めない予定。その一方で、CO2や水素を使った「eフューエル」と呼ばれる合成燃料やバイオジェット燃料など、既存のインフラを活用した新たな燃料の製造にも意欲を示した。

先細りの国内需要

少子高齢化や自動車の燃費改善などにより国内の石油製品需要が構造的な減少をたどる中、これまで国内の石油需要は40年までに半減すると想定されてきた。コロナ禍の影響で想定を上回る速度で需要が減少する可能性がある中で、競合相手である石油元売り国内最大手のENEOSホールディングスは、大阪製油所の石油精製事業の停止や根岸製油所の一部装置廃止などを進めている。

木藤氏は、23年3月までの中経営計画の期間中に新たな製油所の統廃合はないという考えに変わりはないとした一方で、「やはり、未来永劫(えいごう)いまの7製油所体制を維持することは考えにくい」とし、将来的な自社の供給体制について再検討を行っていると述べた。

出光は12月、50.12%を所有する東亜石油に対して株式公開買い付け(TOB)を実施すると発表。完全子会社化することで、少数株主への配慮にとらわれずに、操業の効率化や迅速な経営判断が可能になるなどの利点を挙げた。

出光の7製油所には、東亜石油と同様に自社以外の株主が存在する昭和四日市石油、西部石油、富士石油の3社が保有する製油所が含まれている。木藤氏は、株主の了解を得ながら進める必要があるとした上で、資本関係の整理も視野に入れつつ最適な供給体制を構築したいとの考えを示した。

(排出目標や製油所についての発言を追加して記事を更新します)

©2021 Bloomberg L.P.