2021/1/18

【吉村洋文】世界と勝負する、大阪の「エッジ」とは?

NewsPicks Brand Design Editor
 大阪が「世界」に羽ばたくための勝算とは──。
 昨年12月8日に開催され、累計5000人以上が視聴した関西のニューリーダーのためのイベント「WestShip」より、Opening Talkのレポートをお届け。
 未曾有のコロナ危機への対応でリーダーシップを発揮する吉村洋文氏は、官民をどのように越境し、ビジネスセクターとの共創を図ろうとしているのか。
 時代のターニングポイントとなった2020年を経て、大阪はどこへ向かうのか。佐々木紀彦が展望を聞いた。

コロナ後に「大阪」が見せる成長戦略

佐々木 2020年は危機に見舞われた1年でした。一連の対応を通して、吉村さんは何を感じましたか。
吉村 できる限りすべての情報をオープンに、府民やメディアのみなさんに共有すること。言葉にすると当たり前かもしれませんが、その重要性を切に感じた1年でした。
 その上で、リーダーの仕事は「意思決定」につきます。医療の専門家の意見や街の声を聞きながら、社会や経済への影響を鑑みて判断を重ねてきました。
佐々木 危機対応の最中だとは思いますが、 終息後の世界についてもお聞きしたいです。大阪は、今後どのような成長戦略を描いていくのでしょうか。
吉村 大阪府は、12月に中長期的な成長のための「大阪の再生・成長に向けた新戦略」を発表しました。
 中でも重視しているのが、医療・健康分野です。今回の生活様式の変化によって、医療や健康関連産業など「命」に関わる事業が今まで以上に注目されています。
 実は、大阪は製薬会社や医療・健康の研究拠点が集積しており、ライフサイエンスに強みを持っている都市なんです。高齢化が進んでいく日本において、この分野は特に経済的・社会的なアドバンテージがあると考えています。
 4年後に開催予定の大阪・関西万博でも、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げ、世界に対して「命」や「暮らし」の未来像を提示していく所存です。
佐々木 万博では、スマートシティ構想も強く打ち出していくとお聞きしました。
吉村 まさに万博を契機に、規制緩和も視野に入れつつ、スマートシティ化を一気に進めたいと考えています。
 その布石として、昨年4月には“府庁版のデジタル庁”ともいわれる「大阪府スマートシティ戦略部」を設立。
 さらにその4ヶ月後には、民間企業や市町村との連携強化を目的とした「大阪スマートシティパートナーズフォーラム」も発足させました。
 現在は300以上の企業や研究機関とともに、高齢化や住宅の老朽化などが進むニュータウンのリバイズや、高齢化社会を見据えたヘルスシティの設計などに取り組んでいます。
スマートシティプロジェクトの一環として、大阪・梅田駅付近に4.5ヘクタールの都市公園を含む新たなイノベーション拠点を建設中。テクノロジーを用いた実証実験が行われる予定だ。※本画像は2020年12月時点のイメージパースであり、今後変更となる可能性があります。(提供:うめきた2期地区開発事業者)
 未来を示す「大きなビジョン」を万博で提示しながら、フォーラムや政策を通して「地に足のついた改革」を進める。
 この両輪を回しながら、スマートシティ・大阪の構想を推進していきます。

大阪の「国際金融都市」構想

佐々木 スマートシティ化に加え、昨年11月には大阪の「国際金融都市化」への挑戦も宣言し、話題を呼びました。
吉村 国際金融都市と聞くと、おそらくニューヨークや上海、東京、ロンドンを想像される方が多いと思います。
 英シンクタンクZ/YENグループなどが発表した「世界111都市の金融センターランキング(2020年9月)」でも、大阪は39位と決して高い順位ではありませんでした。
 では、上位都市とどう戦っていくのか。私たち大阪は、特定の領域に強みを持つ「エッジ」を際立たせることで、マーケットを押さえたいと考えています。
佐々木 大阪の「エッジ」とは、どのようなものでしょうか。
吉村 たとえば、ブロックチェーンを活用したデジタル証券など、テクノロジーを駆使した金融商品の強化。
 ほかにも、コメ先物取引の発祥地としてのバックグラウンドを活かして、デリバティブ(金融派生商品)の拡充なども想定しています。
※デリバティブ...株式、債券、金利、通貨、金、原油などの原資産の価格を基準に価値が決まる金融商品の総称。
 主要な国際金融都市がカバーしているような、「総合的な金融機能」を担うのではなく、ブティック型で機能する「エッジな金融都市」として勝負していきたい。
 もちろん、実現までには国の税制改革や、海外の金融人材が利用しやすい就労ビザ創設の問題など、いくつものハードルがあります。ここは、自治体として働きかけを積極的に行い、ステークホルダーと調整しながら進めていきます。

エッジで「西」から世界へ挑む

佐々木 残念ながら都構想は実現しませんでしたが、今後も果敢にチャレンジされていくわけですね。
吉村 そうですね。既成概念にとらわれずに、大阪ならではの特徴や強みを活かして、世界にトライしていきたいと思っています。
 これは都構想の時にも感じたことですが、多くの人が現状に対する課題意識を持っていたとしても、実際に行動へ移すには高いハードルがあります。
 しかし、ご存じの通り1980年代に世界の時価総額ランキングの上位を占めていた日本企業も、ほとんど欧米のIT企業に入れ替わってしまった。
 結局リスクをとりながら、新しい試みに取り組んだ企業が評価されているのです。
 だからこそ、小さくても構わないから、まずはリスクをとって一歩を踏み出す。日本全体に対して、「リスクテイクしないことがリスクなんだ」という気運を醸成していくために、全力を尽くしたいと思っています。
佐々木 お話ありがとうございます。個人的には、吉村さんからビジネスや経済の話をお聞きできたのが新鮮でした。
 先日、歴史学者の磯田道史さんとお話しする機会があったのですが、日本の歴史を見ると、明治維新のような時代の転換となるイベントはだいたい西から起こっているそうなんです。
 今後、大阪がどんな変革を仕掛け、それがどう日本に波及していくのか。展開が非常に楽しみです。